みかんこぉ^〜(決闘開始の宣言)   作:回帰壊獣バブミエル

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※注意※
 タグのとおり、ガールズラブ要素はありません!! 
 男キャラが苦手だったり、百合以外解釈違いやアレルギー症状が出る方はそのままブラウザバックしてください!!! 

 
しろ(脅迫)



今だけ泣いていいよ

 

 雲を裂き、空を裂き、彼方より降り立つ螺旋階段。

 陽光か、月光か、どちらにも例え難い光は舞台照明のように役者たちを照らす。

 

 焔のように力強く、厳かに、剣を振りぬく火鼠。

 流麗に、しなやかに、鏡のような水面を描く猫又。

 階段の下では巫女たちによる、思い思いの舞踊が披露されている。

 

 これらは神へ捧ぐ舞、神楽の数々。この数十年に一度の大舞台に向け、血の滲むような努力を重ねたことは想像に固くない。

 各々、観客であれば立ち上がり、ひとりひとりに盛大な拍手を捧げたいと思っていることだろう。

 

 だが、天より降り立つ神は彼女たちを選ばなかった。選ばれたのは伝統深い、神の象徴たる鳥を表現した舞を捧げた少女の方であった。

 

 “神に選ばれた者はその力を身に宿し、現人神となりてこの世に豊穣をもたらす。”

 

 そんな伝承のとおり、彼女は神を宿し、その力を振るい、後世に語り継がれる偉人となることだろう。

 元よりこの場の誰よりも才を見出されていた。

 順当な結果だ。傍から見れば。

 

 

 ……誰よりも納得できなかったのは他ならぬ()()()()()()だとも知らずに。

 

 

 その“舞”には──────“自分”がなかった。

 

 教えられた動きを真似ただけ。

 言われたことをやっただけ。

 そこに己の意志や想いなど、何も介在していない。

 

 とても芸術性なんてものを持ち合わせていないが、建前と責任感だけが一丁前の人間が、貼り付いた笑顔を浮かべて最初から最後までやっただけ。

 

 だからこそ、そんな動作なんて神ならば否定してくれると信じていた。失礼だ、無礼だ、なんて吐き捨てて、冷たい視線を向けて欲しいまでもあったのに。

 

 嗚呼。

 嗚呼。

 結局、神でさえ本当の自分(わたし)なんて見てくれないんだなぁ。

 

 そんな失望さえも、“自分”ではないものに塗り替えられていく──────

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 刺すような寒さが和らぎ、初芽が芽吹き始める季節。

 山の色も白から緑へと移ろいでいくのを見ると、いよいよ春がやってくるのだと思わせられる。

 

 そんな山の奥の奥。人も立ち入ることのない獣道をかき分けると、天から落ちてきているように錯覚させられる大滝の滝壺に辿り着く。

 

 水しぶきが飛び、あたりにマイナスイオン充満する中に二人の人影がある。

 

 片や熊と見間違う程に大きな体躯の偉丈夫。

 片や四尺五寸ほどのどこにでもいるような少年。

 そして、滝壺の上に立つ偉丈夫を超え、腕にはかぎ爪のような篭手をつけた熊がいた。

 

 

「《剣闘獣アンダル》でダイレクトアタック!」

 

 

 偉丈夫に命じられた熊は少年の方に迫り、身につけた篭手で殴りかかる。生物としての本能に従えば、背を向けて逃げ惑うのが当然の行動。

 しかし少年は腕を広げて受け入れた。

 

 常識では考えられない行動。

 しかしなんてことのない日常の一幕に過ぎなかった。

 少年も偉丈夫もそんな常識に囚われない存在だからだ。

 

 彼らは──────決闘者(デュエリスト)

 カードに魂を込め、己の力と誇りをかけて戦う者たちなのだから。

 

 

「くっ!」

 

 

