日刊ランキングに載ったので初投稿です。
逃げた【キラーパンサー】を追って私たちはそのすみかへと辿り着いた。
この時間だから追って来ている村人はいないだろうけど……用心はしておこう。
「メタリン【キラーパンサー】はどこに行ったのか分かるかい?」
「この洞窟に入って地下に降りていったんだ。 でもそこから先は追えてない……」
しょぼくれたメタリン。またメタルスライムだから基本的に逃げるが念頭に置かれているためか、単独で行動させるには不向きだったみたい。
それでもこの場所まで特定したならそれで十分。
「一応傷はつけているから、血を流しているはず……あったわ」
地面を見れば少しずつではあるけど流れた血が道を示している。
浅過ぎず深過ぎない傷を与えた甲斐があった。
「この血痕を辿っていくわ。 着いてきなさいアベル」
「は、はい!」
……気のせいかしら?アベルの腰が低いというかなんというか。
まあ、現時点では私の方が強いっていうことを理解しているからかもしれないわね。
そうして血痕を辿り、追いながら地下へと潜り……
「ここね」
「ここが……【キラーパンサー】のすみか」
ここからは私は不用意に手出しをしない方がいいかしらね。
感動の再会になるのだから。
「アベル、今度はあなたたちで戦いなさい。 いざとなったら助けに入ってあげるけど、全部私におんぶに抱っこじゃ男が廃るんじゃない?」
軽く煽りを入れてあげればアベルも覚悟を決めた顔をして──。
「わかりました! 何かあったらお願いします」
アベルを先頭に【キラーパンサー】のすみかへと入っていった。
中に入れば傷口を舐めて塞ごうとしている【キラーパンサー】の姿と……その奥にある紋章の入った剣が目に入った。
原作で見たままの光景がここにあった。
「ガルルルルーッ!!」
「皆、行くぞ!」
アベルの掛け声と共に最も素早いメタリンがスクルトを唱えて防御を上げている。続いてピエールがスライムを使った高い跳躍をしジャンプ斬りを、アベルもそれを補うように【キラーパンサー】に斬りかかる。
【キラーパンサー】はそれを見て攻撃を受けつつも素早い動きで反撃に出るが……追い詰められているこの状態でもアベルに対しては率先して傷つけようとはしていない。 ピエールやスミスには躊躇いなく攻撃しているのに。
アベルもどこかおかしいと感じているらしく、ピエールたちに一度下がるように指示を出している。
……私がここで何もしないというのも変よね。
「どうしたのアベル? 私の救けが必要?」
「デボラさん、率直に聞きますけどあの【キラーパンサー】何か変じゃないですか?」
「変、ねえ。 確かに村で一度戦った時、私に対してあまり攻撃せず威嚇に留めていた気はするわね。
本来の【キラーパンサー】なら喉笛を食いちぎろうとしてきたりするのだけど」
ここでアベルが【キラーパンサー】と交戦したことがある私に話を聞くのは正解だ。
野生の【キラーパンサー】とこの【キラーパンサー】が違うことをアベルも理解できただろう。
するとこのタイミングで【キラーパンサー】がジッとアベルを見つめ、何かを思い出そうとする仕草をとった。
「……まさか」
アベルは気づいたようだ。あの【キラーパンサー】の正体に。
「……プックル。プックルなのかい?」
どうやらあの【キラーパンサー】の名前はこの世界だとプックルらしい。 ゲレゲレじゃないのか。
「僕だ、アベルだ。 生きていたんだね!」
武器をおさめ、アベルは敵意が無いと両手を広げながら【キラーパンサー】──プックルに近づく。
「ヴウゥ……!」
プックルは思い出せないのか、警戒を解かず威嚇している。
「覚えていないかい? あ、そうだ。これを──ビアンカが君に巻いてあげたリボンだ!」
アベルが取り出したのはこのイベントにおける最重要アイテムの『ビアンカのリボン』だ。 これを使うことでプックルはアベルたちのことを思い出すのだ。
そして──。
「フニャ~」
「あははははっ! くすぐったいよプックル!」
離れ離れになっていた一人と一匹が十年の時を経て再会した。
「……で、その【キラーパンサー】はアベルの友達だったということね」
「そうなんです。 再会できたのは喜ばしいですが……プックルはカボチ村の人たちに迷惑をかけてしまいました。 僕は、いや私はカボチ村の人たちに謝りに行かないと──」
「フニャ~ゴロゴロゴロ」
と、アベルが私に事情を説明している中、プックルが奥にあった剣を持ってきていた。
「プックル、その剣は……まさか」
