それと今回評価に赤バーがつきました!お気に入り、評価ありがとうございます!
曰く、強固な盾を持つ騎士が自らの盾ごと頭に埋めて死んだ。
曰く、さる勇士が100日決闘を挑むも最後まで傷を与える事無く力尽きた。
曰く、数多の術を修めた魔術師が知恵比べの末、それを超える術にて焼き殺された。
遭遇した冒険者は恐怖を以てその名を口にする。人喰い鬼……オーガと。
「ゴブリンどもがやけに静かだと思えば、雑兵の役にも立たんか……」
その声は巨大な獣が吠えるように思える程に威圧あるものだった。
「貴様ら、先の森人とは違うな。ここを我らが砦と知っての狼藉と見た」
痺れるような殺気が冒険者達の肌に突き刺す。その殺気の中に、尋常ではない魔の力を感じる。
(間違いない……アイツがコアソウルを……!)
オーガの中から感じ取った邪悪な力。その中に、ゲーゴスの時と同じ、身体の中に尋常ではない魔力の源がある。聡明なヴェルナンデスもそれを悟っているだろう。
だがある男はそんなものがあるとは知る由もなく、オーガに向かってこう言った。
「ゴブリンではないのか」
「え?まさかオーガを知らないの?」
「上位種がいる事は分かっていたが、オーガなんてものは知らん」
銀等級すら戦う事を避けるオーガ相手に、なんてもの呼ばわりしてしまうゴブリンスレイヤー。豪胆、というには烏滸がましいと思ってしまうセイバー。
「貴様……この我を、魔神将より軍を預かるこの我を……侮っているのか!!」
安っぽい皮鎧に鉄兜をしている、明らかに格下の相手に吐き捨てるように言われ、込み上げた憤怒と共に振り下ろされた戦鎚。それを避けると、ゴブリンスレイヤーが白亜の石床は砕けた。
「ならばその身を以て我が威力を知るがよい!」
青白く巨大な手がムーンセイバー達に向けて突き出される。
「
掌から光が生まれ、それが炎の渦を巻く。赤く燃え上がる炎はやがて蒼く変化していく。
「
「っていうかデカすぎるでしょ?!」
ヴェルナンデスがその術の正体を言い当てるも、あまりの大きさにセイバーも焦る。
「
「全員散れ!」
一党を呑み込まんとする炎の球が放たれた。ムーンセイバーの号令を出す。一旦陣形を解除して全員散る。これならば直撃は避けられる。
だがその中で、女神官が皆を守ろうと火球の前に立ち塞がる。
「いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください!
錫杖を翳し、聖なる不可視の壁が火球とぶつかる。だがその余波と熱が女神官の髪、柔肌を炙ろうとしている。
「
突如、女神官の目の前に出現した氷柱が上下に、狼の牙の如く火球に噛み付かんと衝突する。やがて火球の勢いが弱くなり、そのまま噛み砕いた。
「今のは……」
「まったく、無茶してくれますね」
魔導書から浮かび上がった青い文字が灰のように消える。その持ち主であるヴェルナンデスが、荒い息遣いで杖の先端をオーガに向けていた。
「ごめんなさい……ヴェルナンデスさん……」
だがそれ以上に女神官の気力と体力は尽き果てていた。錫杖を支えに立っているのがやっとな程に。
「お疲れ様。後は私達に任せて」
ムーンセイバーが疲れ果てたその頭を撫でてやる。そのまま白銀の剣を抜き、オーガと対峙する。
「小癪な小娘どもめ!あの森人のように楽に生かされると思うなぁ!」
「やれるものならやってみなさい!」
妖精弓手も女神官を背に庇う。
「
「承った小鬼殺し殿!」
ゴブリンスレイヤーの指示で、蜥蜴僧侶が小さな牙をばら撒く。
「
詠唱を唱えると牙が骨の兵士となって立ち上がる。だが続けざまに祈祷を行う。
「
合掌の内に封じた牙が曲刀へと姿を変える。その牙刀を竜牙兵に投げ渡す。これで前線に戦う戦士は4人と1体。
「私達で前線に出る!援護を!」
「心得たわい!」
鉱人道士がポケットから砂を掴んでそれを空へばら撒く。
「仕事じゃ仕事じゃ
「させると思うか鉱人風情がぁ!」
術を使わせまいと戦鎚を振り下ろす。ギリギリの所で回避するも、間合いに迫られては術が使えない。
「
だが術者はもう1人いる。ヴェルナンデスの杖から雷の光弾を3発放ち、オーガの背中に直撃する。背後を取られ、よろめくもそれだけで済み、ダメージらしいダメージは与えられていない。
「詠唱も無しに魔術を使うとは……!先に貴様を……」
潰す。そう言う前に、木芽の鏃がオーガの右目を射抜く。
「鉱人ったら、遅いんだから!」
「ワシらにはワシらの戦い方があるんじゃ!」
たとえ妖精弓手にドヤされようとも、鉱人道士は己のやり方を貫く。
「転がり回せば石となる!」
ばらまいた砂がノームの力で石となって固まった。放つ瞬間は今だ。
「
放たれた石は全弾オーガに直撃。後ろに大きく仰け反る。だがそれだけだ。オーガには大きなダメージとはなっていないようだ。
「石打ちの手妻如きで、我を倒せると思うたか!」
その刹那、蜥蜴僧侶と竜牙兵が左右から同時に切り込む。当然オーガはそれを戦鎚で止める。だがこの2人は守りを崩す為の布石だ。
(今だ御三方!)
