みかんこぉ^〜(決闘開始の宣言)   作:回帰壊獣バブミエル

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 え、この文字数で決闘描写ないんですか?(デュアル召喚)



許さない【前編】

 

 前略、山から送り出していただきました皆様。

 トメさん助けたら異世界に来ちゃったぜ☆

 うーん、絶対許さないぞドン・サウザンド。

 

 早速モンスターに襲われてピンチだったが、まさかの御巫の二人が助けてくれた。

 俺のことを“ご主人”とか“マスター”とか呼んでくれているため、どうやら彼女たちが十代が言っていた“ぼやーっと見える精霊”だったようだ。マジか。

 

 あの後、いつもソリッドビジョンで自己主張していたのに全然気づく素振りがなくて不満だった、とか、なんでよりにもよって《溶岩魔人 ラヴァ・ゴーレム》と間違えていたのか、とか。溜まりに溜まった文句をひとしきり受けた。

 

 ……まあ、この二人に関しては“もしかして”と思っても意識的に除外していたのは確かにそのとおりだ。

 だって、女の子テーマの精霊が憑いているなんて、ただの自惚れだったとしたら超恥ずかしいじゃないか。《オオヒメの御巫(アイツ)》だって何も言わないし。くそう、もしそうならもっと早く言ってくれても良かっただろうに。

 

 そんな理由……いや、言い訳か、素直に謝罪と先程も含めた今までのお礼を口にしてみれば快く許してくれた。

 ポジティブに考えれば、これからはちゃんと接してあげられるということでもあるのだ。改めてよろしく、と、しっかり友誼を結べたことは喜ばしい。

 

 

「え、オオヒメ様も居たの? アタシ全然知らなかった」

 

「二人は認識していると思ったんだけど……ニニも?」

 

「私もハレと同じです。そもそもマスターのデッキに入っている認識すらありませんでした」

 

「いやまたまたぁ、直近のギースとの決闘でも召喚したじゃーん。しかも珍しく正規の儀式召喚で。憶えているでしょ?」

 

「……ニニ、そうだっけ?」

 

「私出番なかったから知らないよ」

 

「???」

 

 

 関連して《オオヒメの御巫(アイツ)》の話をしていると、二人は心当たりはないとのこと。そもそも俺に憑いていることすら知らない始末。色々認識の擦り合わせをしていたが、ここだけは決定的に違っていた。

 

 

「え、じゃあずっと俺が《オオヒメの御巫(アイツ)》と話していた時ってどう見えていたの?」

 

「…………その、言いにくいのですが」

 

「ああわかった。独り言とかイマジナリーフレンドだと思ってそっとしてくれていたんだ。そっかそっかー。

 このまま砂に埋めてもらっていい? どうせ元の世界戻っても友達少ないですよーだ」

 

 

 禁止カードを切られた俺は俯せになってしまう。

 この涙を受け止めてくれる砂漠に胸がきゅんとしそうになる。傷心を癒やすには大自然に触れることが一番だね、へへっ……。

 

 

「あーあ、ご主人拗ねちゃった。

 ……実は自分に話しかけてくれたと思って喜んでいたのに会話が噛み合わなくて気づいたってこと言ってあげたら?

 

「だっ、ダメ! 絶対ダメだって!」

 

 

 すごく申し訳ない裏事情も耳に入ってしまったが……本人のためだ、そっとしておこう。

 まあ、この二人の関係性は概ね元のストーリーと同じ感じのように見える。

 それはそれでいいが、同行者に女の子二人が急に増えるなんてなぁ。ぶっちゃけ、どう接していけばいいのかわからん。

 別に図々しく踏み込むつもりはないが、かと言ってここまで来て距離を取りすぎても変だし……うごごごご、落ち着かん。

 

 《オオヒメの御巫(アイツ)》は顔がバチクソいい赤ちゃんだったが、それとはまた別の悩みが生まれてしまった。

 

 

「にゃおう」

 

 

 おっと、ファラオが前足で突いてきた。

 そろそろこっちにも構え、って言ったところか。

 俺達の話し合いには区切りがついたため、起き上がって少し離れた岩場でぐったりしている三沢に近づいていく。

 

