小鬼殺しと夜を狩る一族   作:レーラ

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いよいよ原作主人公とヒロインが登場します。

果たして新人一党は助かるのか、それとも原作通りになるのか……?


ゴブリンスレイヤーと呼ばれる男

 どうしてこうなってしまったんだろう……。

 

 ゴブリン退治なんて簡単だと思っていたのに……!

 

 魔術師の子がゴブリンに刺されて、剣士もゴブリンに殺されてしまった……!

 

 せめて神官の子を逃がす為に、私の武術てゴブリンを倒してたのに、大型のゴブリンに傷1つ与えられずに負けて……

 

 あんなのがいるなんて聞いてない……!

 

 ゴブリンに倒されて、身ぐるみ剥がされて……アイツらがこれから何をするか……自分がどんな末路を辿るのか、嫌でも分かってしまう。

 

「逃げ……て……」

 

 嫌だ……嫌だ……!誰か……誰か助けて……!

 

 

 


 

 

 逃げて……。ゴブリンに組み倒された女武闘家が弱った声で女神官に促した。

 

 少女魔術師はゴブリンに腹を短剣で刺され、《小癒(ヒール)》で傷を癒したが、意識の回復の気配がない。

 

 今万全の体制で逃げられるのは女神官だけ。ゴブリンと戦う術すら持たない彼女には、女武闘家を助ける事は出来ない。

 

 女武闘家の言う通り、彼女を見捨てて逃げる他ない。ゴブリンに負けた彼女は、ただ嬲りものにされる運命しかない。

 

 

 そのはずだった……

 

 

「GRRB!!」

 

 突如、女武闘家を犯そうとしたゴブリンの頭が横から飛んできたクロスによって、その脳天が吹き飛ばされた。

 

「今のって……」

 

 狭い洞窟内でもクロスがブーメランのように飛んできた方へ戻っていく。その方を見ると人間が松明を片手に持っている。

 

 同族がやられて、苛立った他のゴブリンも女武闘家をそっちのけでその方を見ている。

 

 だがそれらも、飛んできた3本の短剣が3匹のゴブリンの額に刺さり、一瞬で事切れた。

 

「な……に……?」

 

 何が起きているのか女武闘家は直ぐに分からなかった。だが助けに来てくれたのは確かだ。松明の明かりがゆっくりこちらに近づいている。

 

「あ……」

 

 女武闘家が見上げると、助けに来てくれた女冒険者が救いの光に見えた。

 

「助けに来たよ」

 

 白銀の鎧を身に纏う麗人。腰には剣と斧を携えている。セイバーが屈んでやると優しく声をかける。

 

「だいぶやられてるわね……」

 

 持参したローブを羽織らせてから、雑嚢から液体が入った小瓶を取り出して蓋を外す。

 

「ほら、これ飲んで」

 

 それが回復薬(ポーション)である事は一目見て分かる。差し出されたその中身を一息に飲み込む。

 

「痛みはどう?」

「大丈夫……です……」

「ならよし。ほら、立った立った」

 

 女武闘家を立たせて間もなく、巣穴の奥から元凶達の声が聞こえてきた。セイバーはすぐに白銀の剣を抜剣して構える。

 

「すぐにここから逃げなさい。そこのあなたも」

「は……はい……!」

「で、ですがあなたは……!」

「戦えない2人がここにいても足手まといなだけ。それに、正直今ここでまともにやり合っても勝てる気がしない」

 

 まだゴブリンが目の前にいる。しかもその一体はホブ。流石にこの狭さでは剣を思うように振るえない。レイピアのように貫く事は出来ても、集団戦では役に立たない。

 

 携帯武器にも限りがある。先程短剣を3本消費してしまい、残りは7本。回復薬は女武闘家にあげたものが最後の1本だった。

 

 この状況、セイバーの方が圧倒的に不利。かと言って守りながら戦うのも厳しい。

 

 ゴブリン数匹が我先にとセイバーを我がものにしようと襲い掛かる。セイバーは雑嚢から聖水が入った瓶を出して、それを地面に叩き割ると赤い火柱が燃え上がる。

 

 半分以上は思いとどまったが、それ以外は止まる事が出来ずにそのまま炎の壁に突っ込み、全身を焼かれた。

 

「ほら!今のうちに撤退する!」

 

 聖水の炎が壁となってゴブリンの足止めをしている間にセイバーは少女魔術師を抱えて一旦入口の方へと撤退する。女神官と女武闘家も急いでその後を追っていった。

 

 

 負傷者を抱えながら何とか入口まで逃げ切った3人だったが、問題が山積みな状態である事には変わりない。

 