 少年は吹き飛ばされることもなく、不敵な笑みを浮かべるばかり。反面、偉丈夫は焦りを隠せない表情のまま、次の手を模索する。

 

 

「……ターンエンドだ」

 

「残念だったね、安田(あんだ)君。惜しかったけど、一手足りなかった。君はこのターンに決めきるべきだった」

 

「何を言う。残りのLP100。手札はゼロ。伏せカードも全て破壊している。ここから何ができるというのだ」

 

 

 

 偉丈夫──────安田と呼ばれた男は少年のあたりを見渡す。確かに少年の周りを護るものは何もない。このまま、熊の餌食になるのは時間の問題だ。

 

 

 

「できるさ」

 

 

 だが、少年には、右手に添えた山札の鼓動を感じていた。

 

 

「デッキを信じているかぎり、皆は応えてくれる! ドロー!」

 

 

 狙いどおり。

 引いたカードを見て、ニヤリと笑う。

 あとはもう、勝つだけだ。

 

 

「魔法発動! 《御巫の火叢舞》! 

 手札、墓地より《御巫》と名のついたモンスターを特殊召喚し、この魔法を装備する! 墓地から顕れいでよ! 《剣の御巫ハレ》!」

 

 

 突如、空から炎が舞い降りる。

 あたりの湿気が蒸発し、水蒸気が辺りを包みこんだ。

 蒸発が晴れた先に、安田が見たのは赤毛の少女。

 手には剣を持ち、細身ながらも力強い動きでこの地に舞い降りた。

 

 

《剣の御巫ハレ》 ATK/0

 

 

「くっ、だがその女の攻撃力は0! アンダルを破壊することはできない!」

 

「それはどうかな? ハレで《剣闘獣アンダル》に向かって攻撃!」

 

 

 一閃。

 赤毛の少女は熊の懐に立ち、手に持っていた剣を振りぬいた。

 しかし、不思議なことに熊には傷一つついていない。

 それもそのはず、少女が切り捨てたのは熊ではない──────熊を操る使い手なのだから。

 

 

 

「《剣の御巫ハレ》の効果。装備カードを装備したこのモンスターの戦闘ダメージは相手が受ける。君のLPはちょうど1,900──────これにてお終い」

 

 

 安田 LP0

 

 

 安田が膝をつき、少女と熊もまた姿を消す。

 勝敗は決し、ソリッドビジョンもまた役目を終えた。

 敗者はそのまま河原に膝をつくが、浮かべた表情は絶望ではなく、清々しいほどの笑顔だった。

 

 

 

「…………負けた負けた! 今日こそ勝てると思ったんだけどな! 普通あの場面で逆転できるカード引けるのかよ、尊!」

 

「いつも初めて見たみたいなやられ方してくれてありがとうね、安田君。まあ、今回も勝ちは譲ってあげられないよ」

 

 

 尊と呼ばれた少年は安田に手を差し伸べる。

 その手を掴み、引っ張ろうとしたが……ピクリとも動かない安田。

 両手で引っ張っても不動の彼を睨みつけてみれば、安田は笑いながら自力で立ち上がった。

 

 

「意地悪しないでよ」

 

「ははっ悪い悪い。けどいつまでもヒョロいお前もどうかと思うぜ? もっと鍛錬を積まないとな!」

 

「ゴリゴリの肉体派の安田君には敵わないよ……っと、じゃあ感想戦とフィードバックしようか」

 

「おう!」

 

 

 両者、河原に座りながら先の戦いを振り返る。

 彼らは共に競い合うライバルでありながら、互いに切磋琢磨し合う仲間でもある。

 こうして彼らは一歩、また一歩と前へと進んでいく。

 

 

「……いつもありがとう」

 

「ん? どうした?」

 

「なんでもない。で、ターン最初の初動だけど……」

 

 

 尊は小声で己のデッキを撫でる。

 先程までモンスターゾーンにいたためにデッキトップに《剣の御巫ハレ》が、それに応えるように光った気がした。

 

 

 ここは、デュエル・アカデミア“()()”分校。

 比喩なしで人も立ち入らない、都市部から遙か離れたこの陸の孤島に設立された少数精鋭の決闘者養成施設。

 そこに籍を置く、上埜尊の運命が動き出そうとしていた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 俺は高校生でもない社畜のMDプレイヤー上埜尊! 

