辺境の街にやって来て、ゴブリンスレイヤーと再会し、ゴブリン退治をやってから1ヶ月が経過した。現在セイバーはギルドが全く使用していない空き部屋を使っており、そこを寝床としている。
切っ掛けは宿探しをしていた時、受付嬢が使用していない空き部屋があると伝え、そこを使ってはどうかと提案してくれたのだ。
流石に申し訳ないと一度は申し出を断ったのだが、何処の宿も埋まっており、仕方なくその日の夜は野宿しようとしていた所、通りかかった受付嬢に見つかって説教され、その流れで空き部屋を使用する事になった。
埃被っていたが、徹底的に掃除したお陰で普通の部屋として使えるようになった。置いてあったベットも整えて寝れるようになり、テーブルと椅子は部屋にあった箱を代用品として使っている。
今は身体を休める為にベットで眠っている。
旅をしている時は宿に下宿出来るか分からず、最悪野宿している日もある。しかも、盗賊や怪物の奇襲も想定される為、心も身体も完全に休む事は出来なかった。
宿であれば神経を張り詰めることなく、いくらでも眠れる。ここにいる時だけは何も考えず、背負う事もなく雌伏の時を過ごせる。だからこそ、いくらドアをノックされようが爆睡する事が出来る。
「セイバーさん!起きてくださいセイバーさん!」
受付嬢がこれでもかとノックするが、セイバーは起きてこない。仕方ないとため息をつく。
「セイバーさん!入りますよー!」
痺れを切らした受付嬢が扉を開けて部屋に入る。だが目の前の光景を目にした途端、受付嬢は顔を真っ赤にしながら仰天した。
「なっ!ななな、何ですか?!」
身にまとっていた装備はテーブルという名の箱の上に、乱雑に放置されており、下着もその上に置かれている。つまり、今ベッドの上で眠っているセイバーは生まれたままの姿であり、毛布1枚だけでその裸体を隠している。
「んみゅぅ……もう朝ぁ……?」
受付嬢の声に気が付いたのか、ようやく目覚めた。だが起き上がると包んでいた毛布が落ち、年相応に成長した身体が露になる。
「セイバーさん!着替えてください!」
「ふぇ……?」
「もう!すぐに着替えて!広間で待ってる方がいらっしゃるんですから!」
眠気に抗いながら背中まで届く長い髪を結び、着るものを着て、装備を整えたハンターは部屋から出てギルドに顔を出す。広間は既に冒険者でいっぱいいる。
「おお沢山いるなぁ……ふわぁ……。けど、待ってる人って誰……?」
「あ、あの!」
「ん……?あっ、あなたこないだの……」
セイバーを呼ぶ少女。以前ゴブリン退治でセイバーに助けられた女武闘家だった。まだ寝惚けていて気付くのに一瞬遅れてしまっていた。
「その節はありがとうございました。お陰で私とあの子が助かりました」
「お礼なんてしなくていい。あなた達のパーティ半分を死なせたんだから……」
あの日すれ違った時、どんな事をしてでも止めるべきだった。そうすれば全員生き残れたのかもしれない……そんな後悔はあったが、過ぎた事を悔いても仕方がないと切り替えていた。
「でも、あの時私達が油断しなければ……もしセイバーさんが来てくれなかったら、今頃どうなっていたか……」
少女魔術師、少年剣士の最期を目の当たりにしており、自分の命も脅かされた。それを思い出した女武闘家の表情は暗い。
「はい、この話はやめ。反省するのも、後悔するのも、今は置いておこう」
暗い雰囲気に耐えかねたセイバーが椅子に腰掛けて話を切り替える。
「それで、私を待っていたのって?」
睡眠を叩き起してまで呼び出した理由を訪ねる。女武闘家は少し緊張していた様子だが、決意の表れか拳を握りしめる。そのまもなく、女武闘家は頭を下げた。
「私を弟子にしてください!」
「えぇっ?!ちょっ……な、何言ってんの?!」
突然の頼みに動揺するセイバー。しかもこの人が大声で頼み込んだ為、その声を聞きつけた他の冒険者からの目線がこちらに集中する。
「どうかお願いします!私、強くなりたいんです!」
