小鬼殺しと夜を狩る一族   作:レーラ

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皆様お久しぶりです。大変お待たせして申し訳ありませんでした。

ようやく地下水道の戦いの続きが出来上がりました!

更新ペースが不定期かつ、また間を開けてしまう可能性がありますが、それでも許せるというお優しい方々がございましたら、またよろしくお願いします。


Walking on the Edge

 ムーンセイバー達が地下水道に行っている間、召喚少女は剣の乙女に預けられた。そこで召喚少女は、色んな体験をした。

 

 剣の乙女が辿った冒険の軌跡。十年前、死の迷宮に挑み、魔神王を倒したという伝説をワクワクしながら聞いた。

 

「すごーい!」

 

 ずっと修道院で育ち、そこから今日まで一度も出る事が無かった召喚少女にとっては、剣の乙女とその一党の話は新鮮で、無垢な心を動かすのに十分だった。

 

「所で、私からも尋ねたい事があります」

 

 剣の乙女が話を切り出し、問う。

 

「あなたは、何の為に闇と戦うのですか?」

「わたし、お姉ちゃんの役に立ちたいの!」

 

 迷わずにそう答えた。無論、彼女の言うお姉ちゃんとはムーンセイバーの事を指す。

 

「役に立ちたい……ですか?」

「うん。お姉ちゃん、ずっと遠い所で悪者と戦っているのに、もっと強い悪者が出てくる。怪我して帰って来る時だってあるのに、わたし何もできないんだもん」

 

 まだ心身ともに成長しきっていないが為にムーンセイバーや聖堂老師から戦う事を禁じられ、ずっと守られる立場にいた。

 

 だからこそ、自分の力を役立てたい。幼き身であってもその強い心意気がある。

 

「怖くは……ないのですか?」

「へいきだもん!ここに来る時だって、緑色で小さいのをやっつけたもん!」

 

 召喚少女が言っていた怪物がゴブリンを指しているのは容易に想像出来た。だが討伐した本人は名前を忘れてしまっていて、思い出せない。

 

「それは……ゴブリン、ですか?」

「そう!そんな名前!」

 

 剣の乙女に尋ねられて思い出し、天井にビシッと指した。

 

「今はこうだけど、いつかぜったいお姉ちゃんみたいに強くなって、みんなを助けるの!」

 

 幼き身でありながら強い意思と勇気を持っている。そんな少女に剣の乙女は優しく微笑む。

 

「その気持ち、ずっと忘れないでくださいね」

「うん!」

 

 褒められたような気がしてとびきりの笑顔で応えた。

 

「では、僕から一つ提案があるのですが」

 

 そこに小さな挙手をする麗人従者。

 

「あら、何ですか?」

「少々この者をお借りしたいのです」

「それは何故?」

「これは、僕の個人的な意見ですが……今の身なりでは、戦士を名乗るには幼すぎるかと」

「もー!お兄ちゃんまで子どもあつかいしないでよー!」

 

 子供扱いされた事にご立腹な召喚少女であるが、彼が言う事も一理ある。何しろ桃色のドレスというのは戦士としては如何なものかと思われても仕方がない。

 

「これは失礼。ではムーンセイバー様に戦士として見られるよう、少しおめかししましょうか」

 

 何を言っているのか理解出来なかった召喚少女は首を傾げるが、言われるがまま麗人従者と手を繋いで街まで繰り出した。

 

 

 


 

 

 地下水道では、ゴブリンの群れが船に乗って現れ、矢を好き放題に射掛けてくる。

 

 女神官がなんとか聖壁(プロテクション)で迫る矢を防いでいるが、展開している間は使用者の精神が削られていく。このまま手をこまねいていれば、やがて聖壁は破られて蜂の巣にされてしまう。

 

 さらに悪い知らせはまだ続く。先程と同じ音が奥からもう一つ聞こえてきた。

 

「これ……まさかもう一隻?!」

 

 妖精弓手の鋭い聴覚が水が騒ぐような音を拾った。その悪い予感は的中していた。しかも船首には杖を掲げたシャーマンがいる。

 

 シャーマンの号令でこちらのゴブリンも矢を射掛ける。矢の量が増えても聖壁が守ってくれるが、その分女神官の負担も増えてしまう。

 

 いよいよ聖壁に亀裂が生じる。もはや破られるのもあっという間だ。

 

「仕方ありませんね……!」

 

 不本意なれど、ここでヴェルナンデスが魔導書のページを開いた。浮かび上がった文字が青白く輝く。

 

「聖壁!」

 

 文字から光の壁がひび割れゆく聖壁を覆うように現れた。ゴブリンが放った大量の矢はこの青く輝く壁によって阻まれた。

 

