予想より長くなってしまった。
ラインハットへと向かう道中の地下通路で「昔、ここで父さんに肩車してもらったんだ」というエピソードを聞いた。
「どう?大人になってお父さんの肩から見る景色と、今の景色は変わった?」
「……そうだね、父さんの肩の上から見た景色が忘れられない、かな。
思えばあれが最後の親子としての時間だったかもしれない」
また少しセンチメンタルになってしまったアベル。こればっかりは仕方のないことね。
ただ、アベルには前を向いて欲しい。私たちのこれからのためにも。
「……ねえアベル。私を肩車してみない?」
「えっ!? ど、どうして?」
「私って、パパに肩車してもらったことないのよ。 ほら、一応お嬢様だったし」
一応は余計かもしれない……と思ったけど、私よりもフローラの方がよっぽどお嬢様してたから間違ってないはず。
「そっか。そういうことなら任せてよ」
屈んでくれたアベルの肩に乗り、肩車は無事成功した。
こう視点が高いと普段見える光景とは大分違って見えるわね。
「大丈夫?重くないかしら」
「そんなことないよ。 鍛えてるからね」
私1人を肩車して余裕がある程度には力があるらしいアベル。どこか誇らしげね。
「いい景色ね」
「そうだね」
ちょっとだけ良いムードになった気がするわ。 ……そうだ。
「ところでアベル。私の太ももの感触はどうかしら?」
「ああ、すっごくスベスべ……ええっ!?」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。 これはご褒美よ、うりゃっ」
太ももでアベルの顔をサンドイッチする。名付けて太ももぱふぱふとでも言うべきかしら?
「デ、デボラ! 危ないよ!!」
「あら、その時はアベルが助けてくれるでしょう? 今のうち私の太ももを堪能しなさい?」
「ちょっ……うぶっ」
なんだかんだで抵抗しないアベルは可愛かった。
程よく揶揄ったところでアベルから降りて、再びラインハットへと歩き始めた。
「あー、楽しかった!」
「あはは、それなら頑張った甲斐があったよ」
そう言うアベルの顔は真っ赤だ。これでアベルは太ももの良さも知ったに違いない。次する時はその辺を意識してみようかしら?
おっと、それはそれとして……。
「私たちに子供が出来たらあんな風に肩車してあげると良いわ。
きっと喜ぶわよ」
「……子供、か。 そうだね。僕も父さんにしてもらった様に肩車とかしてあげたいな」
これで過去の思い出が良い未来への道標になったかしら?
やることはやっているから時期的にはまだだけど、原作のままならグランバニアに着いてから双子が産まれるはずだから……って、よく考えたら本当に双子が産まれるのかしら? 私、原作にいないし、双子が産まれるとは限らないわよね?一人っ子の可能性もあるわよね?むしろその方が高い気が……。
……まあ、そういうのは産まれてから考えればいいわね。いずれ子供が生まれることには違いないし。
そんな話をしながら、道中何度か魔物との戦闘があったものの無事ラインハットへと辿り着いた。
余談だけど、この辺りの魔物は弱いから新技を試す予行演習の様なことをしてみた。
具体的にはメタリンを思いっきり敵に投げつけてメタ・ストライクとかなんちゃって合体技を繰り広げたりしてる。
ピエールも乗っているスライムを叩きつけて会心の一撃を出すことがあるから、間違っていないと思う。 メタリンはメタルスライムだし、身の守りが攻撃力になれば協力この上ないからこの技は成功だと思う。
……ただ、メタリンが私を怯えた目で見る様になってしまったのは申し訳ないとは思ってる。いや、相談せずにいきなりやった私が悪いのだけどね? これにはアベルにも相談無しでやらないであげてと怒られたわ。反省。
ラインハット城に来るとアベルの顔は知れ渡ってる様で、顔パスで通された。 にせ太后を倒して魔物に支配されかけてたラインハットを救った英雄だもの。当然と言えば当然よね。
「アベルじゃないか! 新婚生活はどうだ!?」
「アベル様、お久しぶりでございます」
会いに来たのは当然ヘンリー夫妻。この3人も奴隷時代からだから10年の付き合いになるのかしら? マリアだけ後から加わったとは思うのだけど、それでもそれなりに長い付き合いなのは間違いないわね。
「デボラ様も改めて結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。 ああ、様は付けなくても結構ですよ。どうぞデボラとお呼びください」
「まあ! なら私のこともマリアと呼んでください」
「ええ、喜んで」
これでも一応一通りの礼儀作法は出来るわ。フローラほどじゃないけど、ね。
それからヘンリーとアベルを交えてしばらく雑談というか嫁自慢や、冒険の時の話になったり、話題は転々としながらも楽しい時間を過ごした。
「アベルは本当にすごいやつなんだよ、デボラさん。 デールの母親に化けてた魔物を一刀両断したんだぜ?」
