小鬼殺しと夜を狩る一族   作:レーラ

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区切り方の問題により、今回は短めになります。


防衛

 ゴブリンが牧場に攻め込んで間もなく、戦況は冒険者達が優位に立つ形となった。

 

 女子供を括りつけた肉の盾の回収、鉱人道士の 酩酊(ドランク)眠雲(スリープ)の合わせ技により前線のゴブリンは眠りにつき、シャーマンや弓持ちのゴブリンは殆ど射抜かれた。

 

 さらに槍使いや重戦士、ムーンセイバーなどの名だたる古参冒険者達が前線で猛威を振るっている。たとえ歩兵如きが束になって掛かろうとも、3人には触れる事すら出来ない。

 

 その様子を見張り役を任された斥候の冒険者2人組が羨ましそうに見ている。

 

「何で俺達が見張りなんだよ……」

「なら俺達も行こうぜ!手柄を取り損ねちまうよ!」

「いや待て!本当に来たぞ!」

 

 新手のゴブリンに気付いた斥候がすぐ様大声で伝える。

 

「来たぞ!ライダーだ!」

 

 狼に騎乗したゴブリンの騎兵隊が攻め込んで来た。狼の機動力を得たゴブリンだけでなく、血肉に飢えた狼も相手にしなければならないとなると、相当厄介だ。

 

 だがそれも計算通り。ムーンセイバーはすぐ様、白銀の剣を鞘に納める。

 

「やっぱり来たか……!全員!所定の位置まで撤退!」

「隊列を組め!後列は前列の間に構えて、その後ろは距離を置いて抜刀!」

 「馬よりも断然低くて小さい!ギリギリまで引きつけろ!跳ばれるぞ!」

 

 ムーンセイバー、槍使い、重戦士の三人、それぞれの一党の頭目が的確に指示を出す。その指示通り、それぞれ隊列を組んで、ゴブリンライダー達を待ち構える。

 

 当然、弓使いの冒険者達も矢を射かけているが、狼はそれをものともせずに獲物へと目掛けて駆ける。だが冒険者達は構えたまま、その時が来るまでじっと待っている。

 

「まだだ……」

 

 徐々に狼達が近付いてきている。そのまま狼達が飛びかかって来た。

 

「今だ!構えろ!」

 

 槍使いの号令で、前衛で待機していた冒険者達が馬防柵を展開。飛びかかって来た狼を串刺しにした。だが一人だけは押し切られて喉笛を噛み切られた。その狼もすぐに始末された。

 

「残りを狩れ!」

 

 ムーンセイバーの号令で狼から落ちたゴブリンを一斉に狩り始めた。機動力を失ったゴブリンは為す術なく冒険者達の刃によって刈り取られた。

 

「うわっ!」

 

 その時、新米剣士の眼前に斬られたゴブリンの身体が落ちてきた。

 

「死んでる……よな?」

 

 ゆっくりとその死体に近付いたその刹那、目を見開いたゴブリンが短剣を片手に襲いかかる。新米剣士は反応出来ず心臓を刺される……かと思われた。

 

 刃は防具によって貫かれる事は無かった。

 

「せぇい!!」

 

 雄叫びと共に繰り出した女武闘家の回し蹴りは刃の如く、ゴブリンの首を跳ね飛ばした。目の前でゴブリンの首が飛んで仰天した新米剣士は尻もちをついた。

 

「ボサっとしてないで!次は守れないよ!」

「あ、ああ……ありがとう」

 

 新米剣士に叱責する女武闘家の姿に思わず笑みが浮かぶムーンセイバー。

 

「可愛い弟子を見てる場合かい?」

 

 そこにムーンセイバーよりも一回り大きく筋肉隆々の褐色肌をしたアマゾネス戦士がゴブリンの首を斧で狩りながら茶化す。

 

「成長してくれて嬉しいだけ!」

 

 そう言い返しながら悪足掻きするゴブリンの首を撥ねる。

 

 冒険者達の実力もあるだろうが、それだけでは最小限の被害では収まらない。彼の対ゴブリン戦略があってこそだ。

 

曰く、待ち伏せをしろ。奴らは奇襲をしてもされる事に慣れていない

曰く、奴らは虜囚を括りつけた肉の盾を使う。眠りの呪文を掛け、その隙に救出しろ

曰く、眠ったゴブリンには構うな。目が覚めると面倒だ

曰く、群れが大きくなると狼を飼い、騎乗する。十分に引き付けて槍襖で対応しろ。

 

 挙げれば挙げる程、キリがないがそれも彼がゴブリンを狩り続けて来たからこそ立てられた作戦であり、見事にハマった。彼が銀等級を与えられるのも頷ける。

 

 まだ生き残りの雑兵が数匹、勝てないと見て森の奥へと逃げ込んだ。数人の冒険者が追撃を掛けに行くが、それは彼らに任せてムーンセイバーは少し休憩に入る。

 

「お疲れ様」

 

 そう言って牛飼娘がコップ一杯の水を差し入れる。

 

「ありがとう。早く中に入りな。あんまり見せられるものじゃないし」

「そう……だね」

 

 戦えない自分に出来る事など、これが精一杯。それでも自分達の為に戦っている友達の役に立てるのであれば、出来ることはしたい。彼の時も、そうなのだから。

 

「気をつけてね」

「……任せろ!」

 

 そう言うと水を一息で飲み干した。コップを返すと牛飼娘は小屋に戻って行った。

 

「さて……もう一働きしま……」

「何か飛んでくるぞぉい!!」

 