「あ、ありがとうございます!」

「礼を言われるものではありません……!それに()()()()()()()()せいで、この聖壁は脆くなっています……!」

 

 詠唱の綴りの一部が魔導書のページの内側に残っている。詠唱を簡略化した事でさらに高速で展開したが、急ごしらえの壁では役に立つのもほんの一瞬。

 

 黄金の聖壁を覆っていた、青いそれはすぐに軋み始めた。

 

「で、手はあるのよね?」

 

 ゴブリンスレイヤーには手があると言った。聖壁が破られそうになっているを見たムーンセイバー。時間が無いと悟り、ゴブリンスレイヤーへ急かすように問う。

 

「当然、水攻めとか火とか、毒気以外で!」

 

 その直後に妖精弓手が色々禁則事項を付け加えた。

 

「分かっている。聖壁が切れた瞬間に切り込む。良いな?」

 

 だろうな、とムーンセイバーが頷く。

 

「分かりやすくていいわ。で、船とゴブリン。狙うとしたら?」

「船、でしょうや」

「だね!」

 

 ゴブリンスレイヤー、蜥蜴僧侶、ムーンセイバーの作戦が一致していた事もあり、作戦立案は早く済んだ。それを終え、ムーンセイバーは振り返って女武闘家の方を見る。

 

「これから船に乗り込む。そうしたら好きに暴れちゃいな!」

 

 殴り込みに複雑な作戦は必要ない。ただ簡単な短い指示。それでも女武闘家は喜んで応える。

 

「はい!」

「聖壁の張り直しは任せます」

 

 ヴェルナンデスがゴブリンスレイヤーが指示する前に女神官に下した。

 

 無詠唱魔術は魔導書に文字を予め書き込んで、初めて機能する。無詠唱魔術の触媒として使った文字は消えてしまう、一度きりの使い捨て。

 

 再度使用するには魔導書に詠唱を正確に書記す必要があるが、このような戦場のど真ん中でにそんな余裕はない。

 

 だからこそ、護るという役目を女神官に託す。その代わり攻撃は自分が担当し、互いの負担を軽くする。それがヴェルナンデスの考えだ。

 

「はい!」

 

 女神官が頷いて返事をすると同時に、青い聖壁が硝子の如く割れて散った。いよいよ黄金の方も崩壊の音色を奏でた。

 

 同じタイミングでゴブリンスレイヤーが卵のようなものを、ムーンセイバーが最後の聖水の瓶を、それぞれの船に投げ込んだ。

 

 卵は船長を失った船にいるゴブリンの顔面に直撃。割れた途端、その中から赤い粉が漂う。その眼に触れたゴブリンの目の血管が濃く浮かび、涙が溢れ出す。

 

 卵の中身は唐辛子と長芋の粉だ。それらがゴブリンの目、鼻腔に突き刺さり、あまりの苦痛に息絶え絶えとなる。

 

 ムーンセイバーが投げた聖水の瓶はゴブリンにこそ当たらなかったが、床に打ち込んだ衝撃で、中身共々破片となって飛散。撒き散らされた水は赤い火柱が立つ。

 

 突然の発生にゴブリン達は攻撃どころではなく、動揺が一斉に広まり出した。

 

「行くわよ!」

 

 ムーンセイバーの号令で、前衛が一斉に橋から飛び降りた。ゴブリンスレイヤー、蜥蜴僧侶、鉱人道士の三人が卵を投げ込んだ船に、ムーンセイバーと女武闘家がもう片方の船に乗り込んだ。

 

 動揺している所に当然の奇襲。ゴブリン達がいきなり対応出来るはずもない。白銀の刃が煌めく軌道を描くと、ゴブリンの首が果実のように刎ね上がる。

 

「せいっ!おりゃぁっ!」

 

 ムーンセイバーと共に乗り込んだ女武闘家も、拳や蹴り、手刀といった多彩なマーシャルアーツを駆使して近寄るゴブリンを撃退する。

 

 その背後がガラ空きになっている事に気付き、狙い撃とうとする弓持ちのゴブリンが矢を番える。が、それを読んでいた女武闘家は屍となったゴブリンを放り投げてやる。当てられたゴブリンはその屍諸共、船から落ちていった。

 

(あの子もやるじゃない)

 

 背中越しで弟子の成長を見られて嬉しくなるが、感傷的になっている暇はない。何せゴブリンの数が多い。

 

 一方ゴブリンスレイヤー達も善戦しているが、やはり数の多さに嫌気が差している。次第にゴブリンスレイヤーの剣は血糊が大量に付着し、あっという間に切れ味が落ちた。

 

