みかんこぉ^〜(決闘開始の宣言)   作:回帰壊獣バブミエル

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 え、この文字数で決闘描写ないんですか?



いってらっしゃい

 寮から数多くの生徒が運び出されていく。

 ガラム財閥主催のパーティーに参加していない生徒も、同時刻に決闘(デュエル)したことにより巻き込まれてしまった。

 体力の有り余っている俺が生徒の搬送作業を率先して手伝ったため、ざっと人数は把握したが……その数は全校生徒の半数以上。

 

 完全に学級崩壊だ。

 デス・デュエル期間中もやっているはずの授業もまともにできない状態になってしまった。

 さすがにアモンもこんな惨状になるなんて誤算……だろうと気にしないか。

 メンタル極まってるじゃん。こわ。

 

 

「──────って言うことがあってサァ」

 

「へぇー、精霊狩りするやつなんて居たのか」

 

 

 生徒たちの搬送が終わった後、十代たちに昨夜起きたことを話していた。ギースもまた意識不明の重体で治療を受けている。

 ベッドに拘束具をつけた上で、だが。

 精霊たちに連れて行かれる様子は……なさそうだ。

 俺と戦ったことで消えるはずの精霊が生き残ったためなのか。それとも彼にはまだ役目があるのか。

 

 

「…………」

 

「ヨハン……」

 

「大丈夫だ、十代。あんなヤツでも、こんな状態の人間相手にどうこうするつもりはないぜ」

 

 

 ヨハンとしてはやっと見つけた犯人ではあるが、その表情からは複雑な心情が見て取れる。

 事情は皆を前に一通り話をして貰っている。

 精霊関係にピンと来ない一同も、“レアカードハンターのようなもの”として思われているのだろう。ギースを見る視線は厳しいものであった。

 

 

「マサーカ、このデュエル・アカデミアにあんなアウトローが潜んでいるとは思わなかったノーネ……」

 

 

 ゾッとする様子でクロノス先生はそんなことを口にする。ギースを連行した夜も同じようなことを言っていたが……デュエル・アカデミアって結構アウトロー出没しているよね、セブンスターズとか。

 警備がザル、と言うよりはこんな侵入経路が限られている孤島にやってくるなんて事は想定しようがないのはわかるけどね。

 

 まあ、報告したその日の夜に全校生徒に通達するまで一緒に居たが、冷静にスムーズな対応だった。経験はしっかりと活きている。問題は肝心の生徒たちが集団で昏倒していたから更にアッチョンブリケになっちゃった。

 

 

「デス・デュエルによる大勢の生徒が昏倒した件と無関係とは思えないのでアール。我々も一刻も早く、出張中の鮫島校長と連絡を取って、即刻中止の判断をしてもらうように動くのでアール!」

 

「え、ナポレオン教頭には権限がないんですか? 立場的には校長の次に偉いのに」

 

「歯痒いのでアールが、このデス・デュエルはプロフェッサー・コブラ主導のプロジェクト……ひいては彼を誘致した鮫島校長でないと正式に取り下げることはできないのでアール。

 私にできる事は、緊急事態として原因究明ができるまで決闘(デュエル)を控えるよう、生徒たちに呼びかけることくらいなのでアール……」

 

 

 ええっ、と十代たちが驚いた。

 そりゃそうだろう。そんな悠長なことをしていたら無事な生徒たちは不安になるに決まっている。

 

 

「なんだよそれ! こんなに被害が出ているって言うのに!」

 

「ウググ、何にも言い返せないノーネ……」

 

「大人の事情ってヤツだね。十代、ナポレオン教頭だって、できることなら今すぐ止めさせたい気持ちは同じなんだ。今はできることをしよう」

 

「面目ないのでアール……」

 

 

 実際、ナポレオン教頭はマルタンにも被害が及んでいる以上は形振り構わず止めたい気持ちで一杯だろうに。比較的冷静なクロノス先生に諭されたのかもしれない。

 大人は皆、柵ばかりに囚われて動けないものだ。特に偉くなればなるほどに自由から程遠くなる。

 

 とりあえず、先生方にはできることをしてもらうことになった。無事な生徒たちを集めて鮎川先生をフォローしてもらいつつ、出張中の鮫島校長に鬼電してもらう。

 なんで肝心な時にいつも居ないんだ、あの人。

 

 閑話休題。

 

 

「……それはそれとして、ホレ。《ジェリービーンズマン》だ。持ち主に会ったら返してあげて」

 

「ああ! 本当にありがとう!」

 

 

 大人たちの方針が決まったところで、自分たちはどうしようとなった時。懐にしまっていた《ジェリービーンズマン》をヨハンに返却した。

 

 過ぎたことだが、因縁ある相手を横から掠めとる形になってしまった。襲われたのを撃退しただけとは言え、少し申し訳なくなってしまう。

 

 

「本当だったらヨハンが直接懲らしめたかっただろうに。悪いね、出番取っちゃって」

 

「……その気持ちは確かにあるけど、やっぱり《ジェリービーンズマン》が悪い奴の手から戻ってこれたことの方が嬉しいさ。俺が責任持ってトムの元に返すよ」

 

「え、トム?」

 

「? トムを知っているのか?」

 

「あ、いや……絶対人違い。俺、山の外に出たことなかったし」

 

 

 ──────トムの勝ちデース。

 

 全く関係ないはずのフレーズが浮かぶ。

 実はギースも“バンデット・キース”が元になっていた? 

 

 つい反応しそうになってしまった自分を戒める。

 いやいや、ここ、カードゲームの世界。

 同姓同名の決闘者(デュエリスト)なんて幾らでもいるだろうに。

 

 

「ほら、《ジェリービーンズマン》もお礼言っているぞ」

 

「そうなんだ」

 

 

 俺には全く見えないけどネ! 

