それでも魔法少女かよ。   作:杜甫kuresu

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4.摂食障害

 けたたましいサイレンの中で少女は走っていた。

 その音が鳴るたびに心臓がスロットルを上げるようにこの数年ですっかり教育されていた。誰かがそう仕向けたのではなく、彼女自身の望みによってだ。

 

 人の流れをかき分けて走り続けるアレイは、形容しようもない嫌な気配をひしひしと感じ取っていた。

 それが何であるかを本人だってわかっているし、だからその女が前に立った時、驚くのではなく決意に唾を飲んだ。

 

「驚かない、か。死ぬ覚悟も済ませて来たと見ていいですか?」

 

 今までの慇懃(いんぎん)さと軽薄さの相まった言葉づかいが嘘かのように、冷たく厳かな声音。別人と言って差し支えのないキョウカの声にアレイの背筋が伸びた。

 証明しなければならない。彼女の熱のありかと、それが(もたら)す結末を。

 

 努めて声を張る。恐怖は魔法少女を弱者たらしめるのだとキョウカが教えた、それこそが魔法少女の能力の不安定さの正体であると。

 

「死ぬ気なんてないよ。私は街の人と、キョウカを助けに来た」

「私を? 道化は上手くなったようですね、アレイ・レッドフィールド」

 

 鼻で笑うキョウカに肩が上がるが、鎮める。

 まだだ。

 

「キョウカを信じるよ、私。人に嫌われてでも何かを伝えようなんて誰でもやることじゃないから」

「非合理的だ。数十分もすれば、その情緒優先の欠陥(けっかん)塗れの頭蓋(ずがい)ごとこの街は消える」

 

 遠くから多数の融合体(ゆうごうたい)と思しきものがやってきていると、州の特別調査隊から連絡があった。

 恐らくキョウカが抱えている案件に関わることなのだろうとアレイは予測している。

 

 難しい人だとは思う。

 ただ、意味もなく人に危害を加える人間ではないことをアレイは信じている。それが非合理的なのだとしてもだ。

 

「私は時間を稼げばいい。ちょうどサンプルは多いに越したことの無い時期ですし…………せいぜい手を尽くしてください、届けばいいですけど」

 

 言葉を先んじ、麗しき花騎士の鎌が叩きつけられる。当たり前のようにキョウカは人差し指と中指で挟んで掴んでしまい、そのまま隣の仕立て屋に腕だけで投げつける。

 鋭く砕けるガラスの音、弾けて散ったショーケース。きらびやかな布に彩られたウェットフラワーが再度強襲を狙う。

 

 能力の起動、青い光とともにキョウカの”脆弱性”が露出する。事前に予期された力学による防御は、既に欠陥(けっかん)だらけのものだった。

 

『アレイ、罠だ』

「分かってる。だからこれは戦闘じゃない」

 

 頭の中に響く玲瓏(れいろう)な声に、ウェットフラワーは何の驚きも見せずに答えた。彼女はそれを”レディバグ”、と呼んでいる。

 以前から時折聞こえていたそれの正体には心当たりがある。他ならぬ自身の特異性の根っこ…………寄生核(きせいかく)だ。

 

 キョウカとの訓練の中で声は明瞭(めいりょう)になり、必要のないときまで喋りかけてくるまでになっていた。

 

「見え透いたフェイント。教えたことはもう忘れましたか?」

「いいや? だから次善策を用意した」

 

 再び受け止められた(正確には迎え入れられた。脆弱性はアレイの動作をすっぽり覆い、受け止めて捕まえるような形だった)鎌と体を捻り、鋭く伸びた脚を差し向ける。高度な空中戦で、そのまま脚から隠した鎌が展開された。

 

 キョウカは驚く様子もなく叩き落とすが、わずかに緩んだ握力からねじるように鎌を回してウェットフラワーは取り返してしまう。

 

「小回りは効くようになりましたね。魔法少女という名前に騙されず、基礎的な運動を怠けてはいけない」

「そうだね。でもまだ届かない」

 

 旋回、一撃離脱。繰り返し、全て無駄。斬撃、斬撃斬撃斬撃。服すら引っ掛けず塵の山。

 

「仕方ないからやる」

 

 バッスルスカートが開花のように膨張して広がり、ウェットフラワーの体を覆い尽くす。

 現れる鎌は今までよりもずっと害意に満ち溢れた波状の刃を持ち、伸びる腕は少女のものとは思えないほど太ましい。

 

 フェーズ2、”ブラッディーブルーム”。三つの顎と複数の鎌、何より圧倒的な機動力を持つ極めてらしい形態。

 

