違法なシンタクス企業。出資者には様々な資産家や政治家が絡んでいると思われる形跡があり、多国籍に活動をしている極めて大規模な犯罪組織でもある。
あくまで手段を選ばない研究を目的としているため、必要であれば公権力や魔法少女に援助を行うこともあり得るが、原則として敵対することとなる。彼らは早くから
「行方不明の幼馴染、か」
「うん。ルーシーって名前の子」
実はキョウカはそれについて把握していた。さすがに聞き手に回るためのタクティクスまで、アレイも気づくに至らない。
ルーシー・パタースン。他ならぬアレイと共に二年前日本へ旅行をし、巻き込まれた少女の一人。
2016年の日本。東京に居るというのは、つまり
最後に目撃したアレイ当人の当時の供述では、最後の時点で腹部を少なくとも数か所貫通されており、アレイ自身が
形としては死亡したと見るのが妥当であるし、アレイの暗い表情もそういう認識としか言いようがないものだった。
「アレイさん。彼女は死んだって、そう思う?」
「…………そう、思ってる」
声は震えていた。キョウカはどちらかと言えば驚いている、正直イジワルな質問になっただろうという自覚はあったからだ。
アレイの瞳には熱と水分がたまり、けれどそれは発散されるでなく再度彼女の中へと還っていく。葛藤と、勇気だ。
涙を流すのは簡単だとアレイ・レッドフィールドは常に言う。誰かに助けてもらおうとしていると。
自分の手で、他ならぬ自分を助けなければいけないんだと。
「だって。死んでないなんて言ったら、かわいそうだよ。私の中で、私のお人形さんになっちゃう」
「…………」
キョウカは彼女の今にも崩れそうな背中を擦って、そのまま歩みを止めて抱き寄せてやる。アレイもどこか分かっていたように…………あるいは既に限界だったかのように、立ち止まって肩を寄せる。
「よく言った。みんなそれが出来ない、君は強い子だね…………」
「強くない…………守れなかった」
「結果だけでなじるのは大人だけでいい。まだアレイさんは心意気を褒められて良いんですよ」
アレイの髪を撫で、その頬の涙をぬぐってやりながら、やはりキョウカは魔法少女という言葉に異常性のようなものを感じていた。
自称するところまでは自由だろうと彼女も思っている。魔法少女を広めたという事実も、”最初の魔法少女”の示した光も否定されうるとキョウカは感じたことはない。
だが。こんな小さな背中に頼らなければ存続できない社会の、何とも頼りないことか。
「泣き落としみたいになっていますが、ですが良いでしょう。私で教えれることがあれば、ですが…………」
キョウカは自分でも苦笑いしていた。あんまりにも、子供に甘いところが弟に似てきた気がしている。
「収縮」
悲鳴と共に縮み上がる世界の歪みが、ウェットフラワーの生み出す弱点の論理を全て破壊し尽くしていた。
キョウカの行う力学動作でもかなりニュートラル、単調である空間の伸縮は、被害を踏まえると軽はずみに使えるものではない。ましてや力学を実装するというのは、”魔法”などとも呼ばれる業を行使する彼女達からすればかなり、古臭い奇跡の一つだ。
ウェットフラワーのために州の条例そのものを歪めて用意されたバトルフィールドであったが、キョウカの生みだした圧力にすら耐えきれずに
「早すぎ…………!