 だけど無反応はよくないと思うのでヨハンの視線から大体の位置を予想して会釈する。

 

 いやあ、本当に何で見えないんだろう。

 隣の《オオヒメの御巫(コイツ)》はハッキリ見えるのに……ええい、話に興味ないからって俺の髪で遊ぶんじゃない。同じ精霊だろうに、薄情な奴だな本当。

 

 

「……なあ、前から気になっていたんだけど、尊って本当に──────」

 

「皆! アモン君が目覚めたわ!」

 

「アモンが!?」

 

 

 駆けつけてくれた鮎川先生に視線が集まる。

 

 十代たちが驚いている一方、随分前から起きていただろう、という冷めた反応しかできない自分。

 事実、島の外で控えている本田ヘアーと連絡取っていたとは言え、決闘(デュエル)エナジーは吸い取られているのだから苦しんでいるはずなのに。

 

 関係ない生徒も巻き込んでいるという点がこんな穿った見方をさせるのだろうか。

 まあ、お見舞いくらいは同行するか。

 

 

「行こうか。話はまた落ち着いたタイミングにしよう」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

 ヨハンに呼びかけて、皆と一緒にアモンのいるブルー寮へと向かう。

 何か言いかけていたが、一体何だったのだろうか。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 アモンが目を覚ました。

 そう聞いてやってきたのはブルー寮。

 数日前よりも遥かに人の気配がない。

 

 自室のベッドに横たわるアモンを取り囲み、当時の事情を聞いていた。

 

 

「あのパーティーの直前、プロフェッサー・コブラは皆に一斉にデス・デュエルをするようにけしかけられました。

 そして、このデス・ベルトから僕の……いや、僕ら生徒たちの生気が吸い取られていくのを感じました」

 

「何だって!?」

 

 

 アモンの言葉に一同驚く。

 他にも体感した者もいる中、アモンの言葉で疑惑が確信に変わったということか。

 

 アモンめ。嘘と真実を混ぜ合わせてやがる。

 コブラにデス・デュエルをけしかけられたのは本当でも、“パーティーの参加者一斉にデス・デュエルをさせろ”とは言われていない。コブラの狙いはあくまでアモンだけであり、他の生徒も巻き込まれたのはアモンの差金だ。

 しれっとパーティーの件もコブラに擦り付けているあたり、やはり慣れているなこの男。詐欺師のやり口だぞ。

 

 というわけで、コブラがいるとされる森の奥の研究所──────SAL研究所に乗り込もうとする一同。

 

 

「うーん、俺はこのまま校舎に残ろうかな」

 

 

 ここが分岐点だなと思い、今まで黙っていた口を開いた。

 

 

「尊、ユーは行かないのか?」

 

「皆が行くと、コブラと行き違いになるかもしれないし。あと、ギースのようなヤツが潜んでいる可能性もあるなら、生徒たちが倒れている状況で誰も居なくなるのはマズイんじゃない?」

 

 

 と言うのは建前。

 本音はこのまま行けば異世界転移待ったなしのためだからだ。

 コブラ戦は地下から伸びるヘリポート上での決闘(デュエル)だ。そこまで行けば逃げ場がないし、研究所の地下に居ても転移に巻き込まれるのはオブライエンが証明している。

 

 このフラグを回避するためには“着いていかない”が正解だ。

 ついでに今も眠っている万丈目たちの看病も手伝うと言えば納得せざるを得ないだろう。

 

 

「それもそうザウルス……万丈目先輩はあんな状態で、アモンも本調子じゃないドン。校舎にクロノス先生たちがいるからって油断できないザウルス」

 

「…………そのとおり、僕もこんな状態だ。力になれなくてすまない」

 

「アモンはゆっくり休んでいてくれ。コブラの件は俺達に任せろ!」

 

「ああ、頼もしいよ」

 

 

 うわあ、全然心がこもってないよアモン君。

 

 

「じゃ、皆頑張って〜〜」

 

「尊も! See you again!」

 

 

 十代たちを見送り、ひとまず心の中でホッと肩を下ろす。

 学内がこんな状況下で外部から襲撃でも受ければひとたまりもないだろうし、この判断は妥当か。

 

 何だったら他の人も残ってくれても良かったんだよ? 

 決闘(デュエル)担当を十代とヨハン、道中のガイドをジャングル慣れしているジムと肉体的にタフな剣山くん、翔くんと明日香はここに残った方が戦力的に言えば分散できていて丁度良かったか? 

 

 まあ、どうせ外部からの襲撃なんてないから良いけどね〜! 

 確か、ガラム財閥の刺客が乗り込んでくるけど、結局デュエル・アカデミア全体が異世界に飛んじゃうからね。放置でいいか。

 

 

「……じゃ、俺も出るから、お大事に」

 

 

 そうと決まれば、鮎川先生のフォローをしつつ、夕方頃にはフェードアウトさせてもらおう。

 オシリスレッドの寮に籠城する準備は整っている。立地的に海岸沿いだから潮風が強いかもしれないが、ソロキャンプに洒落こむか。

 

 

「待ちなよ」

 

「ひょ?」

 

 

 まだバトルフェイズは終了していなかった? 

 背後からアモンに声をかけられ、間抜けっぽく振り向く。

 何だ、俺はもうエンドフェイズまで宣言しているんだが? 