『アレイ。活動限界は来るぞ、どうする』

「ここで限界突破するしか無いね。キョウカにはそれぐらいの覚悟がないと、武器すら通してもらえない」

 

 キョウカは未だに変身すらしない。いくつ鎌が増えようとも、リソース動作が高速化しようとも生身で全て捌いている。

 正直言って、ウェットフラワーの今までの経験則でも何か一線を画した異常性めいたものを感じざるを得ない。

 

 最早その矮小な視点では、かの”アズールスター”との優位な差が見いだせない。それほどにだ。

 

「リソースの扱いはそれなり。ただタクティクスを考えていない、まだ体任せですね」

「それがどうした…………っ!」

 

 振り上げた鎌が、ようやくキョウカの手袋によってはっきりと掴まれた。天井だったが、今手を付けるまでには至ったのだ。

 しかしわずかな高揚もつかの間。

 

 その腕から鎌を巻き込むような、どす黒い空間のねじれ。

 

「”収縮”」

 

 鎌がちぎれ、抉れ、壊れ、そしてキョウカの手袋越しの人差し指に収束する。それは世界の始まりの逆再生であり、カオス理論すら否定する強制的な大統一の兆しである。

 放つ。そう、これは放たれるのだ。

 

「”解放”」

 

 弾けるような空間の捻れ。キョウカだけを避けながら全てを食いつぶすように外へ外へと侵攻する力学の群れは、言うならば回避や対処という概念をまるで寄せ付けない。巨人の拳にも似た、不条理な差異に基づく暴威。

 引き伸ばされていく破壊にウェットフラワーは急速に後退するが、それでも脚の数本は既にねじ切られ、苦悶(くもん)の声が警報の代わりに鳴り響く。

 

 実力差は歴然だった。

 

「諦めた方が良い。死体に限って、いつも抵抗の意思だけは硬いものです」

 

 迫る飾りめいた虚飾(きょしょく)の笑顔。ようやく見えた顔つきに急いで回り込むようににじり寄り、複数の”弱点”を展開する。

 デコイの大量発生とも言えるだろう。物事の脆弱性を生み出すだけではなく、”そうである”と理解させることにも長けているというのはウェットフラワーの特異性だ。

 

「その能力は弱いわけではありませんが」

「…………届けぇっ!」

 

 背後から、更に複数に”欠陥(けっかん)”をなぞった大鎌。

 しかし彼女は振り返ることもなく、ただ右手で天を指す。

 

「戦闘機における優位性には、相手より高く飛んでいることが一定のアドバンテージを見出されてきました。アレは少々性急な結論に思える」

 

 迫るウェットフラワーの体が、何かに釘付けにされるように上からの圧力に叩きつけられた。抵抗しようと蠢く体は、その行動によって却って降り注ぐ力を一身に受け、ミシミシと音を立てて潰れていく。

 

「”天上天下”。要するに、死角、上下、皆等しく私の前に消える。これが一番早いとは思いませんか?」

 

 降り注ぐ力学の雨、染まりゆく紅い空。始まるは世を食み夜を厭う絶滅の日暮れ。彼女自身の嘆きかのように響き続ける悲鳴が、永遠に終わらないルミネイトリソースの反芻(はんすう)を指し示し、即ちこの小宇宙めいた世界の完全支配の合図の鐘の代わりを果たす。

 

 限定的な支配者。この領域内において、キョウカ・ナカムラはもとより無敵なのである。

 効果は自身を中心とする指定半径の球形のフィールドのパラメータの完全取得、及び自動迎撃、または任意の再出現。あえて言葉を選ばないのであれば、この状況は簡潔なセンテンスで言い換えられる。

 

 この戦場は、キョウカという神の写し身によってとうに支配されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天上天下を切るしかなくなったか。いやぁ、成長したねぇ。アレイさん」

 

 キョウカは一度も本気を出していないどころか、そもそも本人は別の場所に存在している。

 施設は街以上に不安を(あお)る不快なサイレンを鳴らし、中の警備兵は次々と彼女に立ち向かってきた。アレイ・レッドフィールド相手のような情けや感情と言ったものは特に見せることなく、キョウカはただ黙ってその四肢を潰し、意識を奪い続けている。

 

「なんだかんだ言っても、二面同時操作はしんどいなぁ。やっぱりあっちはノルンに任せるべきでしょうか?」

『私は構わない。だが、お前は相手をしてやるべきだ。責任というものだな』

 

 寄生核(きせいかく)との対話が出来るのは何もアレイだけではなく、当然キョウカもその段階には到達している。元より合意の上で現在の形に収まったという特異な経歴である以上、彼女は融合体(ゆうごうたい)である以上に種族差を超えた調和の体現である要素のほうが強い。

