ゲマ。アベルの父パパスを殺し、アベルに過酷な運命を歩ませることになった全ての元凶ともいえる仇敵。
リメイク版で出番が増え、ジャミに代わり主人公たちを石化する呪いをかけ10年の離別を起こし、最終的にはアベルの母マーサにメラゾーマを放ち瀕死に追いやるという
そんな敵が──ドラゴンクエスト5という作品における最大の宿敵が私の背後を取っていた。
「まさかこのような結果に終わってしまうとは……ジャミも浮かばれませんね」
「よく言うわよ……ちっとも悲しんでいないじゃない」
実際、涙のひとつも──いや、魔物だから改心しない限り血も涙もない存在よね。でも感情はあるから悲しそうな顔ひとつしてもいいのに、それすらしないのはきっとそういうことでしょう。
……それに話し方といい攻撃方法といい、かの宇宙の帝王をモデルにしているなら部下のひとり失ったところで惜しむことなどしないに違いない。
「ほっほっほっほ、これは手厳しい。 しかし、まさか……あの戦乙女と呼ばれた女傑が伝説の勇者だったとは思いませんでしたよ」
「……は?」
伝説の勇者?誰が?
「誤魔化さなくともいいですよ。今まで戦乙女という二つ名で隠していたのでしょうが、あのバリアを纏ったジャミを倒すのは……ただの人間では不可能。それこそ伝説の勇者でもなければ不可能でしょう」
……ああ、そういうこと。
どうもあのバリアがあればジャミが負けることはないとゲマも判断していたけど、それを
「……あら、バレてしまったようね。 でも仕方ないわよね、私も命が掛かっていたからなりふり構っていられなかったし」
「やはりそうでしたか……いやはや、アナタの手元に勇者の武具が無いのが幸いでしたね」
いや厳密に言えば剣と盾は揃っているのよね。兜はテルパドールにあるし。鎧は……
「それは……天空の武具が無ければ私に勝てるって言ってるように聞こえるけど?」
「おや?そう言ったつもりですが?」
安い挑発だ。 だが乗った。
「シッ──!!」
先手必勝!しっぷうづきを見舞うが──!?
「ほっほっほっほ。 勇者と戦うのに何の対策もして来ないわけないでしょう?」
剣の切っ先が掌の先から生じる謎のバリアによって阻まれている。まさかジャミと同じ──!?
「アナタは私がジャミと同じバリアを使っていると考えているでしょう? 答えはノーです。これは単なる魔力による防御ですよ」
「なによそれ……!?」
そんな技術があるの!?でもまだやりようはいくらでも──。
「カァッ!!」
「なっ!?」
そんなことを考えていると
「不意を突いた熱線すら躱しますか。素晴らしい身のこなしです」
「そりゃどうも……」
再び剣を構えてゲマへと向かう。
アベルが来るまであとどれぐらいかかるだろう。戴冠式から少なくとも1日は経過しているのは間違いない。
大臣を逃がしてからデモンズタワーの場所を知るか、大臣の部屋を漁ってそらとぶくつで辿り着くか……どちらにせよ、もう少し時間がかかりそうだ。
ただ、ここまでの連戦で結構体力は消耗している。そう長くは戦えない──なら!
「マホカンタ!バイキルト!」
手数ゴリ押しの短期決戦!バイキルトとマホカンタをかけ直す。これで警戒するのはあの熱線とはげしいほのおと死神のかまによる攻撃だけ!
「ほっほっほっほ。私を相手にその魔法行使は賢明な判断です」
「随分余裕そうねッ!」
距離を一気に縮め上段から斬り下ろすつもりで構える。仮に炎を吐こうとしても、この構えならおいかぜへも繋げられる!
