「つまり…………テーロス機関の尻尾切りに使われちゃったんだね、カフカは」
「そ~~~~~なんですよ~…………! もちろん、逮捕できないよりはいいんですけど、いいんですけど~!」
行きつけのカフェでアレイはカフェオレを啜っていた。飲む勢いが凄いので、啜ると言ったほうが明らかに適切だ。
向かいで項垂れて拗ねている桜色の髪の東洋人が、かの極東の”IGNITER”の
年甲斐もなくまくまく暴飲暴食に耽りながらため息を付くカフカに、アレイはキョウカを思い出すなり”人によるんだなぁ”などと失礼なことを考えている。
「実際クグルギ博士は随分と日本で非合法なことをした結果として逃げてきたので、今逮捕できたのは色々といいことなんですが…………他ならぬ京香さんに責任を問いつめきれませんでした。こちらも強気に出れない状況でしたし」
「大人って大変なんだねー、私ハイスクール通ってるからよくわかんないや」
それで良いんですよ、と疲れた顔で笑うカフカに少しアレイは同情した。
どうやらカフカはキョウカにリークされたことを受けて国際間で同意を得た後に来日し、近年の蝉を使った
そのキョウカが、恐らくクグルギと同じテーロス機関所属なのだから事態は複雑だが、アレイの言う通り要は尻尾切りなのだろう。クグルギはやりすぎたのだ。
事実、施設にカフカが押し入ってもキョウカとの関与どころか、テーロス機関の尻尾すら掴むことは出来なかったらしい。
「絶対関係有るの分かってるのに~! 嫌になるなぁ」
「まぁまぁ、カフカは急ぎ過ぎなんだと思うよ。今まで無理だったのに、偶々縁があったからって上手くいくわけ無いって」
「子供に言われる台詞じゃない~…………」
そう言いながら食べることはやめないのが、アレイからすると最早何らかの病気めいていて少し引いている。
「アレイさんは変なことされていませんか? 京香さんはろくな大人ではありません、あまり教わったことととかも鵜呑みにしてはダメですよ」
「うーん、多分カフカが思ってるよりは優しいし。真面目に喋ってくれてたと思うよ?」
そうだと良いんですが…………。
カフカのため息は止まらない。アレイは気にしないので良いのだが、料金を持ってもらっただけではなく連絡先まで貰ってしまった。
まあ、
「それで、私を助けた目的って何。あんたって、いかにも理由がないと動かないって顔してるわよ」
「心外だなぁ。まあ、目的はあるけど」
目的あるんじゃん、とルーシーは溜息を付いている。
彼女は戸籍上死亡しており、どの道アメリカに在籍させように無理がある。一旦キョウカの母国に持ち帰って保護しよう…………というのがキョウカと機関の考えらしい。
現在はフライトに備えた空港内。待ち時間が暇で暇で仕方なく、あまり好きではないキョウカ相手でも仕方無しにルーシーは暇つぶしに会話をしていた。
「目的は単純、ルーシーさんには
「は? シンガーソングライター? 本気?」
冗談で言うわけ無いだろ、とキョウカはニヤけづらで返す。
「
「まさかプロバガンダに使われろって? 嫌よ私、アレイに見つかりたくないし」
ルーシーからすれば、自分のいないまま回っていた1年半で起きた出来事なんか知らないし、知ったことでもないというのはごもっともな意見だ。
何より、彼女はアレイに自分の生存を露見するのを恐れていた。キョウカへの同行をしぶしぶ承諾したのもそれが大きな要因である。
死人が目の前に現れたところで、生きている人間は戸惑う以外にどうしろというのだ。彼女はしきりにそう考えており、特に目の前で別れてしまったアレイの負担になるようなことは避けたかった。
「ルーシーさん。今でもアレイさんは貴女のことを覚えているし、きっと会いたいとも思っていますよ」
「でも、居たら迷惑だって」
「迷惑だと思います。でも、それ以上に嬉しいかもしれないし、貴女は未来を見てきたわけでもないでしょう?」
返す言葉はない。結局実行するのを恐れているのは相手ではなく当人であることに変わりはない。
人のため何のためとは言いつつも、大抵は結局自分が欲求の中心にはある。ルーシーはアレイに対して危惧することがあるように、それを上回る勢いで自身がどう思われるかについて恐れていた。
ルーシーには家族と、彼女ぐらいしか今までに支えはなかったのだろう。
「…………ふん。で? そっからどう説得しようって訳」
「まあ私も何でもかんでも軟体動物みたいに提供できませんが、社会復帰の第一歩としてシンガーソングライターはどうですか?という話です。テーロスって研究はアホみたいにやってますけど、こっち系の事業はどうにも話を聞かない。あるのかもしれないけど」
第一歩のハードルがデカすぎやしないか、とルーシーはキョウカを睨めつける。
「いやいや、私は別にイジワルを言ってるんじゃなくて。実はあの研究所で貴女の歌声を聞かせていただいたんですよ、勝手に」
「は!? ちょっと、忘れろ!」
「いえいえ、良い歌声でした」
そういう問題じゃない、と掴みかかろうとするルーシーをキョウカはひょいと簡単に避けてしまう。
フライト前に戯れている親と子供のようでもあった。
「貴女のように何かを恐れたり、怯えたりしている人に寄り添える仕事だと思います。アレイさんではなく、まずは見ず知らずの人に伝える練習をしてみましょうよ」
「…………言いくるめようとしたでしょ」
「あっ、バレた? まあでも立場を保つのが難しいから、出来ればやって欲しいな」
結局魔法少女セブンデイズ、古き
偶々
そこにあるのは蝉を司る古き
キョウカ・ナカムラが切って捨てたとおりである。
「希望は訪れるもので、作ってどうにかしようというものではないんですよね…………アズールスターは去ったし、魔法少女も後釜に収まろうってわけではない……」
「また難しいこと言ってるわね。あんた、何言ってるかわかんないってよく言われない?」
「まあ難しいか。でも色んな人が協力して仕事はするものだから、不必要に人を貶めたり、隠し事をして進めてはいけないんですよ。これは表の社会でも共通するから覚えておいてくださいね」
結局難しい話なので、ルーシーはため息を付く。
「…………はぁ、知らないわよ。まあ、協力してあげる、恩はあるし」
「やったー!」
「でも、嫌なことはさせないでよ? 私は普通の子供なんだから」
子供に無茶させるわけ無いじゃないですか、とキョウカはケラケラ笑い、同時に飛行機の到着のアナウンスが入った。