 

「三沢、動ける? ごめんね、こっちの話も整理するのに時間がかかっちゃった」

 

「いや、こっちも一息つけたよ。見てのとおり、ここ一体にオアシスなんてものはなくて、満足に水も飲めなかったんだ。本当に助かった」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

 

 ニニがバトンをくるくると回すと、あわせて水でできたリボンが宙を舞う。水のないところでこれほどの水遁を……なんて言うが、こんな砂漠で水の有無は本当に死活問題だ。冗談抜きでありがたい。

 

 首に下げた水筒も中は空っぽのようで、砂埃が当たると空の容器特有の軽い金属音がそれを如実に示している。これではデュエル・アカデミアに着くのかすらギリギリだったのだろう。

 幸い、この砂漠は不思議と暑いわけではないため現実の砂漠よりはマシなのかもしれない。危険なモンスターが襲ってくることを除けば。

 

 そんな中でよく俺のところまで近寄ってくれたよ。お前の苦労をずっとではないが見ていたぞ。本当によく頑張ったな? 

 

 

「でも、まだ顔色悪いな。ひょっとして何も食べてない?」

 

「ああ。正直、ここに来てから日付の感覚も曖昧で、何日経ったのかいまいちわからない。おそらくだが、5日前くらいに非常食が尽きて、この状態だ」

 

「えーっ、大変大変! このままじゃお腹と背中がくっついちゃうよ! ご主人、なんか持ってないの!?」

 

「悪いけど、デッキとデュエルディスク以外ないな。いや、本当にマズい。栄養失調で歩けなくてもおかしくないぞ!?」

 

 

 三沢、冗談抜きで本当によく頑張ったな!? 

 急いでデュエル・アカデミアに向かう……にしても距離が離れている。今の場所から見ると、親指の第一関節一つ分ほどの大きさに見える。結構な距離を歩かないといけない。その間、またハーピィたちに襲われる可能性が高い。

 

 それに連れて行ったとしても、だ。

 この調子では三沢はしばらく点滴を受けながら安静にしないといけなくなるだろう。回復に時間がかかればかかるほど、元の世界へ戻るまで時間がかかるはずだ。

 

 さらにトメさんがいないことに伴う食糧問題は抱えたまま。いや、トメさんの有無関係なしに食糧が尽きることで内部分裂は起きてしまう。くそう、兵糧攻めもお前の愛なのかユベルめ。

 

 懸念はあるが、選択肢は他にない。

 少しでも早く、三沢をデュエル・アカデミアに送り届けないと……。

 

 

「マスター、少し大丈夫ですか?」

 

 

 思考に没頭していると、ニニに袖を引っ張られた。

 

 

「どうしたの。いい考えとかあった?」

 

「いえ、そういうわけではないのですが、別の方角に建物を見つけました。この水鏡越しに見てください。即興ですが望遠鏡代わりになっています」

 

「え、何それすごっ。器用だね」

 

「えっ、そっ、そんなこと……ないですよ」

 

 

 あたふたしているニニの作ってくれた水鏡を覗く。

 ぼやけているが、確かに建物がぽつんと立っているのが見えた。両端が尖った特徴的な屋根と格子状の装飾が施された窓ガラス。この砂漠には似合わないような西洋風の建物があった。

 

 何か、どこかで見たことがあるような建物だ。

 俺がウンウンと唸っていると、ハレが背伸びをして覗き混んできた。

 

 

「どれどれ……あ、窓から光が見える! 誰かいるんじゃない?」

 

「うん、もしかしたらマスターたちと同じで、この世界に迷い込んじゃったのかなって思って」

 

「それはそれで問題だな……あ!」

 

 

 話をしている途中で思い出した。

 そうだ、やけに見覚えがあると思ったらあのカードだ。目を凝らしてみれば見える入り口に書かれていた文字、それが正解と言ってくれていた。

 いや、でも何でアレがこんなところに? いかにも街の外れにあるような物だぞ。

 