 

 

「そろそろお互い、腹を割って話さないか?」

 

 

 振り返れば、皆が居た時とはうってかわった血色のいい顔色で起き上がり、鋭い視線をこちらに送ってきていた。

 

 

「え、腹? 一応、腹筋は割れているけど……」

 

「惚けた真似をしても無駄だよ。君、散々デス・デュエルをしているようなのに、何でそんなに元気なんだ?」

 

 

 制服も捲くろうとする間もなく釘を刺される。

 

 

「……それは同じ留学生としての質問? それとも財閥の人間としての質問?」

 

()()、と言ったら?」

 

 

 参ったな、ここで切り出されるとは思わなかったぞ。

 異世界転移までの短期間、のらりくらりとしていたが……意外とアモンにとって俺の警戒度は高かったのか。

 ここまで来て言い逃れはできなさそうだ。

 

 

「わかったわかった。でも手短にしようか。十代たちの先回りしたいんだろ?」

 

 

 同じく留学してきた同級生の決闘者(デュエリスト)としてではなく、危害を与えられるかもしれない現実主義者(リアリスト)相手として意識を切り替えた。

 

 部屋にあるソファに勢い良く座り込み、足を組む。

 これではいざ飛びかかってきても対応することは難しい。はっきり言って隙を見せつけるような悪手だ。

 

 しかしこれがいい。

 どんな状況でも、相手に余裕を見せつけることが話し合いにおいて優位に立つ鉄則だ。

 そんなことを遊戯さんが言っていた……気がする。なぜか俺の知っている声と一致しないけど。

 

 

「ああ、その前に物騒なモノは預からせて貰ったよ。こんなものを近くに忍ばせていたら落ち着いて話もできない」

 

「!?」

 

 

 片手でジャグリングをするように潜入用の道具たちを宙へ放り投げる。

 いつの間に、と驚愕するアモン相手に不敵な笑みを返す。

 何を仕込んでいるのかわからないからね。

 こういう時の《オオヒメの御巫(コイツ)》の手癖の悪さはありがたい。

 

 

「さて……で、何を聞きたいの? 

 そっちの事情は少し知っている程度だけど、ぶっちゃけ興味はない。勝手にやれば、って感じ」

 

「……()()の目的はなんだ?」

 

 

 わお、敵意マシマシ。

 最悪、肉弾戦ででどうにかなる相手から得体のしれない力を持っている相手へと更に警戒度を上げた、ってところか。

 

 さて、質問されたことには慎重に答えなければ。

 目的……目的か。これは変に嘘をつく必要はないか。

 

 

「目的なんて、何事もなく帰りたいだけだよ?」

 

「…………」

 

 

 結論を聞いても、アモンは黙ったまま。

 なのでそのまま言葉を続ける。

 

 

「このデュエル・アカデミアって色々事件起きているじゃん。三幻魔の件とか知っているでしょ?」

 

 

 実際知っているのかはよくわからんが、遠くない未来、ユベルの使う三幻魔相手にもアーミタイルの効果以外には臆することなく決闘(デュエル)することになるのだ。

 決めつけに近いが、知っていることを前提にして構わずに続ける。

 

 

「俺には……って言うと語弊があるけど、こんな力を持っているから、ちょっと裏技して吸い取られないようにしているんだ。これ、形だけつけているだけだ」

 

 

 厳密に言うと“俺の力”ではなく《オオヒメの御巫(コイツ)》の力だが、この場で精霊云々の話をしても拗れるだけ。

 見せつけるように、デス・ベルトをクルクルと指で回転させる。

 こうしていると何か落ち着くんだよね、不思議と。なんでかな? 

 

 

「つまるところ、巻き込まれたくないだけ。だからアモンの邪魔をする気とか全然ない。勿論、この話もオフレコにするから。オーケー?」

 

 

 話は終わり。

 要約すると“思惑とか陰謀とかは勝手にやっておけ”ってことだ。上手く説明できたと思う。

 ククク……さて、この腹黒御曹司の顔を拝んでやるとするか。

 

 

「……何を言っているんだ?」

 

 

 ぽかん、としていた。

 

 

「信用できないなら担保でもしようか? そうだなぁ……なら──────」

 

「そういう意味じゃない。本気で“何もする気がない”なんて言っているのか?」

 

 

 あ、違うなこれ。

 声のトーンからして気の抜けた声。

 本当に“何言ってるんだコイツ”って思っているヤツだ。

 

 

「え、本気本気。『トールトルトル! アカデミアの馬鹿どもからエネルギーを吸い取って最強の力を手に入れてやるトル!』とか言った方が良かった?」

 

「そっちの方がまだ納得できたよ……」

 

「エ〜〜!?」

 

 

 アモンが目頭を摘んで頭を抱えている。

 何でだろう、別におかしなことを言っているつもりなんてないのだけれど。

 

 

「君、目的と行動が一貫していないことに気づいていないのか? デス・デュエルをして何も影響がないとはいえ、あんなに決闘(デュエル)していれば怪しまれてもおかしくないだろう?」

 

 

 ため息まじりにアモンからそんな苦言が飛んできた。敵意は消え、純粋な呆れの感情が視線から見て取れる。

 

 な、何だ? 

 何をされるんだ、俺は? 

 

 

「で、でも明日香だって何もなかったって言っていたし」

 

「彼女とは回数が違うだろう。そんなに元気な様子を見ると、かえって目立って犯人と疑われてもおかしくないよ。

 僕自身、君が丸藤翔との決闘(デュエル)の様子を見るまではもしくはグルだったことも視野に入れていたんだ」

 

「そんな……え、あの決闘(デュエル)見ていたの?」

 

「ああ、清々しいまでの手札事故──────あれは傑作だったよ」

 

「き、キィーーーー!?!?」

 

 

 隠すつもりもない嘲笑に思わず頭に血が昇る。

 おい! 他人の手札事故を笑うのはルールで禁止だろ! 

