ドラゴンボール~兄より優れた弟は存在する!~ 作:ナッパにウィッグを。
「コイバナッパ」とぼそっと呟いた自分を元気玉でぶん殴りたい。
「え、ええと……改めて検査してみたんですがねぇ……悟空さんの身体に異常はありませんでしたよチチさん……」
「そ、そんなことねぇべ!」
チチは、悟空の診察を終えた医者の言葉にムキーッ! という感情を隠さずに叫んだ。
(ご、悟空さがあんなにお顔が真っ赤になって困ってるんだべ! 大きい病気にちげぇねぇだ!)
そう思うチチだったが、まずは落ち着こうと深呼吸を一回挟み、少しビビっている医者に聞いた。
「悟空さの診断結果は大丈夫だったってことだべが……んじゃ、なしてあんなに顔が真っ赤になるだ?」
「……悟空さんに聞いてみたんですけどね……その……チチさん、あなたの顔を思い浮かべたときにあなたが病室に訪ねてきてそうなった、と……」
「オ、オラのせいだっていうんだべか!? こ、このヤブ……」
(……ん? オラのせい?)
ふとチチは考えた。先ほどは慌てていたが、たしかに自分の顔を見たとたん、悟空の顔から蒸気が上がったように見える。
(オラ……悟空さに何かしただか?)
とんと見当がつかないが、自分自身がヒステリック気味になったとき、あとから後悔するようなことを言う時がある。
もしかしてなにか旦那が傷付くようなことを言ってしまったのかもしれない。
「ね、念の為悟空さんはナッパさんと部屋を分けておきました……、では私はこれで……」
ふっと静かになったのをこれ幸いとそそくさと去っていく医者には目もくれず、悟空のいる病室を目指すチチであった。
チチは悟空の病室の前でノックした。
「悟空さ、入るだよ?」
「チ、チチか、へえってくれ」
悟空の入室を許可する言葉にホッとして部屋に入ったチチは、ベッドのそばにある椅子に座った。
悟空はチチとは反対方向の窓の外を見ていた。
「悟空さ、お医者さんがな、身体にはなんも異常はないだってよ。オラ安心しただー……」
「おーぅ……」
チチのその話を聞いているのかいないのか、悟空はいつも通りの気のない返事をする。
その様子にチチはいつも通りの悟空さだべ、と微笑む。
「その調子じゃ大丈夫そうだべな、まったくオラの旦那様は人騒がせな旦那さまだべ」
カラカラと笑い声をあげ、チチのポニーテールが揺れる。
彼女は今、カリン塔に登ったりして自分でできる範囲で鍛錬を行っており、昔の天下一武道会のときと同じ格好をしていた。
「ほら悟空さ、いつでも景色なんて見てねぇでこっちさ向くだよ」
「……おぅー」
チチはこっちを向くように言ったが、悟空は同じく気の無い返事は変わらない。
疑問符を頭に浮かべたチチは、ふと立ち上がり、窓側へと移動する。
すると、悟空は先ほどまでチチが座っていた方へ顔を向ける。
「悟空さ、どうしただ?」
「……い、いや、なんでもねぇぞ? ね、寝返りうっただけだぞ」
そうかそうか、と椅子の方へ戻ろうとする。
と、今度は窓の方へ悟空の顔が向いた。
何回か同じことを繰り返し、埒が明かないと悟ったチチは悟空の顔をガシッと両手で挟むように掴み、逃げ場のないようにして覗き込んだ。
悟空と目があう。
視線がしどろもどろに動く悟空の顔は、さらに赤くなったように見えた。
「やっぱり、悟空さオラの顔を見るのを避けてるだべ……オラ、なんかしたべ……?」
少し悲しそうにチチはそのままの姿勢で悟空に聞いてみる。
「オ、オラもよくわかんねぇけど……チチの顔見てっと、その……心? がポカポカするっつーか……ドキドキするっつーか……」
「心臓が!? ちょっと聞かせるだべ!!」
チチはふと何の気に無しに悟空の心臓がある胸へ手のひらを置いてみる。
悟空の心臓から異常な高鳴りを感じる。
「チ、チチ……これって……病気じゃないんか?」
真っ赤になっている悟空の、真剣な問いにたいしチチは返答しなかった。
いや、返答する余裕が無かった。
チチは気づいてしまったのだ、この高鳴りの正体に。
(……顔が赤くなって、心臓が高鳴って、ドキドキする、ポカポカするって……オ、オラにも心当たりが……)
悟空との過去を思い出す。
チチは悟空にずっと、ドキドキし、ポカポカし、顔が赤くなり、そして心が高鳴っていたのだ。
だが、悟空は「恋愛」というものが多分わからない。
チチはあれこれ努力したが、「ま、それも悟空さのよさだべ」と割り切っていた。
大好きな人と一緒に過ごせるだけでも幸せだ、と。
そのはずなのに──。
今、目の前の旦那は今更ながらに……自意識過剰でなければこの自分自身に対して「好き」という、「恋愛」の感情が芽生えたようだ。
ふいに、顔が近い事に今更ながら気が付く。
悟空の熱が間近に感じ、ふとチチも自分の顔が熱に浮かされているような感覚を覚えた。
忘れもしない、この感覚を──。
「な……なぁ悟空さ、……オ、オラもどうやら悟空さの病気がうつっちまっただ……」
「へ!? チ、チチそれはダメだ! は、はやく医者に……いっ!?」
チチの顔が自分にどんどん近くなってきていることに気が付き、悟空は驚く。
目をなんとかチチからそらそうとするも、それができない。
何か言葉を出そうとパクパクと魚のように開け閉めする悟空の口に、チチの唇が近づいて──。
「やっほー孫くん! 宇宙船なんだけどなんとかなりそ……う……、よ……」
