小鬼殺しと夜を狩る一族   作:レーラ

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悪魔城名物の食べ物とはなんでしょう?

今回その一つであるあるものが出てきます。


野営での話

 

 臨時パーティを結成し、ゴブリンの巣穴となった遺跡へと赴く8人の冒険者達。とはいえ、そこまでの道のりは長く、一日では辿り着けない為、道中で野営をする事になった。

 

 焚き火を囲んで、鍋でスープを煮たり串に刺した肉を焼いて待っている間、妖精弓手が気になった事を皆に問う。

 

「ねえ、みんなどうして冒険者になったの?」

 

 まずは鉱人導士が問に答える。

 

「そりゃあ世界中の旨いもんを喰う為に決まっておろうが」

「焼けたぞ」

 

 焼けた肉から油が滴り、香ばしい香辛料の匂いとともに食欲をそそる。蜥蜴僧侶が焼けた肉を刺した串を炭鉱道士とセイバーに渡す。

 

「それで、エルフの方はどうなの?はむっ」

 

 今度はセイバーから逆質問をする。

 

「私は……」

「何これ美味っ!ほら、食べてみて!」

「聞きなさいよ!」

 

 聞いておきながら肉に舌鼓を打つセイバーは女武闘家にも1本勧める。

 

「は、はい。いただきます……はむっ。本当だ美味しい!」

「でしょう!」

 

 もはや妖精弓手の冒険者になった理由はそっちのけになっており、肉にかぶりついている。肉に夢中な師弟を見て、微笑ましくなる蜥蜴僧侶。

 

「口に合っていたようでなにより」

「これ、何のお肉なんですか?」

「沼地の獣の肉ですぞ」

「沼地ぃ〜?」

 

 肉の出処に妖精弓手が嫌そうな顔をする。

 

「野菜しか喰えん兎もどきには分からんよ」

 

 鉱人道士にも好評のようで、さり気なくエルフの嫌味を交えて感想を述べる。不満げな妖精弓手に女神官がスープを勧める。

 

「良かったら食べます?」

「乾燥豆のスープです」

「いただくわ」

 

 女武闘家が取った乾燥豆を女神官がスープにして作った。それを啜って、心も身体も温まった妖精弓手に満面の笑みが浮かんだ。

 

「で、蜥蜴人(リザードマン)は何で冒険者に?」

「拙僧は異端を殺して位階を高め、竜となる為だ」

 

 ほほう、とセイバーが頷きながら傾聴する。だが聞くだけの師弟に妖精弓手が噛み付くように問う。

 

「で、そういうあなた達は何で冒険者になったの?」

「私は、父が遺してくれた体術で、人々を助けたいって思って……」

 

 女武闘家が冒険者になった理由を聞いたセイバーがへぇ、と頷く。

 

「そういうそっちは?」

 

 妖精弓手がヴェルナンデスに問う。

 

「私には成すべき使命があります。それを果たすまでは、闇の生物を滅する。ただそれだけです」

 

 目を閉じてそう言い切った彼女に蜥蜴僧侶が賞賛する。

 

「いやはや、魔導師殿は高潔でございますな」

「……ありがとうございます」

「そういえば、セイバーさんは何で冒険者になったんですか?」

「私?うーん……特に深い理由はないんだけど……」

 

 女神官に尋ねられて、腕を組むセイバー。何て言葉にすれば良いか分からないのか、すぐには出なかった。

 

「憧れの人になりたい……だったかな」

「憧れの人?どんな方なのですか?」

 

 気になった女神官が尋ねる。

 

「私の……お姉ちゃん」

「え?!セイバーさんお姉さんがいるんですか?!」

「少しでもその人みたいになりたくて騎士になったんだけどね。けど、何の因果か冒険者になっちゃった。私はそんな所かな」

 

 まさかセイバーに姉がいるとは知らず、これまで一党として行動を共にしてきた女武闘家の驚嘆は大きかった。

 

 後はゴブリンスレイヤーだけなのだが……

 

「……ゴブリンを」

「まあ、ゴブリンスレイヤーは全部聞かなくても分かるわ」

 

 女神官と女武闘家は苦笑いを浮かべ、妖精弓手もジト目で頷く。とりあえずそれは置いておき、妖精弓手は葉の包みからパンのような食べ物を出す。

 

「私からはこれ」

「何これ?」

 

 女武闘家と女神官がそれを1枚取って端から一口齧る。サクッという音を奏る。

 