 いや、怒りというよりは恥ずかしさの方が勝っているが。

 

 

「少しくらい決闘(デュエル)を自重するとか、元気のない様子を出すとか、そんな発想すら出てこないことには驚きを隠せないよ、全く」

 

「な、なんで絶賛暗躍中のヤツにダメ出しされているんだ、俺……」

 

 

 シリアスから一転、ぐだぐだとしたギャグ時空へと足を踏み入れてしまった。

 先程までの緊張した空気はどこに行ったのか。あまりの寒暖差に思わずくしゃみをしてしまいそうだ。

 

 

「はあ……無駄な時間だった。僕はもう行くとするよ。こう見えても忙しい身なんだ」

 

「自分で呼び止めておいて超失礼だな? そのメガネ、マシュマロン仕様に変えてやろうか?」

 

「おお怖い怖い」

 

 

 許せねぇなコイツ。

 そんな気持ちを込めて没収した道具一式を投げつけて返す。

 アモンは難なく受け止め、バスローブを脱ぎ、隠していた隠密用の装束に素早く身につけた。

 

 敵意はなくなり、ついでに興味も失せたように見える。返事が適当になっているのがその証拠か。

 

 

「それじゃあ失礼するね。次会うまでに、これまでの自分の行動を省みることを勧めるよ」

 

「行け行け腹黒。次会う時には漂白剤持ってきてやるよ」

 

 

 窓から抜け出したアモンを見送り、そっと窓を閉めた。

 その場の流れで戸締りしたが、何で俺が鍵を閉めないといけないんだ? 

 

 ……ああ、なんか疲れた。

 肉体的ではなく、精神的な疲労感が襲ってきた。

 ここ数日では感じることのなかった感覚に身を委ね、そのままソファに体重を預け、天井を見上げる。

 

 

「行動を省みる、ねぇ」

 

 

 認めたくないが、アモンの指摘自体はもっともだ。

 

 目的は変わっていない。

 巻き込まれたくないがための行動をしているはず。

 しかし、不必要に関係者に接触しすぎていたり、周りの様子に溶け込もうとせずのうのうと決闘(デュエル)に明け暮れたり、確かに不自然なほど一貫性がなさすぎる。

 特に後者に関しては本当に発想すら出てこなかったくらいだ……改めて今思えば不思議なほどに。

 

 

「……まあしょうがないじゃん。完全に見捨てるわけにはいかないし」

 

 

 翔くんのように目の前で困っている人がいれば助けてあげたくなるし、ギースのように襲われれば立ち向かうことはするだろう。

 けれど、命に関わることは極力避けたいし、それこそアモンほど冷酷に切り捨てるような真似なんてできない。俺とアモンは立場も覚悟も違うのだから。

 

 実際、()()()()()()()()()()()()()──────

 

 

「ん?」

 

 

 ちょんちょん、と肩を突かれる。

 その方向を見れば顔の良い女がひとり。

 《オオヒメの御巫(コイツ)》が俺の顔をのぞき込んでいた。

 

 

『尊、尊。似合いますか?』

 

「……え、ああ」

 

 

 見れば、丸みを帯びたフレームの眼鏡をつけていた。いつもと違う顔に少しばかり驚いてしまう。

 

 

「可愛いじゃん。どしたのそれ?」

 

『ふふん、あのメガネ男から拝借しました』

 

 

 そんなことを言いながら、胸を張って自慢する。

 

 

「え、じゃあアモンのメガネは?」

 

『《マシュマロンのメガネ》にすり替えておきました』

 

「よくやった」

 

 

 まるで、成果発表に対する“素人質問で恐縮ですが”のような詰められ方をされる主を見るのは思うところがあったのか……いや、《オオヒメの御巫(コイツ)》にそんな思いやりはないな。単純に面白いからやっただけだろう。

 ただ、いつもなら窘めるイタズラも今回は全肯定してやった。

 

 ククク、シリアスキャラぶっても、お前をギャグキャラに貶めてやるぜ、アモン。

 腕力に自信があるんだろう? お前はシリアスな笑いを誘うキャラであることを再認識させてやる。

 

 いえーい、と両手を出して重ね合わせた。

 《オオヒメの御巫(コイツ)》は首を傾げながらも俺の動きに合わせて手を合わせる。

 

 

『なんですか、これ』

 

「ハイタッチだよ。嬉しい時を分かち会いたい時はこうやるんだ」

 

『はいたっち、ですか。いいですね。もっとやりましょう』

 

「はいはい。また今度な」

 

 

 全く、すっかり毒気を抜かれてしまった。

 先程まで悩んでいたのか嘘のように──────

 

 

「あれ、()()()()()()()()()()()

 

 

 まあ忘れるくらいのどうでもいいことなのだろう。

 ソファから起き上がり、部屋を後にした。

 アモンのことは報告せず、そのまま鮎川先生の元へと向かう。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 保健室の前はドン引きするほどに行列ができていた。

 こんなのデュエル・アカデミアが設立してから初めてナノーネ、なんてクロノス先生とナポレオン教頭が目を回しながら手伝っていた。傍から見ればもはや健康診断と言っていいだろう。

 

 鮎川先生だけでひとりひとり診察を続けるのは現実的じゃない。埒が明かないと判断され、ある程度軽症な人間は決闘(デュエル)場に誘導して無事な生徒たちが主導で看病し、重症もしくは何か別の病気を合併している可能性がある者は鮎川先生が直接看病することに。いわゆるトリアージと言うものだ。

 

 前者は結局休めば回復することは十代が実証済みなのだ。いや十代もかなり決闘(デュエル)エナジー吸われていた筈なのだが、そこは棚に上げるとして……とにかく時間を不用意に使っている暇などない。

 

 一方、俺は力仕事に専念し、各寮から余った毛布やら備蓄、そして個人的に頼まれた私物を運んでいる。ひたすら寮と校舎を往復し、軽トラの荷台に放り投げる男をしている。

 

 

「いやあ、何から何まで悪いわねぇ」

 

「お安い御用ですよ」

 

 