ムーンセイバーとゴブリンスレイヤーが同時に駆け出し、それぞれの足に一撃入れる。だがムーンセイバーはその手応えの無さに舌打ちをする。
(これくらいじゃ、大した傷にならないってか……!)
オーガの皮膚は鎧のように硬く、2人が与えた傷もあっという間に塞がって再生してしまう。
「猪口才なぁ!」
「今だ!」
戦鎚が振り上げられようとした時、隠し球が放たれる。背後から女武闘家がアグネアの雷を纏った拳を、心臓に直接打ち込んだ。
(これなら……!)
たとえ致命傷でなくても、大きなダメージとなる。
と、思われていた。
「これしきの雷が……」
倒れることなく背後を振り返った。獲物を捉えた黄金の瞳に睨まれて怖じる。
「我を穿つと思うたかぁ!」
「
再びヴェルナンデスの風の魔術が繰り出され、風の斬撃がオーガの肩の筋肉を斬った。ヴェルナンデスに注意が向いた事で女武闘家の危機は回避されたが、それは標的が変わっただけで状況は何一つ変わらない。
「やるしかないか……!」
「何をするつもりだ?」
意を決して雑嚢から聖水の瓶を3つ出す。ゴブリンスレイヤーに尋ねられると、にっと歯を出して笑う。
「もう1つ、隠し球を使うの」
そう答えて駆け出した。
「隠し球……か」
その背を見届けるゴブリンスレイヤーも雑嚢から
――
「雑魚どもの分際で!!」
ヴェルナンデスと鉱人道士の魔術、妖精弓手の狙撃、蜥蜴僧侶と竜牙兵、女武闘家の白兵戦。どの冒険者もオーガの一撃で沈むはずなのだが、互いを補うコンビネーションによって、致命的な一撃を回避している。
だがオーガの戦鎚によって、徐々に足場が崩され妖精弓手の機動力が失いつつある。さらにヴェルナンデスと鉱人道士の魔術も消費していき、残りの回数も僅か。さらに竜牙兵までもが潰され人員が1人失われてしまう。
先程から比較的ダメージを与えているヴェルナンデスが真っ先に狙われており、いくら無詠唱魔術でも放つには相応の集中を要する。オーガの戦鎚の衝撃波がそれを遮ってしまっており、回避に専念しているのだが、ヴェルナンデスの体力にも限りがある。
「既に魔術を放つ体力も残されていないようだな!」
既に体力が尽きかけている彼女に避ける力も残っていない。最も煩わしいヴェルナンデスを真っ先に葬ろうと戦鎚を振り上げる。
だが突如、身体が浮くような感触になる。痛みはなく、戦鎚に吹き飛ばされた様子は無い。
「まったく、アンタも無茶するわね」
聞き覚えのある声での憎まれ口。自分を抱えているのが誰なのか分かってしまう。女武闘家が着地するとヴェルナンデスを降ろす。
「助けてほしいと言った覚えはありませんが?」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ」
たとえいがみ合おうとも、自分と同じムーンセイバーについて行く一党の仲間。彼女を悲しませない為に、お互いに果てるわけにはいかない。
「ならば2人仲良く焼き殺してくれる!」
再び掌から炎が繰り出される。
「あやつまた火球を!」
「やらせてたまるもんですか!」
石弾と木芽の矢を放つも、それでも殺戮の炎の肥大は止まらない。このままでは2人とも焼き殺されてしまう。
だがその時だった。2人を庇うようにオーガに立ち塞がるムーンセイバー。その手には聖水の瓶が3つ。
「それで何をしようというのだ?今更焼け死ぬ女が増えただけだ!」
「どうかしらね?」
聖水の瓶を全て頭上に高く放り投げる。敵味方問わず、ここにいる全員が高く投げた瓶に注視する。
「滅びろ!