「ですが……私相手には通用しませんよ」
「なっ!?」
ゲマが私へと手を向け、その指先から
私の身体に掛けたバイキルトとマホカンタの効果が消え去るのを感じる。
嘘でしょ?私の記憶だと
動揺が私を襲う。その隙を見逃すほどゲマは甘くはなかった。
「メラゾーマ」
ゲマの正面に巨大な火球が現れる。私はゲマに一直線に向かってしまっている。なんとか回避──いや、迎撃を。ゲマ相手に振るつもりだった剣をメラゾーマへと向け斬りかかる。
けれど、現実は残酷だ。ホークマンの死体から奪った剣はメラゾーマの熱量に耐えきれず熔けてしまい──私はメラゾーマの直撃を受けてしまった。
「うっ、があああああああッッッ!!!?」
「ほーっほっほっほ!! ああ、実にいい声ですね!ほら、もっと聞かせてごらんなさい!!」
メラゾーマによって受けた火傷に苦しみながら、私はゲマが追撃で吐いたはげしいほのおをなんとか躱すべく全身に残った力を全て駆使して炎から逃れる。
全身を熱を持った痛みが襲う。痛い。苦しい。前世でもこれほどの痛みを体験したことはない。
……ああ、死の火山で原作通りならアンディも同じぐらいの火傷を負ったんだと思うと、アンディは凄いなと素直に思える。火傷を負ってまでフローラが欲しかったんだろうと。
あまりの痛みに私の身体がそれから逃れるために、存在しない記憶が走馬灯のように私の脳内を駆け巡る。
フローラとアンディの結婚式。それを祝福する私たち家族。互いに子供が生まれて、これでパパとママを心配させることはないねと笑い合って──そんな甘い甘い、本当みたいな嘘の記憶。
──いや、嘘じゃない。これから本当にすればいい。
まだ私は生きている。身体は動く。魔法も使える。
なら、まだ戦える。
「……スゥー……ハァー……」
精神を統一させ傷を癒す特技、めいそう。発動には集中する時間が必要だけど、今なら出来る。
なぜならゲマは苦しむ私を見て嗤っているから。言ってしまえば油断している。 けれど、これが通用するのは最初だけ。2度目以降は警戒されるし、回復する間も与えられないに違いない。
でも、それでいい。私も限界が近い。回復後の虚を突いて猛攻を加える。これが最適解。あの魔法の防御も恐らくバリアのように展開は出来ないはず。あくまで掌から出るとかそういう条件があると仮定して挑む必要がある。
「おやおや、もう終わりですか? 存外呆気ないものですねぇ、ほっほっほっほ」
武器はない。でも素手でも十分だ。
さあ、最後の戦いよッ!!
「だりゃあッ!!」
「な、なにッ!!?」
傷が完治したことと、突然の鋭い突きに驚いたゲマは咄嗟に手を私に向け魔力による防御をした。指先と魔力の盾が衝突し──私はその勢いのまま高く跳びあがり、回転しながら突っ込む。特技のひとつ、ムーンサルトだ。
回転による遠心力も働いたのかゲマの防御を弾き飛ばし、ゲマの肉体に確かなダメージを与えることに成功した。
「ぐっふぁっ!!? バ、バカな、あの傷が一瞬で!?ベホマを唱えたのか!?」
「まだまだァ!! きあいため!」
「させん!!
ゲマの指先からいてつくはどうが放たれるが、きあいためはバイキルトなどと違って魔法ではないからいてつくはどうでも無効にされない。あれはあくまで魔法、呪文の効果をかき消す波動だから、肉体的な強化のきあいためはその適応外だ。
「覚悟なさいゲマ!! ばくれつけんッ!!」
拳ひとつひとつにこれでもかと力を籠め、振り抜く。
私の今出せる最強の攻撃のひとつ。
「こ、こんな攻撃、防ぎきって……」
両手をかざし魔力の防御をするゲマに対して、その防御を手数で打ち破ろうとする私。
一撃目、二撃目は完全に防がれた。
三撃目、四撃目は防御を押し退ける感覚を感じる。
五撃目、六撃目で完全にゲマの防御を上回る。ゲマの両手が弾かれた!
