「俺たち滅茶苦茶忙しい、んだ、よ」
疲労が滲むしゃがれた声で、途切れ途切れに怒りを口にする男子生徒。
「申請、出してから、やれ?」
「活動申請は出しましたよ?」
「それは別のビル、だ! 何のために許可取りしてきた、と思って、る!?」
「いやいや、当日になって、別のビルが目について。やっぱ、目の前にビルがあったら登るしかないじゃん?」
「仕事を、増やす、な!」
弾丸登山部の二人を前に怒りをあらわにしているのは、ピラトゥス学園3年生の長良ダイチだ。
彼はピラトゥス学園統治委員会の副委員長。つまり、このピラトゥス学園におけるナンバーツーに当たる人物だ。
ダイチは事情聴取のため、問題を起こした弾丸登山部の二人を、統治委員会の委員会室へ呼びつけている。
とはいえ、キヴォトスではこの程度の騒ぎはまだ可愛いもの。いちいち目くじらを立てていては体が持たない。
過労が隠しきれていない顔のまま、ダイチはマルタに向かって書類を乱暴に投げつけた。
「破損した自動ドアと鉄扉の、修理費用の請求、だ」
「うっす、部費から引いておいてください」
「違う、自分で書類を書、け」
「え、面倒だよダイチ先輩。どうせだから部費の計算に入れておいてよ」
「仕事を、増やす、な!」
投げつけられた書類を拾い上げ、マルタはちらりと委員会室の片隅に目を向ける。
そこには、書類の山に囲まれながら作業を続けている、もう一人の生徒がいる。
「ダイチ先輩が忙しいのは通常運転として、シンペーまで死にかかってるってことは、いつもよりも忙しいのは本当なんですね」
視線の先、死んだ目で書類に判を押しているのは統治委員会の庶務、2年生の漆原シンペー。半開きの口から魂が出かかっている。心なしか、ヘイローの輝きも弱い。
「あれ、何徹目なんだろ」
「知らん。数える余裕もな、い」
用件は終わったと、ダイチは手を振って弾丸登山部の二人を追い出そうとする。
「お茶くらい出してくれてもいいのに」
「歓迎される立場じゃな、い」
「なぁシンペー。ダイチ先輩が冷たいんだけど」
ロッキーが庶務であるシンペーに声をかける。が、彼は客人が来ていることにそもそも気が付いていないようで。
「ふへ、書類が一枚……書類が二枚……」
「シンペー、寝ようとしてません?」
「……あとでエナジードリンクを、飲ませてお、く」
「いや、寝かせてあげようよ」
委員会室の片隅には、空になった妖怪MAXの缶が山積みになっている。まだ働かせる気だった。統治委員会はとんでもないブラック部活である。
・ピラトゥス学園
ゲヘナ学園とトリニティ総合学園の間に位置する学園。規模は二校とは比べるまでもなく小さい。立地面からゲヘナ・トリニティ両校の諍いに巻き込まれないよう苦労している。
・統治委員会
ピラトゥス学園における生徒会組織。外交が忙しすぎてオーバーワーク気味。