 非常事態とはいえ、さすがに俺が女子生徒たちの棟に単独で入るわけにはいけない。

 というわけで購買部のオバちゃんことトメさん同行の上、あちこち寮を回っている。

 

 

「よっと」

 

「まあ、なんて力持ち! 羨ましいわねぇ、若いって」

 

「いやいやそんな。トメさんもまだまだお若いですよ」

 

「あらもう口まで達者なんだから〜♪ 

 なら私も頑張っちゃおうかしら!」

 

 

 トメさんとの関係も良好だ。山のじっちゃんばっちゃんとも“マブ”な関係を築きあげている俺に死角はない。今度、ドローパンをサービスしてくれるなんて言質もいただいている。シャケ召喚☆

 

 

「最後はレッド寮ですね」

 

「そうね。それにしても、皆、早く元気になるといいわね……はああ、心配で私もクラクラしてきたわ……」

 

「トメさんまで暗い顔しないでくださいよ」

 

 

 オベリスクブルー、ラーイエローは既に作業を完了している。何回出入りしたかは数えていないが、恐ろしいほどに全く疲れていない。何だったら片手間に災害用の非常食だって決闘(デュエル)場まで運んであげられるくらいの余裕だってあったくらいだ。ふふん、俺の中のウォークライが目覚めてしまったようだな。

 

 よし、この調子でレッド寮も終わらせてしまおう。

 何だかんだ陽が傾いて空は夕焼けで赤く燃えている。悠長にしていると異世界転移に巻き込まれてもおかしくない。

 

 軽トラを停め、レッド寮の前に立つと足元に気配が。思わず踏みそうになり、足をどける。

 

 

「おっとごめんよ」

 

「にゃおぅ」

 

 

 かまわんよ、とトラ模様のふくよかな猫は鳴き声で返事をしてくれた気がした。

 

 この猫こそファラオ。

 飼い猫だったが今では地域猫のような存在になってしまったが、立ち位置的にはこのオシリスレッド寮の寮長だったりする猫だ。

 迂闊に尻尾を踏めばレッド寮の居場所がなくなってしまう。まさに虎の尾。万年レッドの十代(ドロップアウトボーイ)でさえこれは例外ではない。

 

 さて、トメさんには元万丈目サンダーの部屋ことレイちゃんの部屋を任せるとして、俺は適当に男子の部屋を漁って私物を運んでいくとしよう。

 

 

「ん?」

 

 

 知らぬ間にアモンに監視されていたことを聞いたせいもあるのだろう。

 この時ばかりは過敏になっていたのかもしれない。

 

 形容しがたい気配を感じ、寮を取り囲む茂みの方に視線を移す。

 雑木林が生い茂る中、木の陰に何かがいた。

 西陽が逆光となり、視界を制限する。

 

 

「女の子?」

 

 

 辛うじて確認できたシルエットから推察した言葉が出てきた。

 

 

「おや、どうしたんだい、尊君?」

 

「いや、あの茂みに女の子が居るような……」

 

「あらまあ、わたしには……よく見えないわ」

 

 

 トメさんもよく見えなかったようだ。

 注意深く観察しようにもよく見えず、そのままガサガサと茂みをかき分ける音が聞こえ──────いなくなってしまった。

 

 

「あっ、行っちゃった」

 

 

 なんだったんだ今の。

 デス・デュエルにまきこまれなかったアカデミアの生徒か? 

 明日香のような長身でもなく、俺より小さい……中学生ほどの背丈だったような。

 

 すると、突然トメさんがむふふと笑い始めた。

 

 

「もしかしたら、尊君の邪魔しちゃったかしら?」

 

「え、いや。別に見覚えない人だったし……」

 

「何言ってんだい。話題の留学生なんだから、女の子の一人や二人目をつけられていてもおかしくないわよぉ」

 

 

 トメさんが優しく肩を叩く。

 ははは、いやいや、そんなこと……。

 

 

「えっ、えー、そんなことないですよー」

 

 

 あるかなー? あるかもなー? 

 最初の自己紹介で第一印象がアレな人になっていたような気がしたけど、実はひょっとして? 

 

 

「ほら、こんなおばさんなんて放っておいて、若い子同士行きなさいな!」

 

「いやいや、トメさん一人に任せておけないですよ。最後までお手伝いしますって」

 

「気持ちは嬉しいけど、早くしないと見失っちゃうわよぉ! レッド寮なら私一人で充分! 男の子なんだから、チャンスは物にしないと!」

 

「は……はぁい」

 

 

 ここまで言われたら仕方ない。

 お言葉に甘えて……というより、こんな時間に出歩いているのも危ないし、心配だから後を追うとしよう。

 別に下心はないですけど!? 純粋に心配なだけですけど!? 

 

 茂みの方まで行くと、確かに人が通った形跡がある。それに沿うように枝木を掻き分けて奥へ進む。山育ち故、獣道を探る力がここで活きていた。

 

 

「いやー、そっかー。まあそんなことあるかもなー。俺結構活躍してたしナー」

 

 

 ヨハンやアモンばかりモテている気がしたけど、そんなこともないのかなー? 

 ヨハンはともかくアモンは見る目ねーな、ケッとか思っていたけど……ふーん、やるじゃん。

 

 どんなおもしれー女なのか。

 想像に耽っていると、形跡が消えたため立ち止まる。

 

 

「っぶね、崖か?」

 

 

 辿り着いたのは崖。

 不意に蹴ってしまった小石が落ちた音が聞こえる。

 地面を跳ねる音ではなく、水に落ちる音。

 落下から5秒か10秒か。正確に測ってはいないが、察するに落ちたら決闘(デュエル)者でも普通に怪我するほどの高さ。川……が流れる音はないため、おそらくは水溜りがあるのだろう。

 

 おお怖い怖い。

 なんでここで痕跡が消えているのか。

 ……そこまで考えて、一抹の不安が過った。

 

 ひょっとすると、ここから足を崩して落ちた、とかあり得る話ではないか? 