「外はサクサクしてるのに、中はしっとりしてる……!」

「木の実の香りと甘みがとても香ばしいです!」

「良かった。それはエルフの保存食よ。本当はあまり人にあげてはいけないのだけど、今回は特別」

「となると、わしもこいつを出さねばなるまい」

 

 森人(エルフ)が取って置きを出した事で、鉱人(ドワーフ)である鉱人道士も取って置きの酒瓶を出す。

 

「鉱人の火酒よ」

「火の……お酒?」

「耳長の、まさか酒を飲んだ事ないなんざ、童子みたいな事は言わんよな?」

 

 柄杓で1杯すくい上げると、それを妖精弓手に挑発するように渡す。

 

「馬鹿にしないで!お酒ってあれでしょ?葡萄のやつでそょ?それくらい飲んだこと……」

 

 ぐびっといった途端、妖精弓手の顔は真っ赤になって咽ぶ姿に鉱人道士は腹を抱えて笑った。だがそんな彼女に構いもせず、今度はゴブリンスレイヤーに一献傾けるよう促す。

 

「ほれ、かみきり丸もどうだ?」

 

 ゴブリンスレイヤーは無言で柄杓を受け取り、それを一気に飲み干した。

 

「ほほう、行けるか。ほれ、白銀のもどうじゃ」

「えっ?じゃ……じゃあお言葉に甘えて」

 

 妖精弓手の事もあり、恐る恐る口にするセイバー。すると……

 

「ゔぅっ……!」

「せ、セイバーさん大丈夫ですか?!」 

 

 突然呻き声をあげて蹲るセイバーを心配する女武闘家。流石に酒が強すぎたのか、セイバーには合わない……すると突然顔を上げ……

 

「美味い……!」

 

 美味しさのあまり言葉が出なかっただけだった。流石の炭鉱道士も焦ったようだ。

 

「紛らわしいわい!」

「いやはや、面白き御仁ですかな」

「ねえ、もう一杯貰える?」

「ほい来た!」

 

 火酒が気に入ったのかおかわりを要求。その心意気が気に入ったようで、鉱人道士はさらにおかわりをやる。

 

「ぷはぁ。いやあ、お酒なんて飲んだことなかったから、最初はどうなるかと思ったけど」

「えぇっ?!セイバーさんお酒初めてだったんですか?!」

「そうだよ」

 

 まさかのカミングアウトに女武闘家が唖然とした。しかも酔っ払っていない様子から、とても初めての飲酒とは思えない。

 

 とはいえ酒が強いのか気分がやや高揚しており、頬が少し赤くなっている。その一方、最初に口にした妖精弓手の方はというと、たった1杯で悪酔いしてしまっている。

 

「なぁんで食べてる時もぉ〜兜脱がないわけぇ〜?!」

「不意討ち殴られたら意識が飛ぶ」

「うわぁ……めちゃくちゃ酔っ払ってんじゃん」

 

 まさに酔いどれ森人(エルフ)。よく見かける酔っ払い親父の如くゴブリンスレイヤーに絡んでくる妖精弓手を目の当たりにしてセイバーの口角が少し引きつっている。

 

「食べてばかりいないで何か出しなさいよぉ〜!アンタ達もね!」

「え?私達も?」

 

 セイバーとヴェルナンデスにまで飛び火した。恐らく何か出すまで絡んでくるだろう。2人は互いに見合うとしょうがないとため息をつく。

 

「仕方ないか」

「では不本意ですが、私から」

 

 そう言って包んだ布を開く。中身は真っ赤な苺だった。

 

「苺……ですか?」

「もしもの小腹が空いた時、こんを詰めすぎた時には、果実が一番なんです。どうぞ」

 

 それぞれ苺を摘んで、それを口にする。

 

「あっ……甘い!」

「みずみずしくて美味しいです!」

「いつも持ち歩いているのはこれとは限らないのですが、たまたま故郷に帰る機会があったのですが、どうやら持ってきて正解だったようですね」

 

 皆が苺を美味しく味わっている様子を見て、ヴェルナンデスに笑みが溢れる。

 

「と、なると……次は私か」

 

 セイバーの番が回ってきた。そう言うと雑嚢から筒を取り出す。蓋を開けて、匙で中身を掬うと肉団子が出てくる。鉱人道士が尋ねる。

 

「こいつは?」

「鶏肉をミンチにして、野菜を細切れにして練って作った肉団子(ミートボール)。ま、携帯食みたいなものね」

「ほほう」

「何とも、豊かな香りですな」

 

