「セイバーさん……!」
「アンタ……」
最愛の師匠であるムーンセイバーとの再会。それをどれだけ待ち望んだか。
ムーンセイバーから離れ、ゴブリンスレイヤーの下で拳の冴えを磨いて来た。これまで戦った魔物と比べれば、大した事は無いかもしれない。それでも、師匠の教えはゴブリン相手でも磨く事が出来た。
今の自分を見たら、何て思うだろうか?褒めてくれるだろうか?話したい事が沢山ある。いざムーンセイバーを前にして、何から話せばいいか分からなくなり、口を噤んでしまう。
だがムーンセイバーは、口元に人差し指を当てた。静かに、そう言いたいのだろう。何故と問おうとしたが、それを察したヴェルナンデスが制止して耳打ちをする。
「今は大司教様の前にいるんです。その目の前で世間話など以ての外です」
そう諭されて納得したのか、引き下がった。ヴェルナンデスの言う通り、剣の乙女は自分達からすれば雲の上の存在だ。それを失念していた事に反省する。
徐に立ち上がった剣の乙女がゴブリンスレイヤー達を見る。
「ゴブリン退治に来た」
何とゴブリンスレイヤーはズカズカと要件を率直に述べた。相手が大人物であるというのに敬いの一つも見せぬ態度にムーンセイバーは絶句する。
(馬鹿!アンタ子供じゃないんだから!)
目で訴えてもゴブリンスレイヤーはお構い無し。いや、通常運転というのだろう。他の面々も、特に女神官から諌められている。
「ゴブリンスレイヤーさん、もっと静かに……」
「急ぎの仕事だ。入って構わないなら、待つ意味は無い」
召喚少女はまだ子供だから大目に見ているが、そうでないゴブリンスレイヤーの度重なる無作法には流石に我慢ならない。だが剣の乙女はそんなゴブリンスレイヤーに怒る事はしない。寧ろ受け入れている。
「ようこそ、法の神殿へ。歓迎致しますわ」
「能書きは良い。依頼の詳細を……」
遂に我慢の限界に来たムーンセイバーがゴブリンスレイヤーの足を踏む。
「何だ?」
「アンタねぇ、あの御方は大司教様よ?本来なら私だって拝む事すら畏れ多いのに、アンタって奴は……」
「構いませんよ」
「大司教様?!」
剣の乙女はゴブリンスレイヤーの在り方を許した。
「頼もしい冒険者が来てくださったようで、とても嬉しいのです。勿論、あなたもその一人」
「身に余るお言葉……光栄でございます」
剣の乙女に褒め称えられ、平伏するその姿は本物の騎士。辺境の街での振る舞いからは考えられない言動と行動に女武闘家は唖然とする。
「では、こちらへ」
先程のようにゴブリンスレイヤー達に座るよう促し、再び事の詳細を話した。
なお剣の乙女が補足した情報によると、この一ヶ月に冒険者に依頼を出したが全員帰って来なかったとの事。恐らくその冒険者は白磁か黒曜、つまりまだ駆け出しという事だ。
女神官と女武闘家。かつて初めての冒険でゴブリン退治に失敗し、二人の仲間を失った出来事が不意に当事者だった二人の脳裏に蘇り、簡単に拭う事が出来なかった。
「銅とまでいかなくても、紅玉や蒼玉辺りの冒険者は来なかったのですか?」
「ゴブリン相手に自分達が行く必要は無い……そう考えているんだろう」
ヴェルナンデスの質問に、ゴブリンスレイヤーが代わりに答える。
ゴブリン退治など、普通の中堅や上級冒険者からしてみれば危険と報酬が釣り合わない、言ってしまえばしょぼい稼ぎで命を落としたくはない。
まだ冒険者歴が浅いヴェルナンデスはなるほどと、納得する。
「どうかお願いします。どうか私共の街を救っては頂けないでしょうか?」
立ち上がった剣の乙女が頭を下げて冒険者達に依頼する。
「大司教様!どうか頭を上げてください!我々は……」
「救えるかどうか分からん。だがゴブリンは殺そう」
大英雄に対する一貫とした口振り。
「アンタねえ……言い方ってもんがあるでしょ」
「事実だ」
「事実だからこそ、言い方が大事なんです!」
「む……」
ムーンセイバーと女神官から叱り飛ばされて黙ってしまうゴブリンスレイヤー。そこにヴェルナンデスが咳払いをして話を進める。
「地下水道となると、爆発や水攻めといった策は控えた方が良いかと」
「え、どうし……あっ」
ヴェルナンデスの提案に対して問おうとした時、その意図に気が付いた女武闘家。
地下水道の真上は街。そんな荒っぽい戦術で街に影響を及ぼせば、今後の立ち回りに支障が出かねない。下手したら冒険者人生に影響を及ぼす可能性もある。
そこに尻尾を揺らす蜥蜴僧侶が一つの疑問を呈する。
「しかし……何故衛視だの軍だのの類に討伐させないのかね?拙僧はこの街の事情を分かりかねるが、別に管轄外というわけでもあるまい」