 

 どこか、崖下に降りることができる場所を探す。

 怪我をしているなら、助けなければ。

 このまま誰にも知られずにひとりぼっちなんて辛いに決まっている。

 俺にはそんな経験はないが──────

 

 

 

 

 

 

お前は不要だ

 

「あ」

 

 

 どちゃりと泥を被る。

 足を踏み外した? 

 違う──────落ちたのか? 

 いやそれも違う──────落とされた? 

 

 

『あの()()は良い──────このまま選ばれるのであればよし。選ばれなくてもをあてて跡継ぎを作らせれば良い。我らにとっては大いに価値はあるものだ』

 

「え、あ」

 

 

 何かが聞こえる。

 低い大人の声、嗄れた老人の声、生気のない女の声。

 

 

『……お前はアレの邪魔ばかりする。

 それは許されない。

 あってはならない。

 積み重なった我が家の歴史に泥を塗る恥晒しめが』

 

『屑め』『塵め』『異端者め』

 

 

 石が落ちてくる。

 何か投げられてくる。

 石よりも痛い、言葉も。

 吐き捨てられて、ずしりと胸を押し付ける。

 

 

『とはいえ、我らのが流れているのは確か。

 喜べ、そんなお前にも最に役目を与えよう』

 

 

 なんで? なにがあった? 

 わからない。わからない。

 あ、ひかりだ。まぶしいなあ。なんだろう

 

 

『そのまま■■■■様の贄となるが良い』

 

 

 あったかい。あつい。いたい。

 あかりが、火が放たれ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──────!』

 

「はっ!」

 

 

 あまりの大声に目が覚める。

 声、というよりは騒音に近い音。

 あまりに耳元に近かったため目がちかちかと点滅する。

 

 ぼやっとした視界の端にはファラオと……なんか光っている球体がひとつ。

 あ、大徳寺先生! 大徳寺先生じゃあないか! 

 十代の前しか現れないのに、どうしてまた……と視界が回復すると、いつの間にか周囲は壁で囲まれていた。

 

 なんだこれ、と空を見上げると、これまた狭い空。

 うーん、状況証拠だけで判断すると、崖に落ちて気絶していたのをファラオが偶然通りかかり、さすがに大徳寺先生も信条を曲げて出てきてくれたってことか? 

 

 

「え、と、ありがとうございます。助かりました」

 

『──────、──────!』

 

「うーん、何言ってんのかわかんね。あ、ファラオもありがとうな。後でちゅるちゅるあげる」

 

「なぉう」

 

 

 ファラオを撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす。

 こうして見るとかなりの癒やし枠……うおっ、ノミすっご♡

 ちゃんと手入れしてやれよと思ったが、確かこのノミが功を奏した回あったよな。ならいいか。

 

 てか、さっきから俺の視界を大徳寺先生がうろうろしているんだが? 

 なんだなんだ、何を伝えたいんだ。こちとらノイズしか聞こえんぞ。ここではコンマイの言葉で話せ。いや話すな。何だ、優先権とか未公開領域とかって。

 

 

「あむ」

 

「あ、食べられちゃった」

 

 

 ごくりんちょ、と飲み込まれてしまう大徳寺先生。

 恒例の流れとはいえ、なんかずっと猫の体内にいるのはかわいそうにゃあ。でも放っておいたら成仏しそうだし、飼い猫としての優しさなのか。

 

 それはそれとして、頭を抱えてしまう。

 確信した──────俺自身に()()()()()()()()()()

 もうさすがに目を背けられない。

 

 急に頭がぼーっとする時が度々起きている。

 記憶では、あの崖の間際まで来たところまで残っている。おそらくそのタイミングで発作が起きて、ここまで落ちてきたのかもしれない。

 

 さらに妙に体調が良いのも不気味さに拍車をかける。改めて崖を見上げると、大体ビル3階分くらいの高さだ。そこから落下して擦り傷や切り傷が少しで済んでいるし……こんな頑丈だったのか、俺? 

 遊星じゃないんだから、せめて骨くらい折れてくれよ。

 

 自分が自分じゃなくなるような錯覚。

 考えるだけでゾッとする。

 もう夜だ。さっとシャワーを浴びて寝るとしよう──────と改めて空を見上げる。

 

 

「やべっ!? もう夜じゃん!?」

 

 

 そう、異世界転移は今夜の予定だ。

 ファラオを抱え、必死に崖を蹴って登る。

 ()()()()()()()、ついでに目についた高木に跳躍する。

 うん、身体能力も変! 山にいた頃でもさすがにこれはできなかった! 怖い! 

 

 高木からデュエル・アカデミアの校舎──────の横にそびえ立つヘリポート、そこには十代とコブラの姿が。

 ま、マズイ……もうこの世界でのラスト決闘(デュエル)が始まっている。しかも《毒蛇神ヴェノミナーガ》まで出ているとかもう佳境も佳境。これがラストターンかもしれない。

 

 

「に、逃げるんだぁ……」

 

 

 素で情けない王子みたいな声が出てしまった。

 一目散に木々を飛び移り、オシリスレッドの寮まで突き進む。

 

 あっ、寮といえばトメさん! 

 寮に置いてきてそのままだ! 

 心配かけてしまっているかな……いつまでも戻ってこないから探しているとかだったら申し訳ないけれど、まあさすがにこの時間で探してくれているわけはないか。

 

 

「……るくーん、どこ……ーい」

 

「トメさんっ!?」

 

 

 あ、案の定〜〜!!!! 

 期待を裏切らない善良さ。責めるのはお門違いだとはわかっているが、一仕事増えてしまったよチクショウ!!!! 