 幼馴染なんていないため休みの日に一人で山にソロキャンプしていたら茂みの奥に怪しい女の子の影を見てしまった。

 このあたりは樹海が近いため呼び止めようと後を追うのに夢中になっていた俺は、自分がもといた場所がわからなくなり……

 

 

 気がついたら体が縮んでしまっていた!  

 

 

 運良く保護してくれたおじさんがこの集落に根付いている学校の校長だったが事情を聞いてみれば、元いた場所とは似て非なる“遊戯王(アニメ)”世界だったことに気づいてしまった。変に怪しまれると困るため身元不明の記憶喪失としてこの山村で暮らすことにしたってワケだ。

 

 ここで俺についてきたイカれたメンバーを紹介するぜ! 

 まずは、俺をこの地に誘導してきた全ての元凶! 

 

 

『なるほど、これが“ちょこれいと”というものですか』

 

 

 《オオヒメの御巫》! 

 

 そして偶然持っていた頼りになるデッキたち! 

 

 以上だ! 

 

 いや、何が以上だよふざけるな凌牙。

 色々ツッコみたいことあるけどまずもう少しだけ身の上のこと説明しよう。

 

 先程も説明したとおり、ここはアニメの遊戯王の世界。

 

 実はこのひきとられた山村、実は海馬コーポレーションと共同で色々と施策をしていたりする。

 で、ここは廃校を再利用した決闘者専門の教育学校──────デュエル・アカデミア。

 ウエスト校、ノース校とか色々あった気がするが、びっくりこんな辺鄙な山奥にも存在したのだ。

 

 本家本元は海の孤島だが、ここは公共交通機関も整っていない“陸の孤島”。山を越え、谷を越えようやく辿り着ける秘境に位置する集落に位置している。あの海馬社長が地域振興も兼ねて自治体と共同で決闘者の養成を内地で行っている。

 まあ、実際は陸と海、どちらの方が決闘者の育成に適しているのかサンプルを取るためのものだろう。事実、生徒数も自分含め十数人しかいない。

 

 

 そんなところに偶々デッキを持っていたからって一生徒として住み込みで勉強させてもらっている。これが田舎の人情というものなのか、それとも決闘(デュエル)脳なだけなのか。

 まあ戸籍もないと思われる人間の衣食住を保障してもらっているだけありがたい話だ。

 ……いや、そもそも何で紙のデッキ持ってたんだ? しかもマスターデュエルで使っていた後手捲り専用デッキ。

 データ上のパックは散々ひん剥いたが、紙のパックはコレクション用に買ったやつしかなかったはず──────

 

 

「──────かね! 聞こえているかね!」

 

 

「──────アッ! はい!」

 

 

 耳元でこの“山間分校”の校長、兼、俺の身元保証人をしてくれている髭のおっちゃん。その豊満な決闘筋肉(デュエル・マッスル)と鬣のような白い髪から心の中で“バシレオス校長”と呼んでいるおっちゃんの声が、俺を現実へと連れ戻す。急に耳元で叫ぶなよ鼓膜破れるかと思ったわ。

 

 周囲を見渡して状況を思い出す。

 虫の声や猛獣の声も聞こえない、チクタクと時計の秒針と食器の音だけが心地よく耳に入る。アンティーク調の落ち着いた雰囲気を纏う室内。

 手元にあるアイスコーヒーを流し込み、口に含む。余韻を噛み締めながら精神を落ち着かせ、ようやく自分が学校から最寄りの喫茶店にいることを思い出す。

 

