小鬼殺しと夜を狩る一族   作:レーラ

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遂に第一章完結でございます!

ここまでの読んで頂きありがとうございました!

まだまだ続きますので、これからもよろしくお願いします!


夜明けの旅立ち

「私達の勝利と!牧場と!街と冒険者と!それから……いつもゴブリンゴブリン言ってるあの変なのに!」

 

 

 かんぱーーい!!

 

 妖精弓手の乾杯の音頭で、冒険者達はジョッキを片手に乾杯する。

 

 この宴に集まったのはゴブリンロードの軍勢と戦った者達。その勝利を祝って催されたのだが、今回の依頼はこの街の冒険者全員が参加していた事もあって、宴は大々的なものとなっている。

 

 勿論、ここに全員いるわけではない。ここにいないものは生還出来なかった者達だ。

 

 ゴブリン退治といえど、全員が無事に生還出来るとは限らない。それだけ冒険というのはシビアな稼業だ。

 

 だが彼らは冒険者。辛気臭く別れるより、笑って送り出すというのが、死者となった彼らを思う唯一の方法だ。

 

 彼らはテーブルに並べられた豪華な料理を肴に、酒を次々と飲み干していく。

 

 骨付き肉にかぶりつく者、チーズの塊を貪り食う者、鉱人道士の酒に呑まれて倒れた者など、それぞれが勝手に楽しくやっている。

 

 中にはこんな者も……

 

「な、何だとぉ?!チャンピオンだぞ?!チャンピオンの首でも褒賞は同じなのか?!」

「はい。『ゴブリンの首一匹につき金貨一枚』という依頼ですので」

 

 重戦士と連携してゴブリンチャンピオンを討ち取った女騎士だが、上位種を討ち取ったにも関わらず、その首も金貨一枚という褒賞に納得いかないようで受付嬢に抗議していた。

 

 だがそんな抗議は日常茶飯事。受付嬢は涼しい顔で対応している。

 

「と、特別褒賞とかは?」

「ありません。今回の報酬自体が特別ですから」

 

 その諦めの悪さは騎士として少し見苦しいものがある。そこにムーンセイバーが彼女の肩にポンと手に置いた。

 

「諦めな。私だってチャンピオン狩ったけど金貨一枚だし。それに……」

 

 今度はゴブリンスレイヤーの方を見る。その手には一枚の金貨がある。

 

「ロードを倒したゴブリンスレイヤーの報酬も、金貨一枚なんだぞ」

 

 今回の勝利はゴブリンスレイヤーの知識と策があってこそ成されたものだ。言うなれば、今回の勝利の最大の貢献者。もっと報酬を増やせと交渉しても、誰も文句は言わないにも関わらず、彼は何も言わない。

 

 それを見せられては流石の女騎士もぐぅのねも出ない。

 

「あんまり執拗いと、チビッ子達の騎士の価値観が変わっちゃうぞー」

「お、お前が言うな!」

 

 諌言される女騎士だが、ムーンセイバーの方こそ騎士らしくない言動に戦法を取っているのを知っている。だが当の本人は騎士の誇りなんてものはなく、飄々な態度で軽く流した。

 

「さあて、私もそろそろ宴に……」

 

 言い終える前に、窓越しに見えた蝙蝠の羽ばたき。溜息を吐きながら人知れず扉から出ていき、満月が浮かぶ夜空の下に出た。

 

 蝙蝠は羽ばたきながら細い裏道に入り、ムーンセイバーもその後を追った。そこに入ると……

 

「そろそろ良いでしょう?ここには誰も来ない」

 

 そう呼び掛ける。すると、月の光で僅かに浮かんでいた蝙蝠の影は形を変え、人のものへと変わった。

 

「アンタがここまでやって来るなんて、何のつもり?もしかして宴に参加したい口?」

 

 目の前には黒いスーツを纏った黒髪の偉丈夫。先程蝙蝠だった男だ。肌と呼ぶにはかなり白いが、美貌でそれを気にさせない。

 

「そんな事はどうでもいい。ここに留まる理由はないはずだ。何故出立しない?」

「何だその事か。別に、今日出て行こうとした所。だけどちょっと野暮用があってさ。アンタも知ってるんでしょ?」

 

 そう言うが、男は何も言わない。昨日からここにいるという事は今日起きた出来事を把握しているはずだ。

 

「相変わらず無愛想。まっ、今日の夜明け頃には旅立つから、そこは……」

「暗黒神官を名乗る輩が動き出している」

 

 ムーンセイバーの台詞を遮るように告げた男の話題はムーンセイバーの気を引くのに十分なものだ。

 

