それでも魔法少女かよ。   作:杜甫kuresu

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融合体(ゆうごうたい)
融合獣(ゆうごうじゅう)によって寄生核(きせいかく)を植え付けられ、それによる融合獣(ゆうごうじゅう)化を克服(こくふく)したヒト個体を指す。
寄生核(きせいかく)を植え付けられる方法は様々だが、代表的で多いものは性交…………つまり強姦である。
男性の融合体(ゆうごうたい)は少なく、多くの場合は女性が融合体(ゆうごうたい)となる。これは女性が繁殖のために狙われやすいということが要因であり、取り分け若年であることが多いのも同じ原因だと思われる。

寄生核(きせいかく)によって融合獣(ゆうごうじゅう)になるまではサイクルがあり、人間と融合獣(ゆうごうじゅう)を行き来することになる。


1.狩猟祭

 融合体(ゆうごうたい)とは、融合獣(ゆうごうじゅう)と呼ばれる外宇宙の怪物たちによって変貌(へんぼう)させられた少女の通称である。彼らの根幹とも言える寄生核(きせいかく)克服(こくふく)するという事態は、恐らく歴史でこの地球でしか起きていない。

 

「大変だったね、ミス・キョウカ。ウェットフラワーが暴走してたって聞いたよ」

「能力は面白かったですね。模倣(もほう)しても良いかもしれない」

 

 キョウカは人のルミネイトリソース行使(寄生核(きせいかく)を持つものが取り扱う、いわゆる超能力)を擬似的に再現できる。誰もが不審(ふしん)に思うこの性質について、眼の前のテーロスの研究者は疑問を(てい)するようなことはしなかった。誰も意図的に尋ねていない、が正しい。

 

 その本質は演算と証明にある。普段使っている力学の実装は演算と証明を元に行う”別の能力”であって、彼女の本来の気質はそのずば抜けた知能指数を助長する高速演算と確定に関するエンパワーメントだ。

 

「貴女はああいう不確実性の高い能力は好まなそうと思っていたんだが、予測は外れかい?」

「三角~。不確実な手段が嫌いなだけだから、確実なものにするだけです」

 

 なるほど、と研究者は苦笑いする。暴論だった。

 

 つまるところ、彼女の知る限りでは”人間が想像すること”など全て科学で再現できる。なので一度見て、その機序と着想を現実の数式に落とし込み、力学の名のもとに再実装する。

 もっと言えば、この手法自体は多くの場合に知られていない。彼女の再実装した能力を”完全な模倣(もほう)”と認知させることで、本来の性質から歪曲(わいきょく)させたり誤動作を誘発するためにも情報が流出してはならないからだ(ルミネイトリソースを用いる行動は、制限があるようで実のところイメージの問題であり、要するに思い込みで制限を受けている)。

 

 彼女の言う通り、再実装に当たって認知に左右されかねない部分を有理化…………数式に直してしまえば、不確実性など存在するはずがないのだ。

 ショーケースの中の得体のしれない生体の群れをキョウカは全て知っていた。そしてわざわざ口にするまでもなく、出来の悪いパリコレのような博覧会を抜けていく。

 

「さて、本題です。アメリカならではですね、蝉で実験って」

「そうでしょうそうでしょう」

 

 研究者の声は上ずっていた。子供が自由研究の題材を褒められたようなものと見てもいい。

 蝉を用いたフェーズ移行…………つまり、融合体(ゆうごうたい)の進化による変態の検証実験。

 その着想自体は意味不明だが、こと十七年蝉を利用して母数を確保しようという発想については着眼点への高評価が付いている。

 

「ただフェーズ2って、まあ基本暴れますよね。でかくなるし、めっちゃ化け物だし」

「そうだね、保護用の設備にはかなり金をかけてるよ。サンプル調達はすこぶる楽だからね」

 

 要するにこの被験体であればいくら捕まえても統計上で有意な異常は社会的に露呈しないし、調達も簡単であるという話だ。

 蝉に対しての実験の準備自体は手間取っていたが、それは十七年蝉という周期性の圧倒的な強みがある。システム化に適していたのだ。

 

 計画的に整えられた機械群によって、この一見ユーモラスな計画は極めて強い妥当性と再現性、予算によって進行している。

 