「ヘンリー、そんなに持ち上げなくても」
「あら、アベルがすごいことなんてとっくに知ってるわよ? なにせ、私の夫だもの」
「まあ! 本当に良い方と結婚されましたね、アベル様」
「ありがとう、マリア。 ヘンリーもマリアとの新婚生活が上手くいってるみたいで良かったよ」
「はっはっはっ! 嬉しいことを言ってくれるじゃないか!」
楽しい時間はあっという間に過ぎていって日が落ちる頃、ヘンリーから「良ければ今日は泊まっていったらどうだ」という提案をありがたく受け入れて、今夜はラインハット城で過ごすことになった。
「ヘンリー王子とマリアさん、とっても良い方達ね」
「ああ、自慢の親友たちさ」
アベルが誇らしげにそう言った。
長い付き合いだもの、当然よね。
だから……
「ちょっとだけ妬いちゃったわ」
「え?」
「だって、長い付き合いでしょう? 今日も私の知らないアベルをいっぱい聞かせてもらったわ」
「そ、それは……そうだけど」
ちょっとあたふたするアベル。 そんなところも可愛いと思えるぐらいに私は女になってる。
「ふふっ、冗談よ」
アベルにそっと近づいてキスをする。
……流石に他人の城でことに及ぶわけにはいかないので触れる程度の愛のキスを。
「これから知っていけば良いもの、ね?」
「……勿論だよ、デボラ」
「じゃあ、折角だから……これで乾杯しましょう?」
私の手には一本のワイン。それにグラスも。
「ヘンリー王子が良い銘柄のを用意してくれたみたいなの。おつまみも用意してあるから、今夜は語り合いましょう?」
「ヘンリーったら……。 分かった。酔い過ぎない程度にね?」
「それは当然よ。 酔って記憶を失ったら折角の語らいが台無しよ」
互いに笑い合って、酒を飲み交わして、夜は更けていった。
☆☆☆☆☆
翌朝、出立の頃。ヘンリーたちが見送りに来てくれた。
「いよいよ勇者を探す旅か……。 オレも一緒に行きたいところだけど マリアがいるしな。
まあたまには遊びに来てくれよ。お城の暮らしは退屈でさっ」
「ありがとうヘンリー。 君も元気でね。それにマリアも」
「はい、アベル様、それにデボラも。この国から2人の武運をお祈りしています」
「マリアもね。 次に会う時は互いに子宝に恵まれているかもしれないわね」
少し揶揄ってみるとマリアだけでなくヘンリーも顔を赤らめていた。 案外初心な関係だったのかしら?
……おっと、旅立つ前にこれを渡しておかないといけないわね。
「そう言えばヘンリー王子、実は私のパパから手紙を預かっていたのでお渡ししておきますね」
「ん? ルドマンさんからか。 後で確認しておきますよ」
「よろしくお願いします」
そうして、私たちはラインハットを去り、次なる目的地に向かうべくビスタの港へと戻って行った。
次は……そうね、折角だし少し遊んでいくのも良いかもしれないわね。
目指す場所はカジノ船よ!
☆☆☆☆☆
「ヘンリーさん?」
「ははっ、アベルは本当に良い奥さんを持ったよ」
ヘンリーの手にはデボラから手渡されたルドマンからの手紙……ではなく、デボラの手紙があった。
そこにはサンタローズの村の復興が上手くいっていない現状がこと細やかに書かれていた。
ヘンリーもラインハット王デールもあの様な惨状にしてしまったサンタローズの村に心を痛めており、元の治世に戻ったラインハットから復興のため人員を割いたのだが、結果は村人たちに拒否されたという実態があった。
不本意だったとはいえ、村を滅ぼした元凶に手を差し伸べられて信用出来るかと言われれば出来ないだろう。
その為、ラインハットから出来ることは無かった……と思われたのだが。
「この手紙、ルドマンさんからじゃなくてデボラさんからだったんだ」
「まあ。 なんて書いてありましたの?」
「なに……サンタローズ復興のためにラインハットが直接手を出すのではなく、ルドマンさんたちの商会から支援させればいいってざっくり書いてあるんだよ。 結婚相手の故郷を救うため、祝儀代わりと銘打てば村人は受け入れてくれるだろうって。
協力してくれるようにって手紙をルドマンさんにもこの後届く様にしてくれてるらしい」
「……それは」
「デボラさんには頭が上がらなくなっちまったよ。 ……後は俺たちの頑張り次第ってところか」
ヘンリーは肩を回して気合を入れる。
親友の故郷のため、贖罪のためヘンリーはアベルとは違う戦場へと臨んだ。
☆☆☆☆☆
「……頑張りなさいよ、ヘンリー王子」
「デボラ? 何か言ったかい?」
「いや、次に行く場所が楽しみねって話よ」
転生デボラさんは利用出来るものはなんでも使います。
多分、青年期後半にはサンタローズの村から毒沼が無くなって破壊された家屋が修復される程度には復興している……かもしれません。
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