ガララ、と病室の扉が開き、今目の前に行われていることに衝撃を受けているブルマともう一人、悟空やチチも初めて見る女性が入ってきた。
「おー……サイヤ人は大胆なんだ……メモっとこ」
必死にメモをとる女性。
一瞬時が止まる感覚の後、まるでバネに弾かれたようにチチは悟空から離れ、椅子に座った。
自分の顔が非常に熱を持っている。おそらく湯気が出ているだろう。
ちらりと悟空を見ると、悟空も湯気が噴出していた。
「…………あっ。えっと、その、あとはごゆっくり~……」
「あれ、ブルマ。まだこの人に話を聞いてないんだけど……」
「い い か ら ! ロマンティックあげましょうよ!」
その女性の腕をガシッと掴んで荒々しく出て行くブルマたち。
そして、再び、病室は二人だけの空間となる。
──が、悟空とチチはしばらく、お互いに何とも言えない雰囲気でそのまま沈黙が場を制していた。
──悟空が口を開き沈黙を破った。
「あ、あのよチチ……」
「ひゃ、なんだべ……」
悟空の声かけに、チチが上擦った声で返す。
「……いろいろとその、終わったら……デートちゅうやつ? ……に行かねぇか?」
恥ずかしそうに頬をポリポリと指でかきながら、悟空は言った。
チチは、その初々しい下手くそなデートのお誘いに──。
「……もちろん……ですだ……」
まるで、あの頃に戻ったかのように照れながら頷くのであった。
◇◇◇◇◇
「ますます暇になったんだが……ラディッツ、俺はどうしたらいい? テレビは何も教えてくれねぇ……」
悟空たちが別の部屋になり、ナッパは一人そう愚痴る。
悟空の結婚話は参考になりそうにないし、部屋には誰もいない。
テレビをつけてみてもよくわからない番組だらけで看護士に言ってもらって切っていたのだ。
(せめて話し相手が欲しいぜ……、可能であればとびきり可愛い女性がいいが……文句は言わねぇ)
大声を上げて看護士でも話し相手に呼ぼうか悩んだ時、ふいにドアがノックされる。
「ナッパいるー?」
その声を聞いて、ああ……とナッパは少しげんなりする。
(可愛かったら誰でもいいわけじゃねぇよ……まぁいいか)
「その声は……ブルマか……入っていいぞ」
その言葉にガララと扉を開いて答えるブルマ。
「そうよー。どう、調子は……ちょうどいい、暇で死にそうって顔してるわねー」
「あぁ? あー……お察しの通り、暇で暇で死にそうだって感じだ……メディカルマシーンがありゃいいのによ」
「どういうマシーンよそれ、参考に一台欲しいわね……っとそうそう。まずは報告! 宇宙船なんだけどね、なんとかなりそうよ」
ふふーん、と自慢げに胸を張るブルマにナッパはもしや、と思いたずねた。
「あのナメック星人の宇宙船でも見つけて、それが使えたとかか?」
「ご名答! これでベジータ……だっけ? あいつがドラゴンボールを集める前に間に合うかもしれないわね! ……ま、あんたや孫くんはすぐに乗れないだろうけど」
「……情けねぇぜ、こういうときに動けないってのは」
サイヤ人なのによ、と続けるナッパのボヤキを聞き流し、ブルマはここへ来た本題について触れる。
「それともう一つ! このやさしーいブルマさんが、あんたの暇を解消させてあげるわ!」
「へぇ……」
「反応が頭みたいにうっすいわねー!」
誰がハゲだって!? っと言い返そうとしたナッパは、ブルマ以外にもう一人、女性が傍にいることに気が付いた。
(お……誰だ? 暇を解消してくれるやつ……)
ナッパの思考は停止した。
ブルマの水色? っぽい髪色とは異なる、金髪で、ブルマに負けず劣らず活発そうな女性がブルマの傍に立っていたのだった。
「突然お邪魔してごめんなさいね。あたしはタイツ、あなたがナッパさんだよね?」
「…………」
「あれれ、黙っちゃった。意外と無口だったりする? あたしね、こう見えてSF作家なんだよね」
ナッパのことを気にせず話し続けるブルマの姉、タイツ。
──ナッパは動かない。
「実際の宇宙人が入院してるって聞いて、いてもたってもいられずにここに来たってわけなんだ。ねぇ、宇宙のこと、いろいろ聞いてもいい?」
タイツはナッパの返事を待つが、一向にナッパは動かない。
「ね、ね、ブルマ。サイヤ人って石にでもなる特質あるの? それとも死んじゃった?」
「い、生きてるわよ……。ナッパ、聞こえてる? ナッパー?」
ナッパの様子にタイツはこそこそとブルマに確認し、ブルマはナッパの目の前で手をふりふりと話し出す。
そのとき──。
「か、可愛い……」
しっかりとタイツに視線をあわせたまま、ナッパの口からそんな音声が飛び出た。
「……?」
「あ、ああ、わりぃつい口走っちまって……え、ええとその、タ、タイツさん? お、俺の経験でよければ宇宙のことは何でもお話しますぜ!」
「おお、急にエンジンがかかった! ありがとう、じゃあ早速いろいろと聞かせて欲しいんだけど──」
悟空やチチに続いてナッパまでおかしくなったことに、ブルマはフリーズしてしまっていたが、
そんな妹を他所にナッパとタイツの宇宙話は弾んでいった。
ドラゴンボールスパーキングゼロ、オンラインシングルでラディッツ使ってるんですが、
原作作品の明らか格上に勝てると嬉しいですね。
「カカロット、身勝手の極意は使うなよ?(畏怖)」
「了解だ兄ちゃん……さっさとやろうぜ(身勝手)」