 まずは少女魔術師の処置だ。まずは守られた女神官から話を聞いた後、脈を取って身体の状態を確認する。だがセイバーの表情は深刻なものになっていた。

 

(これは……もう……)

 

 今にも泣き出しそうになる女神官を見るが、事実は変えられない。もう手遅れだと告げようとした時……

 

「諦めろ」

 

 冷たく告げる男の声。皆がその方を見る。特にセイバーはこの声に聞き覚えがある。

 

「アンタ……!」

 

 薄汚れた鎧に角がかけた兜、中途半端な刃渡りの剣に小さな盾。とても冒険者がするような装備ではない。だがその男はこう呼ばれていた。

 

「ゴブリンスレイヤー」

 

 ――――

 

 セイバーとゴブリンスレイヤーは再会を果たしたが、お互いに今は再会に浸っている余裕はない。

 

 少女魔術師の処置はもう出来ない。全身に毒が回ってしまっており、解毒剤を使ってももう間に合わない。口から吐血、どす黒く染まった血が漏れ出る。

 

 ゴブリンスレイヤーもそれを見て分かった上で言っている。

 

「諦めろって……」

「まだ助かるのかもしれないのに!」

 

 女武闘家と女神官が助命を訴えるが、セイバーも彼と同じ意見だ。

 

「もう、楽にしてあげた方がいい」

「ですが!」

「ぉ……し……ぇ……」

 

 虫の息となった少女魔術師の懇願。このまま延命処置で苦しませる方が哀れだ。

 

「分かった」

「待ってくださ……」

 

 女武闘家が止めようとしたが、セイバーがそれを制止する。これ以上何をやっても苦しめるだけ。残酷ではあるが、認めるしかない。

 

 介錯はゴブリンスレイヤーが請け負った。短剣を少女魔術師の喉に突き刺して間もなく、少女魔術師の目の光が消えて動かなくなった。

 

 首にかけた十字架のロザリオを握りしめ、死者となった彼女の手向けの祈りを捧げる。

 

「そんな……まだ助かったのかもしれないのに!」

「そんな様で?これ以上何が出来るの?」

 

 納得がいかない女武闘家の抗議も、自分たちの置かれた現状を突きつけられてはこれ以上何も言えなかった。

 

 何の準備もせずにゴブリンの巣穴へと入り、さらに最弱だからと侮ってゴブリンにやられてた所を助けられ、ここまでのこのこ戻って来た。

 

 失敗した新米が今更口出しなんて出来る余地など何処にもない。それを突きつけられてしまった。

  

 介錯を終えたゴブリンスレイヤーは立ち上がるとゴブリンの巣穴の奥へと向かおうとする。

 

「行くの?」

「ゴブリンを殺す為だ」

「……そうね」

 

 セイバーも立ち上がる。引き受けたからにはゴブリンは滅さなければならない。

 

「あの……!私も……」

 

 そこに女神官も同行を申し出る。だが身体が震えており、その手に持つ錫杖にも伝わっている。恐怖を帯びているのは明白だ。そんな彼女にセイバーが問う。

 

「良いの?次は守ってやれる保証はないよ?」

 

 女神官はもう十分すぎるくらいの恐怖を植え付けられていた。もしもう戦う意思がないのなら、早めにここから出して、恐怖から解放してやった方が良いのかもしれない。

 

 もし進めば、終わるまで後戻りは出来ない。仲間が死ぬ光景を目の当たりにして、心が砕かれる可能性も少なくは無い。なので敢えて脅すように問う。

 

 だが選ぶのは女神官自身だ。セイバーもその選択は尊重するつもりでいる。

 

「……行きます」

 

 既に恐怖に押し潰されそうになっているが、それでも彼女は選んだ。ならば何も言うまいと、その選択を受け入れた。

 

「分かった。良いよね?」

 

 女神官の同行の可否をゴブリンスレイヤーに問う。

 

「好きにしろ」

「決まりだね。だけどそっちは……」

 

 1つの返事で済ませる。女神官の同行は許されたが、ローブしか身に纏っていない女武闘家は置いていくしかない。

 

「とはいえ、何もないっていうのも酷よね……そうだ」

 

 今の女武闘家を守るものとして、自身の指に填めていた指輪を外す。

 

「手を出して」

「は、はい……」

 

 差し出した手を優しく取ると、指輪を人差し指にはめてやる。

 

「これは……?」

「ちょっとしたお守り。何かの時は役に立つと思う。ここで待っててね」

 

 それを済ませると、ハンターはゴブリンスレイヤーと共にゴブリンの巣穴へと入って行った。

 