「にしても蝉の鳴き声、しないですね」

「やかましすぎて防音にも金がかかってるよ。相対的に従事者の効率が上がるということが認められるデシベルだったものでね」

「想像したくなさすぎるって」

 

 ケラケラと二人が笑っている内に、それを見下ろすモニター室に到着することになる。

 轟音(ごうおん)と衝突音は眼下に広がる融合体(ゆうごうたい)…………周期蝉の暴走個体が引き起こす激突の音だ。当たり前のように研究所が揺れ、蝉とも取れぬ異常な叫び声がモニター室までこだまする。

 

 発生するリソース反応は真っ赤でまるで血涙のようで、キョウカは耳をふさぎながらその様子を苦笑いして見ている。

 

「うるさいなぁ」

「防音を貫通してる、リソースの前兆って光だけじゃなかったのか? 貴女もそうだが」

「そうやって漠然と前例だけでパターンが構成されていると考えるのは、研究向きの思考回路とは言い難いですね」

 

 この研究者が向いていなければ誰が向いているんだ、と周囲のメンバーは思ったが、そんなことよりぶつかり合う融合体(ゆうごうたい)のデータ採取がせわしなく進むばかりだった。

 

 此処に居るメンバーの何人かはこの”十七年計画”の為に集められた日本人であり、本国では肩身の狭い人間すら居た。

 テーロス機関は一つの思想で出来たつまらないソロパートのような組織ではないが、ただし法と倫理に縛られない事についてはどことなく神聖視する派閥がそれなり以上に居る。今喋っている研究者も、一度IGNITERに追われた身である。

 

「向いているから(きわ)めるのではなくて、続いている内に(きわ)めるものだ。つまりそれでいいってこと」

「言い訳はテーロスでは要求されてないですよ?」

 

 キョウカは思想を持ち合わせなかった。ルールを破るのは結果的にそうするしかないからであり、タブーを超過する行為自体に宗教性を見出すような振る舞いを内部的に出来ていない。

 ただそうするしかないからそうしている。まさしく意識は天才のそれであり、だからこそ此処に居る凡百(ぼんびゃく)の研究者ではその意味も、恐ろしさもわからない。

 

 身内意識などないのだ。必要なら、今すぐこの研究所を消し去り、帰り道でホットドッグを食べ歩くだけの精神が常にこの人型の存在には残っている。

 

 この構図を指し示すように、何かと語りたがる研究者をキョウカは無視した。

 

「で、成功例は?」

「見ての通りフェーズ2はそれなりの数が出た。ただフェーズ3は中々ね…………強力な個体は出ているんだ」

 

 興味なさげに生返事をしながら、タブレットにダウンロードしたレポートを目に通していく。秘密結社はこういう時に機密主義でアクセスが悪い、現場でダウンロードしなければ見ることが出来ない。

 

 書かれている報告書では大体が、最終的に任意の地域にフェーズ2を放流して魔法少女に始末させている。

 

「おいおい、これバレるんじゃね?」

「どうだろうね。ただ、ルミネイトリソースと融合獣(ゆうごうじゅう)にまつわる研究はスピード感が必要なのはわかるだろ? 施設を廃棄するコストありきでも、こうなる」

 

 つまる所、注目する上流階級が多すぎて、成果を手早く出さなければ資金が降りないということだ。テーロス機関も無条件に金が降ってきているミームか何かではない。

 非合法合法問わずにあらゆる知的探究心に基づく活動を推進する組織、ではあるが。それにも裏打ちされるものがあり、あくまで犯罪組織なのだ。

 

 焦るもの、好奇(こうき)(あお)るもの、出資者にも色々あるが、この一連のインシデントはとにかく注目されている。

 アメリカでは融合獣(ゆうごうじゅう)に関する扱いがまだ進んでいないことも追い風だろう。魔法少女がこの異常さを報告したところで、一市民の意味不明な供述の域を出ない。

 

 施設自体はばらついているのも注目すべき点だ。テーロス機関は貴重な設備であろうと距離を解決すれば運用できるという特徴があり、ここにおいてもその利点が存分に生かされている。

 

「ふーむ………この女性の搬送は何のために?」

 

 計画初期に運び込まれたと思しき現地の女性の記録を見せると、研究者は目を細めて唸る。

 

「んー? あぁ…………そうかそうか、彼女か。計画初期、技術検証の際に彼女でテストをさせられたのですよ。正式な指令はだいぶ古い話なので、必要なら後日お渡しします」

 

