女武闘家とヴェルナンデスの黒曜等級への昇格、女武闘家のアグネアのアイテムクラッシュの会得。
この1ヶ月で嬉しい事案が立て続けに起こっている。さらに先日のオーガとの戦いに勝利し、コアソウルの回収にも成功した。
今日も女武闘家への師事を終えた。夜を迎え、ギルドの倉庫という名の部屋に戻ったムーンセイバー。
「あの子も成長したなぁ……」
女武闘家を弟子にしてから1ヶ月が過ぎ、初めて会った時と比べると成長が予想より早い事を実感する。
「教えられる事は粗方教えたし、後は実戦を多く積む他ないか」
その時、窓の外で羽ばたく音が窓越しに聞こえてくる。外は闇夜で見えにくいが、蝙蝠であるのは想像に容易い。
それを目にしたその表情が翳る。
(嗚呼……もうその時が来るのか)
その意味を悟り、ため息を吐いた。
(まだ……ここにいたいんだけどなぁ……)
ムーンセイバーは冒険者である自分が好きだ。冒険者でいられるこの時が楽しくてしょうがない。果たすべき使命がある以上、私情は挟めない。それは誰にも明かせない、明かしてはならない。
「けど……しょうがないよね。いつかはそうなるって分かってた事じゃん」
いつかはこの街を去る。それは5年前と同じであるのだが、今回はここを離れる事に抵抗があった。
「けど……どうしようかな」
新たな悩みの種。ここを出て行くという事は一党は解散することになる。だが愛弟子の女武闘家をどうするか。
同業者であるヴェルナンデスは同行する事になるだろうが、女武闘家は違う。まだ駆け出しの彼女を、自分達の旅に連れて行くわけにはいかない。
だが彼女に事情を話しても何が何でも同行したがるのは目に見えている。
「さて、どうしたものか」
置いて行く理由を話してもダメ。だが何も告げずに去るのも忍びない。結局考えている間に寝落ちしてしまう。
翌朝、所用で出掛けていたムーンセイバーがギルドに戻ろうと扉を開けた時、女武闘家と女神官が2人でたわいもない雑談をしていた。こうして見ると女武闘家はまだ子供なのだと再認識してしまう。
(まったく……こんなに人が悩んでるのに、あの子ったら)
大人の複雑な事情とは無縁な笑顔を見せられ、少しニヤける。とはいえ悩みは拭えない。気づかれないように扉をそっと閉める。
(やっぱり連れて行くわけにはいかないなぁ……)
ムーンセイバーの旅に限った話ではないが、常に死と隣り合わせ。夜に跋扈する魔物を狩る事が多い為、安息の時は訪れない。そんな危険な旅に、まだ若輩の女武闘家には荷が重い。
どうしたものかと腕を組んで街をブラブラと歩き回っても全然答えは出ない。
「おや、剣士殿ではござらぬか」
両手にチーズを持ってご機嫌な蜥蜴僧侶がやって来た。
「何かお悩みがあると見受けられますが?」
「まあ……一党を纏める立場となると、それなりにね。今までソロだったし」
と、空を見上げながらそれらしい悩みを伝える。ただ蜥蜴僧侶の目を見ても、それが本心でない事を見抜いているのかは分からない。
「頭目には仲間の命を預かる立場にありますからな」
「そうなんだよねぇ。しかもこっちの2人は……まあ言ってしまうとそっちの森人と鉱人みたいな感じだし」
その通りだと蜥蜴僧侶が朗らかに笑う。
「弟子の方は筋が良いし、昨日は新しい技も身につけた。ヴェルナンデスも実力は金等級以上。文句のつけようがないくらい優秀なんだけど……」
「性格の相性というのは、致し方のないこと。ですが、それをどう纒めるかは頭目の腕次第でしょうな」
「だよねぇ」
出任せの悩みではあるが、2人の性格の相性は最悪……とまではいかなくとも悪いのは誰から見ても分かる。だが冒険の最中はお互いにベストを尽くす為に戦う。現にオーガとの戦いではお互いに命を助け合っている。
不安は確かに残るが、いざとなれば大丈夫……だと信じたい。
「あっ!いたいた!」
決めかねていた所に、ほんの少し話題に絡んでいた妖精弓手が走ってやって来る。
「探したんだからぁ!」
「あ、そうだったの?」
「アンタも一応一党なんだから、誘わないわけにはいかないでしょう?」
ムーンセイバーにとって、あの一党はコアソウルの入手を目的に、ゴブリンスレイヤーのと臨時で組んだだけにしか思っていなかったが、彼らにとってはムーンセイバーの一党も同じ一党の仲間である。
「誘うって、何の話?」
「私達、遺跡の調査をしているんだけど、ウチの一党って前衛いないでしょう?」
「それならゴブリンスレイヤーに頼めばいいじゃない」