 何か事情があるのかもしれないが……閃いた。

 上手く行けば食糧問題もまとめて解決できるのかもしれない。

 

 幸いデュエル・アカデミアよりは近そうだ。

 多少リスクは孕んでいるが、それを鑑みても俺のガバ行動を帳消しにできる可能性に賭けてみる価値はある。

 

 

「三沢、ちょっと寄り道していい? ついでに腹ごしらえできそうなところ見つけたんだ」

 

「あ、ああ……腹ごしらえ? こんな砂漠で?」

 

「ああ」

 

 

 三沢、ハレ、ニニ、あとファラオも。

 皆、一斉に首を傾げる。

 仲良いな、と思いながらもそんな皆に笑いかけながらこう答えた。

 

 

「ちょっとした有名なレストランが出張開店中らしい」

 

 

 水鏡越しに見えた建物の入り口。

 そこに書かれていたのは筆記体の英文字だった。

 

 “À Table

 

 こんな場所でも、逞しく“Open”の看板を掛けていた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 《ヌーベルズ》。

 

 フランスのコース料理をモチーフとしたテーマだ。

 儀式カードを“レシピ”。儀式モンスターを“料理”。

 そして、なんとあの古の儀式モンスターである《ハングリーバーガー》が活躍する一風変わったギミックが組み込まれていることはあまりにも有名だろう。

《御巫》と同じくデッキビルドパック出身で、ちょうど《御巫》の一つ後に出てきたのがこの《ヌーベルズ》というカードたちなのだ。

 

 で、見えた建物というのが《Nouvellez Auberge 『À Table』》。まさに《ヌーベルズ》の舞台となる街の外れにあるレストランを見つけた。

 なぜこんな砂漠にあるのかわからないが、一度は行ってみたいと思う決闘者(デュエリスト)はいるはずだ。

 

 え、《軍貫》はどうなんだ、って? 

 いやあれエクシーズ主体だからナイナイ。

《運否の天賦羅-EBI》? 何それ? 揚げ物の軍艦巻きは肯定派だけど、エビ? 揉む? 何で? 

 

 

「ふう、そんなに歩かなかったな。砂漠の歩き方も慣れてきたし、ちょうどいい運動になったかな」

 

 

 三沢を背負いながら、道中は何もなくレストランまでたどり着いた。

 

 ここに来た狙いは腹ごしらえ……もあるが、ここの料理人を仲間に引き入れることが最大の目的だ。

 トメさんのような料理人がいないなら、料理人を呼べばいいじゃない。料理人が居れば、出来合いの非常食だけでなく、ちゃんとした料理を皆に振る舞えるかな、と思った次第だ。

 最悪連絡さえ取れるようになれば、ある程度生徒たちで協力して解決するように動けば、団結力は高まるだろう。そこに現れた料理が主軸のテーマたち。仲良くしておくに越したことはないのだ。

 

 

「ちょっと待ってよ、ご主人〜。ひぃ、ひぃ……も〜、女の子の歩幅に合わせられないとモテないよ〜」

 

「マスターは私の歩幅に合わせてくれたから大丈夫。それよりファラオちゃんより遅いなんて恥ずかしくないの?」

 

「にゃおん」

 

「こ、この……自分は水で滑走できるのをいい事に……」

 

 

 まあ猫って元々砂地の生物だからね。

 ハレもキツかったら実体化しなくても良かったのに、と言おうとして寸での所で止めた。

 せっかく実体化してコミュニケーションを取れるようになったのだから、そんな寂しいことは言わない方が良いか、と思い直したからだ。

 

 

「ただ、ここからまたデュエル・アカデミアまでの距離は結構あるなぁ。何か移動手段あればいいんだけど」

 

「うーん、装備魔法とかならアタシ達に装備すれば一緒に実体化できるけど……」

 

「そんな都合のいいものないよなぁ」

 

 

 砂漠の移動手段といえばラクダ。

 ラクダと言えば《デス・ラクーダ》。

 いや、装備魔法じゃないし、あんな怖いラクダ乗りたくないよな。

 

 腰に差したデッキホルダーから装備魔法ストレージを開く。どれも実用性の観点でメインデッキに入れられない意味不明な装備カードたち。

 こういう時に役立つものがあればなぁ、とシャカシャカしていると──────おっと、これとか良いんじゃないか? 

