弾丸登山部
数千の学園が存在する巨大学園都市、キヴォトス。ここでは大小さまざまな学園が独自の自治区を持ち、多くの生徒たちが暮らしている。
そんなキヴォトスにある学園の多くは、女子生徒のみが通う女子校である。キヴォトスで暮らす生徒のほとんどは女子であり、男子生徒は非常に数が少ない。そのため、自然と多くの学園が女子校となるのだ。
とはいえ、男子生徒もまったくいないわけではない。数少ない彼らもまた、キヴォトス各地に散発的に存在する男子校に通い、学び、遊び、仲間たちと学生らしい青春の日々を過ごしている。
キヴォトスでは珍しい男子生徒が二人、街中の交差点で信号を待っている。
登山用の大きなリュックを背負っており、これからどこかへ遠出でもするのだろうか。
否、そうではない。彼らの様子がおかしい。
二人は静かに、その場でクラウチングスタートの姿勢を取った。二人が纏う空気が、真剣なものへと変わっていく。
やがて信号が赤から青に変わる。その瞬間、二人の生徒がいっせいに駆けだした。
重そうな荷物も何のその、トップスピードで近くの商業ビルへと駆けこむ。入り口の自動ドアが開く時間が惜しいと、体当たりでドアのガラスをぶち破った。
「うわぁ、何だ!?」
突然の暴挙に、悲鳴を上げる買い物客たち。しかし二人は止まらない。客の間を縫って、最高速のままフロアを突っ切り、ビルの階段を駆け上がっていく。
床を蹴り、壁を蹴り、最短距離で屋上へ。
最後には、安全のために施錠されていた屋上の鉄扉をブリーチングで吹き飛ばし、ついに二人はビルの頂上へと到達した。
そして――。
「ゴールっ! 記録は!?」
「3分47秒!」
「クッソ、ベストタイム更新ならずかぁ!」
悔しそうに汗をぬぐう男子生徒――彼は早原マルタ、ピラトゥス学園の2年生だ。
「惜しかったな。やっぱり、3階から4階への踊り場で若干タイムロスがあったのが響いたね」
もう一人の男子生徒――ピラトゥス学園2年生、武本ロッキーも同じく汗をぬぐい、手にしたストップウォッチの時間をノートに書き写す。
「最後のブリーチングの設置に手間取らなければもう2秒は縮められたんじゃないか?」
「ここの階段は手すりショートカットが使えないからね。壁蹴りの精度の方が重要かもしれない」
荷物を下ろし、その場でさっそく反省会を始める二人。
いかに速く頂上へたどり着くか、そのために何が出来るか。
ピラトゥス学園、弾丸登山部の二人は次なる挑戦に向けて、熱心に課題を挙げていく。
「こ、コラー! 君たち、何をやっているんだ!?」
それは階下から、ビルの警備員が上がってくるまで続いた。
・男子生徒
ヘイローを持ち、その身に神秘を宿す男子たち。女子生徒に比べ数がかなり少なく、街中で見かけると、「お、珍しいな」と思われる程度。神秘の総量も女子と比べると少なめ。
(ツルギとかネルみたいな、学校代表戦術兵器みたいな男子生徒はほぼいない)
・男子校
女子校の方が規模・数ともに圧倒的に多いため、各地に点在する形になっている。規模の差から大きな影響力を持たず、連邦生徒会に議員を輩出することも難しいので、近隣の女子校とほどほどの付き合いをして自治区を維持している。
男子生徒は基本、この男子校の自治区内にいるので、余計に外で見かけることが少ない。
・ピラトゥス学園:弾丸登山部
いかに早く頂上へたどり着くか、そのタイムを競い続けている部活。学園の自治区には大きな山がないので、もっぱらビルを登っている。