魔女だし、幻想だし。 作:覚め
中和されない。ラッキーもアンラッキーも両方共に人を溶かし殺すものだからです。
招かれ帰っていった二人を見送る。私は結局、本体のことは明かさないことにした。あの二人では無理だとか、そういうことではなく。出来るのなら、私は私のままでいたい。本体が動き出せば私は消えてしまう。そういう確信がある。しかし私も自我を持っている。だから、絶対に。
「…ごめんなさい。不完全な私だけど、貴女を騙るのにはこれで十分なの」
「…」
「そうね。答えられないでしょうね。それは貴女から私を抜いたから?それとも、貴女が永遠に囚われたから?」
どちらにしろ、私も行き着く果ては同じ。何もかも、私の先を行っているはずの本体。だが、今の私と貴女では違う。貴女が何を考えてるのかは知らないが、今の私は、同じ魔法使いの仲間がいる。同じ様になることは、ない。
「決心が着けば、意外とあっさりね」
雨の降る人里で、子供のように歩き回る。何もかも知らない世界。空に浮かんでいて、そのままだったから。路地裏ですら、私にとっては新鮮。大通りの、広場のような場所にのみ設置された開拓の跡と主張する石畳を踏むと、たかたかと軽快な音が鳴る。傘も刺さずにいれば目立つ。気がつけば私は、多量の観客に見られていた。その中から、四葉のクローバーのように一人、出てきた。
「すまないが」
「?」
「何をはしゃいでいるのかは知らない。だが、傘は持っておいた方がいいぞ」
「あら、あら。人間に言われちゃった。でも、そうね。確かに。こんな天気ですものね。」
「あ、ああ」
「でも手放しに傘は受け取れないわ。傘を売っているとこらはある?」
「持っていないのか。」
四葉のクローバーのような彼女は、名を慧音と呼ぶ。先生と呼ばれているらしく、なるほど私とはかなり違う人間なのだと知った。私と違い人間の常識に明るい。生まれてから何にも触れられて来なかった私とは、まったく。少し落ち着いたのか、傘を売る場所に着いて別れる。店の中には選び放題だと言わんばかりの傘があった。
「これを眺めるだけで3時間は潰せるわ」
「傘にそんな興味を持つとは。貴女、付喪神に愛されるよ?」
「…そういう貴女は?付喪神じゃなそうね」
「わちきは多々良小傘。からかさお化け。この店で使い勝手の良い傘でも教えようか?」
「邪道ね。好きなものは手で握ってからが始まりよ。魔導書を隣に置いて始める実験なんか、つまらないわ」
「ふぅん…やっぱ、付喪神に好かれるよ。貴女は」
手で傘の石突きを撫でる。撫でて行き、これだ、と思うものを引き抜く。少し不格好。洒落の何もない、おそらくはこのお店でもあまり売れないような傘だ。柄が好み?そんなことはない。私は多分、何も考えずにこれを選んだ。明日は何を買おうか。靴でも買おうかな。それか、服?
「え、そんな傘でいいの?」
「良いのよ。初めて選んだ仲間は愛着が湧くものよ」
「仲間?」
「貴女が言ったでしょ?付喪神に好かれるって」
「そ、そうだけど…」
「それに貴女、命蓮寺にいた子でしょ?聖によろしく、言っておいてくれる?」
「あ、はい…え!?」
傘を刺して歩く。雨音が心地よい。今度傘を買う時は、紙の触感で選んでも良いかもしれない。散々歩き回って、疲れたと思えば座り込みたい。今日は雨だから叶わないが、明日の天気が晴れならばやりたい。あの二人には感謝せねばならない。私を、あんな木偶の坊から解放してくれたのだから。
「…何が、したいのかしら」
甘味処で一息吐いて思う。甘いものは初めて食べたな、なんて思いつつ、やはり私も魔法使い。目的がなければ生きづらい。またどこかで抜け殻のように空を揺蕩うだろうことは目に見える。その時までは遊ぶことにしようか。
「…美味しい」
「ですよねぇ。ここでこのメニューを頼むのは私しかいなくて、肩身が狭かったんです」
…なんだこの人は。片腕が包帯で見えず、頭に特徴的な袋が被さっている。何やら全体的に…桃色か。そんな彼女は名を華扇と言うらしい。彼女は甘味が好きらしい。まあ、他の客を見ればわかるのだが、『フルーツパフェ』を頼む人は少ないと思う。西洋の名前だから、だろうかな?
「ふぅ…さて、この後は…」
「この後であれば、私と共に神社なんてのはどうですか?」
「そうしたいのは山々。でも私、そろそろ徹夜で遊び呆けそうだから。お家に帰ろうかな」
「おや、残念」
「お家に帰っても何もすることはないけど、休むわ。お腹一杯食べて、寝る。今日の人里で学んだ遊び」
「やめた方がいいですよ」
「お酒を浴びるように飲んで寝転がるのは?」
「もっとダメ」
「そう…」
一度だけやりたかったのだが、抑止されたのなら仕方あるまい。そうなれば帰ってもやることがない。神社の方に行こうかな。神社っていうのはどこにあるんだろうか。あり得るのなら、二徹もあるかもしれない。まあ、うん。帰る必要はないんだけどね。
「…わぁ」
「本当に初めてなんですね」
「ちょい」
「?」
「素敵な賽銭箱ならあっちよ」
どうやら賽銭の催促らしい。何がどうなってそうなるんだ?私にはよくわからないけど…まあ、良いか。どれくらい入れれば良いのかな。三万くらい?それくらい入れれば良いか。
「そんなに!?」
「ありがとう!」
「…あれ、もしかしてもっと少なくてもよかった?」
「普通はそんなに入れませんよ…」
「へぇー…まあ、良いわ」
「そうよ華扇。人の好意は無碍にするものじゃないわ」
「貴女がそれを言いますか。」
華扇「…ちなみにですけど、あの人魔法使いですよ」
霊夢「へぇ…魔法使いも金持ってんのね」