みかんこぉ^〜(決闘開始の宣言)   作:回帰壊獣バブミエル

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 やだなぁ、ドラゴンメイドの館にはずっと前からラティスちゃんがいたじゃないですか。



逃さない【前編】

 月が三つある空を駆ける。

 三つあるのはおかしい話だが実際あるんだから仕方ないだろう。異世界に常識を求めてはいけない。

 ……待てよ? 俺はマスターデュエルから来た男。あの世界から遊戯王(この)世界に来たのだから、遊戯王(この)世界も異世界では? 

 つまり異世界の異世界に来た……ってコト? 

 

 

「にゃにゃにゃ」

 

「あばばば」

 

 

 脳が破壊される寸前でファラオの猫パンチが飛んできた。

 しかも3回も。爪は立ててないため痛くはなかったが、なんで3回も殴った?

 

 

「ご主人ー。そろそろ到着するよー」

 

「あ、はーい。運転ありがとう」

 

 

 いいってことよー、と気安い返事が返ってくる。

 運転、というのは今俺達が搭乗している《閃刀機構-ハーキュリーベース》のことである。

 

 先の料理長の決闘(デュエル)から着想を得た三沢が「モンスターを実体化できるなら装備魔法も実体化できるでは?」という提案があった。

 いやいや、そんな都合の良いことできるわけ……と思ったら、《御巫かみくらべ》経由でやってみたらできた。わぁい。

 本調子になった三沢のSynapse……により、もう一度過酷な砂漠横断をする必要がなくなり、快適な移動手段を手に入れたわけだ。

 

 で、《ヌーベルズ》一行と協力関係を築けた俺達はハーキュリーベースで デュエル・アカデミアへと向かっている最中である。

 

 

「マスター、ちょっとこれを見ていただけませんか?」

 

「ん、わかった」

 

 

 膝の上で香箱座りをしていたファラオを退かし、ニニの元へと向かう。ニニには望遠鏡がわりの水鏡を何個か作り、三沢と《ヌーベルズ》の弟子2人とともに周囲を哨戒して貰っていた。

 

 え、運転はハレ、周囲の警戒はニニ、三沢、弟子1号2号がやっている中で俺は何していたんだって? 

 俺は……その……ファラオを愛でていただけです。はい。

 だって仕方ないじゃないか。

 やることないし、

 弟子2人も子どもらしく空の旅にワクワクしていたから外の景色を見せてあげたかったし、

 私いじけちゃうし。

 

 強いて言うなら、ハレとニニ、そしてこのハーキュリーベースの要石としての役目か。

 つまり燃料タンクみたいなものだ。まあぶっちゃけ何ともないから本当にいるだけなんだけどね。

 文字どおりお荷物サ! 泣いていいか?

 

 

「どれどれ?」

 

「距離はかなり離れていますが、何やらビルのような建築物が確認できました」

 

「お、本当だ」

 

 

 水鏡を覗き込むと、確かに都会のビル群がこんな砂漠にちらほら立っていた。

 “À Table”と同じく、異世界に迷い込んでしまったのか。

 窓から光は見えないため、廃墟の可能性もあるが……もしかしたら物資が残っているかもしれない。

 

 

「こっちには何やら発電施設のようなものがあるな」

 

 

 三沢が発見したのは角ばった建物が立ち並ぶ施設だった。ランドマークのように立つ大きな鉄塔が存在感を際立たせる。工場とか倉庫とかでは見られない特殊な設備がありそうだ。

 

 

「はいはい! こっちも何かありました!」

 

「何でしょうか、アレ。なんて言ったらいいのかわかりませんが……」

 

 

 2号ちゃんが指差した水鏡を覗き込む。

 5、6軒の一軒家が密集していた。

 意匠としてはヨーロッパあたりだろうか。ニニが見ていたビル群とは対照的で、最近の戸建住宅にはない古風な印象がある。まるで街の一画をそのまま切り抜いたように建っている。

 うーん、形容しがたい光景だ。なんであの区画だけこんなところに?