「そうなんだけど……あなたにも手伝ってほしいの!オルクボルグに冒険の楽しさを知ってもらう為に!」
顎に手を当てて記憶を思い返す。
確かにゴブリンスレイヤーはゴブリン退治の依頼以外は受けていない。仮にその巣穴が遺跡だったとしても彼の行動原理はゴブリンを狩る事のみ。金品財宝なんぞに目もくれないだろう。
だが妖精弓手の言い分も理解出来る。冒険の果てに辿り着いた絶景はまさに最高の財宝と言えよう。
「そうねぇ。良いかもね」
「でしょう!その内声掛けるから、約束だからね!」
そう言うと走って行ってしまった。
2000年という果てしない歳月に反して見た目と言動は年下の娘と相違ない。そんな彼女の一方的な約束には呆れるも、純粋に仲間と見てくれているのが嬉しかった。
だからこそ、その約束を果たせない事に負い目を感じてしまう。
「では、拙僧もこれにて」
「うん。アドバイスありがとうねー」
蜥蜴僧侶とも分かれ、また1人になったムーンセイバー。先程から頻繁に知り合いと遭遇しており、話を聞いたり聞いてくれたりしている。
「おう白銀の」
「あ、鉱人」
蜥蜴僧侶に妖精弓手、ここまで来れば鉱人道士と会うのは自然なのかもしれない。2人と比べて見聞も広い彼に悩みをある程度掻い摘んで打ち明けた。
「そうか。お前さんここを出て行くのか」
「ごめんね。せっかく一緒に戦ってくれたのに」
「なに、お前さんが決めた事にわしらが口出すのはお門違いっちゅうもんぞ。元はと言えばわしらから依頼したもんじゃからな」
寂しさはあるが、仲間の新たな門出を祝う事を選んだ。
「じゃが、あの娘っ子2人はどうすんじゃ?連れて行くんか?」
腕を組んで首を横に振る。
「いや……弟子は置いて行く。私の旅はゴブリン退治とは訳が違う。ゴブリンより遥かに強い危険な魔物を狩っても報酬はない。冒険者としての格が上がるわけでもない。本当に死と隣り合わせの危険な旅……」
「あの魔力の塊と関係あるんか?ありゃあ何じゃ?」
いくら見聞が広い鉱人道士でもコアソウルは初めて見たようだ。
「あれはコアソウル。魔力が1つの結晶体のように集まって出来たものなの。人間が持っていても危険だけど、オーガのような怪物がそれを宿せば、厄災級の強さになる」
銀等級すら恐れるオーガがコアソウルを持てば、白金等級でもぶつけない限り倒す事はほぼ不可能に近かった。
「オーガが本気を出してくれなかったお陰で、想定より早く倒せたけど……」
「わしらをそこらの蝿と侮ってたからのう。それで足元をすくわれるたぁ、何とも愉快な話じゃ!」
高笑いして酒瓶の酒を飲む。彼にとってオーガの慢心は酒の肴になったようだ。
「しかしそうなると、呪文使いの娘っ子はともかく拳の娘っ子には荷が重すぎるのう」
鉱人道士もその意見には理解を示す。
「だけどあの子を1人にするのもなぁ……」
「世話焼きな師じゃのう」
本当は弟子離れしたくないのではと思ってしまう。
「にしてもお前さんの術には驚かされたわい。あのオーガに深手を追わせてしまうなんざぁ、そこらの魔術師でも出来んぞ」
「そりゃあどうも」
「あんな技、一体どこで得たんじゃ?」
「まあそうねぇ……」
腕を組むムーンセイバー。
「幼い頃から叩き込まれた秘術……かな」
「なるほどのう……それなら納得だわな」
鉱人道士はそう言いながら頷くも、ムーンセイバーを見る目からは納得はしていない様子。
「じゃが白銀の。お主の肉団子はなかなかのもんじゃったわ。また食わせてくれるんじゃろう?」
「良いよ。今度はたらふく食べさせてあげる」
「こりゃあ楽しみじゃわい!」
今日一番の高笑いを見せながら今日の所は分かれた。
蜥蜴僧侶に妖精弓手、鉱人道士の3人という頼もしい冒険者達。彼らがいれば女武闘家とヴェルナンデスを上手く御する事が出来るだろう。
そして、忘れてはいけない男が1人いる。
ギルドの前まで戻ると、丁度そこに納品の仕事を終えた牛飼娘と共に中から出て来た。するとムーンセイバーに気付いたゴブリンスレイヤーがこちらを向く。
「……いたのか」
「大事な話がある。少し借りるけど良い?」
「う、うん……」
牛飼娘に了承を得てギルドから少し離れたところで2人きりとなる。
「大事な話とは何だ?ゴブリンか?」
「違うわよ。もう……相変わらずアンタってそればっかね」
流石ゴブリンスレイヤー。と言いたい所だが、今はそんな話をするつもりはない。
「頼みがあるの」
「頼み……?」
「アンタに、ウチの一党の2人をお願いしたいの」