 

 

「これはどう? 《閃刀機構-ハーキュリーベース》」

 

「それアタシ達装備できないじゃん……」

 

「だよねー」

 

 

 勿論言ってみただけである。

 このカードは装備魔法だが“閃刀”カードでもある。

 ウィドウアンカーやアフターバーナーよろしくメインモンスターゾーンにモンスターがいないことを条件に発動できるカードだ。

 だが、リンクモンスターが存在しないこの時代、メインモンスターゾーンしかないのに、この装備魔法が実用的になる日が来るのだろうか。いやない。

 

 すっかり重症カードになってしまったわけだが、実のところ、“()()”はできないだけで“()()”する方法はあるんだけどネ。

 ただ、手札に来たら絶対腐るカードなのでデッキではなくストレージ行きになっているが。

 

 そんな話をしていると、ガチャリ、と背後から音が聞こえる。

 《À Table》の扉が開き、黒を基調としたコックコートを身に纏う金髪の女性がひょっこりと顔を出していた。

 

 

「え、嘘。こんなところにお客さんがくるなんて」

 

 

 この人は見覚えがある。

 《ポワソニエル・ド・ヌーベルズ》。

 別名“魚料理のレシピの人”。

 実装当初はまさかペンデュラムでモンスター化するとは思わなかったなぁ、と思いつつ、少しだけカードイラストと違う点があって驚いてしまった。

 

 

「……?」

 

 

 ただ、なんか小っこい。

 大人の女性だと思っていたが、実際ハレやニニよりも身長が低いんだけど。

 カードイラストよりもあどけなさが抜けない顔つき。俺が言うのも変だが……若返っていないか? 

 

 

「し、失礼。ここは飲食店であっているかな? 

 すまないが、四人入れる席はないか?」

 

「あ、はい。四名様ですね。ご案内しますので中にお入りください」

 

 

 あ、やべ。

 変に黙っちゃったから背中に背負っていた三沢が取り次いでくれた。

 《ポワソニエル……長いから、仮称ポワちゃんにしようか。ポワちゃんも困らせてしまった。反省。

 

 

「ごめん、三沢。それとドレスコードとか大丈夫ですか? あと、持ち合わせもひょっとしたらそちらの通貨と違う可能性が……」

 

「ふふっ、ご安心を。当店にドレスコード指定はございません。それに、その後ろの男性の方、相当空腹のご様子ですね」

 

「ははは、面目ない」

 

 

 円卓のテーブル席に案内された後、ポワちゃんが振り向く。

 

 

「当店の料理長なら『腹を空かせてる奴にはまず食わせてやる。話はそれからだ』っていつも仰っています。

 当店にとっても久しぶりのお客様ですし、とりあえず今は料理をお楽しみいただくことを第一に考えてください」

 

 

 ポワちゃんの笑顔とともにそんな言葉をかけられる。

 か、かわいい。それに料理長めちゃくちゃカッケェ……。

 きっと髭を蓄えた義足のナイスガイなんだろうな──────って、痛っ! 

 

 

「え、何? 何されたの?」

 

「別にーっ、ふんっ」

 

「何もないですよ? ふんっ」

 

「えー……」

 

 

 なんかハレとニニがそっぽ向いた。

 え、俺こんな役回りなんです? 

 適切な距離感って言ったのに、なんで間に挟まっているの? 

 

 壁……は立場上無理だけど、俺は二人がキャッキャウフフしているのを眺めているだけで、気まぐれに話を振ってくれたら充分満足するような窓際の席にいる男子生徒Aなのに……。

 ああ、《オオヒメの御巫(アイツ)》の子守をしていた時とは別の心労が襲う……。

 と、再び足元に猫パンチを食らう……あ、いっけね。

 

 

「あ、すみません。四人っていいましたけど、五人でした」

 

「にゃお!」

 

「ふふっ、承知しました。それでは料理をご用意しますので少々お待ちください」

 

 

 ファラオ用のメニューも作ってくれるのか? 