「本当なの?」

「魔物達の動きが活発化している。昨今回収したコアソウルが強力と化しているものが多くなっている。お前が回収した二つも同様だ。誰かがこの西方辺境を縄張りとして、裏で操っている者がいるはずだ」

 

 冷たくも詳細を話してくれるのは助かるが、あまりにも淡々と話すのでムーンセイバーは男に問う。

 

「そこまで推測してるなら、何で動かないの?」

「今はギルドの職員という肩書きがある以上、表立って活動する訳にはいかない。故に、お前にやってもらいたい」

「そうだったわね。今のアンタは仮初の姿だもんね」

 

 ムーンセイバーが揶揄っても、男は真顔のまま何の反応も示さない。

 

「分かった。私がやる。けどせめて二つだけ良いかしら?」

「何だ?」

「まず一つ、まだ祝勝の宴の途中。旅立つのはそれが終わってから。で二つ。一旦故郷に帰らせて」

「……良いだろう」

 

 ムーンセイバーが提示した二つの条件に、何の反応も示さずに了承した。

 

「今は宴を楽しめ。それが終わったら役目に戻る事だ」

 

 男はそう言いながら霧に包まれる。濃霧で完全に姿が見えなるが、ムーンセイバーはそれに構わず裏道から出た。霧が晴れた時、偉丈夫の姿は無かった。

 

 

 


 

 

「セイバーさん、どこ行っちゃったんだろう……?」

 

 乾杯の音頭から食事していた女武闘家だったが、いつまで経ってもムーンセイバーが帰って来ない。どこへ行ってしまったのか、心配した女武闘家がギルド内を探すも、酔っ払いに絡まれたりして散々な目に遭っていた。

 

 受付嬢に聞いてみようとした時、扉のベルが鳴った。ムーンセイバーが帰って来た。

 

「セイバーさん!何処に行ってたんですか?!」

「ごめんごめん。ちょっと野暮用。って!私が楽しみに取っておいたソーセージがない!誰だ食ったのぉ?!」

 

 ムーンセイバーの取り皿に残しておいたソーセージが無くなっている事に気付くと、周囲の人間から犯人探しを始める。

 

「アンタかぁ?!」

「俺じゃねえっての!」

「じゃあアンタかぁ?!」

「私でもないぞ」

 

 まるで獣のように威嚇しながら重戦士と女騎士に問い詰めるが、どうやら知らないようだ。とはいえムーンセイバーの威嚇は止まらない。

 

「ガルルルル!」

「せ、セイバーさん!新しいの貰いましょう!すみませーん!ソーセージ追加で!」

「は、はいよー!」

 

 これ以上、師匠の醜態を見ていられない女武闘家はすぐに獣人のウェイトレスに注文した。彼女もムーンセイバーの怒り狂いようを察したのか最優先とし、急いで届けた。

 

「いただきまーす!」

 

 お目当てのソーセージが来て、ようやく元に戻ったムーンセイバーがご満悦そうにそれを口運ぶ。

 

「やっと戻った……」

 

 ソーセージが来るまでムーンセイバーを何とか抑えていたが、それはまるで飢えた野生の獣のようで、組み敷いても持ち前の力で何度も拘束から解き放たれようとしていた。

 

 元に戻ったので抑える必要はなくなったが、下手な魔物よりもキツかった。

 

「ほら、アンタも食べなよ」

「い、いえ……私は遠慮します」

 

 今の女武闘家は疲れて油っこいソーセージなど胃が受け付けない。

 

「え?美味しいのに……。ヴェルナンデスはどう?」

「ぷはー!ふぇ?なんれふかぁ?」

「うわっ!アンタ酔っ払ってんの?!」

 

 先程からどうにも見かけないと思っていたが、あの清廉潔白なヴェルナンデスが酒に呑まれていた。

 

「よっはらってないれふよぉ〜(酔っ払ってないですよぉ〜)」

「ベロベロに酔っておいて何を言うか!」

「しょんなことあいましぇ〜ん(そんなことありませ〜ん)」

 

 最早呂律が回っておらず、クールな性格は見る影もなく、子供のような無邪気な笑顔を晒している。

 

 普段の嫌味ったらしさは一体どこへ行ってしまったのか、と女武闘家が呆れてしまう。酒癖の悪さは妖精弓手と同等、もしくはそれ以上なのかもしれない。

 

 席から立っても千鳥足でバランスを保てていない。典型的な酔っ払いである。

 

「あぁもう!完全にベロベロじゃんかよ!大丈……うわぁっ!」

 

 介抱しようとした直後に押し倒された。

 

「ちょ?!あんた何してんの?!」

「ふへへへぇ〜つかまえましたよぉ〜へる……」

「ちょぉっと!」

 

 慌てて口を塞ぐが一瞬で振りほどかれた。

 

「誰かこいつを止めてよぉ!」

 

 周囲に助けを求めるが面白がって止めようとしない。ならば今度は妖精弓手に助けを求める。

 

「はわわわわ……」

(はわわわわ……じゃねえよ!何でそこで乙女出してんの?!)