「なぁッ!?」
両手が弾かれたことによって胴体ががら空き、ここで渾身の一撃を叩き込む!
「させません!!カアッ!!」
流石にマズいと感じたのかあの熱線を放つがもう遅い。
胴ががら空きだからといってゲマという強敵が何もせず攻撃を受けるわけがない、という私の判断は正しかった。せいけんづきを選んでいたら間違いなく反撃を受けたでしょう。
熱線の起こりが見えたと同時に私は地面を蹴って高く跳躍し、そのままゲマの脳天目掛けて踵を振り下ろす!!
「裂空カカト落とし!!」
「げぐあぁっ!!?」
この一撃に全てを込める──!!そのまま床ごと砕く勢いで力を籠め──ダァァアアンッ!!という轟音と共に私の踵が叩き込まれた。
床全体が蜘蛛の巣状に亀裂が入り、周囲を撒き上がった塵が覆う。
「はぁ……はぁ……」
出し切った。今ある力全てをゲマに叩きつけた。
荒くなる呼吸を整えながら足元に叩き潰したゲマを見や──
視界が晴れてなおゲマの姿は見えない。バカな、確かな手ごたえを感じたというのに。
アレで倒して肉体が残らなかった……というのなら納得できるけど──
「危ないところでしたよ。 ええ、本当に死ぬかと思いました」
突如、背後から声が聞こえた。ゲマだ。生きていた。
「ぐうっ!?」
「……やはり勇者は侮れない存在でした。ミルドラース様の予言の通りですね」
ゲマに首を掴まれそのまま徐々に締められる。く、苦しい……!!
「どぅ……やっで……」
「ああ、どうやって逃れたかですか。 簡単な話、
ルーラにそんな使い方が……!!ダメージ自体は受けているようだけど、致命傷に至る前に離脱したってことね……最悪の状況だわ。
「さあ、このまま首を絞めて殺しても良いのですが……この私を殺そうとしたのですから、もっと苦しんでいただかないといけませんね……」
ゲマが怒りを交えた邪悪な笑みを浮かべる。
──ああ、私はこれからゲマが何をするのかを知っている。
「何も出来ずに世界がミルドラース様のものになるその瞬間を!!
その時が来るまで特等席でご覧いただきましょう!! 勇者にとってこれ以上の屈辱はないでしょう!!ほーっほっほっほっほ!!」
ゲマが呪文を唱えると私の身体の端から感覚が失われていくのを感じる。目を向ければ……原作通り石になっているのが見える。見えてしまう。
……ああ、結局この運命は変えられなかったのか。
爪先から足が、腕が石になっていく。もうどうすることも出来ない。
……アベルにも会えなかったな。そこだけ運命が変わってしまったのか。
それに子供たちは無事なのだろうか?その辺りの話は大臣からも聞けていない。聞く余裕がなかった。
後悔ばかりが募り、遂に首から下が石へと変わった。その光景をゲマはなんとも楽しそうに眺めている。
そして──
「デボラ!!」
石になりきる直前、ようやくアベルが来てくれた。
アベルが来てくれたのは嬉しいけど、これからの展開を考えると──。
私は固まりつつある顔を必死に動かしてアベルに最後になるかもしれない言葉を伝えた。
「ア、ベル……逃げ……て……」
この言葉を最後に、私の身体は石になり果てた。
その後の結末を私は知ることはない。
──願わくば、元の姿に戻った時に私の足掻きが無駄になっていないことを切に願う。
デモンズタワー編、青年期前半完!!
余談ですが、この時天空の剣がこの場にあれば転生デボラさんは抜けていました。
システム的に言えば勇者への転職条件を満たしていた……みたいな感じです。
次回は大神殿に話が飛ぶ予定です。
転生デボラさんが主人公なので、一気に飛ばしますが追憶はする予定です。予定ばっかですね。
感想、高評価などよろしくお願いします!!