 本来、生徒がこうして学校の敷地──────ひいては村の敷地外に出ることはない、なにせ、この喫茶店でさえ移動に約1日費やすからだ。最寄りとは。

 今回は例外中の例外。なにせ客人を招いているからだ。

 招く、と言っても先述のとおり訪れることすら過酷な学校にご足労いただくなんて真似はできない。故に特殊な訓練を受けている先生方とともに、こちらが集合場所を決めてから足を運んできたわけだ。

 

 

「失礼。お客人の前で呆けさせてしまった。非礼を詫びよう」

 

 

 同じく、陪席していたバシレオス校長の息子で教師の……こちらも筋肉ムキムキマッチョマンの白髪頭の大男で、二刀流が似合いそうな風貌から“メテオラゴン先生”と心の中で呼んでいる先生がフォローしてくれる。

 

 まあこれは明らかに俺が悪い。お客様の前で反応もせずぼーっと考え事をしていたのだから。

 でも、目の前にいるお客様が現実逃避したくなるような存在だったのだから許してほしい。

 

 

「……いや、こちらは気にしていない」

 

 

 この進化した本田ヘアーと服越しにもわかる決闘筋肉(デュエル・マッスル)

 間違いない、プロフェッサー・コブラである。

 目に見えてわかる悪役だったが、裏には息子同然の子どもを喪った悲しき過去があり、その悲しみをユベルに利用し尽くされ……という悲しき過去を持つ男。

 そんな筆舌にし難い人生を辿る男と、何の間違いかこうして目の前で相対しているわけだ。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 それにしても、筋肉が……筋肉が渋滞しているっ! 

 コブラにバシレオス校長、メテオラゴン先生……むさ苦しいことこの上ない。あまりの暑苦しさに意識が飛びそうだ。

 

 また余計な思考にリソースが向きそうになったため、切り替えるためにもわざとらしく咳払いをひとつつく。

 さて、どんな話をしていたのだったか。

 ばらばらと散りばめられた記憶から話をパズルのように組み上げる。

 

 

「で、えっと、僕の本校への編入についてでしたっけ?」

 

「正確には留学だ。君には本校に留学する“五人目”の留学生になってほしい」

 

 

 なんとなく話が見えてきましたよ(白目)

 つまりこれはヨハンたちと一緒に留学しないかって話だな。

 GX3期。あの明るかった1年生時代とは一線を画す夕方放送のアニメとは思えない真っ青な鬱展開目白押しの3年生序盤。

 

 ……となると、時系列的には光の結社が解体された直後くらいか。

 テレビもねぇ、ラジオもねぇ、車も走れるほど道が舗装されてねぇ。

 世間的には一大ニュースだったはずなのに届かないって改めて秘境っぷりにびっくりだ。

 

 

「せっかくのお話、大変ありがたいですが、お断り申し上げます」

 

 

 深々と頭を下げ、即決した。

 後頭部に突き刺さるコブラの視線が痛いが、社畜経験が活きたのだろうか。臆することなく正直な気持ちを話すことができた。

 

 

「……理由を聞こう」

 

「ブロフェッサーもご存知のとおり、ここは海馬社長が設立した“実験”的な側面のある学校です。まだ発足して間もなく、生徒数も両手で数え切れるほどです」

 

 

 教育現場というものは教員と生徒の割合は一定でなければならない。どちらかが偏るとカリキュラムが正常に機能しなくなる。現実では少子化と謳われつつも、教員不足が深刻化し、その皺寄せが教員ひとりあたりに大きく及んでいるのも記憶に新しい。

 

 で、この分校は設立したばかり、かつその特殊すぎるカリキュラムにより、教員の数が非常に限られる。

 それこそ、このバシレオス校長と、メテオラゴン先生……あとは“定年”になって里帰りしてきた事務のおじさんふたりでやりくりしている。

 

 当然、人手なんて足りているわけもなく、生徒教師近隣住民総出で支えているのがこの分校なのである。

 