 剣が使い物にならないと分かると、すぐにゴブリンに投擲。標的となったゴブリンの脳天は見事に穿たれた。

 

 だが今度は得物が無くなった。自分達を殺す武器がなくなって好機と捉えたゴブリンが彼に襲い掛かる。だが殺す手段が無くなったわけではないと気付かずに。

 

 飛び掛った所を左腕の盾で殴られた。そのゴブリンは吹き飛ばされ下水と落ちた。重い鎧を着ては浮かぶ事も出来ず、いくら藻掻いても浮かび上がる事はない。

 

「落とした方が早い」

「小鬼殺し殿!」

 

 だがずっと無手であるわけにはいかず、蜥蜴僧侶から竜牙刀(シャープクロー)をゴブリンスレイヤーに渡す。

 

「数が多いわね!」

 

 いくら白銀の剣で首を容易く刈り取れるとはいえ、ゴブリンの多さにはうんざりする。

 

 船の上にいるゴブリンの多さに舌打ちするムーンセイバー。聖なる大十字(グランドクロス)はその破壊力から周囲の建造物を巻き添えにする危険性(リスク)から使用は出来ない。

 

 聖水は使い切ってしまい、豪雨の大嵐(ハイドロストーム)が出来ない。だが千の短剣(サウザンドエッジ)では横槍を入れられるのがオチだ。

 

 女武闘家も轟雷の一撃(サンダーインパルス)を不用意に使う事が出来ない。

 

 つまり、ここでは全アイテムクラッシュは封じられたも同じ。この状況では己の剣と肉体だけで戦うしかない。

 

一閃の雷(ライトニングレイ)!」

 

 橋の上から杖を掲げ、放たれた稲妻がゴブリンをまとめて貫いてみせるが、船の中から新手が登場する。ここまで雷光弾、一閃の雷、清らかな炎、聖壁、氷の花弁と、連続で無詠唱魔術を連続で行使しており、疲労の色が見え始めた。

 

 だがごどこまでも出てくる新手に、ヴェルナンデスの苛立ちと疲労が露わになる。

 

 ここまで魔術を連続使用した事はなかっが、まさかゴブリン相手にこんな経験することによってなるとは思わなかった。

 

 まだドラゴンや闇の者なら誇るだろう。だが明らかな格下であるゴブリン相手となるとそれは最早屈辱だ。

 

 いっその事、大爆発(エクスプロージョン)を撃ってやりたい所だがそんな事をすれば地下水道の天井、もとい地上が崩れ落ち、崩落に巻き込まれるだけでなく関係な人間に危害を加えかねない。

 

「術娘!術の用意をせい!」

「何をするつもりです?!」

「一網打尽にするんじゃ!」

 

 突然、鉱人道士がヴェルナンデスに指示する。意図は分からないがすぐに放てるよう準備にかかる。

 

「仕事だ仕事だ土精(ノーム)ども!砂粒一粒転がり廻せば石となる!」

 

 詠唱を口にし、砂が小石に、やがて巨大な石の塊になった。それを見たヴェルナンデスも意図を理解し、適切な魔術の刻印があるページを開く。

 

「こっちの準備出来たわい!全員戻れ!術娘よ!」

「言われずとも!」

 

 合図した時にはヴェルナンデスの魔導書から緑色の燐光を纏って浮遊している文字が風を巻き起こしている。

 だかま無詠唱魔術の連続行使の反動は大きく、ヴェルナンデスの肉体を苦しめる。額からの脂汗が頬を伝うが、この状況で手を緩める事は、自分の誇りが許さない。

 

 少しでも集中を乱せば、術式は瓦解する。敵の目の前でそうなれば致命的だが、本番でそうならないのは、ヴェルナンデスの驚異的な集中力があってこそだ。

 

 鉱人道士が真上に放り投げた石弾が、橋の上にいるヴェルナンデスを通り過ぎた。解き放つは今。

 

石弾(ストーンブラスト)!!」

風の刃(エメラルドスワロー)!」

 

 風から緑色の斬撃が放たれ、天を駆けるそれらは巨大な石弾を次々と切り刻んだと同じタイミングで、バラバラになったそれらと共にその直下へと落ちていった。

 

 真下にはゴブリンの船二隻。勢いよく落ちた石が粗悪な造りを穿ち抜いた。石の崩落に巻き込まれる直前にムーンセイバー達は船から飛翔、対岸の通路へと着地した。

 

 落石に押し潰されたゴブリンが大半だったが、それを免れても船を破壊され、汚水に落ちたゴブリンは鎧の重みによって沈み、二度と浮かび上がることは無かった。

 

