そろそろイナイレの方も描かなきゃかな……
故郷に辿り着いて早々、水の街より大司教である剣の乙女からの召喚の伝達を受け、ムーンセイバーはすぐさま出立するが、聖堂老師の許可を無視して召喚少女がついて行ってしまった。
今更追い返すことは出来ないので、召喚少女の鳩経由で手紙を送ってから水の街へと目指す二人。
当然道中には先日通った森を再び抜けなければならない。陽の光が入らないあの森は魔物の巣窟、一度倒したすスケルトンもテリトリーに侵入した生者を殺す為に再び地中から這いずり出てきた。
森の中でスケルトンの集団がその行く手を立ち塞がった。その数は二十体。
だが今更そんなものを恐れるムーンセイバーではない。素早い斬撃と身のこなし、蹴り技を始めとした体術でスケルトンの群れを蹴散らしていく。
一方で実戦経験がない召喚少女にも関係なく急襲を仕掛けてくる。
「よーし、がんばっちゃうよー!」
だが召喚少女に恐れも怯えもない。振り上げた右手に白い光が集まり、それが大きくなると白い鳩が形成される。えい、と振り下ろした腕と共に召喚された鳩が主の敵であるスケルトンを目掛けて突っ込む。
スケルトンが振り下ろした棍棒を避け、そのまま鋭い嘴でスケルトンの脊髄を粉々にした。
「まだまだ!やっちゃえー!」
立て続けに三体の鳩を召喚して、次々とスケルトンを討伐していく。初めてとは思えない戦いぶりに、最後のスケルトンを斬り捨てて感心する。
「凄い……っ!」
だが新手に気が付き、その方を見ると突如礫石が向かって来た。それを身を翻して避けた。
「こんなお粗末なもの、こいつらが使うはずがない……」
独り言を呟きながら再び飛んできた石を剣で弾くと、携えていたクロスを投擲。奥の暗闇に飛んでいくと、人とは思えぬ悲鳴と共に砕ける音が響く。直後にクロスがムーンセイバーの手元に戻るが、そこには血が付着していた。
「間違いない……まあ、こんな湿気た森に来てもおかしくないわよね」
もはや新手が誰なのか検討はついているが、出来れば相手にしたくなかったというのが本音だ。
ゲラゲラと下卑た笑い声が大きくなって来た。森の奥から姿を現した緑色の小さな怪物。ゴブリンだ。
「お姉ちゃん……あれって……?」
見た事がない異形の怪物を前にするが、不思議と恐怖は感じられず、寧ろ探究の意味で尋ねている。
「あれはゴブリン。多分、この世で一番最低な生き物」
悪態つくようにゴブリンについて説明してやる。現れたゴブリンの中に骨を噛み砕いている。恐らくスケルトンのものだろう。
そして次の獲物は女であるムーンセイバーと召喚少女、ということだ。
(正直、この子の前にこんな最低な生き物を見せたくなかったけど……しょうがない……!)
ゴブリンは相手が子供であっても関係ない。自分達の悦楽の為に獲物に襲い掛かる。
だがそうはさせまいとムーンセイバーが立ちはだかり、水平に払った剣が飛びかかったゴブリンの首を刎ねた。
だが後から駆け出したゴブリンが仲間の首を掴むと、なんと石代わりにしてそれを投げつけてきた。
「なっ?!」
辛うじて避けたが間合いに入られた。これでは避けようがない。だが信じ難いことにそのゴブリンはそんな隙だらけのムーンセイバーを構わずに抜き去った。
「しまった!」
最初から標的はその後ろにいる召喚少女だ。見た目も小さく腕っ節が弱そうな彼女を人質にしようとしたのだろう。
だがその浅はかな考えは一匹の召喚獣によって引き裂かれた。
鋭い爪によって腹を一瞬で切られ、その血飛沫が宙を舞った。
主に召喚された今の白虎は猫のような小さな姿ではなく、戦闘に適した屈強な虎の姿となっている。
これが四聖獣の真の力、言うなれば召喚少女の
「いっけーびゃーちゃん!」
任せろ。主の命令にそう頷き、主に仇なす醜悪な小鬼共を標的と定め、眼を鋭く睨む。
思わぬ敵の出現に狼狽えるゴブリン共だったが、白虎が先に飛びかかり、哀れにも一番前にいたのは踏み潰され、隣にいたゴブリンの喉笛を切り裂いた。
邪魔な獣を仕留めるべく弓矢を構えても、ムーンセイバーが投擲した斧によって弓ごと脳天を穿たれた。その隙に白虎と共に前に出て慌てふためくゴブリンを斬り捨てていく。
そこに走り出した召喚少女がダメ押しの鳩を三体放ち、ゴブリンの獲物を叩き落とし、白虎がそのゴブリンを狩る。
襲う側だったはずのゴブリンの群れは一瞬にして崩壊、全滅した。素早い機動力と冴えた剣技を持つムーンセイバー、召喚獣による破壊力を誇る召喚少女。二人のコンビネーションによって。
役目を終えた召喚獣の身体は消えた。そこにムーンセイバーが歩み寄る。
「アンタ……凄いわね」
「えへへ。そうでしょー?」
初めての実戦でこれ程の実力を見せつけられて、驚きを禁じ得ないムーンセイバー。あのヴェルナンデスがこの子を見たら、何て言うだろうか?