 

 怖いもの見たさというものか、手で顔を覆いながらも僅かに指の隙間から見ている。妖精弓手は使えないと判断すると今度は鉱人道士と蜥蜴僧侶を見る。

 

 が、こちらも面白がって助ける気は皆無なようだ。だがヴェルナンデスの顔を見ると口をすぼめている。

 

「アンタ何を?!助けてええぇぇー!!」

 

 同じ女子に唇を奪われそうになっていると分かり大声で助けを求めるも、ヴェルナンデスの唇がムーンセイバーに迫っていく……

 

「何やってんのこの馬鹿ぁ!」

 

 寸での所で女武闘家が引き離し、背負い投げを決めた。

 

「助かった……」

「セイバーさん大丈夫ですか?」

「ありがとう……!」

 

 色んな意味で九死に一生を得たムーンセイバーは助けてくれた弟子に抱きついた。余程怖かったのだろう。

 

 投げられたヴェルナンデスはそのまますやすやと寝息を立てて眠ってしまった。もう今度からヴェルナンデスに酒は絶対に飲ませない。眠るヴェルナンデスを見て二人は固く誓い合った。

 

 このまま床に寝かすのも可哀想なので椅子二つを繋げ、ベッド代わりにして寝かせる。

 

「はぁ……人生最大のピンチだったわ」

「魔物に殺されかけるよりも唇を奪われそうになる事が人生最大のピンチで良いんですか?」

 

 魔物狩りよりも女の方が怖いとはよく言ったものだ。

 

「セイバーさんは、お酒飲まないんですか?」

「いや……あれ見たら……ね?」

「ああ……」

 

 眠っているヴェルナンデスを見て納得してしまう。

 

「でも今日は良くやったじゃん。ゴブリンを倒しまくって、金貨荒稼ぎ出来たんじゃない?」

「あ……いや。私はそんな……」

 

 ムーンセイバーに褒められ照れ臭くなる。

 

「私から教える事は……もう……」

「あぁー!!オルクボルグが兜外してるー!!」

「えっ?!」

 

 大事な事を言おうとした時、妖精弓手から衝撃的な報せを受けて中断。誰も見た事がないゴブリンスレイヤーの素顔を拝もうと誰もが彼の所に集まった。

 

「私達も行くよ!」

「は、はい!」

 

 師匠に連れられて女武闘家もゴブリンスレイヤーの所に行くも人が多く、図体ばかり大きい男ばかり。なかなか間近で見られない。

 

「もう!お前らより私の方がゴブリンスレイヤーと付き合い長いだよー!年季が違うんだー!」

 

 誤解を招きかねない文句を言うが、いつも兜で素顔を見られないギルド内では彼の素顔は貴重なものだ。ムーンセイバーも彼の素顔を見たことはない。

 

 何とか狭い隙間を掻い潜ってようやく最前列まで潜り出て、ようやくその素顔と対面する。

 

「やっとだぁ……。あっ……。これは意外と……」

「ちょっと退きなさいよぉ!」

「ちょっ!危ないからやめ……うわぁっ!」

 

 妖精弓手がゴブリンスレイヤーの顔を見ようと背中から無理矢理押し込まれたムーンセイバー。

 

「あっ……」

 

 ゴブリンスレイヤーの素顔を前に、思わず見蕩れたムーンセイバーのバランスは崩れてそのまま彼に倒れ込んだ。

 

 


 

 

 宴はいつの間にか終わりを告げ、夜が明け前には殆どがその場に寝込んでいた。ここで眠りこけているのは酒に呑まれた者と、疲労で維持出来なかった者達ばかり。

 

 女武闘家もここで眠っていたが、彼女の場合は後者の方だ。テーブルに体を預けて眠っていた。ヴェルナンデスもあれから起きない。

 

「あらら……寝ちゃったか」

 

 ただ一人、ムーンセイバーだけは起きていた。弟子の可愛い寝顔を見ながら髪を優しく撫でる。そして、懐から手紙をそっと、すぐ傍に置いていく。

 