 ふーん。キョウカはどこを見ているのかわからない目つきで生返事。あるいは怪訝(けげん)そう。

 

「古き融合獣(ゆうごうじゅう)憑依(ひょうい)しただとか言われていましたが、普通の融合体(ゆうごうたい)でした。フェーズ2になるもあえなく暴走、殺処分です」

「面白くない研究ですねぇ」

 

 全くだ、と笑い合っていた。

 

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 蝉の鳴き声に塗れて(あるいは潰されて)、その通話の声はよく通っていた。素数蝉達の無邪気な生殖意識を孕んだ抵抗も、その透き通る声色の前では騒音の域を出ない。

 

「ん〜? まあそうだね、合衆国からの許可は私が取り付けますよ。国家権力なので(しゃく)でしょうが、私の責任の範疇(はんちゅう)で間引くなり引っ張り回すなりご自由に…………」

 

 待ち人来たれりです。叙情(じょじょう)的な台詞と共に、射千玉(ぬばたま)の女は電話を切り、歩み寄ってきた。彼女の肩は跳ねている。

 つい先日、彼女は…………ウェットフラワーはキョウカ・ナカムラに強烈な恐怖を植え付けられたばかりである。妥当な結末だとしても、生理的な恐怖は誤りではない。

 

 ましてや、帰り道で待ち伏せだ。

 

「…………どうも」

「ハロー、アレイさん。先日はお世話になりました、キョウカ・ナカムラと申します。あ、これ名刺ね」

 

 うやうやしいのか不遜(ふそん)なのか、片手渡しの名刺には”Over There Organization”の社員としての身分が書かれていた。

 アレイは学生だが、魔法少女は社交性を無理やり育てられる…………見たくもない要人、あるいは不要な陰謀が彼女たちを渦巻くからだ。

 

 魔法少女というのは、十把一絡(じっぱひとから)げを承知で言えば戦う融合体(ゆうごうたい)を指す(恐らく提唱者は、特に女性の若年が融合獣(ゆうごうじゅう)に狙われる傾向からそう名付けたのだろう)。

 魔法少女の本場、爆心地である日本が妙に上手くやっているだけであって、まだ整備しきっていないアメリカでは無粋な権力に子どもたちは晒されている。彼女達の願いなど、金と歳月の前では値段がついてしまう。

 そばかすまじりの表情を怪訝(けげん)そうに歪めて、問い返す。押され気味だが、それでも取り逃がさない勇気があった。

 

「お姉さ…………えっと、キョーカは。魔法少女?」

 

 蒼い瞳は迷うこと無く、キョウカを貫いた。泰然(たいぜん)とした返答。

 

「そんな歳じゃないでしょ、どう見ても」

「東洋の人の顔つき分かんないもん」

「そりゃそーだ。24ですよ」

「どっちみち分かんないよ、それ」

 

 そうかもしれんな、と笑いながらアレイの帰り道に付き添っていく。

 彼女の住む街は適度に都会で適度に田舎。アメリカは土地を余らせているし道も広く、女二人で歩くにはまだ広すぎる道路ばかりだ。

 

 変身していないことをアレイは警戒していた。キョウカも気づかないほど愚かではない。

 

「でも変身もしてないのに、私を止めたよね。覚えてるよ」

「フェーズ2暴走下で記憶を保つか、悪くないね。怖かったですか?」

 

 聞かれた時、その真っ赤な瞳に何かを見透かされたようでアレイは脚が笑いそうだった。

 あのリソース反応が太陽を、蝉を、町並みをかき消して視界を埋め尽くすような錯覚が止まらないのだ。音が視界を支配する、それは極度の緊張状態の比喩である。

 

 暴走してなお理解できる圧倒的な力。

 恐怖に値するが、アレイの感想は一歩進んだものである。

 

「怖かった…………けど」

「けど?」

「だから、教えて欲しい。キョーカ、多分凄く強いんでしょ?」

 

 ほう? とキョウカの顔つきが変わる。どこか試すような、遊ぶような。

 

「私に興味あるんだ」

「そうかも。私は強くなりたい」

「なぜ?」

「守りたいんだ、もう黙って見てるなんて嫌」

 

 もう。もう、かとキョウカは味わうようにつぶやいて、笑顔のまま考え込んでいた。

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