 

「少々自惚れがすぎるかもしれませんが、実情として半ば教師としての役目も担っている僕をこの分校から離してしまうのは得策とは言えないと思います。それこそ、長官の仰られた“デュエル・アカデミアの立て直し”とは真逆の施策になってしまうでしょう」

 

「……自惚れではない。恥ずかしながら、尊君は教師である我々では手を回せない部分を担ってくれている。この分校は少数精鋭だからこそ、身近に彼のようなカードの知識やその先を明確に見据えている存在は得難いものだ」

 

 

 同席してくれたメテオラゴン先生に心の中でサムズアップする。

 いや本当、海馬社長なんとかしてくださいよ。

 ふぅん、ならば決闘で勝ち取るがいい、とか言いそう。

 

 

「………………」

 

 

 そういうと黙るコブラ。

 結局、俺のデュエル・エナジーがお目当てなのが見え見えなんです。さては息子の蘇生しか考えていないな? お外法モンスター、ヴェノミナーガ♡

 

 

 やや強引な論理ではあるが仕方あるまい。

 結局行ったところで“デス・デュエル”と称して精魂吸い尽くされて、異世界に飛ばされれば“デュエルゾンビ”なるものに襲われ、挙げ句の果てに消滅させられるんでしょう? 

 

 

 うわ〜〜〜〜関わりたくねェ〜〜〜〜。

 これは逃げたくもなるだろう、現実から。令和のカードゲームの世界基準でも異質すぎて頭おかしくなりそうだ。

 

 放送倫理的に夕方で流せるか怪しいストーリーなんてゴメンです。

 最終的に十代が解決するにしてもお断りです。本当にありがとうございました。

 

 

 

「しかしだね尊君……ん、口元がチョコまみれになっているぞ? 大丈夫か?」

 

「失敬。お気になさらず」

 

 

 そりゃあ今の今まで《オオヒメの御巫(コイツ)》が俺に向けてチョコを押し付けていたからである。

 何が『尊も食べてみませんか。おいしいですよ』だ。客人が持ってきた手土産を即開封して目の前で食べるとか頭ポンなのか? 

 

 ええい、わかってるよ。

 自分が食べてみて美味しかったから共有したいんだよな。

 気持ちはわかるから。

 時と場合を弁えてくれ。

 頼むからチョコを頬に押し付けるな後で食べるから。

 何にせよ、この場を切り抜けることが先決だ。

 

 

「貴重なお時間を使わせてしまい申し訳ございません。では、失礼しました」

 

 

 もう話すことはない。

 その意志を示すように立ち上がって喫茶店に後にする。

 さて、戻ったら《オオヒメの御巫(コイツ)》に説教とともに常識や礼儀を叩き込まねばなるまいて。

 

 

「そうか……受けてくれるか」

 

「はいぃ?」

 

 

 ついAIBOじゃない方の相棒みたいな声が出てしまった。

 話聞いていなかったのかこのネオ本田ヘアーのおっさんがよ。

 

 

「嫌々言いながらも、このとおり書類にはキチンとサインしてくれているではないか」

 

「エ!」

 

 

 振り返って見れば、空欄だったはずの誓約書には署名と指印が。

 

 

「ククク……隠しきれぬ上昇志向には目を見張るな。では、期待しているよ」

 

「あ、ああ……あ……」

 

 

 フリーザを前にしたクリリンみたいな声を上げていたら、用事が済んだコブラは早々に立ち去っていった。

 

 全く身に覚えがない。己の指を見てみれば朱肉の跡がついてる。メテオラゴン先生とバシレオス校長も反応はいつもどおり。むしろ動揺している俺を心配そうな目で見てくる。

 

 クソッ、今なら誓約書を奪って破り捨てて撤回すれば間に合うか? 