 

 

「ああ良かった! 戻ってこないから心配し──────えっ!?」

 

「ごめんなさい! 話はまた後で! 舌噛まないようにしてください!」

 

「あ、あらああああ!?!?」

 

 

 声の聞こえた方向に落ちて、そのままトメさんを抱えて再び木々を跳躍して突き進む。

 振り返れば、《E・HERO マグマ・ネオス》の攻撃をした後。もう終わりじゃないか!? 

 

 右手にファラオ、左手にトメさん。

 出自不明な身体能力があっても、さすがにレッド寮までは距離がある。このままで間に合うか!? 

 

 ……どちらかを捨てればいけるかもしれない。

 しかし、迷う時間すら惜しい。

 

 

 

「ぐおおおお、間に合ええええ!」

 

 

 

 そのまま最短距離で森を駆け抜ける。

 無心で突き進み──────やがて視界が白い光に包まれる。

 

 

 

『いらっしゃい。待っていたよ』

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 風が吹き抜ける。巻き上げられた砂が体を撫でる。

 公園の砂場にしてはサラサラしている。

 真夏のビーチのような砂だが、熱くもなく、冷たくもなく。

 不思議な感覚だ。まるでこの世のものとは思えない質だ。

 

 

「あー……あー……」

 

 

 寝そべって意味のない感嘆詞を呟く。

 いい加減、砂が口の中に入って不快指数が極限突破しそうになるため、現実逃避をやめることに。

 

 起き上がり、辺りを見渡す。

 一面の砂漠。雲に覆われた緑色の曇天。意味深に突き刺さる七つの柱。そしてこの場では確実に浮いているだろうデュエル・アカデミアの校舎。

 

 

「来ちゃったよ……」

 

 

 奇しくも、元の世界で初めてデュエル・アカデミアの校舎を前にした時と同じ台詞を口にしてしまった。

 まあ、今回来たのは異世界の方なのだが。

 当初の目標が達成できず、打ちひしがれていたのが先程までの俺である。

 

 

「ごめんなぁ、ファラオまで巻き込んで。非力な私を許してくれ……」

 

「?」

 

 

 前足をグルーミングしていたファラオが首を傾げる。

 トメさんを滑り込ませる形で何とか転移外の範囲外に送り届けることができた。

 レッド寮目前だったため、結構手荒な真似をしてしまった。怪我とかしていないか心配だが、それはそれとして誤算がひとつ。

 

 ──────トメさん、この異世界編で重要人物だった模様。

 

 よくよく考えたらこの異世界で生徒たちの食事を用意していたのは他ならぬトメさん。生徒たちのブーイングを受けながらも、限られた食料で全員分の食事を確保していた。

 

 で、終日備蓄品を運び出している中で思ったが……非常食、正直3日も持つか怪しい。

 いや、正確にはちゃんと少しずつ使っていけば5日くらいは持つだろうが、腹減ったからってシェルターを飛び出してゾンビになって帰ってくる奴らだっている。士気を維持させるためには量が足りないのだ。

 

 出来合いじゃない“食材”も一応運び出しているが、肝心のトメさんがいないと栄養効率を考えられた献立など作れもしない。

 要は、トメさん助けたのはいいが、ハードモード突入です。本当にありがとうございました。

 

 え、なら俺がどうにかしろ、だって? 

 フフフ、ならばここで自己紹介をしよう。

 

 上埜尊。年齢不詳。

 

 栄養知識 なし

 仲間 なし

 生活能力 なし……

 

 

「生きていけないよぉぉぉぉ」

 

 

 ね? 

 思わず涙が出てくるくらいだ。

 良いことしたはずなのに、なぜ逆に窮地になるんです? 

 

 

「き、君。大丈夫か……?」

 

「おん?」

 

 

 背後から声をかけられて振り向く。

 ボサボサの髪と使い古された衣服と杖。

 なんだこの浮浪者は……いや、知っている! 俺はコイツを知っているぞ! 

 

 

「み、三沢ァ!?」

 

「俺を、知っているのか? 見たところアカデミアの

 生徒のようだが……って、ファラオじゃないか!? お前もどうしてここに!?」

 

「にゃおん?」

 

 

 自力で脱出を……じゃなくて、ファラオも“誰だっけ? ”みたいな顔しているんじゃあない! この異世界編のMVP──────いや、まだ問題の渦中だから最重要人物だ! 

 三沢がいないと元の世界と通信すらできないし、しかも公式から出された唯一の帰り道である《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を手に入れることすらできずに全員野垂れ死に確定だぞ!? 

 

 なるほど、三沢は突然現れたデュエル・アカデミアに向かっている最中のようだな。

 ここからデュエル・アカデミアは手のひらサイズにに見えるところまで離れている。そこで転移してきた俺と先に接触したってところか。ふむ、理解。

 

 あのデュエル・アカデミアが多分本物と言ったら、目に見えて安心してくれた。三沢も色々と限界で、ひょっとして幻覚なのかと疑っていたくらいだし。大変だな、お前も。

 

 ……それにしても、なんでこんなに重要な人間ばかり集まるのぉ? 

 また判断ミスするかもしれないじゃん、俺。

 

 

「いや、そんなことより今すぐこの場を離れないと、奴らが来る!」

 

「ヤツ……?」

 

「ッ! 伏せろ!」

 

 

 三沢に押し倒されると、鼻先に何かが掠った。

 

 

「キャハハハハハハ!!」

 

「にゃあ! にゃあおう!」

 

「げぇっ、ハーピィ!?」

 

 

 すぐに立て直すと、空には《ハーピィ・レディ》の群れが宙を舞っている。

 ファラオが威嚇をしているが、相手は舌なめずりをして獲物を見定めている。仕草はどこか扇情的だが、生憎、俺達は命の危機真っ只中だ。

 対抗する術がなければこのままデッドエンドだ。これ本当にホビーアニメの世界なんです? 