雄叫びと共に天高く掲げた拳。聖水の瓶が割れ、中の水が豪雨の如く激しく降り注ぐ。
聖水はその力によって、邪悪なる者を焼き尽くす。ゴブリンスレイヤー達がその雨に打たれてもただの水でしかない。だが魔の者であるオーガの場合は話が別である。
皮膚に雨が当たると全身が焼けるようなダメージが襲い、オーガが痛みに倒れてのたうち回る。
「ぐ………おぉ……ぉ……!何だこれは……?!」
いくら再生する肉体だとしても、聖水の雨が降り注いでは再生が追いつかない。さらに爛れた皮膚に直接雨が掛かり、更なる深手を負う事となる。
「これって……」
「オーガに効いてる!」
「いやまだだ!」
いかに
だが今回は聖水の効果が強く働いたお陰で決定打となるようだ。
「今だ!一斉に打ち込めぇ!」
「任せとけ!」
「了解!」
「はい!」
再生が追いつかない焼け爛れて崩れる皮膚に、石弾、風の刃、アグネアの雷が一斉に襲い掛かる。石によって四肢は砕かれ、風によって肉体を切り裂かれ、雷によって焼き落とされ、オーガの断末魔が遺跡を震わせている。
「な、何故だ……我が……我が人間に……」
隠したと思われていた只人の奥義で盤上がひっくり返され、瀕死の重傷を負わされた。ありえない事態にオーガが狼狽える。
「っ……!いや……まさか……貴様は…………だが、有り得ん……!」
オーガにはムーンセイバーの正体に心当たりがあった。
「だが…………あの一族は…………滅びたはずだ……!」
トドメを刺そうとオーガの肉体に乗るムーンセイバー。今の彼女の姿を見るオーガの瞳は恐怖で震えていた。
「闇に還れ」
白銀の剣をオーガの喉元を突き刺した。その瞬間、刃に炎が駆け巡る。
「や、やめ……」
「
オーガの命乞いも虚しく、炎はオーガの全身を巡って燃え上がる。断末魔はやがて少しずつ小さくなっていき、恐怖と絶望に支配された闇へと沈み、完全に事切れた。
肉体が燃え尽き、黒焦げとなったそれから禍々しい魔の塊、コアソウルが分離する。
「あれは……」
女武闘家、ゴブリンスレイヤーなど、コアソウルを初めて見る者達は魔力の塊を警戒する。だがムーンセイバーとヴェルナンデスは冷静でいる。
ムーンセイバーが手を高く掲げると、魔法陣を展開。刻印を刻み終えると、コアソウルが魔法陣の中へと吸い込まれていき、飲み込まれるように消失した。
「これでおしまい」
戦いが終わり、ほっとしたのか膝から崩れ落ちた。だが倒れる前にムーンセイバーを支える2人の肩がそれを阻止した。
「アンタ達……」
女武闘家とヴェルナンデス。2人の仲間がセイバーを支えている。
「今のは何だ?」
目の前にいるゴブリンスレイヤーがムーンセイバーに問う。
「ハイドロストーム。私の聖水を最大限まで力を引き出した究極奥義」
「ハイドロストーム?」
「拙僧も名前すらも存じ上げませぬが、あれほど強力なものとは」
白磁の女神官はともかく、銀等級の蜥蜴僧侶も聞いた事がない名前に首を傾げる。
「まあ、ちょっとした修行の賜物よ」
「いい技だ。他にも使い道が……」
「言っておくけど、そんなポンポン使えるものじゃないからね?あの1回で聖水と私の体力みんな使っちゃうんだから」
雑嚢には聖水が残っていない。さらにアイテムクラッシュは使用者の精神力を糧にする為、乱用も許されない。ゴブリンスレイヤーに釘を刺す。
「そうか」
「……本当に聞いているのかしら?」
ゴブリンスレイヤーの反応に不安を感じるムーンセイバーだった。
「さて、こいつは何と言ったか……」
「オーガね」
ムーンセイバーがツッコむが、ゴブリンスレイヤーにら興味がまるでない。
「まあどうでもいいな。ゴブリンの方がよっぽど手強い」
いざという時に出した魔法の巻物。ゴブリンスレイヤーの隠し球は使われる事なく、再び雑嚢に入れられた。
まだ奥の部屋の探索が残っていたのだが、オーガとの戦いで全員疲労困憊となってしまい、これ以上の探索は困難とゴブリンスレイヤーが判断。
遺跡の入口を戻ると、竜牙兵が虜囚となった森人を送り届けたのを受け、迎えを寄越してくれた森人達がいた。
ゴブリンや中の様子を窺って来るも、あまりの疲労で誰も答える事なく馬車に乗る。とはいえ、後は彼らが代わりに探索をしてくれる事になった為、一党は馬車に揺られながら街に到着するまで休んだ。
爆炎の一撃(ブレイズバスター)
ムーンセイバーの手にする武器に爆炎を纏わす。それによって振り下ろされる一撃はより強力になる。
元ネタ 悪魔城ドラキュラX月下の夜想曲 リヒターのアイテムクラッシュ(サブウェポンが無い状態)
名前は悪魔城ドラキュラ THE ARCADEのヴァンパイア・ハンターの固有攻撃より
豪雨の嵐(ハイドロストーム)
聖水のアイテムクラッシュ。聖水の瓶を高く投げ、放出された中身の水を豪雨の如く激しく降らせる。