「分かった!分かったから話は部屋でしようか!思いっきり注目されてるから!」
外野からの声と目線が集中しすぎて話にならなくなると判断し、一先ず外野から要らぬ邪魔が入らぬよう女武闘家を部屋まで引っ張って連れ込む。
「良い?盗み聞きしたり覗いたりしたら残らず狩るからね!」
ギルドにいる冒険者達に釘刺しをしてからドアを強く閉める。
「はぁ……はぁ……ビックリした……」
「す、すみません……」
まさかこんな大事になるとは思わず、焦ったセイバーに謝る女武闘家。
だがこれで邪魔されることなく、一対一で対話が出来る。椅子代わりの箱に座らせると、自分もそれに座って面と向かい合うように話の続きを始める。
「えっと……弟子になりたいって言ってたけど、何で?」
「はい……。私、もっと強くならなきゃって思って、一旦故郷に帰って鍛練をしたんです。ですが、鍛練だけでは限界があるって思ったんです。そしたら、あのゴブリン退治の事、あなたの事を思い出したんです」
もしセイバーが助けに来なければ、攫われた娘達と同じ運命を辿っていた。もうあんな惨めな思いをしたくない。死んだ仲間達に胸を張れるようになりたい。これ以上自分のような冒険者を出したくない。
何より、病死した父から授かった格闘術で人々を助けたい。女武闘家に秘めた思いは消えていない。
「だから、お願いします!もっと強くなって……」
「断る」
「えっ?!どうしてですか?!」
間髪入れずに拒否された。何が足りないのか、どうして断るのか理由を知りたい女武闘家が迫る。
「近い近い……。単刀直入に言うと、私は弟子を取るつもりは一切ない」
女武闘家を退けて立ち上がる。それでも女武闘家はこのまま引き下がれない。
「そこを何とかお願いします!私を弟子に……」
「何度頼まれても、答えは変わらないわよ」
頭を下げる女武闘家に構う事なく、部屋から出て行った。1人残された女武闘家だったが、表情はまだ死んでいない。
「諦めない……絶対に……!」
部屋から出たセイバーは何か依頼を受けようと掲示板を見ていると……
「よう。さっきは何の騒ぎだったんだ?」
「あ、大男もどき」
重い鎧に大剣を備える男。大柄に見えるかもしれないが、中身は平均的な図体であり、ゴブリンスレイヤーと余り変わらない。だがそれでも辺境最高と称されるだけあって、その実力は本物の銀等級冒険者である。
重戦士に事情を話す。
「お前に弟子入りだぁ?変わってるなそいつは」
「うっさいな」
「けどよ、断る理由は無いんだろう?なら引き受ければ良いじゃないか。何故断ったんだ?」
「よしてよ。私はソロの方が楽だし、そもそも誰かを教えられる人間じゃない」
重戦士の言う通り、ここで断る理由など無い。ソロが良いというのも方便だ。実際、以前にゴブリンスレイヤーと共にゴブリン退治をした事もあるくらいだ。
「ま、そりゃたお前さんの勝手なんだろうが、あまり下の奴をいじめるなよ?」
そう言うと、重戦士は自分の一党の所へと戻って行った。
「相変わらずの世話焼きめ。ま、忠告くらいは胸に留めとくか」
決して人の忠告を無下にはしない。辺境最高であるならば尚更だ。
「セイバーさん!」
そこに受付嬢がセイバーを見つけて声をかける。
「さっきはどうも」
「もしかして、昨日遅くまで起きてたんですか?」
「違う違う。私って基本的に活動する時間が夜の方が長いから、ちょっとした弊害みたいなものかな」
「セイバーさん、苦労されてるんですね……」
基本的に夜に活動する事が多い為、昼夜逆転した生活を長年続けてしまっており、朝は滅法弱い。改善をしようと努力はしたが、それでも睡魔に勝てない時が多い。
セイバーの意外な一面を目の当たりにした受付嬢は苦笑いを浮かべる。
「そう言えば、ここにはいつまで滞在する予定なんですか?」
「ん?特に決めてないよ。まあここには前にお世話になっていたし、今回は少し長くいようかなって思ってる」
資金にはまだ余裕があり、滞在期間を伸ばしても問題はない。
「それに、ちょっと気になるんだ。彼の事」