単刀直入に申した。ゴブリンスレイヤーがうなり声に似た疑問の声を挙げる。
「何故だ?」
「明日の夜……私はここを出ていく。だからあの子達をここに置いて行く」
「連れて行けば良いだろう?」
案の定そう問う。だがムーンセイバーは首を横に振る。
「ヴェルナンデスは実力があるけど、まだ世間知らずな所がある。何よりいざという時、応用が利かない。一方弟子の方は伸び代があるけど、まだルーキーから卒業したばかり。要するに、2人ともまだ未熟」
「だが何故俺だ?」
「私が知る中で、アンタが一番信用出来るから」
「……そうか」
そう言うと納得したのか黙ってしまう。だがその沈黙は彼によってすぐに破られる。
「俺はゴブリン退治しか受けん」
「知ってる」
「俺のやり方知っているだろう?」
「そりゃあね」
俺のやり方で使わせてもらう。そう言いたいのだろう。
「分かった」
「ありがとうゴブリンスレイヤー。呼び出して悪かったわね。話はそれだね」
「……待て」
去ろうとした時、珍しくゴブリンスレイヤーが呼び掛けて引き止めた。
「どうしたの?」
「今度は何処へ行く?」
「へ?」
これまた珍しく行き先を尋ねて来た。これにはムーンセイバーも驚愕を隠しきれない。
「まずは……一旦故郷へ帰る」
「故郷か」
「旅の行き先はそれから決める。だから……ごめん、分からない」
「……そうか」
寂しいのかその声は少し弱い。
「じゃあね……ゴブリンスレイヤー」
そう言いながら背中を向けて軽く手を振った。1人に立った時には既に日が傾きつつあった。
ムーンセイバーと話を終え、牛飼娘と共に夕焼けの道を並んで歩いている。荷物があった押し車はゴブリンスレイヤーが押している。
「そっか……寂しくなるね」
「ああ……」
ゴブリンスレイヤーのように冒険をしない牛飼娘にとって、牛飼娘は普通の女友達のような関係だ。友達がいなくなって寂しくなるのは当然の反応とも言える。
「故郷に帰るそうだ」
「そうなんだ。そう言えば、セイバーさんの故郷って聞いてなかったなぁ。何処なんだろう……」
「東の小国と言っていた」
「へぇ……」
ムーンセイバーはあまり自分の事を話さない。だから何処の生まれで何をしていたのか、知る者は殆どいない。だからゴブリンスレイヤーが彼女の故郷を知っていた事に少し驚いている。
「また……会えるよね?」
冒険者というのは明日も知れない身。人知れず命を落とすなんて事はザラであり、生きていたとしても二度と会う事がない時もある。現にゴブリンスレイヤーも、共に戦った冒険者達の中にはそれっきり音沙汰ない者もいる。
ハッキリと言い切る事は出来ない。だけど、また会える。そう信じたい。
「ああ……そうだな」
願望混じりであるのは分かっている。だがそれ以外に思い当たる答えはなかった。
「そうだよね……また、会えるよね」
そう言って夕日の空を見上げた。一度ここから去った彼女が帰って来た。また帰って来るのではと、胸に抱かずをえなかった。
いつか自分はこの街から出ていくのは分かっていた。だから誰とも一党を組む事をしなかった。長い闇夜に蔓延る魔物の血に染まろうとも、無垢なる民が無惨な贄になろうとも、私は1人で戦い続けた。
不安と恐怖をずっと押し殺し続けて。
そんな私に弟子入りしたいなんていう変わり者の少女がいた。どんなに断り続けても、あの子はずっと私について来てくれた。
彼女と魔物を狩り続け、仲間が傍にいてくれる安らぎが、いつの間にか当たり前になっていた。
だからなんだろうか……ここから去るのが億劫になってしまうのは。
彼女の能力は高く評価している。だがまだ実戦経験が乏しくすぐ油断する悪癖がある。何より戦闘継続時間がまだ長くなく、直ぐに体力切れになるのも懸念している。
まだまだ未熟であるが、逆に言えば磨けば輝く原石。冒険者として、戦士として最高の逸材となりうる。私はそう評価している。
彼女が1人前に成長する時が、楽しみになっている。自分がここに来た目的を、思い返したくなくなる程に。
さて……卒業証でも書きますか。
おまけ 教えてムーンセイバーさん!
今日解説する魔物はこれ!
「ゴブリン」
原作でもお馴染みの雑魚敵だね。まあ数は多いし、悪知恵も働くから油断大敵だね。
え?悪魔城にゴブリンはいないって?
良いでしょうが!代わりにのみ男とかグールラビットとか似たような奴かいるんだし!ファミコンの悪魔城でどんだけ苦しめられたか!
みんなも分かるよね?ね?
武:ど、どうしちゃったんだろうセイバーさん
ヴェル:放っておきましょう……