 松明はゴブリンスレイヤーとハンター、それぞれ1本ずつ持っており、ゴブリン退治に最も慣れている彼が先頭を歩いている。セイバーと女神官もその後に続いて進んでいく。

 

 だがゴブリンの死体がある所まで進んでいくと、急に立ち止まる。

 

「どうしたの?」

「いや、進む前にやっておく事がある」

 

 ゴブリンスレイヤーがそう言うと、彼はゴブリンの腸を引き裂き、布でその血を染み込ませた。

 ゴブリンのものとはいえ、あまりにも猟奇的すぎる行動に女神官は怯えてしまう。

 

「な、何をしているんですか?!」

「ゴブリンは臭いに敏感だ」

 

 それを聞いたセイバーは苦笑いを浮かべながらその正体を答える。

 

「げっ……臭い消し……」

「……そうだ」

 

 女神官の装束にゴブリンの血を纏わせた。精神的にボロボロだというのに追い打ちをかけるようにこの仕打ち。今の悲惨な彼女にセイバーは同情する。だが臭い消しをするのはセイバーも例外ではない。

 

「分かっていたけど……気持ち悪い」

「お前は初めてではないだろう」

「そうだけどさ……」

 

 確かにゴブリンは鼻が利く。鎧や武器の臭いを嗅ぎつけて寄ってくるくらいなら、同じゴブリンの血の臭いでそれを打ち消す。理にかなった芸当だ。

 ただ古城や下水道、不衛生な場所へは慣れているとはいえ、自分からゴブリンの血を纏う人間などいないだろう。

 

「確認したいんだけど、奇跡はどれくらい使えるの?」

小癒(ヒール)聖光(ホーリーライト)を……。回数は3回……。1回使ったので、あと2回使えます」

「3回も奇跡が使えるなんて、白磁にしては優秀だねぇ……」

 

 新人や経験の浅い魔術師、僧侶や神官は使えても精々1回、2回使えれば優秀の類に入る。ハンターは女神官の能力を高く評価する。

 

「小癒は役に立たん。使うなら聖光だ」

「……はい」

 

 既に精神が参っている女神官であっても、ゴブリンスレイヤーは冷たく指示を出す。とはいえ、選んだのは彼女自身。今更優しい言葉をかけては冒険者としてやっていけない。

 

 ある程度進むと、女神官の顔が更に青ざめていた。周囲にはゴブリンの死体数匹と、切っ先が血に濡れた長い剣。そして、人の腕の残骸。

 

「これって……まさか」

 

 あの時の剣士が見当たらないと思い、もしやと尋ねようとしたが、耐えきれずに胃液を吐いてしまった彼女を見て察した。

 

「背後から大勢で襲われたか」

「え……?」

「だね」

 

 女神官は信じられない様子だった。

 

「手前に横穴あったんだよ。多分、そこから出て来たんだ」

「そ、そんなはずは……!」

「来い」

 

 ゴブリンスレイヤーの指示で一旦戻る。そして、そこまで行ってから松明でそれを示した。

 

「私達が通った時には……こんな……」

「暗い洞窟の中で明かりは松明だけ。岩肌の陰にまで注意を払う事はない。それよりもまず、そのトーテムに目が行くだろう」

 

 女神官の表情を見るに、それは図星だった。どうやら本当にトーテムに気を取られて横穴の存在に気付かなかった。全員がその術中に陥った結果がこれだ。

 

「ここの首領はゴブリンシャーマンってことで良いんだよね?」

「ああ。ホブもいるようだ」

 

 そこまで的中させているゴブリンスレイヤーに感心する。

 

「お前はここで何匹殺した?」

「ナイフで3匹、聖水で3匹やった」

「6匹か」

 

 ゴブリンスレイヤーが頷く。

 

「まだこの巣穴に何匹いると踏んでる?」

「決めつけは死に直結する。何匹か、という質問には答えられん」

「……相変わらずね」

 

 以前もこんなにやり取りをしていた事を思い出した。だが感傷に浸る時ではない。

 

 突如、セイバーが横穴に松明を投げ入れた。

 

「やっぱり」

 

 松明の明かりに差し込む1匹のゴブリンの影。その影を的に、ハンターはクロスを投擲。そのままゴブリンの側頭部に直撃し、その頭蓋骨を砕くと主の手元へと戻って来た。

 

 ゴブリンスレイヤーが死体を確かめるべく、横穴を進むと、すぐに戻って来た。

 

「見事だ」

 

 この狭い洞窟で的確に投擲するセイバーの腕を素直な感想で述べた。だが死体を放り投げると、ゴブリンが持っていた槍を奪って、作業を始めた。

 