そう、この剣はアベルの父パパスの最後の遺品である『パパスのつるぎ』。
あの日、ゲマによって離れ離れにされてしまった親子たちが形を変えてだが、ようやく再会できた光景を私は目に焼き付けるのだった。
「じゃあ、ここで別れましょう」
「え? でも……」
「カボチ村の方には私から説明しておくわ。 いくらアベルがプックルは危険じゃないと知っていても、どんな形であれあの村は決して受け入れることはないわ。
私が上手いこと説明しておくから、アベルたちは先に進みなさい」
村人がこのすみかから出てくるアベルとプックルを見てグルだと勘違いして、後味の悪い終わりを迎えることになる。
十年もすればそれもなくなるけど、アベルのような善人は気に病むことになるだろう。
一応、村人が追ってこないだろう時間を選んではみたものの、実際のところ原作通りになるかもしれない。なら、この感動の再会はそのままに、後始末は私が請け負えば丸く収まる。
「一応、事態は解決させたんだからちゃんと報酬は貰うけどね。 私とアベルたちとでキッチリ1500ゴールドずつ、文句はあるかしら?」
「いいえ、そんなこと……」
「そう。 じゃあ次会うときはその父親の剣に見合った強さになってることを楽しみにしておくわ。 また会いましょう」
そう言い残し、私は彼らと別れ一足先にカボチ村へと向かうことにした。
そして別れる前に──
「デボラさん!色々とありがとうございました!」
去り行く私に深々と頭を下げるアベルたちを尻目に私はその場を去っていった。
カボチ村に辿り着いた私へ向けられたのは村人からの軽蔑の視線。
ということはつまり、原作通りになってしまったのだろう。 やはりアベルをこの村に連れて戻らなくてよかった。
村人たちの視線を置き去りに村長の家へとまっすぐ向かっていく。
村長の家に入れば依頼してきた農民と別の農民、村長がいた。
「あ、あんた……」
「多分話は聞いてるんでしょう?」
「ああ、あんたらは化け物とグルだったんだってな。 アンタらを信用したオラがバカだったよ」
「ええ、アンタはバカよ。 私たちの話を何一つ聞かずに同じ村の人間の言葉だけを信じてグルだと決めつけたんだから」
「な、なんだと!?」
農民を無視して村長へと向き直る。
話は変わるが私は美人だという自覚がある。なにせあのフローラの姉なのだ。戦乙女と呼ばれるぐらいにはモテる。
そして、美人が怒ると怖い、というのはこの世界でも共通なので、眉間に皴を寄せながら威圧感たっぷりにガンをつける。
「さて、勘違いされたままだと困るから、依頼を受けたものとして報告はさせてもらうわ。 なーーんにも言うな、なんて言わないわよねえ?」
「も、もちろんだよ」
「よかった。 じゃあ、報告するわよ」
そうして事の経緯を伝えると別の農民が立ち上がり「余所者の言うことなんて信用出来んわ!」なんて抜かしやがったので、胸倉掴んで威圧する。
「その余所者を頼ったのはアンタたちでしょ?」
「ひいいっ!?」
「お、おやめください!」
掴んだ胸倉を放し、椅子に座り足を組んで不機嫌だという雰囲気を振りまく。
状況を察している村長は汗びっしょりだ。
「一先ず、迷惑をかけたのは間違いないわ。 それについては謝罪する。 でも、余所者を頼っておいて不利益が生じたら信じない、話も聞かないなんてことをするのは筋が通らないでしょ?」
「……面目次第もねえです」
「分かればいいのよ。 ああ、後これ、礼金と迷惑かけたお詫びよ。それで飢えを凌ぎなさい」
卓の上にゴールドが入った袋をドンと置いた。
中には大体15000ゴールド入っている。私のポケットマネーだ。実家に帰ればまだまだあるので痛くもかゆくもない。
「こ、こんな金受け取るわけには……!」
「要らないなら捨てるなりしなさい。 ああ、それとも余所者の金なんて信用できない?」
そう言うと黙ってしまった。
勝ったな。これで原作で感じていたモヤモヤが少し晴れた気がする。
「それでは皆様、ごきげんよう」
私はカボチ村を後にした。もう二度と来ることもないだろう。
さて、アベルたちも次に向かうのはルラフェンだったかしら?
そうなると近いうちに結婚イベントが始まるから……うん、寄り道せずに真っ直ぐサラボナに帰るとしますか。
後半説教臭くなってしまった。
転生デボラさんはゲームで弁明も許されない一方的な決めつけで後味の悪い終わりになるのを知っていたので、それを避けるために策を講じましたが残念ながら原作通りに。
なので折角だからこのイベントに対する鬱憤晴らそうとしてこうなりました。
次回から結婚イベント開始です。