魔女だし、幻想だし。 作:覚め
…寺。
聖は当時を知る人から疎ましく思われてたりしていてほしい。
四人に別れた後、一人は寂しかったので早く移動して魔法使いがいるであろう寺へ。寺へ行くと誰もおらず。あれ?と思いながら敷地の中へ入る。この時点で少し泣きそうだったけれど、声を出して訪ねてみる。…反応、なし。どうやら私は間違えたようだ。ここには魔法使いはおろか人すらいない。
「…」
泣きそう。ちょっと、誰もいないのは聞いてないのだけれども。
「おや?」
「っ」
「そんなに驚かなくても良いじゃありませんか…?」
振り返ると、魔法使い…ではなく。妖怪。金髪で、赤と白で…人里にはいない服だ。本体から言われた情報規制を守りつつ、説明しなきゃ。四等分に別れた他の私も、同じようなことしてるのかな?…多分、こんなことになってるのは私だけなんだろうな。
「成程…よく分かりました。つまり貴女は、魔法使いを探してここに辿り着いたはいいものの、誰もいないから泣きそうだった、と」
「泣いてはないわ」
「…フフ。まあ、そういう事にしましょう。貴女が探しているのは多分、聖ですね。大魔法使いと呼ばれているので、貴女の期待が外れることはありませんよ」
「本当?」
「はい。じゃあ、こちらで待ちましょうか」
寺の中へ。案内されている最中、私が何者かを聞かれ、ラメという者、魔法使いであることを話して終わる。しかし、ヒジリ。どこかで聞いたような、そんな名前。大魔法使いなら多分、耳に入ってもおかしくはないのに、なんだか、そう。間近で聞いた覚えがあるような。そんな感じ。
「…もしかして、聖って、聖命蓮?」
「ああ…そちらをご存知で。」
「じゃあ、その姉?」
「ええ、そちらになりますね。何故です?どこかで聞きましたか?それとも、書物に?」
「…いや、どっちも…噂には聞いたことあるから」
「となると、貴女が魔法使いなのは間違いないと考えて良いですね。まあ、聖もここで暮らし始めたのは最近ですが。」
どうやら封印されていたとのこと。封印される過程も、死を恐れた過程も、私が聞いたことがある。幻想郷の形すら作り上げられてない時期の話だ。本体である私が、双方を見て、片方を見て、クスクスと笑っていたことを覚えている。本体とはいえ、趣味の悪い事だ。
「…やっぱり、ね」
「さ、ラメさん。こちらへどうぞ」
「あら、ありがとう」
「もうすっかり泣きそうな感じではないですね」
「あら、失礼ね。長生きしてると立ち直るのも早いのよ」
「聖もそうなのでしょうか。封印が解けてからは弟の話をあまり聞きません」
「…それは、立ち直ったのかしら」
「どういうことですか?」
「話す事で苦しみを紛らわしていた。いえ、思い出を忘れたくないからと他者に話す事で何度も何度も思い出す。封印されてるうちに忘れたとは言わないけど…」
「封印されてる最中に己を見つめ直したのでは。少なくとも私はそう思います」
「…そう」
なんだか、寺の入り口が騒がしい。何かあったのかな?
「どうやら、聖が帰ってきたようです。お待ちを」
どうやら帰ってきた合図らしい。先程まで彼女だけではなかったことを確認して、やはり私は警戒されていたのかと。やっぱり、こう。悲しいものがある。まあそれはそれとして、私も出迎えた方がいいのかしら。もしかしたら知り合いかもしれないことを頭に入れて待つか。
「すみません、布教活動を行っていたら遅れました」
「いえ。何も言葉を出さずに来たのは私ですから」
「…貴女、もしかして…」
「おお、覚えていましたか。ええ。貴女の知っている、と言うにはかなり時間が経っていますが」
「そうですか。そうですね。それで?用事は?」
「…それが。忘れてしまいました。待ってる時間も長くはなかったのですが」
「あ、あら?」
悪戯をしに来たのか、退屈凌ぎをしに来たのか。しかしやはり、彼女は私の知る魔法使いだった。死を恐れ、魔法なんて野蛮な武器を持ち、強者として妖怪と人間の友好を、なんて言っているのは今も変わらないようで。わかっているのでしょうか。貴女の立ち位置、その危うさ。
「まあ、それは良いとして。私としては貴女に会えただけで十分よ」
「…いえ。あの時、弟の延命をしてもらった恩が」
「やめて。あの時の私は未熟な魔法使い。魔法があの時に完成していれば、貴女の弟は生きていたわ。今も、ね」
実際あの時はほんの気まぐれで。魔法の実験程度に思っていたのだから、謝るも恩を返すもない。ある程度の延命をして、苦しみを長くさせた。その時の私の魔法は、時を操る程度に等しく。どう足掻いても病を治すなんて出来なかったし。
「それに、御礼と恩返し合戦は嫌なの。それこそ、私と貴女なら終わりがないから」
「…そうですね」
「貴女が大魔法使いとして名を馳せて、魔法を教えた私としても鼻が高いわ。」
「得意分野はかなり限られていますが」
「そう?なら、そうしとく」
「あの。」
「…何?」
「貴女は、何故幻想郷に?」
「何故。…そうね。ここまで辛いとは思わなかったから、が一番なところね。」
「?」
「長生きして、その上で貴女たちのような話を聞くのは悲しくてね。ここなら、そう言った話はないから。」
ただそれだけ。だから貴女は、早く弟に対する罪悪感から解放されても良いのに。今の仲間ならば、貴女をよく知り、理解している。だが、貴女の弟が貴女を知るには短い時間だった。弟も姉も、互いが死んでも一緒と思っていたはずなのに。そう聞いた時も、貴女は目を伏せた。気付きながら、しかしながら、死が怖いと。貴女は今、私を通して弟を思い出してる。その証拠に、目を伏せ始めた。
「私がここに長居するのは貴女にとって悪い話のようね。じゃあ、出ていくから」
「あ、その」
「良いの。私も、貴女も。根源は同じようなものなのよ」
バイクに乗って暴れ回る僧侶が弟を忘れられない…?