「それは?」

「ちょっとした仕掛けだ。忘れるな」

 

 2つの杭にロープを括りつけ、それを壁端にそれぞれ打ち込む。ロープの張りを確認した後、ゴブリンスレイヤーはそのまま進んでいく。

 

「行こう。きっと役に立つ」

「は、はい……」

 

 セイバーに促され、女神官もついていく。ゴブリンスレイヤーを先頭に、3人は奥へと進んでいく。だが途中で彼が進行を止める。

 

「ここから広間に出る」

 

 恐らくそこに残りのゴブリンと攫われた娘達がいる。いよいよ大詰めだ。

 

「俺が合図したら、聖光を使え。そうしたら入口まで走るぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーの指示に2人は頷いて了承する。

 

 彼が槍の石突を地面に何度も叩いて大きな音を鳴らす。何の音だ?耳障りだ。まるでそう言っているように、音を聞きつけたゴブリンが煩わしそうにその方を向いた。

 

「いと慈悲深き地母神よ、闇に迷える私どもに、聖なる光をお恵みください《聖光(ホーリーライト)》!」

 

 錫杖から眩い光が洞窟を照らす。槍の音で注意を向けてしまった事で、突然放たれた光を直視してしまい、目が眩んでいる。

 

「ボブ1、シャーマン1……!」

 

 玉座に座っていたシャーマンの杖から火矢(ファイアボルト)が放たれようとした時、セイバーが投擲した斧がその頭部を潰しす。

 

「退くぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーの指示で入口の方へと一斉に走り出す。だがゴブリンの方も自分達の領域を荒らし、愉しみに水を指した侵入者を見逃すはずがない。

 

 ボブを先頭にゴブリン達は3人を追いかける。

 

 ゴブリンスレイヤー、セイバーは持ち前の脚力で距離を引き離すが、女神官はそうではない。徐々にその距離が縮まっていき、追いつかれそうになる。

 

 振り返った女神官は恐怖に晒されるが……

 

『忘れるな』

 

 ゴブリンスレイヤーの一言を思い出した女神官は眼前の仕掛けに気づいた。彼の言葉を信じて飛び越えた。

 

「もう一度唱えろ!」

「いと慈悲深き地母神よ、闇に迷える私どもに、聖なる光をお恵みください!《聖光(ホーリーライト)》!」

 

 再び眩い光がボブゴブリンの視界を潰す。目を潰されてはゴブリンスレイヤーの仕掛けた罠に気付く事すら出来ず、ロープに足が引っかかってバランスを崩した。

 

 転倒したボブゴブリンの首を、セイバーが剣で刎ねる。

 

「次のが来るよ!」

「分かっている」

 

 ゴブリンスレイヤーは後続が来る事に動揺することなく、瓶を取り出す。開けると中身の黒い液体を、ホブゴブリンに掛けてやる。

 

「じゃあな」

 

 死体となったホブゴブリンを蹴飛ばし、後続のゴブリンに当てる。すると、ホブゴブリンに掛けられた黒い液体が、他のゴブリンに付着する。

 

 そこにゴブリンスレイヤーが松明を投げ入れる。すると、黒い液体が燃え上がり、付着したゴブリンの身体が炎によって焼かれる。

 

「あれって、燃える水(ガソリン)?」

「ああ。お前の聖水と違って、対して燃えないようだ」

「けど、攫われた人達が……!」

「あの程度の引火くらいじゃ、死にはしないよ。それに、まだ来る」

 

 セイバーもゴブリンから奪った剣で、襲いかかって来たゴブリンを狩る。

 

「これで17……」

 

 ゴブリンを合計で17匹狩った。だが少し待っても新手が来る事はなかった。今ので巣穴にいるゴブリン達は全滅したのだろう。

 

「行くぞ」

 

 今度こそ広間へと入る。そこにはゴブリンが焼かれた死体と、ゴブリンによって慰み者にされた女達。ハンターが1人1人、脈を測って確かめる。

 

 虜囚となった女達は全員生きている。適切な治療を受ければ元の日常へと帰れる。だが身体の傷は癒えても、心の傷は一生そのままだろう。

 

「どうか……この者達に安寧を……」

 

 十字架のロザリオを握りしめて、哀れな彼女達の安寧と祈りを捧げる。女神官も、ハンターの隣で祈りを捧げる。

 

 一方、ゴブリンスレイヤーは骨で作られた玉座を破壊して、奥の簡素な扉を見つけた。奪った棍棒でそれを壊すと、中にはまだ小さな子供のゴブリンが数匹いた。

 