 鉱人道士の石弾を、ヴェルナンデスの魔術によって怒涛の落石攻撃に変えて、二隻の船を諸共にゴブリン達を葬った。稀に見ぬ術の合わせ技が出来た事に、鉱人道士も心が踊っている。

 

「ようやったぞ術娘よ!ありゃあ実に爽快というもんじゃぁ!」

「いえ……これくらい……やって退けないと……」

「ヴェルナンデスさん……?」

 

 ヴェルナンデスの息遣いが妙に荒い事に気づいた女神官がその顔を覗き込む。

 

 気になった妖精弓手も覗き込もうとした時、突如ヴェルナンデスの体がゆらりと揺れ、前のめりになって倒れようとしていた。だが目の前に支えるような柵は無く、真下は汚水しかない。

 

「危ない!」

 

 川に落ちそうになったヴェルナンデスを、妖精弓手が咄嗟に支えて、最悪の事態を回避した。

 

「ありがとう……ございます……」

「大丈夫?!っていうか、顔色悪くなってるわよ?!」

「少し、やりすぎたみたいです」

 

 ヴェルナンデスの顔が少し青白くなっているようにも見える。

 

「お前さんの術、詠唱を無視して行使しておるからのう。発動の際、相当の集中と精神力を要求されるわけか」

 

 鉱人道士が無詠唱魔術の弱点を正確に言い当て、こくりと頷く。

 

 先程の戦闘には無詠唱魔術を六回連続、しかも間髪入れずに使用している。そして許容量を超える寸前に達した。言わば精神力(MP)切れである。

 

 ここまで連続で行使したのは初めてであったとはいえ、自身の見立てが甘かった事に情けなさを感じる。

 

 何とか妖精弓手の肩を借りて、下の岸にいたムーンセイバー達と合流した。当然、ヴェルナンデスの疲弊に誰もが気付く。

 

「はて、魔導師殿。心做しかお身体が優れないように見られますが……」

「少し……疲れただけです」

 

 強がっても無理しているのは誰の目にも明らか。このまま進むには危険が大きすぎる。ムーンセイバーとゴブリンスレイヤー、二人の頭目の考えは既に一致している。

 

「一旦戻った方がいい。ヴェルナンデスに無理をさせすぎた」

「そうだな」

「でも、少し休んでからの方が……」

「いや、すぐに動くべきだ」

 

 ヴェルナンデスを気遣う女神官の進言が却下されたその時、妖精弓手の耳が汚水の川の僅かに発せられた音を拾った。

 

「水の中から……」

「急いで離れるよ!」

 

 ムーンセイバーも川に何かあると察知。走れないヴェルナンデスを抱えて撤退を促した。ゴブリンスレイヤー達はそれに従って駆け出した。

 

 川の汚水から水飛沫と共にゴブリンの姿が現れた。だがそれはまるで放り出されたかのようだった。

 

「ゴブリン?!まだ生きていた!」

「違う……!もっとヤバいのがいる!」

 

 ムーンセイバーが察知したのはゴブリンという小さなものではない。でなければここまで急いで撤退の指示を出さない。

 

 その正体が汚水の中から一回り大きな水飛沫を上げた。宙に舞っていたゴブリンは、白の厚い皮膚に覆われた巨大な怪物によって一息に捕食され、その残骸である腕が川に落ちた。

 

「ゴブリンではないようだが……」

沼竜(アリゲイタ)よ!!ったく何でこんな所に?!」

 

 沼竜という予想外の出現。これにはムーンセイバーも悪態をつく。

 

 沼竜の餌になるまいと急いで逃げるが、女神官の足が少しずつ遅くなっていく。後方支援担当の神官職では常に前線で戦う戦士職に比べれば足が遅く体力が尽きるのも早い。

 

「ひゃっ!」

 

 だがそれを見兼ねたゴブリンスレイヤーが女神官を片腕一本で抱えて走る。突然の事で思わず嬌声が漏れる。

 

「だ、大丈夫ですから!」

「息を整えておけ。奇跡を使ってもらうかもしれん。ここで倒れられては困る」

「おお!これは楽だわい!」

 

 同じように足が遅い鉱人道士も蜥蜴僧侶に抱えられている。

 

「鉱人を食べさせてその間に逃げましょう!きっと食中りを起こすから!」

「抜かしおる!」

 

 妖精弓手のシャレにならない発言に対して鉱人道士が憤怒して抗議するが、前方から再び異質な音を捉える。

 

「またゴブリンの船が!それも多分複数!」

「またぁ?!面倒くさいわね!」

 

