――余話 1 ~真城家~
「美保ちゃん、おみやげ」
帰宅した真城が、夏葉の匂いをさせながら一冊の本を渡してくれた。
「わ、『遥かなる薔薇のレジェロ』の五十巻! 嬉しい! 心配していたけれどちゃんと刊行されたのね」
「最後のページ見てごらん」
「ん? うわあっ、えっ、これ、私?」
そこにはキャラクターの衣装を着た美保の似顔絵。
「スマホの写真見せて描いて頂いた」
「イベントか何かだったの? 先生お元気なのね、良かった。ありがとう、宝物にするわ!」
――余話 2 ~高木家~
「どしたの、険しい顔して」
「え、私、そんな顔してた?」
「心配事でもあるの?」
「うぅん、ほら、結果オーライだったけれど、先生が辛い目に遭った部分を思い出して、ションとしちゃってた」
「カヤちゃん優しいな」
「てへ、それほどでも~~」
危ない危ない。
カヤは背を向けて食後のコーヒーを入れる。
我が夫は危機一髪だったのだ。
天宮先生の声は『1/fゆらぎ(エフぶんのいち ゆらぎ)』だと思った。
人の心を魅了する波長、人気漫画に出て来た時に興味を持って、一時期熱心に調べた。
そして後から話し始めたあの兎って女性の声……
本人は意識していないんだろうけれど、先生と一緒じゃん!
ゾッとした。夫が一対一であんな女性と会話していたなんて。
無事戻ってくれて、本当に良かった。
(中井さん、よく踏ん張れたなぁ……)
――余話 3 ~中井、某編集部にて~
「うん、いいと思います」
某出版社、編集部の一角。
かしこまって座る中井。
七峰の事務所で描いていた読み切りが我ながらの出来だったので、今まで意中に無かった中小の出版社に持ち込みに来てみたのだ。ちなみに原稿は初めてのデジタル。
「もう少し高い年齢層に向けて描く事は出来ますか? 青年誌なら原作付きコミカライズの口があるのですが」
「はいっ、どんなジャンル、絵柄でも対応します。何だったら少女漫画もOKですよ」
「頼もしいですね、……ここの背景はもしかして手描きですか?」
「アナログ畑なもので、ペンで描く方が手も慣れていて早かったりするんです。古くさいですが」
「そんな事ない、道理で見た事もない雰囲気があると思った。え、じゃあこの点描も手で打っているんですか、最高にエモいです」
「えもい、ですか……」
「はい、エモいです、僕は好きです、今度原画を見せて下さい。これからも宜しくお願いします」
「お願いしまっす!」
――余話 4 七峰の事務所
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『七峰透さんへ、本当にありがとうね!』
――ゴン!!
置いて行かれたコミックスを読み終わって最終ページで不意打ちされて、寝転がっていたソファから落ちた。
――余話 2の差し込み ~カヤ、ふと・・~
(でも私たち、もしも魔法に掛かっていたとしたら、一体いつからだったんだろう……?)
――余話 5 ~首都高分岐~
「先生、取りあえずどちらへ向かいます?」
「そうねぇ、北にしましょうか。これからの季節、何でも美味しそう」
「了解です。そういえば中井さんの故郷もそっち方面って言っていましたね」
「実家突撃しちゃいましょうか」
「鬼ですか、先生」
「ラーメン食べたい、狐ちゃん」
「はいはい待ってて、兎ちゃん」
ピンクのワーゲンバスは東北道の本線に入り、北の秋空へにぎやかに旅発って行った。
少し先の話をすると、『遥かなる薔薇のレジェロ』は七十四巻で完結となり、途中からは天宮山羊子の遺志も権利も相続した養子の天宮兎が、彼女の遺したプロットを礎に描ききった。
同じく養子の天宮狐も辣腕をふるい、最終巻まで出版社を経ない紙の本で世に送り出した。
のちに二人は秋田の山村に引きこもり、外伝の『リリーシャの魔法』を共著でのんびりと執筆し続ける。コアなファンの間で、リリーシャのモデルは天宮山羊子かどうかなんて論争が少しだけ起こった。
~リリーシャの魔法・おしまい~
2024 9 30
最後までお付き合い頂き、まことにまことに有難うございました。
ラストまで一気に走りきれたのは読んで下さった方々のお蔭です。
感想もありがとうございました。
返信下手ゆえ、ここにてお礼を述べさせていただくことで、お許し下さいませ。