「もしかして、ゴブリンスレイヤーさんの事ですか?」
「うん。ソロでゴブリンをハンティングしてきた彼が、あの神官の女の子とパーティ組む事になったみたいだし。そうしたら……ちょっと間近で見ていたいってなっちゃってさ」
ちょっとした好奇心だが、かつてのパーティとして一緒に戦ったゴブリンスレイヤーが、新米である女神官と一緒にいる事で、彼に何か心境の変化が生まれるんじゃないか。勘でしかないが、何となくそう思えてしまう。
「セイバーさん、やっぱりパーティ組まないんですか?」
「私はソロ専門。それに、いつかここを出てまた旅に出るのは決まってるから、パーティとか組むなんて考えてないんだよね。ましてや弟子を取るなんてとても……」
受付嬢には正直に打ち明けた。いつかはここを出ていくのが分かっている以上、パーティを組んだところでその期間は短い。長くいてしまうと別れが辛くなってしまう。
だが部屋で話していた事は受付嬢には話しておらず、初耳の彼女は鸚鵡返しに問う。
「弟子?」
「あ、いや……こっちの話。それよりさ、どれか依頼受けようと……」
「おはようございまーす受付さーん!」
ギルドのドアが開くと軽々しくも大きい男の声がきこえる。振り返ると槍を持った青年と、艶めかしさを備えた魔女がいた。
「おは……よう」
片言のような、間延びした独特な話し方をしている魔女が、セイバーに手を振っている。セイバーも手を振ってかえす。
「おっ。お前もいんのか」
「いて悪いのか?」
「んなこたぁ言ってねえよ。相変わらず、不気味なやつを狩ってんのか?」
「それが私のやり方。別に誰もやりたがらないんだから、良いでしょ?」
何処となく悪友の関係に見えてしまうのだが、お互いそんなに悪い気はしていないのか、出会すといつも軽口を叩き合う。
「お前がいるって事は……」
「あ、来た」
扉が開くと、古びた装備のゴブリンスレイヤー、そしてオーバーオールを着た肩まで届く赤髪の牛飼娘が入って来た。
「げっ……ゴブリンスレイヤー……」
まるでモンスターが出たと言わんばかりの表情の槍使い。対照的に、受付嬢は槍使いの時とは比べ物にならないくらいの満点の笑みで出迎えている。
だが今回、ゴブリンスレイヤーの隣には見覚えのある若女がいる。
「よ、久しぶり」
「あっ!あなたは確か……」
オーバーオールを着用している牛飼娘に手を振る。数年振りに見るセイバーを見て驚くも、再会出来て嬉しいのか、彼女も手を振る。
牛飼娘は街の郊外にある牧場主の一人娘であり、ゴブリンスレイヤーとは幼馴染。彼が下宿しているのもそこの宿舎である。
彼女にも、ここにいる経緯を伝える。
「じゃあ、またここで冒険するの?」
「うん。少しの間だけね」
「そっか。あ……そう言えば、彼パーティ組んだって言っていたけど……」
「あ、それね……っと、噂をすれば来たな。おーい」
女神官が周りをキョロキョロしている所を、手を振って場所を知らせる。気づいた女神官がこちらに来る。
「準備は出来た?」
「はい!ゴブリンスレイヤーに教わった通り、鎖帷子も買って、身につけています!」
「よし。じゃあ彼の所に行っておいで」
「はい!」
ゴブリンスレイヤーのもとへ行く女神官を手を振って見守るハンター。一方牛飼娘はゴブリンスレイヤーと組んでいるパーティメンバーが女の子であると知って、目が点になる。
「女の子なんだ……しかも華奢な子……」
「うんうん、私もそう思う。思うんだけど……」
腕組みで頷いて共感する一方で、自分より年下である牛飼娘の豊満な胸をジト目で見ていた。
(何食ったらそんなに育つの……?私よりあるじゃん……。これでも結構成長して、いい女だねーって言われてるのに……)
「どうかしたの?」
「いや、ちょっと世の中の理不尽について考えていた」
いい加減な言い回しで誤魔化す。セイバーの果実も豊かな方なのだが、牛飼娘はそれを優に超えているのだ。
本人が見えないようちょっと拗ねる。
「あの!」
そこにまた女武闘家がやって来た。
「また来たのか……」
