やっぱりビアンカは人気だなぁと改めて実感しましたね。
酒場の店主に頼んで個室を用意してもらった。
こう言った話は誰が聞いているか分からない場ですることではない。
店主は快く個室を用意してくれた上、私が好きな小魚のフライをサービスしてくれた。ありがたくいただく。
「それで、相談って?」
「……その前に、ずっと言わなければいけないと思ってたんです。
カボチ村ではご迷惑をおかけしました」
「……あんた、あの後」
「はい、やっぱり村の人たちに謝りたくて。
そしたら、既に謝罪は受け取ってるって言われて……」
聞けばアベルはカボチ村に謝罪しに行き、私が村長たちに啖呵切った甲斐があってか謝罪は受け入れられたらしい。
「村の人たちはデボラさんに申し訳ないことをしたと逆に謝られてしまいました。 それで俺にもしまた会ったら謝罪と感謝の言葉を伝えて欲しいって」
「……あんたも馬鹿ね」
折角、嫌な思いをさせないために手を出したというのに……まあ、何もしないというのはアベルの性に合わなかったのだろう。
「デボラさんも態々悪役を演じる必要はなかったんじゃないですか?
ルラフェンでも貴女の名前を聞きましたよ」
「ああ、あそこもたまに遊びに行くところだから、それなりに知られててもおかしくはないわね」
ルラフェンは町が入り組んでるから、暇を潰すにはもってこいの場所だ。
だからそれを利用して悪どい連中もいるわけで……教団を自称する連中が何かしようとしていたので全員叩きのめしたこともあった。
「それなりに、どころじゃなかったですよ」
「そう? まあ、町が平和ならそれでいいわ」
グラスの酒を空にして追加で注文する。
余談だが私は酒で酔ったことがない。所謂ザルというやつだ。
対してアベルは酒に飲みなれていないのか、少し赤くなっているようだった。
明日はプロポーズする日だし酔い潰してはいけないと水を注文しておく。
「そろそろ本題に入ろうか。あまりフローラを待たせて機嫌を悪くするわけにもいかないし」
「あ……そうですね」
アベルは配膳された水を飲み干し口を湿らせてから本題を口にする。
「実は……結婚相手のことで」
「……まあ、それしかないわよね」
「こういう話をするのはあまり良くないんですけど……本当はルドマンさんに『てんくうのたて』を譲ってもらえないか頼む予定だったんです」
「『てんくうのたて』ね。 パパが家宝にするって言ってたあの盾ね。私が持ち出したこともあったわね」
「え"っ!?」
「昔はそのまま飾ってあったけど、私が持ち出したことがあったからそれ以来宝箱に鍵をかけて管理することになったのよね」
装備は出来なかったけど、マホカンタを覚える練習になった。
傷はつけなかったからそこまで怒られなかったけど。
「つまり『てんくうのたて』が欲しかったからフローラと結婚する決意を固めた……ってことでいい? 姉としてはちょっと複雑な気持ちね」
「すいません……」
「でも、フローラに惹かれなかったわけじゃないんでしょ?
フローラのアベルを見る眼は惚れた眼をしていたし、アベルもビアンカさんと再会するまでは結婚する意思があった。違う?」
「……ええ、フローラさんとはサラボナに着いた時、犬のリリアンを追いかける彼女と出会った時、不思議と惹かれる様なものがあったのは確かです」
フローラとの出会いのイベントは原作通り行われたらしい。
リリアンもフローラを振り回す程度には元気なのよね。私が散歩に連れて行くとリリアンは尻尾をブンブン振りながら走り回る姿が可愛いのだけど。
「それで『水のリング』を探しに行く時に水門を管理している山奥の村で……十年ぶりに幼馴染だったビアンカと再会したんです」
「十年ぶりね。 それだけ離れ離れになっていたのに、こうして巡り会えるのは運命か何かかもしれないわね」
「……そうかもしれません。十年ぶりに会った彼女はとても綺麗になっていて……生きていてくれて……」
アベルが感極まったのか泣き出してしまった。お酒が入っているせいもあるからだろうか?泣き上戸?
正直泣くとは思ってもいなかったので私も軽く焦っている。
「ほら、これを使いなさい。我慢しなくていいから」
事情は原作知識で知っているが、私は知らないことになっているので背中を摩ってハンカチを差し出す程度で済ませておく。数分もすれば涙も収まった。
「すいません、何から何まで……」
「別にいいわ。その十年でアベルに何があったのかは知らないけれど、そうなるだけの何かがあったのは分かったわ。
それでビアンカさんと『水のリング』を探し出して帰ってきて、現在に至るわけね」
「そういうことになります。
それで、デボラさんがルドマンさんにお願いしてくれたお陰で考える時間はじっくり出来たんですが……何が正解か、どうしたらいいか分からなくなってしまって……」
確かにアベルの気持ちはよく分かる。
原作においても運命の選択とだけあって悩む人は多かっただろう。
幼馴染かお嬢様か。究極の選択でもある。
ゲームであればセーブデータを二つ用意して別データでそれぞれ結婚、というのも可能だったけど、ここは現実だ。そんなことは出来ない。
だから、私に出来るのは──。
「……アベル、あえて私はあんたが誰を選ぼうと思っているかは聞かないわ。
でも、これだけは言える。自分の信じる道を選びなさい」
アベルの両肩を掴んでジッと目を合わせて告げた。
するとアベルの顔がまた赤くなる。また酔いが回ったのかな?
とはいえ、大事な話だから続ける。
「多分、ビアンカさんとフローラ、どちらを選んでもアベルの歩く道は変わらない。
でも、その人生という道を歩く時、隣に立っていて欲しいと思う相手を選びなさい」
「デボラさん……でも」
「なに?もしかして選んだ後のことでも考えてる?
それなら心配しなくてもいいわ。パパはアベルのことを気に入っているから、例えフローラを選ばなくても結婚式を受け持ってくれるはずよ。いや、やらせるから安心しなさい。
それとそうね。『てんくうのたて』もなんとかしてあげるわ。どういう事情かは話してもらわないと分からないけど、協力出来ることはしてあげるわ」
これが私に出来る最大限の後押し。
原作においてはパパがなんだかんだで『てんくうのたて』をアベルに渡すことになるが、この世界ではどうなるか分からない。
なら、原作にいない私がこの世界を救う主人公たちのために一肌脱ぐぐらいは構わないじゃない?
すると、アベルの顔から憑き物が取れたようで、酒場で会った時よりスッキリとした表情をしていた。
「ありがとうございます、デボラさん。 俺、決めました」
「……そう。 なら、もう休みなさい。明日は大事な日になるんだから」
「あ、なら会計を──」
「それぐらい私が払うわよ」
「で、でも──」
「ちょっと早い結婚祝いだと思いなさい。 遠慮したら──分かるわよね?」
軽く睨みつけてあげれば、アベルも理解したのか素直にこの場を譲り、再びお礼を言って宿屋へと帰って行った、
「……こういう時、酔えないのは損よね」
帰ると言いながら酒を追加で注文し、もう少し飲んでから帰ることにした。
今日は前祝いだということでフローラにも許して欲しい。
そして、運命の日がやってくる──!
いよいよ次回プロポーズです。
感想、高評価、お気に入り登録よろしくお願いします。