 何だこの店、ホスピタリティの塊じゃないか。

 

 ……ん? でも今違和感があった。

 普通、()()()()()()()()()()()()()()()()のが先だ。なんか順番が飛躍した気がするぞ。俺の聞き間違いか? 

 

 

「いやー、楽しみだなぁ。アタシ、フレンチとか初めてなんだー! 早く来ないかなー!」

 

「ハレ、お行儀悪いよ。あと、テーブルマナー知っているの?」

 

「えー、あー、えーっと……うん、いけるでしょ、多分!」

 

「ちょっと恥ずかしいから変なことしないでよ、もう」

 

 

 御巫の二人も席に座っている。

 せっかく、こうして実体化してくれているのだ。こう言った楽しみも共有してあげたい。楽しんでくれるといいな。

 

 

「ははは、そんな固くならなくたっていいさ。食器は並べられたものの外側から順番に使う。あとは音を立てないようにゆっくり食べることを頭に入れておけば大丈夫さ」

 

「そっか! 三沢さんよく知ってるね!」

 

 

 そっか。《オオヒメの御巫(アイツ)》もこんな気持ちだったのか。

 よく俺の食べ物を摘んだり、自分が食べているものを押し付けてきたりと色々されてきた。TPOは一切弁えないところは本当にどうかと思うが、気持ちは真っ直ぐ伝わっていた。

 

 ……本当にどこに行ったんだろうな、《オオヒメの御巫(アイツ)》。

 カードを無くすなんて決闘者(デュエリスト)失格でもあるし、何より変なことに巻き込まれていないか心配だ。精霊として見れば格は高い方なのだろうし、ユベルに利用されていなければいいけど。

 

 

「お待たせいたしました」

 

「あっ、来た!」

 

 

 ハレの声で考え事を中断させられる。

 意外と時間が経っていたようで、見上げるとポワちゃんが両手に料理を持って来ていた。

 

 

「この度は諸事情によりコースでおもてなしできず申し訳ございません。皆様には当店自慢の逸品料理をご提供させていただきます」

 

 

 三沢とハレの前に置かれたのは黄金色のソースで包まれた骨付き肉のロースト。付け合わせの野菜も彩りよく並べられ、なおかつ一際存在感を放つ鶏肉のボリュームは想像していたよりも大きい。

 そして香草、ハーブの香りだろうか。食欲をそそるにおいがこちらにも漂い、無意識にニニとともに生唾を飲み込んでしまう。

 

 

「お二人にはガチョウ肉を使用したコンフィでございます。シェフが厳選したハーブとともに皮はカリッと、中はホロホロになるように時間をかけて──────」

 

「はぐはぐはぐっ、え、美味っ!? なにこれ!? お肉ってこんなに肉汁溢れるものなの!?」

 

「うっ……美味すぎるっ!? な、涙で前が見えない……くっ、うう……」

 

「──────とまあ、既にご堪能いただいているようで何よりでございます。

 このように、当店の逸品料理は皆様それぞれに合ったメニューをご提供させていただいております。お客様の求めるものを汲み取ってこそ、一流の料理店と言えるものですから」

 

 

 なるほど、だからメニューが最初に出なかったのか。

 まあ、目の前の料理にがっついている二人を見れば、その審美眼は確かなことは伺える。既に半分以上食べてしまっているし、ハレなんか骨を手掴みでいってる。その手元にあるナイフとフォークは何だ。

 

 この食べっぷりにはさすがにポワちゃんも苦笑いを浮かべている。ああ、ニニが顔真っ赤にして手で顔を覆っている。可哀想に。

 

 

「もうやだ。恥ずかしい。説明していただいている最中なのに……」

 

「まあ、三沢はしょうがないよ。多分、俺もこれは耐えられないから」

 

 

 5日飲まず食わずでいた後で、こんな美味しそうな料理を出されたら絶対こうなる。悔しいけど、空腹って思っているよりも深刻なんだ。

 空きっ腹にこんな重たい料理を入れて大丈夫か、という問題はあるが、それはそれ。三沢ほどの決闘者(デュエリスト)なら大丈夫だ。皆は断食した後はお粥とか消化に良いものを入れて慣らしていこうな! 