 祈りを終えた2人はゴブリンスレイヤーの後に続き、その扉の先を目の当たりにする。

 

「子供……?」

「お前は運がいい。奴らはすぐ増える。もう少し遅かったら、50匹に増えて襲われていただろう」

 

 ゴブリンは基本的に雄しか存在しない。繁殖の為に只人やエルフなどの女と交尾して妊娠、出産させるしかない。もしかしたら、自分もそうなっていたのかもしれない。女神官は考えただけでもゾッとした。

 

「殺すんですか……?」

「当たり前だ。巣穴の生き残りは学習し、知恵をつける。生かしておく理由はない」

 

 シャーマンから引き抜いた斧を手に取ったセイバーも頷く。

 

「手伝うよ」

「ありがたい」

 

 ゴブリンスレイヤーとセイバーはそれぞれの武器で容赦なく子供のゴブリンを惨殺した。

 

 例えゴブリンでも子供が無抵抗に殺される光景は、女神官には耐え難く、ただ涙して祈るしかなかった。

 

 ――

 

 

 洞窟の外。ローブを羽織っている女武闘家は1人、巣穴へと入っていった者達が無事に帰ってくる事をただ待っている事しか出来なかった。

 

「この指輪……一体何の意味が……」

 

 セイバーからお守りとしてくれたトパーズの宝石がはめられた指輪を見て、これを貰った意味を考えていた。すると、巣穴から足音が聞こえてきた。

 

 巣穴の方に行くと、松明の明かりが2つ近付いて来て、その姿が現れた。ゴブリンスレイヤーとセイバー、そして女神官だ。

 

(戻って来た!良かっ……あっ……!)

 

 無事に戻って来て安堵するが、ハンターと女神官の服に血が付着していて、特に女神官の方は目の周りが赤く、明らかに泣いた跡がある。

 

「大丈夫なの?!どこか怪我したの?!」

「あ、いえ……これは……」

「ゴブリンの血……だよ」

 

 セイバーが微妙な表情でそう言った。

 

「え?じゃあ……返り血?」

「この子に怪我させてないから安心して。もうすぐ馬車が来る頃だから、それに乗って帰ろう」

 

 セイバーの言う通り、間もなく馬車が来た。攫われた女達にはローブを羽織らせて、馬車で送り届ける。そのまま歩いては帰せない女武闘家も乗せて、出発させる。

 

「あの!」

 

 発車させようとした所を声をかけられ、セイバーは振り返った。

 

「ありがとうございました!あ、あとこの指輪……」

 

 返す為に外そうとするが、それを優しく止められる。

 

「それはあげる」

「で、でも……」

 

 だが高価に見える指輪を貰ったままというのが気が引けるようだが、セイバーは首を横に振る。

 

「今回の一件で、あなたは仲間を失った。もっとこうすれば良かったとか、色んな悔いがあると思う」

 

 ゴブリンを侮り、十分な準備もしないまま意気揚々と依頼を受けた自分達。ゴブリンの事について、ただ弱いとしか知らず、ホブゴブリンに惨敗した自分。思い返せばキリがない後悔。

 

 故郷で父親に武術を授かったというのに、父の墓前で人々を助ける為に冒険者になったというのに、どんな顔をして父親に顔向けすればいいのか分からない。そんな愚かな自分が情けなく、涙を浮かべる。

 

 だがそんな彼女にセイバーは投げかける。

 

「けど、実戦で得たものもあるはずよ。結果は散々だったものだけど、それでもそれがあなたの糧になる」

 

 まだ駆け出しで、弱いという現実を突きつけられた自分への激励。女武闘家はそう思えてならなかった。

 

「……はい!」

 

 涙を拭い、返事をする。

 

 発車された馬車に揺られながら、出立する前の自分達を思い返す。受付嬢の言う通り、最初は巨大鼠(ジャイアント・ラット)にするべきだった、ゴブリンだと侮らなければ……後悔ばかりが押し寄せてくる。

 

『実戦で得たものもあるはずよ。結果は散々だったものだけど、それでもそれがあなたの糧になる』

 

 セイバーの言葉を思い返し、貰った指輪を見上げて眺める。

 

「あの人の所なら……もしかしたら……」

 

 セイバーから貰った指輪を高くして眺めていると、女武闘家は手を握りしめた。

 

「よし、決めた……!」

 

 女武闘家の新たな決意が、セイバーの運命を大きく変えようとしていたが、それはまだ先の話。

 

 




というわけで原作では精神崩壊してしまった女武闘家が無事(?)に生還しました!

けど原作だと死んでないから死亡キャラ生存のタグは要らないよね?

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