「元気でね」

 

 今生の別れではないが、次また会えるという保証は無い。冒険者にはよくある話だ。

 

 愛弟子に黙って別れを告げ、ギルド扉を開け出て行った。

 

「んぅ…………」

 

 ベルの音で意識が疎らだが戻った女武闘家。まだ睡魔が重くのしかかり、目がしょぼしょぼしている。また眠ろうとしたその時、目の前にある手紙が目に入り、今度は意識がハッキリと戻る。

 

「何これ?」

 

 嫌な予感を覚えて手紙を開けた。その中身を見た女武闘家が急に立ち上がる。

 

「セイバーさん……!」

 

 手紙を握りしめて、急いで走り出す。扉を強く押し開けて日が登ろうとしている夜道を走った。

 

「セイバーさん!セイバーさん!」

 

 街の外へ出ようとしていたセイバーを見つけた。その声に気付いたムーンセイバーが振り返った。

 

「セイバーさん!間に合った……!」

 

 追いついた時、女武闘家の息は既に絶え絶えだった。

 

「アンタ大丈夫?」

「大丈夫です……それよりも……!これ、どういう事なんですか?!」

 

 強く握ったせいでしわくちゃになってしまった手紙。それを広げて突き出した。

 

 手紙にはこう書かれていた。

 

――

 

 急でごめんなさい。私はここを出て行くことになった。

 

 理由は言えない。って言っても納得しないでしょうね。

 

 私がこの街に来たのは、古城にいた怪物や、遺跡のオーガが持っていた魔力の塊、コアソウルを回収する事だったの。

 

 この西方辺境に散らばった、コアソウルを回収する。旅の目的はそれだったの。

 

 目的を果たした今、この街にいる理由はなくなる。私は故郷に戻らなくちゃいけない。

 

 だから今夜をもって、一党は解散。

 

 アンタの事とヴェルナンデスの事は、既にゴブリンスレイヤーに頼んである。本人も了承済み。

 

 これからゴブリンスレイヤーの一党で、その力を役立てて。

 

 アンタに教える事はもうない。アグネアをあそこまで使いこなしたんだもん。アンタなら、更に強くなれる。

 

 頑張りなよ。

 

 

 ――

 

「そんなの……そんな一方的に解散なんて……納得出来ませんよ!」

 

 予想通りの反応。そして次はこう言う。

 

「私も連れて行ってください!ヴェルナンデスも一緒に……」

「悪いけど……それは出来ない」

 

 ムーンセイバーから冷たく告げられる。

 

「どうしてですか?」

「アンタはまだ強くなれる。まだ発展途上だっていうのに、その才能を潰したくない」

「それなら……」

「実力に見合わない敵と戦って、無駄死にするつもり?」

 

 ムーンセイバーはゴブリンやゴーレム、オーガよりも強力な闇を見据えている。女武闘家ではまだ考えつかないような闇。それを前にして戦えるのか。

 

 考えればムーンセイバーの言う通りだ。自分はムーンセイバーの足を引っ張る枷となってしまう。

 

「……分かりました」

 

 今にも泣きそうな弱々しい声で返事をする。だがムーンセイバーについていけない悔しさに涙が溢れる。そんな彼女の頭を優しく撫でる。

 

「もう、泣かないの。生きてさえいれば、必ず会えるんだから」

 

 見上げると優しい微笑みを向けてくれている。強い彼女がそう言うのなら、それを信じて応えるべきだと頷く。

 

「上出来……!」

 

 そう言うと女武闘家の背中を強く叩いた。

 

「私がいなくても、しっかりやるんだよ」

「はい……!」

「うん。もう行かなきゃ」

 

 日が登りかけている。陽の光が街に差し込もうとしていた。

 

「はい。セイバーさん、お元気で」

「うん、そっちも元気でね」

 

 そう言うとお互い進むべき道へと歩んでいく。これからは別々の道を歩む。お互いが見えなくなる直前、女武闘家が振り返った。奇しくもその歩みを止めていた。

 

「じゃあね!」

 

 振り返ってピースしてくれた。陽の光もあり、それは一層輝かしく見えた。女武闘家も、大きく手を振って彼女を見送った。

 

 その足で再びギルドへと戻った時、朝を迎えていた。

 

 今度からはムーンセイバーがいなくても戦わなくてはならない。また胸張って会えるように戦う。決意を胸に、ギルドの扉を開けた。

 




スマブラのリザルトでもありました、リヒターのピース。

「じゃあな☆(キュピーン)」

次回から第二章になります。

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