 

 

「失礼いたします。先にそちらのお嬢様の料理をお持ちしました」

 

「あ……はいっ!」

 

 

 今度はニニの元に料理がやってきた。

 皿の上には皮はこんがりと焼き目がついていながらも、シーツの色と同じく真っ白な身の魚の切り身。

 取り囲むように散りばめられた透明度の高い黄色のソースが、天井の照明と反射してキラキラと光っている。

 

 

「こちらは近海で取れた白身魚を使用したポワレになります。ソースは白ワインをベースにしたものですが、バルサミコ酢で少々アクセントを加えております」

 

「へぇー、バルサミコ酢って肉料理に使われるイメージが強いけどね。だからソースも少し赤みがかっているのかな?」

 

「え、えっと……」

 

「ああ、ごめんごめん。俺の料理を待たなくていいよ。もう二人も食べているし、先どうぞ」

 

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……いただきます」

 

 

 遠慮しながらも、ニニは慣れた手つきで切り分けた切り身を口に運ぶ。手を添えられた口元はゆっくりと味わうようにゆっくりと噛み、目に見えて瞳がキラキラと輝いていた。

 

 思わず頬が緩むのを抑えながら、今頃大慌てしているだろうデュエル・アカデミアに思いを馳せる。

 これから医療機器を取りに行くだのゾンビだのしている間に、まさか俺達が高級フレンチの店にいるなんて思うまい。いや本当に。

 ジムとかヨハンはずるいぞー、とか言って笑ってくれそう。オブライエンは呆れてそう。アモンは……自慢してやろう。御曹司が闇落ちする間に食べる飯は美味えってな! けけけ! 

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

 おっと、ファラオの分のご飯も来たみたいだ。

 何食べているんだろう、と覗き込むのは行儀悪いかな。多分、ポワちゃんお得意の魚料理だと思うが、ファラオもがっついているようだ。

 

 皆を見て、改めて食事の重要性を痛感させられる。

 実際、俺も腹が減っている。夕方から夜にかけてずっと崖下で気絶していたせいで夕食を食べ損ねてしまったことを思い出した。

 本題はこの後なのだが、少しくらい食事に専念していいかな、と思った矢先。

 

 

「大変お待たせいたしました」

 

 

 ポワちゃんから目の前に皿を差し出される。

 さてさて、俺の料理はなんだろなー。

 

 

「当店自慢のメニュー、

《ハングリーバーガー》でございます

 

「コラ〜!」

 

 

 ハンバーガーらしきものにナイフを脳天から突き刺す。

 そのままテーブルに押し付けるように体重をかけるが、ハンバーガーらしきものから反発する力が働き、カタカタと皿が震えている。

 

 

「お、お客様? どうなさいましたか?」

 

「どうもこうもないんだか!? 思いっきりモンスターなんだが!?」

 

 

 ちょっと生きが良すぎて、逆に料理に食べられるやつだ。

 こ、殺されるぞ〜〜〜〜! 

 いや、予想してなかったわけではないけど! 

 まさか初手でこれが出るとは思わなかった! 

 

 

「ま、マスター、私に任せてください! それっ!」

 

■■■■■──────!

 

 

 ニニがバトンを振ると、変な雄叫びをあげながらハンバーガーらしきものが厨房の方向へと飛んでいく。

 これ、《御巫の水舞踏(アラベスク)》のバウンス効果か。

 

 

「ふぅ……た、助かった。ありがとう、ニニ」

 

「いえ、無事で何よりですっ。

 それよりどういうことですか! 皆のはこんなに美味しい料理なのに、なんでマスターのだけあんなモンスターが出てくるんですか!」

 

「も、申し訳ございません! やっぱりフレンチでハンバーガーが看板メニューっておかしいですよね!?」

 

「いやそういう問題じゃないが!?」

 

 