 船二隻でこの状態だというのに、また襲われたらたまったものではない。ウンザリし始めたムーンセイバーであるが、ゴブリンスレイヤーは至って冷静だった。

 

「手はある」

「ちょっと!また毒気とか燃やすのは……」

「しない。お前の考えでいく」

 

 妖精弓手が出した禁止事項を回避してゴブリンを確実に殲滅させる方法。それが何なのか妖精弓手は分からず眉をひそめた。

 

 


 

 妖精弓手の予想通り、一党の遥か前方にゴブリンの軍団を乗せた船が何隻も汚水の川を渡っている。先程の数を優に超えているのは明白だ。

 

 やがて前方に灯りを一つ捉え、軍団長であるゴブリンシャーマンの下卑た笑みが浮かぶ。

 

 そこに冒険者達がいる。先程の戦いで消耗している。今ならば斃すのも容易い。弱った獲物に食糧、その獲物の中には女が複数いる。

 

 これから繰り広げる愉悦と宴に心を踊らせるゴブリン達の高笑い。櫂が水面を掻いて灯りへと目指す。少しずつ、少しずつ明かりが大きくなっている。

 

 その灯りがハッキリと見えるようになると、どういうわけか、それは光が水面に浮いていた。

 

 不可解な事態にゴブリンシャーマンが驚嘆した途端、その灯りは波の揺れによって遮られ、光を背に川から沼竜が咆哮を挙げて姿を現した。

 

 突如出現した沼竜を前に動揺するゴブリン達だったが、臨戦態勢に入る前に船団は壊滅。乗っていたゴブリンは沼竜の餌食になったか、川の底に沈んだ。何れにしろ一匹たりとも生きて戻れたのはいなかった。

 

 一党は既に風上へ退避しており、ゴブリンと沼竜、どちらの獲物になることなく、ゴブリン達が沼竜によって蹂躙されているのを見下ろしている。

 

「なるほど〜。沼竜の尻尾に聖光(ホーリーライト)をかけ、ゴブリンを誘き出したって事ね」

 

 敵の敵は味方。というわけではないが、沼竜は先程ゴブリンを捕食していた。それは明確に敵対していると言ってもいい。これを利用して、最小限の労力でゴブリンを滅するという作戦だった。

 

 一方的な虐殺を最後まで見届ける事はせず、一党はすぐにその場を離れる。

 

「まさか、聖光にこのような使い方があったとは……」

 

 暗所を照らす奇跡に、ゴブリン殲滅の手段の一つとしての新たな手段を目の当たりにしたヴェルナンデスも、これには素直に賞賛する。

 

「奴らは『冒険者は明かりをつけて移動する』と学習している。共通の認識としてな」

 

 だがゴブリンスレイヤーの声はとても嬉しそうには思えない。いつもの事なのだろうが、ゴブリンに関する知識が豊富な彼には違和感があった。

 

「奴らは略奪民族だ。ものを作るという発送を持たん。だが、奴らは馬鹿であるが間抜けじゃない。道具の使い方はすぐに学習する。船の使い方を教えればすぐに会得する」

「誰かがゴブリンに船の使い方を教えた。という事ですね」

 

 ヴェルナンデスの解答にゴブリンスレイヤーが頷く。だが女武闘家が一つの可能性を指摘する。

 

「けど、シャーマンが作った可能性が……」

「かもしれん。だがだとすれば……なんだ……」

「沼竜ですか?」

「そうだ。その存在を知っていたのなら、船を用いようなどと思わんはずだ」

 

 ゴブリンは自分達より絶対的に強者に対して、正面から戦いを挑む勇ましさを持ち合わせていない。そして、自分達がやられるような可能性がある手段は使わない。それらの習性を把握しているゴブリンスレイヤーだからこそ、この違和感に辿り着いた。

 

「恐らくこの小鬼禍(ゴブリンハザード)は、人為的に起きたものだ」

「人為的……」

 

 何者かが意図して地下にゴブリンを蔓延らせ、船の使い方を教えた。

 

 反吐が出るようなその意図にただ一人、ムーンセイバーは表情を曇らせた。ゴブリンスレイヤーは彼女の方を見ていたが、声を掛けなかった。そもそも、ムーンセイバーの表情の変化に気付いていたのかすら怪しいものだった。

 

 下水道から街に戻ってきた時、曇天から雨が降り注いでいた。




ムーンセイバーのアイテムクラッシュの名前を変更しました!

グランドクロス
聖なる十字架→聖なる大十字

ハイドロストーム
豪雨の嵐→豪雨の大嵐

サウザンドエッジ
千本刃→千の短剣

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