「それは……」
「ゴブリンごときに兵隊を動かす必要は無い……と言われたか?」
言い淀む剣の乙女に代わってゴブリンスレイヤーが答えた。僅かに頷く彼女に、召喚少女が心配してその手を握る。
「大丈夫……?」
「ええ……ご心配をお掛けしましたわ」
幼い少女を不安にさせてしまう。笑顔が戻ると召喚少女もまた笑顔になる。
「あのセイバーさん。この子は?」
「まあ……後で話すわ」
先程から召喚少女の存在が気になっていたゴブリンスレイヤーの一党であるが、今は作戦会議中だ。
「大司教様、地図はありますか?」
「ええ。これですわ」
胸元から出した古い地図。地下水道の見取り図だ。
「神殿、裏庭の井戸から地下水道に降りた方がよろしいかと思いますわ」
「ふむ……」
ゴブリンスレイヤーとムーンセイバーが地図を丹念に調べる。
「まるで迷宮ね……。しかも、この地図はかなり年季が入っている……。水が通っているから万が一損壊があってもそこまでではないと思うけど、全部が全部、正確だとは思わない方が良さそうね」
「そうか……」
もう充分だとゴブリンスレイヤーが地図を畳んで蜥蜴僧侶に渡す。彼を地図役にしたという事だ。
「では行くぞ。時間が惜しい」
「もういい……」
ゴブリンスレイヤーの不遜な態度にもう諌言するのが面倒になったムーンセイバーはただ頭を抱えるしかない。他の面々も同様であるが、いかにもゴブリンスレイヤーらしいと呆れている。
「では、私も参ります」
剣の乙女に平伏してそう言うと立ち上がる。
「私も頑張っちゃうよー!」
「アンタはダメ」
勢い良く立ち上がった召喚少女だったが、たった一言でその勢いは挫かれた。
「何でー?!」
「連れていくとは言ったけど、依頼まで一緒とは言ってない」
「お姉ちゃんのケチー!」
少女の抗議も聞き入れられず、べーっと舌を出して文句を言う。
「あの、セイバーさん。そろそろ聞いても良いですか?」
「そうです。その子、どうされたのですか?」
会った時から気になっていた女神官が質問する。彼女だけではない。他の者達も気になる。妖精弓手は召喚少女を顎に手を当てて見下ろしている。
「私の……妹かな。血の繋がりは無いけど」
「只人なのよね?冒険者にしては、見た目もそうだしとても幼く見えるわ」
「そりゃそうよ。この子まだ十二だし」
「「じゅ、十二歳?!」」
自分達よりも年下の少女がこんな所にいる事に女武闘家と女神官が鸚鵡返しに驚愕する。
「十二歳って、まだ子供で冒険者になれないじゃないですか!」
「子供じゃないもん!立派なレディーだもん!」
プンスカと怒る召喚少女だが、その幼さに微笑ましくなる蜥蜴僧侶や、からかいたくなる妖精弓手など反応は様々。
「何している。行くぞ」
ただゴブリンスレイヤーだけは興味なさげだった。とはいえ、このままでは召喚少女も一緒について行ってしまう。
ゴブリンが相手でも召喚少女は難なくやって退ける実力はあるが、まだ精神的に幼く、実戦経験が浅く冒険者の過酷さやその先に待ち受ける残酷な運命を知らない。
何より。そんな醜悪で下衆な小物の面前に無垢な少女を晒したくない。拗ねてる召喚少女を見て困り果てるが、そこに剣の乙女が召喚少女の頭を優しく撫でる。
「では、私が預かりましょう」
剣の乙女が召喚少女の保護を名乗り出た。
「大司教様!そんな畏れ多い……」
「良いんですよ。それに、この方には私から話したい事があるのです。構いませんか?可憐な
「よく分かんないけど……うん!」
言う事を聞かなかった召喚少女が、剣の乙女の優しく抱擁するような言葉に従う意思を見せたが、何をしでかすか分からない点では不安が拭えない。
「ご心配は無用ですよ。ムーンセイバー様」
そこに麗人従者が声を掛けた途端、彼女の耳元に耳打ちをする。
「あの御方はご存知です」
それを聞いてハッとして麗人従者の方に向き直る。
任せて。そう訴えるように頷く麗人従者。
「では……妹の事、よろしくお願いします」
一礼した時には既に他の面々はゴブリンスレイヤーの所へ追っている。ムーンセイバーも彼のもとへと行った。
古代の人間達が築き上げた石造りの水路。その壁はゴブリンの首が掻き切られた事で噴射した血飛沫が掛かった。そして動かなくなったゴブリンの遺体は水路へと投げ捨てられ、二度と浮かび上がる事は無かった。
弓を持ったゴブリンは妖精弓手によって射抜かれて水路へと落ちていった。
「これで全部か……」
周囲にゴブリンの気配は感じられない。ムーンセイバーの魔物を察知する索敵を用いて安全を確認する。