 

 キョウカの目的はアレイの想定通り、別に街の掃除などではない。大体、そんな事をしても実利が何も無い。

 ただ単に、テーロス機関そのものを露見せずにこの施設を政府に炙り出させる。いわゆる蜥蜴の尻尾切りの準備が彼女の役割であった。

 

「はいはい、抵抗をやめなさい。機関に属するなら分かるでしょう、私には勝てない」

 

 向かってくる警備員は時折ルミネイトリソースすら使うが、今の彼女はそれすら軽々と踏み潰している。急加速に対しては過剰な重力による押さえつけ、炎や電気と言ったローレベルな力学動作には真空空間あるいは絶縁体の形成による完全防備。

 

 少なくとも同時に4つまで能力を発動しても彼女はうろたえる様子がなかった。事実、現在も回収した資料を読みながら歩いて状況を確認しており、向かってくる敵の対応は片手間である。

 

『だが、中村京香。なぜ目的地点まで点移動をしない、お前はこの領域に偏在している、無理ではないはずだが』

「制圧に使ったルートはメンバーに共有してます。意図的に誘導して、片っ端からお片付けをしてもらう算段ですね。別に私だけで全てのことを済まそうってわけじゃないんです、ある程度お行儀よくやる必要がある」

 

 事実、キョウカだけでこの作戦は成り立っていない。特記に値する傑出(けっしゅつ)した融合体(ゆうごうたい)であることは認められるが、その程度で全てが握りつぶせるほど人間社会という構造は甘くはない。

 

 証拠の隠滅となれば血痕をDNA単位で消す必要があるし、警備員だって知りすぎた人間は回収しないと政府の人間に情報を横流しするだろう。

 書類の内容も判別して回収し、場合によっては事前調査から書き換え済みのものに置き換えたり、下手をすれば現場で捏造(ねつぞう)して置いていくわけだ。

 

 それら全てをキョウカ・ナカムラが行って、且つ完璧にこなせるか?

 答えはノーだ。彼女は強大ではあるが、個体という縛りを突破しているわけではない。

 

「資料が思ったより出るわ出るわって感じ。一応後ろに回しておこうか、多分予想より現地改竄(かいざん)の数が多い」

 

 比較的ゆっくりと歩き、わざと研究所の気を引き付けていたキョウカも、段々と目的には近づいていく。

 回収・改竄(かいざん)担当の業者には襲われてる当人たちも触れはしないが、念の為だ(どの道被害が出るなら、彼らだって証拠隠滅はしてほしい。奇妙なところだけ(こな)れるのが愚かな大人の特権である)。悪目立ちしておいて損はない。

 

 今回の施設の切り離しに関する課題はいくつかあるが、取り分け大きなネックとなったのが報告にもある”Punk Cicade”である。

 要するに報告どころか隠蔽し過ぎてまるで実態が掴めないオブジェクトがこの施設には存在しており、扱いをこれから考えなければならないのだ。

 

「だから嫌なんですよ、この手のお掃除って。ゆるゆるのテーロスの規律すら守れないのは、アウトローではなくただの怠慢(たいまん)です」

 

 しきりに報告されるルミネイトリソース反応の中心部、設備の内訳でも取り分け不明瞭(ふめいりょう)な握りつぶしが露骨だった部屋。キョウカは目前まで来て、扉を指でなぞって切り刻んで入り込む。

 

 薄暗い中から聞こえた声は、最初に案内してきたあの研究者だ。

 

「警戒されてるのは気づいてたけど、まさかガサ入れに遭うとは。残念だよ」

「私もです。IGNITERから逮捕状出てるらしいですよ、貴方」

 

 紙をヒラヒラさせてすぐにしまう。正式な指令が飛んできているようだ。

 研究者はそれを見るなりゲラゲラと笑い、不安を割くように手を振ってかぶりをつける。

 

「ミス・キョウカ。こちらの研究成果は直にこの方針をひっくり返せる、後ほんの数時間だ。時間稼ぎに協力した方がトータルはいいんじゃないかな」

「往生際が悪い人だなぁ。ま、聞くだけ聞いてあげますよ」

 

 そこらの座り心地の悪い診察台に座り込み、膝に肘をついて話を待つ。研究者は一人で大盛り上がりだ。

 

「謎を解こう。貴女は寄生核(きせいかく)の小型化の成功事例の時点で不可解に感じている、そうだったね」

「おや、そこまでは気づいていた? 割と筋がいいんですね」

 