 肉団子に纏うソースに使われているスパイスの香りが食欲をそそらせる。

 

「そう。野菜と肉を煮込んだスープにスパイスを混ぜてさらに煮込んだものなの」

 

 1本の串に肉団子を1個刺して、それぞれ全員に1本ずつ渡していく。

 

「いただきまーす!」

 

 セイバーと冒険をして、何度も食べている女武闘家とヴェルナンデスが真っ先に肉団子を口に入れる。ただヴェルナンデスはよく冷ましてから頬張っている。

 

 それを見た蜥蜴僧侶と炭鉱道士も後に続く。

 

「おぉ……これは……!」

「こりゃあ何とも不思議なものよ!」

「口の中で溶けてくわ!」

「とてもホロホロです!」

 

 セイバー特製の肉団子は好評のようだ。ゴブリンスレイヤーは何も語らない。口に合うのか合わないのか、反応が分からずじーっと睨みつけるセイバー。

 

「ゴブリンか?」

「違うっつーの」

 

 ゴブリンスレイヤーにも褒めてほしかったようだが、彼にそんな期待をするだけ無駄というもの。まるでコントみたいな2人に女武闘家が苦笑いを浮かべる。

 

「で、ゴブリンスレイヤー。私は出したんだから、アンタも何か出さないと不公平じゃない?」

「……そうか。では、これでどうだ」

 

 包まれた布を解いてやると中身は……

 

「チーズ!いいもの持ってるじゃない!」

「チーズ?」

「牛の乳を発酵させて固めたものだ」

 

 どうやら初めて見るようで、蜥蜴僧侶が物珍しそうにチーズをまじまじと見る。

 

「何じゃ鱗の、知らんのか?」

「拙僧らにとって、獣とは狩るもの。育むものではないからな」

「貸して〜切ったげる」

「どうせなら火で炙るかのう」

 

 妖精弓手がナイフで切り分け、鉱人道士がそれを串に刺して火で炙る。すると、三角形だったチーズの形がゆっくりと、とろりと溶けていく。

 

「頃合いね。ほら、食べてみて」

 

 頃合いと見てセイバーが蜥蜴僧侶に渡す。とろりと溶けるチーズを眺めてからそれを口にした。

 

「うおおおぉぉーー!!甘露!!甘露!!」

 

 目を見開いて咆哮に似た歓声を挙げる。どうやらハマったようだ。そんなに美味いのか、女武闘家が隣で戸惑う。

 

「ほら、アンタ達もお食べ」

「は、はい」

 

 セイバーに勧められて、女武闘家とヴェルナンデスもそれを一口で入れる。

 

「あっ……美味しい!凄く美味しいです!」

「この豊潤な香りと甘み……なかなかお目にかかれませんね」

「……そうか」

 

 セイバーはこのチーズがどこで作られたものかは検討がつく。だからこのチーズが評価されて、少しばかりセリフに嬉しみを感じ取れる。

 

 そこに妖精弓手がゴブリンスレイヤーの雑嚢が開いているのを見つけ、中に入っている巻物にそっと手を伸ばそうとした。

 

「触るな」

「触ってないわよ。ちょっと見ようとしただけよ」

「見るな、危ないぞ」

 

 妖精弓手が見ようとしていた雑嚢をセイバーが覗き見た。

 

「あっ、魔法の巻物(スクロール)じゃん!何処で手に入れたの?!」

「前にな……」

 

 魔法の巻物(スクロール)とは、古代の術法により魔法を封じた巻物の事。一度紐解けば、例え子供であってもそらを行使できてしまう。

 

 だが中に封印されている魔法は多種類であり、使い捨てのものばかり。故に骨董品や研究材料として取っておくのが殆どだ。

 

「やっぱゴブリン退治の為に?」

「それ以外に何がある?」

「いや……ブレないねアンタって」

「……そうか」

 

 魔剣や価値ある武具は一切使わないくせに、貴重品とも言える魔法の巻物を、ゴブリン退治の為だけに惜しげもなく持ち出して使おうとする。そんなゴブリンスレイヤーにセイバーは呆れる。

 

 ただ良くも悪くも、それが彼というものだ。このまま受け入れるしかない。

 

「そういえば……」

 

 ヴェルナンデスがふと思った事を口にする。

 