 

 

「くそっ、一か八か……!」

 

 

 デュエルディスクを起動し、デッキを展開する。

 こうなれば、《オオヒメの御巫》を召喚して壁になってもらうしかない。ダメージ反射をしていけば相手も無駄と判断して追ってこないだろう。

 

 と、狙いをつけたのはいいが。

 

 

「──────は?」

 

 

 ない。

 どれだけ探しても《オオヒメの御巫》のカードは存在しなかった。

 

 一瞬、思考が真っ白になる。

 なんで。どうして。

 デッキを弄った覚えはない──────となると、崖に落ちた時に何かあったのか。

 

 どうりでずっと静かだと思っていた。

 ……落としたのか、この俺が? 

 

 いや、今は緊急事態だ。

 対抗できないのなら逃げるまで。

 転移前と同じように、三沢とファラオを抱えて、遮蔽物のあるところまで走り抜け──────ようとするも、足が砂に囚われて上手く走れない。

 さすがに山でも砂漠でどうこうするような経験は得られなかった。

 

 

「あー、だめだこりゃ」

 

 

 万事休す。

 ここはハーピィたちの狩り場。

 決闘者(デュエリスト)ならともかく、精霊たちに決闘(デュエル)を申し込むには対等な状態同士であることが最低条件。

 敵ではなく、獲物と認識されたらもう遅い。

 

 気がつけば、鉤爪が目前に迫っている。

 俺はもう、諦観の中、目を閉じてそれを受け入れざるを得ない──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とやーっ!」

 

「せいっ!」

 

「きぃぃぃ!」

 

 

 だが──────目前で弾かれる音が響く。

 ゆっくり。目を開けると俺を襲った《ハーピィ・レディ》は上空に逃げていた。

 見れば、羽には爪で引っかかれた跡が残っている。

 

 

「逃しませんよ!」

 

 

 上空で散開しようとしたハーピィたちを水の輪が取り囲む。突如、空中に現れた水分に動きを制限されてしまった。

 羽に触れれば、自慢の羽も上手く動かせなくなる。特にこのような乾燥した地域にいる鳥だ。水鳥のような撥水性なんて期待できない。

 

 一網打尽にされたハーピィたちに、次に襲いかかるのは──────炎を纏った柱のように巨大な大剣だった。

 

 

「それ、飛んでけー!」

 

 

 大剣が水輪に差し込まれると、轟音とともにハーピィたちはあちこちに吹き飛ばされていった。

 余程、低温の水と高温の炎だったのだろう。まるで水蒸気爆発のようだ。

 

 

「え?」

 

 

 何だかわからないが助かった。

 恥ずかしいことに腰を抜かして立ち上がれない。

 この光景は都合のいい幻覚なのか。

 また例の発作が起きたのだろうか。

 

 ハーピィの群れを退けてくれた人影が顕になる。

 ああ、見間違えるはずもない。

 彼女たちは──────

 

 

「どうだ! ご主人、アタシの活躍見ててくれていたよね!?」

 

「間に合って良かったです、マスター!」

 

「え、え、え?」

 

 

 《剣の御巫ハレ》。

 《鏡の御巫ニニ》。

 

 決闘(デュエル)では何度も助けてくれた彼女たちが、目の前で笑いかけてくれている。信じられないことに、ソリッドビジョンではなく、実体を持った状態で。

 

 ……そんな都合のいいことある? 

 いやいや、美少女テーマが精霊とかナイナイ。

 そう、きっと中身はきっと──────

 

 

「よ……《溶岩魔人ラヴァ・ゴーレム》?」

 

「いや違うからっ!」

 

「ここでそれはないと思いますよ、マスター……」

 

「ひぃん……」

 

 

 うん、普通に怒られた。

 GX世界なら普通にありそうな気がしたので。

 ごめんなさい。

 

 





■プロフェッサー・コブラ
 残念ながら助からず原作どおりの末路を迎える。強化待ってます。


■アモン・ガラム
 研究所に到着してようやく自分の眼鏡じゃないことに気づく。《マシュマロンのメガネ》を握りつぶしながらその額には青筋が浮かんでいたそうな。


■トメさん
 異世界編重要人物その1。最初の異世界では炊事を担当。精神的に参っている生徒たちに寄り添い、全員分の料理を作ってくれた。きっとこの人がいなかったら生徒たちの統制が取れずもっと多くの人間がデュエルゾンビになっていたに違いない。なお本作では転移から逃れられた模様。
 そんなトメさんの活躍をご覧になりたい方はGX42話をオススメする。


■三沢大地
 異世界編重要人物その2。公式から色々とネタにされているが、この期においては元の世界との通信手段から脱出経路の確保まで導き出すまでに至る正真正銘のMVP。偶々事故で同じ異世界に居なかったら皆助からなかったと思われる。
 ところで初期OPに映っていた炎の龍は一体……そういえば最近《サラマンドラ》カードなんてものがあった気が……つまりそういうことなんです? 


■《剣の御巫ハレ》
 ようやくまともに登場。いつ気づいてくれるかニニと勝負していたが、窮地だったので主の命を優先し、救出に動く。勝敗はドローということに。
 でも一番先にご主人の助けに入ったのは自分だと思っている。


■《鏡の御巫ニニ》
 こちらもようやくまともに登場。いつ気づいてくれるかハレと勝負していたが、さすがに窮地だったので主の命を優先し、救出に動く。勝敗はドローということに。
 でも一番先にマスターの助けに入ったのは自分だと思っている。


■《オオヒメの御巫》
 どこに行ったんだろうね。


 次回こそ決闘(デュエル)します。
 せっかくの異世界なので当時の環境に囚われずに色々なカテゴリと戦わせたいですね。
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