 あの作中屈指の決闘筋肉(デュエル・マッスル)を持つコブラだが、こちらも山育ち。安田君ほどではないにせよ、腕力には自信がある。

 

 全速力で追いかけようとしたら、ふと袖が引かれる感触。

 こんな時に可愛らしい仕草で止めようとするのは──────待て。

 

 

「あ」

 

 

 犯人がわかった。

 

 

『ほら、はやく食べましょう。私が代わりに書類を片付けておきましたから。せっかく捧げられた供物は無駄にしてはいけませんよ』

 

 

 先程からお土産のチョコレートを口に押し付けていたように、

オオヒメの御巫(コイツ)》、なぜか物理干渉できるんだった。

 

 

「わ……ぁあ……」

 

「泣いちゃった!」

 

 

 精霊の見えない第三者視点で正当性を主張することはできないことが明らかになり。

 感情の整理をつけるまでの数十秒の間でコブラは去ってしまい。

 

 

「これもいい機会だ。君も羽を伸ばすつもりで行ってくるといい」

 

「分校のことは我々に任せてくれ。いつまでも君に頼りっぱなしにはしておけんからな」

 

「行ってこいよ尊! 本校のやつらをギャフンと言わせてこい!」

 

「ほらハンカチは持ったかい? 寂しくなったらいつでも連絡頂戴ねぇ」

 

 

 意志表示の撤回をするにも、先生方や同級生、じっちゃんばっちゃんの100%善意の激励が飛んできて後には引けず。

 甲子園出場を果たした野球部員のような心持ちで見送る彼らを背に、こうして分校を後にした。

 

 ちなみに《オオヒメの御巫》には“私は無権代理しました”看板を装備させておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふふっ、ゆにーくな装飾ですね。

 尊、同じものをつけてお揃いにしましょう』

 

「ハァ?」

 

 

 《愚鈍の斧》も追加した。

 

 





■《御巫》
 みかんこ。テーマモンスターは共通して攻守0だが、下級は装備カードを装備しているとダメージ反射効果および他の効果を獲得し、上級儀式モンスターはデフォルトで反射効果を持つ。先行も解決札がないと詰む可能性が高いが、装備魔法の効果含め、後手捲りの方が真骨頂とも言える。
 下級上級含め全員がユベル最終形態の能力を持っていると考えれば明らかに過剰すぎるカードパワーだが、アニメらしく攻撃誘発の罠カードが潤沢にデッキに含まれ、ゲームスピードも牧歌的な時代のため後手ワンキルが簡単に成立しない模様。良くも悪くも相手のカードパワーに依存する面もあり、何とか一方的にはならない……はず……。


■《オオヒメの御巫》
 エースカード。儀式モンスターの癖に儀式召喚しないモンスター筆頭。
 興味のあるものにはすぐに飛びつき、公共の場でも主人に無視されるとちょっかいかけてくるトラブルメーカー。自制心のない子供のようだが、貼り付いたようなアルカイック・スマイルが豊穣の神(天使族)らしい人間性のなさが垣間見える存在。
 特技は物理干渉。物理法則に喧嘩を売るように重い物でも簡単に動かしたり、デッキ内の装備魔法を勝手に実体化させて装備させてきたりする。
 

■デュエル・アカデミア山間分校
 離島に位置している本校とは異なり山奥に位置する分校。
 あまりに山奥過ぎて、山登りを2回分しなければ辿り着けない上に道が険しすぎて遭難の危険性のある秘境に位置している。何やら獣の頭のような岩とかがランドマークとして存在し、現地の動物たちも特殊な生態系を形成しており、熊とか平気で出てくる。カードゲームの世界ですよね?
 そんな過酷な環境だからこそ生存本能や闘争本能が掻き立てられ、1人前の決闘者としての力が育まれていくらしい。何か悪いことでもしたんですかね?
 主人公は精霊パゥワーにより、他の生徒、教師、現地の村の住民は年配者含め特殊な訓練を受けているため死傷者などは発生しない。
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