「さあ? でも一つしか持っていない動きのはずですよ?」
それは嘘ではない。しかし言葉通り無限を叩きつけられるような”収縮”の発露は無差別に全方位を傷つけており、ウェットフラワーが近寄るスキを一切与えない。これが変身すらしていない女の実力だというのだから、ウェットフラワーもまだまだ精進する必要がある。
鎌を展開し、キョウカの展開する力学そのものの”弱点”を無理やり刈り取る。左右に凄まじい衝撃が飛び散ったが、ウェットフラワーに傷がつかなければそれでよいのだ。
跳躍し、構え。もう一つの大鎌が迫る。
「扱いが単調すぎる」
しかし、その鎌は素手でつままれた。
そのまま紐でも振り回すように少女の体ごと空中で回し続け、壁にぶつけるように放り投げる。
対抗策はない。ただ絶望的な実力差がある。
「能力の下地は良いが、認知がまだまだですね」
「なるほど…………っ?」
その声は遠くから響かなかった。既にウェットフラワーの前にいる。
そのまま首根っこを掴み上げて持ち上げる。抵抗するように脚が振り回されたが、全てが軽く指で押されるなりへし折れ、甲高い悲鳴が響く。
「これは貴女の使う能力の
『バイタルが危険です。戦闘を中止してください!』
思わず戦闘を中止させようとアナウンスが入るが、キョウカはカメラに向かって何の気迫もなく向き直り、溜息混じりの声で
「
『そういう問題じゃなくて……!』
「カマトトぶるなつってんですよ! 彼女達には人道的配慮をしてやれるような猶予を我々は与えられていない!」
痛みは記憶において大きく優越する。事実として、痛みにつながるルミネイトリソース動作に対する学習が常に遅いかと言うと、それはむしろ逆である。
猶予がないことも、同様に現実だ。キョウカの見立てでは日本国東京都
奇跡も希望も戦場の血を減らすことなど無く、ただ生体としての現実が彼女達を後押ししている。
キョウカはそれでも希望だの、愛だの、幸福だのを謳う少女達を扱いづらいと思っているし。
死ぬべき人間ではないのだろうとも思っている。
「これぐらい治します、だからもう一回。肌で覚えて、再現してください」
折った脚を無理やり元に戻し、軽く擦ると瞬く間に内部出血は消えていく。ルミネイトリソースの応用であるが、実際に他者に適用できるものは少ない。
「はぁ、はぁ……………分かった……っ!」
狂っていた。キョウカはあまりにも偏っているようにしか見えないし、ウェットフラワーは疲れているようにしか見えなかった。
キョウカもマトモな手段ではないということは知っている。
単に”効率がいい”。善意に振り回され続ける大人を不要だとは思わないが、自分は何の
事実、次に飛んできた大鎌はキョウカの髪を掠めて行った。先程まで一つの行使を破壊するのにも苦戦していたというのに明らかに動きの精度が違う。言葉通り血の
「そう。欠点を作るとは何なのか、突きつめて。貴女には弱点を作っているのではなく”線”が見えるはずだ、確実に刈り取る為の生命線。それをもっと多彩に、そして必要に応じて視点を切り替えてください」
「了解…………!」
この無意味にも思える訓練を彼女達は、放課後に常に2時間続けていた。フラワーウェットの負傷は着実に生まれ、そして治され、彼女はいつも終了後には経口補水液をひったくっては飲み続けた。
これは涙も唾液も汗も止めどなく溢れ、最早外では見せられない様相であったということを端的に示す事実の一つである。
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「ウェットフラワー相手に訓練をしているんだって? キョウカ、今度はどんな
「
嘘をついていないのだから厄介だが、研究者は本質的にそんな事に気を止めていない様子が伺えてしまう。
蝉の
フェーズ2への到達個体と見られる波形はどれも強力ではあるが、
予測される事実は一つではあるが、そもそも無断で検証しているからキョウカもまだ黙っている。
ぶつけて体液を撒き散らし、死体になって運ばれていく蝉たちを横目に、キョウカはもらった資料を眺め直す。
前回指摘した初期の女性
「キョウカ、何が面白いんだい?」
「別に…………」
だが彼女は
その
そう、アレイの話と矛盾している。それが交友関係まで洗っていない
だがこれは確実に、何かが起きていた。あるいは起きているという
「研究には承認と信頼が必要です」
「…………そうだね? どうしたんだい、突然」
キョウカはいつもどおりの笑顔だったが、研究者はなぜか気圧されそうだった。
「研究の資金を下ろすに当たって、妥当性は多数の人間に検証され、認められることで信任を受けているというものになります」
「つまり?」
「
研究者は冷や汗を流して、しかし笑っていた。
それが取り繕ったものであるのか、おもむろに喋りだすキョウカへの困惑なのかは判別できない。下手をすれば両方だからだ。
「そうだね。当然、うちはそんなことはしていないつもりだよ」
キョウカの笑顔が、まるで