魔女だし、幻想だし。 作:覚め
言葉が理解できない
屋根の上で少しの黄昏。夕方、空が生焼けな状態になっているのを見て、少し心が洗われる。私はどんな空が好きなんだろうか。今のような空、星空、昼間の乾きさえ感じるような空、曇り空。何もかも吹っ切った後の雨。あれも気持ちよかった。
「…なんでも、好きになろうと思えばなれるのね」
「ええ。だからこそ人は選り好みする。」
「八雲…なんだったかしら。」
「なんでも良いわ。ただ、夜を止めてもらった恩から、言わせてもらうわね」
「何?」
「貴女には、自我なんかつけるべきじゃなかったはずよ」
「あら、私にただの人形になれっていうの?死にたいならそこで永遠に蝕まれたら?」
「そんなつもりはないわ。私にだって守りたいものがあるんですから」
月を止めさせた分際で、何を。まあ、良いか。屋根の上から飛び降り、里を出る。私は、なんというか。邪魔が入るとそれを途中で放り出すような魔法使いらしい。一体なぜ、私がこんな性格になったのか。…まあ、十中八九本体のせいだろう。それもまたそれで良し。
「…あら、楽しい道」
素晴らしい道を見つけた。どうやら里の外でありながらも、軽快な音が鳴る私の好きな石畳が敷き詰められている。周りには向日葵。恐らく、私は気がつかないうちに風見幽香の場所に来ていたらしい。全く、迷惑な話である。だが目の前にある石畳が私を逃さない。靴で叩けば、やはり軽快な音がする。
「失礼、人の家の前で何をしているの?」
「あら、ごめんなさい。この、石畳が好きで。」
「それで踊っている、と?」
「ええ、そうね。向日葵に危害を加えることはしないから安心して」
「あら、残念」
「?」
「私が誓って欲しいのはね。向日葵だけじゃなくて、草木よ」
目にも止まらぬ速さで傘を眼前に持ってきたかと思えば、ビーム。顔面が焼けるけど、焼けてる途中で魔法を掛ける。ビームではなく、私に。再生はしても、これ以上の損害はない。そう、都合良く。しかし長いな。そんなにも徹底主義者だったとは思わなかった。
「…」
「っ」
「危害を加えるつもりはないの。ただ、石畳を叩く音が聞きたいだけ」
「…そう。なら、好きにして良いわ。」
「じゃあ、好きにさせてもらうわ」
足で叩き始める。軽快な音が鳴って、思わず次の一歩。そうして、一歩ずつ確かに音が鳴りながらその音を聞いていく。踏んで、叩いて、つま先で突いて。外の世界にはどんな石畳があるのか。興味があるけれど、私が行けば浮世離れした服で、奇怪な目で見られて当然。やめておく方がいい。
「それ、タップダンス、っていうらしいわね」
「?何それ」
「天然だったの…外の世界の話よ。こういうところで、足をカッカカッカ鳴らしてその音の多さとかを競う…じゃなかったかしら?」
「あら、楽しそうね。でも競うのは嫌ね。好きなもので争うのは嫌だから」
「まあ、そうでしようね」
「…やっぱり靴を履くと変わるものね。」
「え?」
「それじゃあ、また」
「あ、また…」
途中から屋根瓦でも出来るのでは、なんて思ってしまった。無論、ガチャガチャ鳴って軽快な音とは程遠い音になるのは目に見えている。それは流石に。遠慮させていただきたい。やっぱり石畳が一番なのだろうか。一度砂場でも慣らしてみたいものだ。もしくは木材。
「何やってんのかな。私…」
向日葵畑を出て、歩き回っていると。何か不安が付き纏うような感覚。何が原因だろうか。そもそも幻想郷という場所、私に不安感を与えるものが何個ある?時間がそうならば、時間らしき時間は感じなければ良い。私の魔法ならできる。もうすてにやったはずだし。
「…はぁ」
「おや、お久しぶりですね」
「あら」
気が付けば赤い館。…今日は何か、疲れているのだろうか?
「妹様と遊びに来たのでなければ。私の話し相手になりませんか?」
「良いわよ」
「お、有難い。これは私が拾われる前の話なんですがね?」
「ええ」
地面に腰を置く。風が吹けば心地よい。この風も好きになれそうだ。赤い館の門番をしている彼女は美鈴と言うらしく。拾われる前の話と言っておきながら、この館の主人と殴り合いまでしたのだとか。何をしてるんだ、この門番。しかしまあ、美鈴の実力を把握しているのなら、間違いはないか。
「そこで!渾身の一撃を軽く躱された後に、顔面にドスン、と。勝てないって思いましたねぇ。」
「あら、随分と弱気になったのね?」
「そりゃあ、もう。空振りの後に訪れる空虚な時間ったら、ないですね。もう本当に、頭が真っ白になって。何を考えたら良いのやら…」
「そんなに素敵なのね」
「そう思いますか?」
「少なくとも私は。」
「変な人ですねぇ…そうだ。ここで一緒に眠りませんか?」
「あら、じゃあそうさせてもらうわね」
体に魔法をかけ、眠る。正直に言ってしまえば、ここのメイドに殺されそうだから眠りたくないのだが。隣に座り、美鈴の肩に頭を置くと、美鈴の頭が私の頭の上に乗る。少し、重いか。美鈴はきっと、起きた時は寝違えているだろう。私は知らないこととする。さっさと寝てしまおうか。
「…」
「何、やってるの?」
「さ、咲夜さん…あだだっ…」
「そいつ、前に侵入してきた魔法使いよね。聞いてる?」
「す、すいませんね!」
「ちょっと…地べたで眠るのって、身体痛くなるのね」
「ん?????」
「あ、あはは!あは、あはは!!…すみませんでした」
美鈴「こちらの咲夜さんはナイフを刺してきません。投げてきます。ギリギリ回避できるくらいの距離で。」