異能戦線:ファンタジック・アカデミア   作:ネコわさびRPG

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09:天上天下姫様独尊

 

 荒れ果てた空間の真ん中に、巨大な階段と玉座があった。

 まさに頂点が登るにふさわしい、天上天下、ただ一人のみに許された玉座。

 ……いいや違う。それは瓦礫の山だ。

 五〇個でも一〇〇個でも積み上げた、大理石やレンガの瓦礫の山。元々は、この『大聖堂』の天井や床板を構成していたはずの素材だった。

 

「ふあーっはっはー!!!!!!」

 

 そんな瓦礫の山の頂上で、『少女』は腕を組んで仁王立ち。

 声高らかに笑いながら、その平た……ではなく、非常に慎ましくお淑やか胸を、ここぞとばかりに無理やり突き出して、

 

「シャットアウラ・ギルティルーク、華麗にふっかぁぁぁぁつ!!!!!!」

 

 王国の姫、シャットアウラ・ギルティルークは、堂々たる出で立ちで復活を宣言してみせた。

 真上に突き上げる両の拳。顔いっぱいに浮かべる勝気な笑み。そしてポッカリ開いた天井の穴から降り注ぐ、彼女一人を照らす太陽の光。

 

 その威光、その威厳……まさに『王』の風格───ッ!!

 ただ者ならざる王気(オーラ)に心を奪われたのか、シャットアウラを取り巻く少女達は「おお……」と感激の声。

 

「姫様! だ、大丈夫なのですか!? 姫様のお体にこれ以上の事があったら!」

 

「はんっ。見ての通りだフィルミエ、アタシの体は鉄より頑丈に出来てらぁ」

 

「ヒメサマへーきかー? 玉のお肌にきずがついたらダメなんだぞー? だぞー?」

 

「心配無用! この程度の傷なんざ唾でも付けときゃ明日にゃ治る!」

 

「さすがは姫様っす! 自分、感動したっす! やっぱり姫様は最高っす!」

 

「ったりめぇーよ! アタシは常に最高一直線だぜ!」

 

「無茶だけはしねーで欲しいんですがね。姫様ただでさえお転婆なんですから、勢い余ってぶっ壊れたりしねーでくださいよ」

 

「壊れるわけがねえ! アタシを舐めんなよ!」

 

 ビシッ! とシャットアウラは穴の開いた天井の向こう、遥かな大空を指差して、

 

「アタシの名はシャットアウラ・ギルティルーク!! 王政国家アミューゲルの王女にして、シルフィール異能学園の頂点!! 永遠に不滅だオラァァ!!」

 

 男気全開であった。

 その小柄ながらに頼り甲斐のある姿。全身から溢れ出る力強さ。そして、一言二言口を開いただけで確信させられる先導者としてのカリスマ。

 これこそが『頂点』。

 そう思えるだけの天性のセンスが、ビッカビカに輝いているのだった。

 

 ……てなもんで。

 

 上空からのダイナミックな登場直後、ぶっ倒れたシャットアウラは見事に復活を遂げていた。

 一挙手一投足に合わせて揺れる金髪。活気に満ち溢れる赤い瞳。雄々しい気迫を放つ幼い体。何から何まで元気一〇〇倍。

 そんな彼女の周りでは、完全体シャットアウラを崇め奉るように、熱い眼差しを向ける少女の集団が。

 

「さ、さすがは姫様、他の追随も許さぬ御姿……っ! まさに下界へ降り立った天女の如く! ワタクシ、生涯姫様ついていきますわ!!」

 

「わふー、ヒメサマげんきー。げんきなのが一番だって母上が言ってたぞー。だからヒメサマが一番だー」

 

「そうっすよ! やっぱり姫様は最高っす! 特にあの小さいお胸が極上っすよね! 穢れを知らない無垢な体! 未熟な蕾の瑞々しさ! これからどんどん大きくなっていくであろう将来性! そして大人になるたびに世の中の醜さに晒されて、徐々に穢れ、汚れ、身も心も汚辱に犯されていく悲痛な未来! へ、へへ、えへへへへへへへへへへへ! も、もう自分、想像するだけで体が熱いっす! 床がビチャビチャっす! 姫様最高っすよー!! 自分に犯させて欲しいっすー!!」

 

「アンタ一回頭の医者に診てもらったらいかがです?」

 

 次から次へと湧き上がる感動と称賛の声。鳴りやまぬ喝采の拍手。ここまで大袈裟だともはや恐ろしい。皆が皆、彼女に心底心酔してしまっているのだ。

 ……一人だけ飛び抜けてヤバいのがいた気がするが、多分気のせいだろう。

 

 瓦礫で築いた玉座の上で、当のシャットアウラは気分が良いのか「うむっ!」と大きく頷いてみせた。

 そして、やっぱり薄……ではなく、控えめなお胸を無駄に張りながら、

 

「オマエらには心配をかけたな。唐突な不審者の乱入、そして変質者の奇襲、予期せぬ事態の連続に、誰もが心を疲弊させているはずだ。しかぁーしっ!!」

 

 突然の演説に、その場がざわめいた。

 その空間の全ての視線が、王女へと注がれる。

 

「アタシが復活したからにはもう大丈夫だ! この学園の王は誰だあ!?」

 

 姫様でーす!! と少女達の合いの手。

 

「オマエらは誰だあ!?」

 

 姫様の下僕でーす!! と少女達の合いの手。

 