「私は諦めません!弟子に取ってくれるまで、何度もお願いしに来ます!」
「だったら私は何度でも拒否する!」
ビシッと宣言するが、カッコよくないのは誰が見ても分かる。事情を知らない牛飼娘が不思議そうに首を傾ける。
「よく分からないけど、これだけお願いしてくれてるんだから、引き受ければいいのに」
「無理。私は人を教える立場じゃない」
「そうかな?彼、あなたの事を褒めてたよ?」
「え?……何て言ってた?」
まるでゴブリン殺し以外に興味ない、他人の評価すら気にしない、そして人への評価もあまり口にしない彼が、そんな事を言うとは思わず、顔を赤くする。
「状況に応じて、道具の使い方が上手いから、臨機応変にゴブリンを……」
「ゴメン、やっぱり止めとく。と、とにかくダメなものはダメ!何度頼んで来ても受けないからね!」
褒められているというのに、急に小っ恥ずかしくなっては子供のようにムキになって女武闘家の弟子入りを拒否。何かと忙しない彼女は掲示板の依頼用紙をぶん取って受付しに行く。
「はいこれ!お願い!」
「分かりました!
「あ……ゴブリン退治だったのか……。まあいいやそれで」
依頼内容をよく見ずに取ってしまったが、とにかくこの場を脱したかったセイバーはゴブリン退治の依頼を受ける。
「東の古城……あっ、ここは……」
詳細を受付嬢が見ると、その表情が険しいものへと変わる。
「どうしたん?」
「それが……この場所なのですが、どうも昔から人が近寄らなくなっていたみたいで……噂によると、巨大な魔物の唸り声が聞こえるとか……」
それを聞いたセイバーは、依頼の仔細をもう一度確認する。場所は東にある古城、受付嬢が言っていたものに間違いないのだが、そんな曰く付きのものだとは聞いた事がない。
実際に、その近くを通った事がある。
「ですが、既にゴブリンによる被害も出ていて、周辺では行方不明者が相次いでいるみたいです」
「分かった。すぐに行く」
そう言うとセイバーは部屋戻り、必要なものを装備してギルドを飛び出す。
装備を整える為に、セイバーはある店へと向かった。
「おや、セイバー様!これはどうも!」
「また来たよ」
店の店主は1ヶ月前に助けた商人だった。ここで店を始めてから、セイバーはここに通っては装備を整えるようになった。
まだ出来てから日が浅い為、道具は
「回復薬2本くれる?」
「かしこまりました!所で……」
注文を承るが、店主には気になることがあった。
「そこにいらっしゃるのは?」
「ああ……それなんだけど」
ここまでセイバーの後ろについて来た1人の少女の気配。振り返らずとも誰なのか何となく予想ついていたが、振り返らずに問う。
「何でついて来ちゃうかなぁ?」
女武闘家が許可なく勝手について来てしまった。これにはセイバーも呆れる。
「私、セイバーさんの戦い方を見てみたいんです!弟子にしてくれなくても、ついて行って、実際に間近で見たものは必ず糧になるはずです!」
言っていることは間違っていないが、パーティにすらなっていない女武闘家を連れて行くわけにはいかない。のだが、ここまでついて来てしまうと、諦めないのは目に見えている。
根気強いのは悪いことではない。そこは評価している。
「店主」
「何でしょう?」
「回復薬を3つにして」
回復薬の注文を1本増やした。何の意味があるのか分からない女武闘家が尋ねようとするが……
「勝手にすれば良いわ。但し、私の言うことは絶対に従ってもらうからね」
意味を理解した女武闘家の表情が喜びに満ちた。
「はい!ありがとうございます!」
不本意だが、女武闘家を連れて行く事になった。購入した回復薬を雑嚢に入れ、店を出ると同行を認められた彼女はセイバーの後を追った。
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これも悪魔城にあったシステムですね。後は女武闘家ちゃんをどんな性能にしようか……。
サブウェポンは1個確定していますが、細かな事はまた後ほどということで。