「……お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
「そんなことありませんよ。 なんていったって10年ぶりの再会なんですから」
サンチョはようやく涙が落ち着いたのか、恥ずかしいところを見せただなんて言う。
これの一体どこが恥ずかしいのだろう?そう思わずにはいられない。
互いに相手が生きているかも分からない中で10年という途方もない時間を過ごし、ようやく果たした再会。 前世でいうところの行方不明になっていた家族が生きていた、といえばより実感があるかしら。
そんな互いを想いあう涙が恥ずかしいわけがない。それは流れて当然のものなんだから。
「そう言っていただけると幸いです。 ところで坊っちゃん、そちらのお嬢さんは?」
「ああ、紹介するよサンチョ。 彼女はデボラ、僕の妻で……その、僕たち結婚したんだ」
1秒、2秒、3秒……とサンチョが固まって動かなくなってしまった。まるで時を止められたみたいに。 きっと脳が情報を理解するのに時間がかかっているのね。ただでさえアベルの生存という事実でいっぱいいっぱいなのに。
「ひゃー!坊っちゃんの奥さんですか!それも結婚! ああ……このサンチョ、坊っちゃんの晴れの舞台を見届けることが出来ず……ううっ」
「そうだね……サンチョにも見せたかったな……」
「また結婚式やる? サンチョさんも招いて。 パパなら多分やってくれるわよ」
祝い事なんて何度あったっていいわ。祝日が増えれば休日も増える……ってそれは前世でのことだったわね。
パパに「アベルの家族が見つかったから、今度は彼らの家族にも参列して欲しい」って言えばやってくれないこともないと思う。パパもアベルのことを気に入っているしね。
「いえいえいえ!それには及びませんとも!そのお気持ちだけ受け取らせてください!
それにしても、もう会えないかと思っていた坊っちゃんがこんな綺麗な奥さんまでお連れになって帰って来てくれるなんて……ううっ」
一度は止まった涙も、感極まると何度も流れてしまうってことあるわよね。
「とにかく坊っちゃんが帰って来たことをオジロン王に知らせなければ。 ……坊っちゃんも既にご存知でしょうが旦那様は……パパス様はこの国の王だったのです。 今はパパス様の弟であるオジロン様が国王になられていますが」
「父さんの弟……つまり僕にとっての叔父さん?」
「そうです。 叔父上になります」
「オジロン叔父さんでオジ被りしていますな」
「サイモン、シャラップ」
くだらないこと言ってるんじゃないわよ。というかいつの間に入り込んでいたのよサイモン。馬車で待機している手はずだったでしょ!
アベルもサイモンを見てため息吐いてるし。
「おや?そちらの方も坊っちゃんのお仲間でしょうか?」
「……ああ、そうだよ。 みんな、入って来て」
アベルの号令で外の馬車で待機していた仲間たちがぞろぞろと入って来て、それぞれを簡単に紹介した。
それを見たサンチョがまた懐かしいものを見るような目でアベルを見ていた。
「そうですか……モンスターを改心させ仲間に……。 坊っちゃんはやはりマーサ様の血を継いでらっしゃるのですね。 プックルの時ももしやとパパス様と話したりはしていたのですが」
「もしやって言うと、アベルのお母さんも同じことが出来たの?」
この辺りの会話は記憶にないわね。私がいることによる改変だったりするのかしら?
とりあえずはアベルの母に関する話だから、聞いておくべきよね。
「はい、マーサ様も不思議な力を持っていて、モンスターと心を通わせることが出来たとパパス様は言っていました。 なのであのキラーパンサーの子供を連れて帰って来た時は驚いたものです」
そんな裏話もあったのね。
「……父さんの手紙にもそんなことが書いてあったな。 じゃあ、僕にも……俺にも母さんと同じ力があるってこと?」
「おそらくは……」
「そうか……母さんとの繋がりがこんなところにあったなんて知らなかったなぁ……」
「アベル……」
きっともっと早くに知りたかったんじゃないかしら。
でも、パパスはそうしなかった。幼いアベルに「お前の母さんは攫われてしまった」なんて辛い現実を言いたくなかったのかもしれない。
もしかすると、もっと大きくなったら真実を伝えてアベルにグランバニアを任せて自分は伝説の勇者を探す旅に……もしくは一緒に旅を、なんてことを考えていたのかもしれない。
パパスが亡くなっている以上、本当のところは誰にも分からないけれどね。
「その辺りのお話もオジロン王はよくご存知のはずです。 なので坊っちゃん、私に着いて来てください」
そう言ってサンチョは立ち上がり私たちは後に続いた。
あ、仲間たちは残念ながらまだお留守番ってことになったわ。サンチョも申し訳なさそうにしていたけど、まずはアベルの素性を明かして危険がないということを証明してからってことらしい。
まあ、このグランバニア自体が城の中に敵を招き入れないための造りになっているから仕方ないのだけど。
さて、私はここからが正念場だ。
これから行なわれるオジロンへの謁見。多くの人が印象に残るシーンね。
ここでアベルに選ばれた花嫁は自己紹介もままならなずに倒れてしまい、その後介抱してくれたシスターによって妊娠が発覚する……というチゾットの村で倒れたことが繋がるシーンになっている。
私はチゾットの村で倒れないように対策を講じていたけれど、残念ながら体調を崩して寝込むという情けない結果に終わってしまった。
原作による強制力かもしれないけれど、元々私は原作に存在しない女──今度こそ、倒れずに自己紹介を終え、私の口からアベルに子供がデキていることを伝えるのよ!!
気合を入れていた私を余所に、サンチョの案内で私たちは玉座の間に連れられた。
ここまでの道中で多くの人からの視線を受けたけど、そのほとんどはアベルに向けられていたと思う。
この国に住まう人だからこそ解かるパパスとマーサとアベルの共通点というものがあるのだろう。 アベルはなんだかむず痒そうにしていたけど、慣れていって欲しいわね。
「おお、サンチョか。なにやらうれしそうな顔。いい事でもあったのかな?」
「実は王さま……」
「なんと!パパスの…兄上の息子のアベルが生きていたと申すかっ!
おお!その目はまさしく兄上の奥方マーサどのに生き写し! あの時の赤ん坊がこれほど立派に成長して帰ってくるとは……。
申しおくれたが わしはそなたの父 パパスの弟のオジロンじゃ。 してとなりにいるこの美しい女性は……?」
さあ私の出番だ。 今のところ倒れたりするような感覚はない。少し張ったお腹も違和感はなく、足取りも確かだ。
これなら大丈夫そうね。
「はじめましてオジロン王。 私はアベルの妻、デボラと申しま──」
あっ──急に意識が遠のく感じが──。
消え去りそうになる意識の中、ふと視界の端に──隣にアベルがいることに気づく。
倒れそうになる身体を残った意識を総動員して前方ではなく隣にいるアベルの方へと体重をかける。 そうして咄嗟にアベルに寄りかかり、なんとか倒れるのを堪えた。
「デ、デボラ!?」
「……ごめんなさいアベル、少しめまいがするみたい。 少し休ませてもらってもいいかしら?」
こうして私たちは謁見もそこそこにオジロン王が用意してくれた部屋へと案内され──遂に妊娠を伝える時が来たのだった。
ちなみにアベルはデボラを気遣って部屋までお姫様抱っこでデボラを運びました。
転生デボラさんは前世含めて初めての体験に嬉し恥ずかしで真っ赤になって顔を隠していたとのこと。現場からは以上です。
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