 

 

「どうする、ご主人? 寄っていく?」

 

「……いや、一旦アカデミアに行こう」

 

 

 まずは生徒たちが腹ぺこで空中分解する前に弟子2人を送り届けないと。

 一応、今後のためにも頭の隅に留めておこう。脱出に役に立つものがあるかもしれない。

 

 

「りょーかい、じゃあ着陸するよー」

 

 

 ハーキュリーベースはヘリのようにホバー飛行のまま砂漠の平坦な地面に着陸する。

 運転してくれたハレを労いながらハーキュリーベースの実体化を解除し、デュエル・アカデミアの入口を除き込んだ。

 

 

「誰もいないねー」

 

「ああ。モンスターの侵入を防ぐバリケードはあるが……肝心の門番がいない。いや、いたのか? 内部で何かあったのか?」

 

 

 三沢が冷静に状況を分析する。

 皆が違和感を持つ中、俺だけはこの異常について知っている。

 意を決っして正面の扉を開けてみると、フラフラと足元が覚束ない生徒が3名。

 ……ああ、少し遅かったようだ。

 

 

「フフ、デュエルゥ……」

 

「デュエ……」

 

「俺とデュエルしろぉ……」

 

「な、なんだこの人たち!? 明らかに普通じゃないですよ!?」

 

 

 ひぃー、と突然のホラー展開に弟子1号くんがゲッソリし2号ちゃんに抱きついている。

 ひょっとしてホラーが苦手なのかな?

 2号ちゃんは虚無顔でされるがままだけど。

 

 これが序盤のユベルが送り込んだ“デュエルゾンビ”なるものだ。

 どんなに負けようとも立ち上がり、ひたすらデュエルを挑んで来る存在。

 ……これだけ聞けば心の強ェ奴なのか?

 実際は文字どおりゾンビのように死人のような顔で付き纏ってきてはデュエルを挑み、いざゾンビに負ければ、負けた人間も同じゾンビになるというパニックホラーギミック付きである。

 

 これとデス・ベルトによる決闘(デュエル)エナジーの吸収による永続デバフにより、十代たちは行動を制限せざるを得なくなる厄介な存在だ。この周到なコンボはユベルの卓越したタクティクスが垣間見える。

 

 ま、決闘(デュエル)エナジーを吸われない俺には効かないんですけどね、初見さん。

 

 

「三沢、2人を連れて先に行って!」

 

「ああ……尊はどうする!?」

 

「すぐに蹴散らして後を追う! ハレ、ニニ、行くぞ!」

 

「オッケー!」

 

「はいっ!」

 

 

 道を塞ぐように立つゾンビ共に、デュエルディスクを見せつける。

 デッキとデュエルディスクを持たない三沢に弟子2人を送り届ける役目を任せて時間稼ぎに徹するのが俺の求められている役目だ。

 

 実際、狙いどおり街灯に群がる蛾のように寄ってきた。

 さしずめこのデュエルディスクは誘蛾灯といったところか。

 

 さて、今の俺のデッキは少しばかり改良を加えている。

 先の《ヌーベルズ》戦でパワー不足を痛感した俺。

 どうすっかなー、とぼやいていたら、あの料理長が持て余していた比較的新しめの装備魔法をいくつか譲ってくれたのだ。

 人相と短気なところを除けばマジで良い人だなホント。

 

 相変わらずモンスターは最低限なのは変わりないが、《悪魔のくちづけ》や《サラマンドラ》と言った古の装備魔法から脱却を果たすことができた。

 つまり、今の俺は手札事故の可能性は限りなく低いということだ! 

 

 この現代遊戯王と闇の禁止(未来において)カードが組み合わさったネオ・ニュー・御巫デッキ改ver.2.1に敵はない。

 時間稼ぎするのは良いが、別にこいつらを倒してしまっても構わんのだろう? 

 

 

「1人ずつ相手にするのは面倒だ! まとめてかかってきなさい!」

 

「アァ……」

 

「ウゥ……」

 

「オォ……」

 

 

 ワンターンスリーキルゥ、キメてやるぜ! 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アニメ世界でロックはルールで禁止ッスよね?」

 

「しかもまさか《御巫の水舞踏(アラベスク)》が初手3枚くるなんて思いませんでしたよね……」

 

「ご主人さぁ……ポーカーの方が才能あるんじゃない?」

 

 

 おい、ハレ! 言葉を慎めよ……。

 《灰流うらら》3枚手札に来るなんて決闘者(デュエリスト)だったら日常茶飯事だ。《御巫の水舞踏(アラベスク)》で同じ現象が起きても俺は気にしていない! 気にしてなんかいないぞ! 