 こちらは危うく「突撃! お前が今日の晩ごはん」にされるところだったのに何を言っているんだ。

 ニニがキッと睨みつけると、どこかズレた謝り方をするポワちゃん。状況に困惑していると、さらに混乱する事態が発生した。

 

 

「わーっ! 三沢さん、大丈夫!?」

 

「え、ハレ、何があった?」

 

「ご主人! 三沢さんがお腹を抱え始めちゃった!」

 

「う、うごおおおおお……」

 

 

 ハレの声を聞けば、三沢が机に突っ伏している。

 額には脂汗が垂れ、苦悶の表情を浮かべている。

 まるで真夏に腹痛を起こして一時間トイレに篭ってしまった時のようだ。間違いなく正常な状態ではない。

 

 

「にゃううう……」

 

 

 見れば、ファラオまで具合が悪そうに寝転がっている。

 どういうことだ、ここの料理を食べた途端に不調を訴えている。

 ……この状況を推理するに、飲食店で起きたら大問題になり得るような最悪の事態が浮かび上がってきた。

 

 

「まさか……食中毒!?」

 

「そんなー!?」

 

 

 カンコーン、と聞こえた気がする。

 いや、俺は医者では断定はできないが、もし本当なら大問題だぞこれは。現実世界だったら保健所から営業停止にさせられてしまう。

 

 

「我慢できません! シェフをここに呼んできてください!」

 

「に、ニニ……ちょっと落ち着いて……」

 

「あ、あわわわわわ……」

 

 

 俺よりもニニの方がご立腹になってしまった。

 料理が美味しかった分、その落差でこんなに怒ってしまっているのか。おろおろするポワちゃんが可哀想だったので、双方落ち着くように宥めていると──────

 

 

「俺様の料理に何か文句があるのかァ?」

 

「りょ、料理長!?」

 

 

 ドスの効いた男の肉声が奥から響く。

 店の中には俺達以外の客はいない。これだけ騒いでいれば厨房に聞こえてもおかしくない。

 ポワちゃんが料理長、と呼ぶ者。

 《ヌーベルズ》としてはあの赤毛のダンディな男性。通称“肉料理のレシピ”の人が料理長だった気がする。

 え、あの人こんな怖い声しているの? これじゃあマフィアとか裏社会の人と言われてもおかしくないぞ? 

 

 と、恐る恐る声の聞こえた方向を向くと──────

 

 

「ちょっ、ちょっと落ち着いてください料理長! ちゃんと説明していないオレ達が悪いですって!」

 

「離しやがれ、弟子1号! 散々文句言った挙句に食中毒呼ばわりなんて我慢できるかってんだ!」

 

 

 鬼のような形相……というか鬼の顔をした男が、男の子を引きずりながらズンズンとやってきた。

 

 

「は、《ハンバーガーのレシピ》の人ォーー!?」

 

 

 本日何度目かわからない驚愕である。

 まさか儀式魔法まんまの人が出てくるとは思わないだろう! 

 

 

「申し訳ありません! こちらの説明が足りず失礼いたしました! あのお二人は一時的にああなっているだけで、少しお休みすれば回復されるので様子を見ていただければ……!」

 

「まあ、アタシは何ともないし。ニニもちょっと落ち着いてってば……」

 

「ハレは大丈夫でしょ!? ハレだし!」

 

「えっ、何か扱い酷くないっ!?」

 

 

 引きずられてきた赤毛の男の子がぺこぺこと謝ってくる。これにはハレも居た堪れなくなったのか、ニニを宥めていた。

 それにしても……この子、肉料理のレシピの人の面影がある。ポワちゃんといい、この子も小さくなっている。

 つまり、この《À Table》は()()()()ってコト!? 

 

 《ハンバーガーのレシピ》の人が初代料理長、なんて記述もどこかの設定集で見た記憶がある。

 なるほど、まだ《ヌーベルズ》時代には至っていないからポワちゃんたちが子供なのか! 