 当然だよ、と笑っている。

 寄生核(きせいかく)は本来人間の拳大はあるそれなりの器官であり、到底蝉が保有できたサイズ感ではない。

 

 当該施設は小型化事例を実際に見聞させることで黙らせていたが、その詳細はイマイチ精彩を欠く説明が目立っていた。

 費用をおろした上層部もキョウカとしては呆れるが、体裁だけはまともだったのもある。

 

 下手をすれば、その科学的視座の欠落がキョウカ・ナカムラを此処に引き寄せたとすら言える。

 

「答えは間近で見た貴女なら察しているはずだ。彼らがどのような方法で生み出された存在であるか」

「んー…………」

 

 目線をそらしてわざと悩むフリをした後に、唇を手袋越しになぞる。

 

「遺伝子。DNAの改竄(かいざん)かな、寄生核(きせいかく)の外付けじゃない…………彼らは”融合体(ゆうごうたい)”ではなく”融合獣(ゆうごうじゅう)”」

「Magnificent! その通り、外付けの寄生核(きせいかく)なんか持っちゃいない。彼らはDNAを改竄(かいざん)された存在だ、それを”憑依(ひょうい)”とかいう魔法少女も居るが、全く科学的見地として誤りだと思うね。そんなオカルティックなことはない」

 

 結論ありきで話すならケースバイケースだろ、とキョウカは内心思った。だが自白はサンプルが多いほど良い、泳がせておく。

 

 つまるところ、これは移植実験ではなく交配実験だったのだ。そして憑依(ひょうい)、等というワードを用いる融合獣(ゆうごうじゅう)に関わる存在というのは極限られている。

 古代からの粘着質は中々精算が終わらない、キョウカは、その経緯は面白く思った。その煽動者(せんどうしゃ)はかの彗星が残した青褪めた残響を引き継いでいる。

 

 希望とは妄執(もうしゅう)だ。事実に乖離した自己正当化をベースに持つ希望の形は、歪となり、そして研究者自身の声で暴露される。

 

「Punk Cicade。古き融合獣(ゆうごうじゅう)のハイブマインドを強制的に開かせてもらった」

「バカですね」

「やがて天才になる」

 

 キョウカは既に結論に達しているが、古き融合獣(ゆうごうじゅう)はフェーズ移行どころか現行世界の最有力資源であるルミネイトリソースを持ちえない。

 となると、彼らの発するエネルギーは供給源を持つということになる。もしあの蝉達自身を消し去れば、その散逸していたリソースは供給源へ戻り。

 

 未だこの土地の想像したことのない”力”が具現化することだろう。

 

「キョウカ、今から協力をしよう。この力はテーロスすら支配する、私達は必ず世界に新たな権威を知らしめるはずだ」

「やってみるといい。自信作なのでしょう? ”それ”が」

 

 亜麻と翠。項垂れて拘束されている少女こそが、Punk Cicadeにまつわる最後の切り札。

 キョウカの推論は酷くシンプルだ。

 

 その少女は某区(それがしく)で”生き延びた”それと、無意識か、偶々か、運命か。それはさておき、融合体(ゆうごうたい)としか言えない何かとして共生を果たしたのだ。

 まさしく太古と反芻(はんすう)の化身。ケースは非常に稀だがキョウカは知っている。

 

「もちろん。これがフェーズ3の初の人為的移行事例だ、歴史的快挙を味わってもらう」

 

 少女の首輪が赤いラインを黒の上に描き出し、血反吐を吐きながら這いずり回る。

 

 変態。翅に似たドレスを展開、無数の袖先の鈴が共鳴し、周辺ハイブマインドを半径4.5km以内で統一。暴走。

 変態。前肢の複数化、並びに量子力学的格納。塑像の多重展開と同時に”音”の発生、強制催眠により五感感知不可能。

 変態。肢体全ての二重骨格の形成、皮膚上を覆う外骨格の多重展開。リソース防護を展開し強度急上昇。

 変態。全身のルミネイトリソースとの相互循環変換。思考及び動作のリソース純化完了、動作不鮮明により自我の一時的喪失、及び頸部のハイブマインド式チョーカーによる強制統制。

 

 完全変態。彼らはそれを”魔法少女セブンデイズ“と呼んだ。

 しかしキョウカは鼻で笑い、目を細める。

 

「死に損ないの古き融合獣(ゆうごうじゅう)か…………これが反芻(はんすう)自己再定義段階の融合体(ゆうごうたい)? 馬鹿馬鹿しい」

「言ってくれる。生き延びてから御託は並べることだ」

「生き延びると言わず、終わらせてやろう。本物は”こうやる”」

 