有り得ない、規格外、出鱈目。
いずれにせよ受け入れ難いのは変わりないだろう。そう思いながら少し笑ってしまう。
「さて、行くわよ」
「うん!」
二人は手を繋いで先へ進み、やがて暗黒の森から抜け出す事に成功した。
森を抜け、通り掛かった馬車に乗せてもらえるよう頼んでみると、仲睦まじい姉妹を乗せないわけにはいかないと快く了承してくれた。
「お嬢ちゃん達、水の街に行くんか?」
「そうだよー!」
馬車の主の問いに元気よく答える召喚少女。見ている方も、聞いた方も微笑ましくなる。
「あとどれ位で着く?」
「もうそろそろ……ほら、見えてきたぞ」
天幕から覗いて見る。湖の中心に浮かぶ島の上にそびえ立つ白亜の城塞。街に入る為にある橋の下では多くの船が行き来している。
馬車の主が入る為の手続きを終えて街に入ると、そこでお礼の賃金を渡してお別れとなる。
「ねえねえお姉ちゃん!たんけんしよう!」
「待ちなさいってば。その前に行かなくちゃいけない所があるの」
初めて見る外の世界に胸を高鳴らせる気持ちは分かるが、ここには任務で来ている。その為に、依頼主である大司教に挨拶へ赴く必要がある。
二人はその足で法の神殿に向かう。
流石西方一帯の交易の街と言ったところか。人の交流が多く、商品も豊富。実に活気に溢れている。途中、召喚少女が寄り道しそうになるが、後でいっぱい寄り道するのを許すと言えば、喜んで言うことを聞いた。
そうこうしている内に、法の神殿が見えてきた。長い石階段の最上にそびえ立っており、ムーンセイバーも驚嘆しながら見上げる。
「すごーい!」
「凄すぎるわ……ん?」
そこに神殿の入口でスーツ姿の只人が静かにこちらに向かって歩いて来る。小麦のような茶色く肩にすら届かない髪が風によって靡いている。
顔立ちが中性的で、見ただけては性別が判断しづらい。漆黒のスーツを身に纏うその身体も、華奢のように見えるが、世の中には華奢な身体をしている男も珍しくない。
「ムーンセイバー様ですね?」
「そうだけど……あなたは?」
「失礼致しました。僕は大司教様の従者を務めている者です」
胸を手に当てて一礼する。一人称は僕と言っていたが、発せられる声色が女性声と感じ取れる。
「そちらの少女は?」
「私もいっしょに来たの!悪い人、いーっぱいやっつけるんだから!」
まだ成長途中である胸を張って宣言する。
「おや、それは頼もしい。期待してますよ」
そんな子供相手にあしらう事をせず、召喚少女に微笑んだ。
「では御二方、奥の礼拝堂で大司教様がお待ちです。こちらへ」
麗人従者が二人を案内する。この時、彼の事を測りかねていたムーンセイバーは少し遅れてついて行ったのだった。
麗人従者に案内され、神殿の最奥にある礼拝堂に向かう。道中、大理石で造られた廊下と壁、煌びやかな柱に天井に描かれている神秘的な絵に、召喚少女は心を奪われていた。
一方、ムーンセイバーは真剣な表情で廊下を歩いている。だが内心は緊張してそれを眺めいる余裕なんてない。
相手は英雄。西方一帯の聖職者達の頂点に立ち、十年前に魔神王を倒した功績により金等級冒険者となった。
ムーンセイバーも曲がりなりにも聖職者の立場にあり、その上に立つ大司教《剣の乙女》がどんな人物なのか。初めての邂逅に緊張するのも無理はない。
やがて礼拝堂に辿り着いた二人。その奥に立つ像の下で、錫杖を手に祈りを捧げる一人の女性がいた。
「失礼します大司教様。かの者をお連れしました」
だがその女性はまるで、二人が来るのが分かっていたかのように静かに振り返る。
金髪の長い髪に、聖なる羽衣が包む身体は身体のラインが際立っており、その肉体美に目を奪われない者はいない。ただ二つの眼を覆うような黒い布を巻いているのだが、それがより美貌を引き立てている。
「ありがとうございます。あら、お客人がお二人のようですが……」
「こちらは妹君だそうです」
麗人従者が説明する前に、客人が二人であるという事を見抜いた。目が利かずとも、二人の気配に気付き、空間も立ち位置もしっかりと把握している。
「お初にお目に掛かります。ムーンセイバーと申す者です。召喚に応じ、馳せ参じた次第です」
「まあ……あなたが」
ムーンセイバーは剣の乙女に跪いて名乗る。同じ聖職者であるならば、このように敬意を示すのが当然。だが召喚少女はそんな礼儀作法を知らないので、跪く事をしないばかりか、やや駆け足君で剣の乙女に近づいた。