「そしてアタシは誰だあ!?」

 

 ご主人様でーす!! と以下略。

 

「そのっ、とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉり! 分かってんなメス豚共! 下僕は主人の背中に黙ってついて来ればそれで良し! オマエら全員まとめて一緒に、アタシがこの手でキッチリバッチリ守り切ってやんよォォオオオオオオオッッッ!!」

 

 きゃああああああああああああああああああああああああああああああああっ!! という黄色い声援がビリビリと空気を震わせた。

 男よりも男らしいお姫様の言葉に、下僕なお嬢様たちはすっかり陶酔。顔を赤く染めたり、両手で頬を押さえながらピョンピョン跳ねていたり、熱烈な瞳を向けていたり、興奮し過ぎて気絶しそうになっていたり、誰もが彼女をヒーローのように崇め奉る。

 

「ああ、やはり姫様こそ頂点に立つべきお方です! このフィルミエ=ファーミラ、姫様に一生を捧げる所存ですわ!」

 

「かっくいいぞヒメサマー。オトコギが溢れてるぞー。かっくいい女はさいこーだって父上が言ってたぞー。だからヒメサマさいこー。さいこーにかっくいいぞー」

 

「そうっす! 姫様は格好良い姿も最高っす! そしてその威光と威厳をへし折って栄光を地に堕として床に跪かせて靴を舐めさせるまでがワンセットっす! できるならそのまま自分の部屋に監禁して! 恥辱と凌辱の限りを尽くして! 泣いて怯えて顔を歪ませた姫様が見たいっす! うおおおおおおおおおおおお! 温まってきたっす! 自分! 燃えてきたっす!!」

 

「そのまま燃え尽きて死んでくれねーですかね」

 

 拍手と絶叫と歓喜の中、自然発生的に「ひーめっさま! ひーめっさま!」……姫様コールまで始まる。

 鳴りやむ気配のない熱烈な応援を一身に浴び、シャットアウラは狂おしいコールに応えるように、「うむうむ」と何度も大きく頷いてみせる。そりゃあもう気持ちのいい事だろう、ニヤついた顔が全く隠し切れていない。

 腕を組み、顎を突き上げ、眼下に群がる下僕の民を睥睨し、姫様はホッカホカのテッカテカ。心身ともに温まり切っていた。

 

「そぉら静まれぇい!」

 

 姫様の声に、おぉぉ……と少女達が押し黙る。

 辺りを制するように腕を上げたシャットアウラを、眩し気に目を細めてありがたそうに仰ぐ。

 

「さて、それじゃー本題に入ろうじゃねえか」

 

 ゴクッ、と誰かが大きく息を呑む。

 

「つい先日の事だ。皆も知っての通り、アタシは世にも恐ろしい辱めを受けた。汚されちまった。女としての尊厳を全部奪われちまった。あの時は……なんかとにかく超大変だった。色々あってヤバかった。アタシは心と体に大きな傷を負い、こうして立っているのもやっとの有様だ」

 

 瓦礫の山で仁王立ち、しまいには腕を組んで偉そうにふんぞり返っている『立っているのもやっと』な姫様が、まるで回想するみたいに目を閉じながら、芝居がかった口調で事の経緯を話す。

 

「当然、アタシは許すつもりも情けをかけるつもりもねえ。かといって、腰抜けばかりの軍や衛兵に引き渡すのも納得がいかねえし、豚箱にぶち込むぐらいじゃアタシの腹の虫が収まらねえ。……じゃあどうするよ?」

 

 しん、と沈黙。

 そして。

 

「ええいしゃらくせえ!! この場でさっさと裁きの鉄槌を食らわせたらあ!!」

 

 クワ! と開眼。シャットアウラは両手を突き上げて声高らかに宣言する。

 なんたる男気。なんたる豪快さ。これには少女達も「うおーっ!」と、お淑やかさなど皆無な雄叫びを上げる。

 

「さあオメエら答えやがれ! アタシは誰だあ!?」

 

 ご主人様でーす!

 

「主人に仇成す愚か者はあ!?」

 

 ゴミクズ以下でーす!

 

「判決はあ!?」

 

 死刑でーす!

 

「よぉし!! 今すぐアタシの前にあの男を連れて来ぉい!!」

 

 指示があるや否やだった。

 わああああああああああっ!! と、少女の軍勢が一ヵ所になだれ込む。

 

「早く立ちなさい!! この変質者!!」

 

「無残に断罪されるがいいですわ!!」

 

「我らが女神に手ずから処分される幸運をその身に刻むがいいのです!!」

 

 意味不明な罵声を浴びせられながら、一人の男がシャットアウラの目の前に投げ捨てられた。

 王女は鋭い覇気を放つ赤い瞳を、改めてその大罪人に向け直す。

 少女達の集団に弾き出されるようにして姫様の前へと現れたのは、誰もが殺意を向ける大罪人。

 変態。覗き魔。死刑囚。……悪名は数多く。

 農民の分際で、一国の姫に凌辱の限りを尽くした史上最悪の大犯罪者。

 

「……で」

 

 そんな極悪非道、悪辣無比な変質者が。

 今──────

 

 

 

「なんでもうそんなにボロボロになってんだよテメエは」

 

「そ、そこのお嬢様方に集団リンチにされましたが何か……?」

 

 

 

 ───死刑云々以前に、すでにズタボロになったハルトが、死んだ虫みたいになって床に転がっていた。

 

 

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