 

 

「とにかく、料理でそんなことが起きるなんて明らかに普通じゃないですよ!」

 

「いや、確かに仰るとおりなのですが、当店は特殊なもので…………」

 

「もういい、弟子1号! 弟子2号と一緒に下がっていろ! こいつらは俺様が直々に料理してやる……!」

 

 

 《ハンバーガーのレシピ》の人……いや、料理長がポワちゃんを下がらせると、次はじりじりとニニへと近づいてくる。

 胃が痛くなる展開だ。料理長も元々顔が怖いからイマイチ違いがわからないが、多分相当怒っているのは間違いない。

 身の危険を感じた俺はニニの前に立ち、黙ってデュエルディスクを構えた。

 

 

「なんだ小僧。お前、決闘者(デュエリスト)か?」

 

「その通り。黙って料理されるわけにはいかないからね。悪いけど、こっちも抵抗させてもらうよ」

 

「はっ、おもしれぇ。ならこっちもそれで相手してやるよ!」

 

 

 初代料理長が手に持っていたフライパンを腕につけると、マトリョーシカのように小さいフライパンが5つに枝分かれする。そこに腰に差してあったデッキを差し込めば、あっという間にデュエルディスクの出来上がり。なんだそのギミック!? 

 

 

「ハレ! ニニ! 力を貸してくれ!」

 

「わ、わかった!」

 

「マスター、懲らしめてやりましょう!」

 

 

 いや、そんなつもりないけど。

 返事する前に、二人の御巫はデッキへと戻っていく。ニニ、ちょっと殺意高くない? 

 

 うーん、こんなつもりじゃなかったのになぁ。

 

 “食中毒”はさすがに失言だったと反省する。

 いや、でも俺は()()()()()()()()ところだったのは事実だし……って、変な文法だなオイ。

 実際そうとしか表現できないから困りものだ。

 

 とにかく、結局ヒートアップした二人を止められなかった。

 こうなればもう成り行きに任せるしかない。

 

 

「デュエル!」

「デュエル!」

 

 

 こうして、異世界初めての決闘(デュエル)が始まった。

 

 





■《ヌーベルズ》
 《御巫》と同じくデッキビルドパック出身のテーマ。同期には《VS》と《超越竜》がいる。
 あの古の儀式モンスターである《ハングリーバーガー》を組み込んだギミックが内蔵されており、古参の決闘者(デュエリスト)たちを熱狂の渦に巻き込んだと言われている。実に二十数年ぶりの強化であった。
 《ローガーディアン》のリメイクといい、古のカードを活用した新規が続々と出ているため、そのうち《スーパー・ウォー・ライオン》もリメイクされることだろう。※諸説あり

■《ハンバーガーのレシピ》
 《ハングリーバーガー》降臨のための儀式魔法。
 小指を立てながらターナー(俗称:フライ返し)を振るうシェフの姿はあってこそ、今の《ヌーベルズ》が実現したと言っても過言ではない。
 本作では初代料理長として登場。性格はフレンチ料理長というよりは寿司職人の方が近い。
 活躍は次回に続く。こうご期待。

■弟子1号
 後の“肉料理のレシピ”及び“シェフ自慢のレシピ”になる赤毛の男の子。
 師匠である初代料理長の無茶振りに振り回されながらも今日も厨房で懸命にフライパンを振るう。
 ところで料理長、なんでターナーを振るう時に小指を立てないといけないんですか? 

■弟子2号
 後の“魚料理のレシピ”及び《ポワソニエル・ド・ヌーベルズ》になる金髪の女の子。仮称、ポワちゃん。
 ホールを任されながらも次代の料理長の座を目指し、営業終了後も努力を続ける健気な子。
 近頃の悩みは隣地にあるケーキ屋の娘が変な因縁をつけてくること。


 次回こそ決闘デュエルします(デュアル召喚)

 ということでアニメにないオリ展開を挟んでいくスタイル。
 これ終わったら一旦原作合流させます。

 ところで新弾で出たア=バオ・ア・クゥーちゃんのビジュアルがドストライク過ぎなんですがそれは。
 でも墓地から意味不明な特殊召喚禁止坊主を引っ張ってくるのはやめてね♡
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