「わぁ……綺麗な人!」
「えっ……ちょっと、アンタ何やってんの……?!戻って来なさい!」
幼子とはいえ、修道院暮らしでありながら無礼な振る舞いに流石のムーンセイバーも狼狽える。だが剣の乙女は不快に思うどころか、微笑みを浮かべている。
「申し訳こざいません。ついて行くって聞かなくて、仕方なく……」
「構いませんよ。とても可憐な方ですね」
しっかりと召喚少女の方を見てそう言っている。
「恐れながら大司教様……。そろそ本題に」
話が進まず、麗人従者が平伏して本題に入る事を進言する。
「そうでしたね」
剣の乙女が二人に座るよう促し、それに従う。礼儀正しく正座するムーンセイバー。召喚少女も正座であるが、じっとしていられない性分のせいで身体をうずうずとさせている。
剣の乙女もまた趺坐して話を切り出す。ちなみに麗人従者は一旦礼拝堂から退出した。
「一ヶ月程前……夜分遅くに使いに出した侍祭の娘が翌朝、路地裏で死体となって見つかりました。生きたまま切り刻まれたようだと、報告を受けています」
「生きたまま切り刻まれた……ですか。このような街中でそんな事になれば、警備の巡回は強化がされるはずでは?」
「はい。ですが、それでも犯罪は収まらず……」
窃盗、婦女子への暴行、子供の誘拐にまで発展した。どこにでもある、ありふれた話だ。いくら活気ある街とはいえ、必ずしも裏で事件は起こらないという保証はどこにもない。
「ですが、とある冒険者が女性を襲う小柄な人影を見つけ、これを切り伏せました。その小さな死骸が……」
その先から剣の乙女は口にしなかった。だが可能性としてはありえる話だ。奴らは何処からでも沸いて出てくる。それだけ数が多いのだから。
「ゴブリン……」
正体に行き着いているムーンセイバーが答えた。だがそのゴブリンは一体何処から沸いて出てきたのかが、疑問だ。
外からは外壁や、天然の要害の前では単独で忍び込むのは不可能だ。例え群れで襲いかかってこようが迎撃されるのは目に見えている。地上からではダメと考えれば、後は下からだ。
「これだけ水に恵まれている街です。地下や水道が幾らでも広がっているはずです。それならば……」
「ねえ、何の話してるのー?」
どうやら召喚少女には難しい話のようだが、ムーンセイバーは構わず話を続ける。
「そのゴブリンを掃討しろとの事でしょうか?」
「ええ。そうですわ」
ここまで話を聞いて、依頼の内容は大体把握出来た。ムーンセイバーは聖職者であるが故、その依頼を承るが、これがゴブリンスレイヤーであれば嬉々として引き受けるだろう。
「その為に、彼の者もここに呼んだのです」
「えっ……?」
考えていた事をまるで見透かすような用意。ムーンセイバーも一瞬狼狽えて声が出てしまう。
「失礼します。彼らをお連れしました」
一度退出した麗人従者が再び礼拝堂に入る。この時、足音が一つだけではなくかなり複数鳴っている。その中でもズカズカと具足の音が一際聞こえる。
「先客がいるようだ」
聞き覚えのある声に立ち上がった。まさかこんな形で再会する事になるとは思いもしなかった。彼がここに来たということは、彼女達もいる。
「ねえお姉ちゃん!あの人たちだぁれ?」
召喚少女が指した方向、後ろを恐る恐る振り返る。
案の定、その声の主はゴブリンスレイヤーだった。彼だけではない。女神官や蜥蜴僧侶、妖精弓手に鉱人道士。そして……
「あなたは……」
「セイバーさん……?!」
ゴブリンスレイヤーに託した、かつて同じ一党だった二人。ヴェルナンデスと女武闘家が驚きの声を挙げる。
召喚少女の召喚獣
召喚少女の攻撃手段は全て召喚獣による攻撃である。召喚パターンは三つあり、それぞれ異なる性能をしている。
・鳩(通常攻撃)
通常攻撃に運用される。消費魔力はなく連射が効くが、その威力も大きくはない。また、鳩に掴まって滞空移動する事も可能である。
・四聖獣(サブウェポン)
四聖獣が小さくなった姿で現れる。機動力に長けるびゃーちゃん(白虎)、対空に優れるすーちゃん(朱雀)、威力を振るうせーちゃん(青龍)、鉄壁の守りが売りのげんちゃん(玄武)の四種類。
召喚する度に魔力を消費するが小さい為、本来の性能より抑えられている。
・大型召喚獣(アイテムクラッシュ)
四聖獣が本来の姿で現れる。その性能も小さな姿の時とは桁違いである。
ちなみにガーディアンナックルは今のところやらない性能にしようか考え中です。