「ゴブリンは、何処からやって来たと思いますか?」 

「ふむ……拙僧も同じ事を考えていた。父祖より、地の底に王国があると教わったが……」 

「『誰かが失敗すると、1匹湧いて出てくる』、なんて言いますからね。子供の頃からの躾とかで」 

「それは大変じゃ!そこの耳長を放っておけば、うじゃうじゃ増えるという事か!」 

「失礼ね!」

 

 再び始まる森人と鉱人の諍い。だがこの2人は互いに本気で嫌っているのではないのだが、やはり種族的な事もあって相入れることは無い。

 

「俺は……」

 

 この中では最もゴブリンを殺した男が口を開いた。

 

「月から来た……と、聞いた」

「月から?」

 

 セイバーが夜空に浮かぶ赤と緑、2つの月を見上げながら聞く。

 

「月って……あの2つある月?」

「そうだ……。緑の方だ」

「どうして、そう思うの?」

「月は何も無い。草も木も水もない。岩だけの寂しい場所だ。奴らはそうでないものが欲しくて、羨ましく、妬ましい。だからやって来る」 

「なるほどね……」 

 

 ゴブリンスレイヤーの論説に納得して頷く。もしかしたら、なんて考えてしまうくらいに。

 

「その話、初めて聞きました」

「……姉から教わった」

「お姉さんがいらっしゃるんですか?」

「ああ……いた(・・)

 

 女神官とゴブリンスレイヤーのやり取りに、セイバーの眉が僅かにピクリと動いた。

 

「少なくとも、姉は何かを失敗した事はなかったはずだ……」

「ふーん……それで?」 

 

 ゴブリンスレイヤーの姉。初めて聞いたその話の続きを聞こうとするが、それっきり返事は帰って来なかった。様子が変だと気づいて、妖精弓手とともに兜の隙間から覗き見る。

 

「コイツ……」

「寝てるわね」 

 

 よく聞くと寝息を立てている。

 

「火酒が効いたのかのう」

「結構飲んでましたものね……」 

「器用なのか不器用なのか……」

 

 ため息をついて呆れるセイバー。

 

「セイバーさんは、ゴブリンが何処から来ると思ってるんですか?」

「そうよ、答えなさいよ」 

「何でこっちにまで?」 

 

 女武闘家と妖精弓手に問われたセイバー。ゴブリンスレイヤーのオマケみたいに思われているのかと不機嫌になる。

 

「そうねぇ。私は……」

 

 すぐには答えず、少しの間だけ沈黙が漂った。 

 

「誰かが生み出しているんじゃないかって、思ってる」 

「誰か……ですか?」

「小鬼を生み出した元凶がおると?」

 

 セイバーの持論に皆が傾聴する。

 

「例えばの話……。ある魔王が100年に1度、人々の邪悪な祈りによって何度も蘇るとする。魔王の混沌と破壊の力に引き寄せられ、邪悪な魔物達の魂が引き寄せられ、新たな肉体となって形成される。ゴブリンも、その1つなんじゃないかって……」

 

 セイバーの答えの中にあるもの。それが何なのかは誰にも分からない。あくまでも彼女の持論故に、真実味が見えてこない。

 

「100年に1度蘇る魔王……ですか……?」

「聞いた事がないです。そんな魔王」

「あ、いや……本当にいるかは分からないよ?今の魔王の話だって、言わば御伽噺みたいなものだし」

 

 女神官と女武闘家は冒険者になってからまだ間もない。聞いた事がないと反応されても仕方がない。

 

「わしも聞き馴染みがないのう」

「拙僧も、只人の御伽噺には明るくない故……」

 

 だが鉱人道士もそんな御伽噺に首を傾げる。蜥蜴僧侶についても似たような反応だった。

 

「私、2000年生きてるけどそんな魔王の話聞いた事ないわ」

「耳長の2000年は宛にならんのう」

「何をぉ!」

 

 また繰り広げられる妖精弓手と鉱人道士の諍いを他所に、セイバーは2つの月が浮かぶ夜空を見上げていた。

 

 だが笑っているように見えて、その表情はどこか悲しげであり、女武闘家はそれを心配そうに見ていた。

 

「あの……」

「そろそろ休もう。明日が本番なんだから……」

 

 声を掛けようとしたが、それは届かずセイバーは眠りについてしまった。女武闘家は言いかけたそれを胸の内にしまった。




と、言うわけで悪魔城名物のカレーでした。

正確にはカレーのルーだけですが、米がないので肉団子に変更しました。

流石に壁に隠れたうまい肉とかは出せないもんね……
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