キヴォトス男子校日誌   作:雉里ほろろ

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校内放送応援団

 ここはピラトゥス学園の自治区内。広い交差点に面したビルの外壁には大きな液晶ディスプレイがかかっており、その日のニュースや天気予報などが流れている。

 時にはクロノススクールの報道も流れるそこで、臨時の放送が始まった。街行く人々はふと、画面に注目する。

 画面が切り替わり映し出されたのは、二人の男子生徒たちだ。ともに、ピラトゥス学園の制服を着崩すことなく着用し、額には赤い鉢巻を巻いている。

 前に立つ小柄な生徒が口を開いた。

 

「…………ぇー、皆さん、こんにちは。校内放送応援団です」

「ヒロスケ先輩、声ちっちゃいっす!」

 

 テレビ放送とは思えないほど覇気のない声に、思わず後ろから突っ込みの声が飛ぶ。ヒロスケの後ろに並んだ生徒で、ひと際体が大きい。ヒロスケとはかなりの身長差がある。

 彼はその体格を活かして、大きなピラティス学園の校旗を掲げている。

 彼ら二人こそが、ピラトゥス学園の校内放送応援団。三年生の朧ヒロスケと、一年生の物見シュートだ。

 

「マイクで音は拾っているから、問題ないんだよ、シュートくん」

「はいっす! すんませんっす!」

 

 生放送とは思えないほどふわっとした不思議な空気で、放送は続く。

 

「本日は臨時の応援依頼が入りまして、皆さんにお知らせします。我らがピラトゥス学園の弾丸登山部が、新たな挑戦に臨むそうです」

「ピラトゥス自治区で一番高い、ピラトゥススカイビルの登頂タイムアタック! 過去にも一度、非公式で挑戦したことがあるらしいっすが、今回はきちんと許可を取ったうえでの初挑戦! 非公式記録を超えられるか、フル装備で挑むそうっす!」

「初挑戦ということですからね。今回の挑戦はきっと学園の公式記録に残るものでしょう。登頂のあかつきには、記念にビルの屋上から花火を打ち上げるとのこと。また、安全のためにスカイビル内のショップやレストランは一時休業となりますが、代わりに外の広場で野外販売をするとの情報を得ています。ぜひ、皆さんも見に来て、買って、弾丸登山部の挑戦を応援しましょう」

「屋台も美味しそうなお店がたくさんあるっす!」

 

 映像が切り替わり、現地の中継が映し出される。

 ピラトゥス学園の自治区で一番高いスカイビルを、下から見上げるような映像。続いてカメラが周囲をうつせば、ビル近くの広場に無数の屋台が準備されている様子が映し出された。

 既に食べ物の屋台は営業しているようで、目ざとい生徒たちがはやくも集まり、料理を楽しんでいる様子が放送される。

 

 そして最後に、入念に道具を準備している弾丸登山部の二人が映った。

 カメラを向けられた二人は、照れくさそうにしながらも、目いっぱいの笑顔で親指を立てる。やる気は十分、と言った様子だ。

 

「はい、現地の様子でした。弾丸登山部の二人も、良い笑顔ですね。これは結果にも期待できそうです」

 

 言葉を区切り、ヒロスケが小さな両手を目いっぱいに大きく広げた。さらにシュートもその後ろで、校旗を力強く翻す。

 

「ぇー、それでは、弾丸登山部の挑戦成功を、祈ってーぇ」

「「三、三、ななびょーし」」

 

 太鼓の音にあわせて、画面越しに三三七拍子が贈られる。か細い声のヒロスケの拍子がマイクで増幅され、声の大きなシュートにギリギリ負けないくらいの音声が流れる。

 三三七拍子が終わると、二人はピタリと綺麗に動きを止め、

 

「以上、校内放送応援団でした」

 

 臨時放送が終わると、また地域のニュースへと切り替わる。

 だが、先ほどの放送を見ていた生徒たちは、口々に好意的な意見を述べていた。

 

「へぇ、弾丸登山部が」

「何かイベントするんだって。俺、見に行こうかな」

「花火だって、花火! 屋台も出るってさ!」

 

 それらはちょっとしたお祭りのように広まり、おのずと彼らはイベント会場となる、ピラトゥススカイビルへと足を向けるのだった。

 

 

 

「ぇー、こんな感じでいいですかね?」

「はい、バッチリです。助かりました」

 

 放送直後、撮影用の教室でヒロスケは小さく息を吐く。そんな彼に労いの言葉をかけるのは、統治委員会の庶務、シンペーだ。

 

「急な応援依頼で驚いたけど、統治委員会からの頼みとあらば、ね」

「完璧だったっすよ、ヒロスケ先輩!」

「褒めたってなにも出ないよ、シュートくん。ほら、手土産に貰ったロールケーキ、私の分もあげよう」

「わーい、ありがたいっす!」

 

 ヒロスケによって餌付けされているシュートの様子を見て、シンペーは仲が良いなぁ、と苦笑した。

 

「あとは、同じように何度か告知して、なるべく多くの生徒をスカイビルの方に誘導してください。トリニティに演習区域として貸しだしている場所から、なるべく人を遠ざけたいんです」

「承知したよ、そのエリア付近には重点的に映像を流そう。なに、任せてくれたまえ。ことピラトゥスの自治区内に限れば、僕たち校内放送応援団はクロノススクールにも負けない速度で情報を届けてみせるとも」

「リモートで映像撮影できるように、わざわざミレニアムから最新の撮影ドローンを買ったっすもんね」

「時代はリモートワークなんだよ。僕たちが届ける応援の気持ちも、一種の情報だ。純粋な応援の気持ちは、距離や時間に制約されるべきじゃない。なるべく早く、正確にお届けすることが重要なんだよ」

「とか言って、ヒロスケ先輩は引きこもり気質だから、わざわざ外に出て応援なんてしたくないだけっす。シンペーさんも、勘違いしちゃ駄目っすよ」

「…………シュートくん、やっぱりロールケーキは没収だ」

「そんな、酷いっす!」

 

 やいのやいのと騒ぐ二人に、あとの情報操作は任せればいいだろうと判断した。

 シンペーはモモトークを開いて副委員長のダイチにメッセージを送る。

 

『こっちの放送は完了です。しばらくすると、放送を見た生徒の数も増えてくるかと。そちらの準備は?』

『機材、人員ともに配置済だ。弾丸登山部の二人も、準備ができているらしい。いつでも始められるぞ』

『じゃああとは、イチロー先輩からの合図待ちですね。トリニティの演習場の方、一人で任せちゃいましたが大丈夫ですか?』

『イチローなら正義実現委員会の手をかりて、上手くやるだろう。どのみち、そちらに割ける人手はない』

『イチロー先輩からのリアクションないですけど』

『アイツがモモトークを見ないのはいつものことだ』

 

 




・ピラトゥス学園:校内放送応援団
 ピラトゥス学園の自治区内で行われる様々な活動を、映像放送で応援する応援団。応援と同時に、自治区内のイベントごとを告知する広報の役割も担っている。
 現在の部長であるヒロスケの強い意向で、リモートワークが加速している。
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