 鉱人道士が声を挙げて警告を促した。その途端、新米剣士と見習聖女の間を縫うように豪速で何かが飛んで来た。恐る恐る振り返ったその先には首から先が無くなった冒険者の死体。

 

 追撃に出たはずが待ち構えていたゴブリンによって、逆に餌食にされたようだ。

 

 こんな事、ただのゴブリンが出来るはずがない。その犯人は森の奥から現れたホブゴブリンの部隊の中でも先頭にいる、ホブですら小さく見えてしまう巨体な個体。

 

「大きすぎる……!あれ本当にホブ?!」

「いや。あれはホブじゃない」

 

 あまりの大きさと迫力に気負けした女武闘家の前に出る重戦士。彼は怖じるどころか本命の大物が現れて笑っている。

 

「聞いてはいたが、やはり来たか。小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)

 

 幾多の戦場を渡り歩いた末に手に入れた屈強な肉体と、血濡れた巨大な棍棒を引っ提げて、自分よりも小さい冒険者達を見下している。

 

 それも一体だけではない。得物は異なれど小鬼英雄が背後から二体、同時に森の闇から姿を現した。

 

 一体だけでも戦況を左右しかねないというのに、それが三体もいるとなると、新米はおろか中堅ですら怖じてしまう。

 

「いい加減雑魚には飽きて来たところだ。大物食いが俺の本職だからな!」

「やれやれ。私は今、討ち取ったゴブリンの首を数えるのに忙しいんだが?」

「良いから付き合え」

 

 重戦士はパートナーの女騎士と共に、一匹のゴブリンチャンピオンに狙いを定める。

 

「下がってろ」

「そう  ね」

 

 槍使いもゴブリンチャンピオンに当たるべく、前線から魔女を下げた。

 

「じゃあ、もう一匹は私がやりますか」

 

 彼らのようにこれまで大物、それも邪悪で禍々しい怪物を狩る事を生業として来たムーンセイバー。奇しくもそれぞれの一党の頭目が小鬼英雄に狙いを定めた。

 

「では、私は周囲のホブを仕留めてご覧にいれましょう」

 

 雑兵相手では出番が無かったヴェルナンデスも参戦を表明する。

 

「な、なら私も……」

「やめときな」

 

 女武闘家もついて行こうとしたが制止する。

 

「こっから先は守ってやれないよ?」

 

 ムーンセイバーは小鬼英雄と一戦を交えるのは初めてだが、その強さはホブですら霞んでしまう程だろう。恐らく魔物狩りの達人であるムーンセイバーであっても倒すのは容易ではない。女武闘家に構っている余裕などない。

 

 たとえ相手が小鬼英雄でなくても、周囲にはホブゴブリンの数が数十匹。当然乱戦になる。

 

 初めての冒険の時、女武闘家は知らなかったとはいえ、ホブゴブリンに負けている。それも力でねじ伏せられて。真っ当な戦い方では同じ轍を踏むのが目に見えている。

 

 そんな彼女をこの乱戦に放り込ませたくないというのもある。だがやるかやらないか、それを決めるのは本人次第だ。故に、その覚悟を問う。

 

「やります……!」

「上出来……。ヴェルナンデス!この子のサポート任せた!」

「またお守りですか?はぁ……」

 

 女武闘家を伴い、ムーンセイバーは槍使いを始めとしたベテラン達と合流する。サポートするには構わないが、対象が女武闘家なのが不服を示すも、方針に従う。

 

 名だたるベテラン達も、新米を卒業したばかりの女武闘家が混ざる事にとやかく言うことはしない。来るなら好きにするといい、という事だ。

 

「行くぞおぉぉ!!」

 

 槍使いが声を挙げたのを皮切りに、戦線で戦う冒険者、そして相対する小鬼英雄とホブゴブリン達が雄叫びとともにぶつかり合った。

 

 

 


 

 たった一匹、ゴブリンロードは夜の森を慌てて駆ける。

 

 理由は至ってシンプル。逃げている。

 

 この日の為に入念に準備して奇襲を仕掛けた。捕虜を使ってゴブリンを増やし、狼を飼い、武器を集めた。そして牧場を奪って街へ攻め込む足掛かりとするはずだった。

 

 その結果がこの有様だ。奇襲を仕掛けたはずが逆に仕掛けられ、壊滅した。まだ戦いは続いているが、もうあの部隊も全滅するだろう。

 

 だがゴブリンロードは諦めてはいない。自分が生きてさえいれば次がある。巣穴に戻り、捕虜を使ってゴブリンを増やし、また攻め込めばいい。

 

 これまで何度も生き延びてきた。子供だからと見逃して後ろを見せた冒険者。そんな馬鹿な奴の頭を礫石でかち割った。

 

 そこから武具の扱いを覚え、群れの使い方を考え、肉体と知恵を鍛えた自分は戦士に勝るものとなった。

 

 今回もそう。失敗を糧に次に臨めば良い。

 

「そう考えている事は分かっていた」

 

 無機質で冷たい男の声が聞こえて立ち止まった。僅かな月の光がその主の姿を照らした。薄汚れた革鎧に鉄兜。腕に括りつけた小さな盾に中途半端な長さの剣を持った男。

 

「お前の故郷はもうない」

 

 その鎧には返り血がついていた。男は片手で持っていたゴブリンの首を放り投げた。ゴブリンのやりそうな事は、彼の前には通用しない。

 

 それが彼が……ゴブリンスレイヤーと呼ばれている所以である。




次回、小鬼英雄戦!

次回のタイトルは久しぶりに悪魔城のBGMにしようと思いますが……

さて何にしたものか……w
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