「見えた!あれがグランバニア城だ!」
「近くで見ると思っていた以上に大きいわね……高さ何メートルあるのかしら?」
グランバニア山を越えて、一度野宿をしてから私たちはようやくグランバニアへと辿り着いた。
正直、今までで一番険しかったかもしれない。なんだかんだひとりで冒険していた時もここまで苦労したことはなかったし。
それでもこうしてみんなで目的地にたどり着いた時の高揚は一人では味わえなかっただろうなという確信はあった。
冒険……やっぱいいわよね。転生者がなりたい職業ランキング上位に入るだけあるわ。(デボラ調べ)
……とはいえ、おそらく私はこのあたりで戦線離脱は確定かな。 原作でアベルの妻が離脱するのはグランバニアに着いて妊娠が発覚してからだから、そろそろお披露目の時期ね。
スミスに気づかれていたのには驚いたけど、アベルたちは驚いてくれるかしら? とりあえず、オジロン王の前で倒れたりしないように気をつけないとね。
でもその前に……。
「アベル、グランバニアに着いたら最初にサンチョさんを探すんでしょう?」
「ああ、そのつもりだよ。 まさかサンチョの話を偶然きけるとは思わなかったよ……」
原作においても山を抜けた出口にいる人物がこんな会話をする。
『あの人は無事に着いたかなあ……。 もうずいぶん前の話ですが、サンチョという人がここを通ってグランバニアにむかったんです。 なにやら淋しそうで、妙に気にかかりました』
それからアベルはどこかそわそわしていたように見えた。
父親であるパパスは亡くなってしまったけれど、かつて世話をしてくれていたサンチョの生存はアベルにとって嬉しい情報に違いない。早く会いたいに決まってる。
「アベル、聞いてた話だとグランバニアって城の中に国民が暮らしているって話よね」
「ああ、そう聞いているよ」
「じゃあ、あの城の外にある家って何なのか気にならない?」
原作を知っている私はさり気なくアベルを誘導した。
原作においてサンチョと合流しないとグランバニアの探索は十分に出来ない。合流前に探索出来るのは一階と三階庭園までだ。二階の兵の詰め所や武器屋、そして他の国と異なり玉座の間──その国の王と話すことが出来ないのだ。
そういう風になっているので、サンチョがどこにいるのかは住民から話を聞き辿れば城外の家にサンチョがいることが分かるようになっている。
ただし、グランバニアにたどり着いた時間がこの時期幅を利かせている大臣によって入城出来ない夜だったり、最初から城外の家に向かった場合はその限りではないのだけど。
「確かに……どうしてあそこにひとつだけ家があるんだろう?」
「もしかすると、入城前の受付場みたいな感じなのかもしれないわ。 城内に国民を住まわせているぐらいだから、外部からの来訪者を把握して記録する……みたいな?」
上手い言い訳が浮かばなかったからそれっぽいことを言ってみれば「そういう国もあるかもしれないね」と納得してくれた。正直助かった。
「ごめんください、あの……」
アベルが扉を開き家の主を訪ねる。 すると、明らかにアベルの様子が変わった。
中を覗き込めばシスターと恰幅の良い優しげな男性の姿があった。
男性──サンチョはまだアベルに気づいていないみたいだけど、アベルは気づいていた。
「あら?お客様がいらしたみたいね。 では私はこれで……」
シスターがこの場を後にし、いよいよ二人が対面した。
サンチョはアベルを見るとどこか見覚えがあるのか、記憶の引き出しから思い出そうとしているように見え……。
「はて?どちらさまでしたかな? ん?まさか……! もしかしたら……! もしやまさかっ!」
「……最後に顔を会わせたのは10年以上前だし、覚えていないかもしれないと……今の僕を見ても分からないかもと思っていたけど……」
「あ、ああ! ま、間違いない! マーサ様によく似たその瞳! アベル坊っちゃん!アベル坊っちゃんですね!!?」
「ああ、そうだよサンチョ。 久しぶりだね、本当に……」
「生きて……。生きていなさったんですね……。
どれ、もっとよくお顔を見せてください。本当に……立派になられて……」
二人が感極まって抱き合い再会を涙を流し喜んでいる。
……ああ、本当に良かった。アベルが家族と再会出来て。
思わず貰い泣きしてしまったけど、これだけは言っておいた方がいいことがあるなと思い、感動の場面に水を差すと分かりつつもそれを言葉にした。
「アベル、再会出来て嬉しいのは分かるけど、その前に言うことがあるんじゃない?」
「え……? な、なんだろう。色々と話したいことはあるんだけど──」
「アベル坊っちゃん、この女性は……?」
「私のことは後でいいわ。 ほら、
ここまで言えばアベルも気づいたみたいで、一度涙を拭きとって息を整えると元気な声で一言。
「──ただいま、サンチョ」
「──おかえりなさいアベル坊っちゃん」
ただいま。おかえりなさい。
ごくごく普通のありふれた言葉だけど、この二人にとって互いに10年以上待ち望んだ言葉でしょう。
アベルは10年ぶりにようやく帰る家を見つけることが出来た。
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