その間、ゴブリンスレイヤーは先に地下水道に潜入して死んだ冒険者の遺体の装備を検めていた。遺体の装備にあったであろつ袋は既にゴブリンによって奪われていたが、腰の長剣はそのままだった。
やや長めではあるがそれを頂戴する事にし、ゴブリンスレイヤーの装備となった。
そして、女神官は死した冒険者達の魂が安らかに旅立てるよう祈りを捧げた。蜥蜴僧侶もまた、奇妙な合掌で祈りを捧げる。
「出来れば地上にて土に還してやりたくはありますが……せめて鼠や虫の糧となりて、巡っていくのが幸いでありましょう」
女神官と蜥蜴僧侶。信仰する神は違えど、死者を弔う気持ちは同じだ。
「おかしい……」
「おかしいって?」
ムーンセイバーのボヤきに女武闘家が鸚鵡返しに問う。
「潜入して三日目。襲撃の頻度が全然減らない」
「それってつまり……どういうことですか?」
「聞いてばかりいないで、自分で考えてはどうです?」
「むっ……」
ヴェルナンデスが何度も質問する女武闘家に冷たく言い放つ。
「お二人とも。喧嘩はやめてくださいって何度も……あっ……」
仲裁に入ろうとした女神官の頬に冷たい雫が落ちた。だがそれはポツリポツリと、降り続ける。
「雨……?」
地下というのに雨が降り始めた。ここには雨宿り出来る場所がない。仕方なく外套に包まって濡れるのを防ぐ。松明の火は
「地下にいるにも関わらず雨とは。一体何故?」
「上で降っとる雨が、排出口だの運河だのからこっちに回って来るんじゃろ」
地下で雨という初体験に、魔導書とは別の小さな紙の束に書き記している。その姿に蜥蜴僧侶が感心している
「導師殿は勤勉でいらっしゃいますな」
「いかなる状況であっても想定し、起こりうる危険を回避する為に、書き記しているだけです。時には利用する事も出来ますので」
「まるでオルクボルグね」
失敬な。と、茶々入れた妖精弓手にジト目で訴える。
だが突如、ムーンセイバーが外套を脱ぎ捨てて立ち上がった。そこにゴブリンスレイヤーが尋ねる。
「どうした?」
「何か近づいてくる……。それも複数」
「私も聞こえる。水の音が激しく……」
ムーンセイバーは邪悪な気配、妖精弓手は異様な音を聞き取った。
「用心しろ」
皆にそう言ったゴブリンスレイヤーも立ち上がって先頭を走る。他の者もそれに続くが、その足はすぐに止まった。
暗所で視界が利かないが、水路の先から何か近づいている。やがて水流が激しくなる音と共に、灯りがその正体である船首を照らす。
「ゴブリンの……船?!」
女武闘家が驚きながら正体を口にした。廃材を用いたのか所々粗末になっているが、軍団を乗せるには十分な造りの船。だがそれよりもその船に乗っているゴブリンの数だ。
左目に眼帯をしている、いかにもなゴブリンが号令を下す。船の中から弓隊が隊列を組んで、一斉にその弦を引き絞って放たれた。
粗悪な作りとはいえ、矢としての最低限の機能はするものだ。雨のように降り注ぐ矢を受ければ死は免れない。
「いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください。
錫杖を鳴らして祈りを捧げ、燐光を帯びた壁が矢の行く手を阻んだ。
「あまり……長くは……」
だがその祈りは術者の精神力を糧とする。手をこまねいている余裕はない。
「これでもくらっとけ!」
船に目掛けて聖水の瓶を投擲。豪速で投げられたそれは船長きを模したゴブリンに直撃。水を浴びたその身体は紅蓮の炎で生きたまま焼かれたが、船に燃え移る事はなかった。
「あれは船を燃やせないのか?」
「対魔に特化したものに、そんな効力は無いわよ!」
「そうか……」
「分かりやすくガッカリすんな!いっその事あの船に放り投げてやろうか?!」
一族伝来の秘術にケチをつけられて悪態をつくムーンセイバーだったが、ゴブリンスレイヤーは顎に手を当てている。
「何してんの?」
「いや、手はある」
そう言うと雑嚢から何かを紙でくるめたようなものを取り出した。この時、ゴブリンスレイヤーが僅かだが、鼻で笑ったような声が兜から微かに漏れた。
キャラ解説
麗人従者(24)性別不明
モデル:???
剣の乙女に従者として仕える。肩まで届かない程に短い黒髪、中性的な風貌をしており、黒いスーツを着用しており、声や骨格からでは性別が判別出来ない。
ムーンセイバーの事を知っているようだが現時点では不明。
麗人従者のモデルとなった悪魔城キャラが誰なのか?予想してみてください!
感想なんかで予想を教えていただけるとありがたいです。