 わずかに瞳が輝き、世界が無機質な悲鳴で包まれた。爛れるような紅色で、瞬く間に景色が覆われ暗くなる。

 

 反芻(はんすう)自己再定義段階。フェーズ3とは自己の再確認であり、即ち集合無意識からの帰還を条件の中心とする。

 瞬く間に体を引き裂き現れた無機質な血の色の怪物が、そのまま喚き散らして寄生核(きせいかく)同士を音叉(おんさ)のように共鳴させる。

 襲いかかるセブンデイズを咆哮だけでいなしきるなり、そのまま体が明滅し非物質化。還元し、それを繰り返して半透明に変化していく。

 

 セブンデイズに無数の重力が降り注ぎ、その重力の波がセブンデイズの腕によって全て破壊され続ける。

 その間にも怪物は鳴動した。叫んだ。世界をあらん限りに祝福し、止めどなく呪い、限りなく願い。

 

 そしてそれは形となる。まばゆいリソース反応と悲鳴の中から現れたのは、すっかり今までと変わりないキョウカ・ナカムラだった。

 しかしそのジャケットは丈を膝まで伸ばし、輪郭のそこかしこは赤黒い残光を放ち、まるで今にも消えそうな陽炎としてリソース反応を繰り返す。

 

「フェーズ3、フォーマル・ランゲージ…………! ハッタリではないか!」

「希望とは願い生まれるのではなく、彗星のように現れ去りゆくだけのものだ。子供に下らない妄想を押し付けるんじゃない」

 

 動作の起こりは研究者には理解すらできなかった。

 ただ拳が振り下ろされ、セブンデイズの多腕が車でも持ち上げているかのように受け止める。同時にセブンデイズの足元が砕けていき、凄まじい振動がキョウカごと巻き込んでセブンデイズの周りを弾けるように伝っていった。

 

 横から無数に飛ぶ斬撃は、七色すら手ぬるい不明な光を放ってセブンデイズを粉微塵にしまいと迫っている。

 瞬く間に余る四肢が切り落とされ、浮いた体をキョウカの捻られた下半身の蹴りが空中で命中。そのまま施設の壁を幾重にも貫きながら異形の肢体は弾き飛ばされて行った。

 

「何だそれは」

「フェーズ3。お望みの希望だよ、クグルギ博士」

「全く違う! エゴイズムの塊だ、お前の為にお前が動いているだけ! 人々がアズールスターに見た可能性も、光も何もありゃしない………!」

 

 で?

 

 研究者…………クグルギを蹴り上げ、這いつくばらせる。横から走り寄るセブンデイズは指を鳴らすだけで地面に叩きつけられ、そのまま色彩不明の力学球体を濁流のように浴びせ続け、全ての四肢を再生した側からちぎり飛ばす。

 

 セブンデイズは全身をリソースに還元する都合上、先定優位性を持って体が再生し続ける。量子力学の格納も突破は難しい。

 

 ならばどうするべきなのか?

 シンプルである。再生が無駄であるほど高速で切り刻めばいい。

 

「エゴイズムだとも、星野アカリもそうだった」

「そんなはずがあるか! 彼女は確かに人々の希望に…………そう、誰もがそうなれるはずだ!」

「落ちゆくだけの星を愚かにも美しいなどと宣い、託し、無責任に傍観した。我々は間違えたのだということがまだわからないのか。クグルギ」

 

 チョーカーを破棄、セブンデイズを無理やり活動不能に落とし込むと重力の渦に押し込めてすり潰していく。

 これが希望を外に求めた人間と、求められてしまった子供の末路だとでも言うのだろうか。

 

 その通りである。なぜ自助努力すら他者を介して行おうとしたのだろうか、与えられるものであって求めるものではなかっただろうに。人は大きすぎる力を見たが故に、それに与えられた衝動を最早制御できなくなっていった。

 

 その惨憺たる結末がこれであり、間違いは正されるように出来ている。

 

「殺すのか」

「裁くのさ、組織が」

「殺せ」

 

 溜息は深かった。

 魔法少女は大人になろうと足掻くのに、大人は子供に留まろうと必死だ。何も変わりはしない、彼女達だけが進もうとも。彼女達だけが守ろうとも。

 

 守られる側には、相応の態度と制約がある。

 

「お前はお前で己を助けろ。生憎私は誰も”お人形さん”にはしない」

「人形だと…………?」

「ウェットフラワーに感謝することだ」

 

 そう言いながら顔を殴りつけ、いやもう一度。まだもう一度。意識は既に失われ、キョウカは小さく一人でつぶやいた。

 

「貴女の涙は投資に値しましたよ。見事です、アレイ・レッドフィールド」

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