 

 実際、あの3人との決闘(デュエル)は熾烈を極めた。

 もたもたターンをやり取りするのが面倒だからという理由で、タッグフォース式やパラドックス式ではなく、先攻で3人がまとめてターンを回せる代わりに、後攻の俺がバトルフェイズ有りでターンを進めるような変則ルールにしようと提案したのが完全に裏目だった。

 

 

『クックック……完璧な手札だ』

 

 

 手札にはニニの華麗な姿が一杯に広がる。

 ある意味嬉しい手札事故……別に動けないわけではないし、むしろ初動が固まってきたから事故というほどでもない偏った手札から始まり、

 

 

『アァ……』

 

『て、《手札抹殺》!?』

 

 

 一人は《手札抹殺》とか言うつよつよカードで《御巫》のサーチ手段を潰し、適当なモンスターを1体召喚、

 

 

『ウゥ……』

 

『ゲェーー!? 《虚無空間(ヴァニティー・スペース)》の男!?』

 

 

 もう一人は前のターンで召喚したモンスターをリリースして《虚無魔人(ヴァニティー・デビル)》を召喚。

 これで特殊召喚を封じられてしまい、

 

 

『オォ……』

 

『わりぃ、俺死んだ』

 

 

 最後の一人はダメ押しと言わんばかりの《魔封じの芳香》をセットして発動。

 魔法すら発動できない始末。

 

 3人がかりで現代遊戯王でもドン引きするほどの、この世の終わりみたいな盤面を形成されてしまった。

 

 割と本気で泣いていた男がこの俺。

 手札抹殺で引き直したハレと《御巫かみくらべ》、そして新たにデッキ入りを許された期待の新人モンスター《銀翼のAXE-サリー》があったため、この3枚に全てをかけてハレを棒立ちしてターンエンド。

 

 ゾンビ三兄弟ならぬメタビ三兄弟はチャンスだと思い《虚無魔人(ヴァニティー・デビル)》で特攻をかましてきたところをかみくらべとAXEのコンボで反射。

 

 かみくらべで装備させたのは料理長から譲り受けた中で最大の収穫であった《脆刃の剣》。

 もはや俺の心の中に「さすがにこれやったらバランス崩壊待ったなしだよね?」という考えはなかった。1人あたり3枚──────計9枚体制の《神の宣告》を相手にするなんて最悪中の最悪を想像してしまい、一刻も早くこの男共を葬らねばならないと心に決めたからだ。

 

 またもや《御巫》の恐るべき効果と、相手側の無知無知の無知により辛勝したわけだ。

 なお、メタビ三兄弟たちのデュエルディスクは没収し、道中あらゆる所に隠してきた。

 

 こんなものを世に放ってはいけない。

 結局名前もわからず仕舞いだが、全部終わったら名前控えておこうっと。

 次、決闘(デュエル)する時はガンメタ張ってやるからな。

 

 

「よし、到着!」

 

 

 さすがに他のゾンビ生徒と決闘(デュエル)する気力がなかったため、壁を走ったりすることで避難場所である決闘(デュエル)場まで駆け抜けた。

 扉を開けると顔馴染みのある面々も含め、生徒たちが視界一面に広がる。意外とゾンビ化を免れている生徒が多い印象だ。

 

 と、俺に気づいた十代とヨハンが駆け寄ってきた。

 

 

「尊! 良かった、お前も無事だったんだな!」

 

「まあ何とかね。外も中もハチャメチャになっているけど何があったの?」

 

「俺達もまだよくわかっていないんだ。高熱でうなされているレイのために外まで薬を取りに行ってきたらこんな有様だ」

 

 

 さすがにいつも前向きなヨハンでも頭を痛めているご様子。

 まあこんなの、根本的な解決をしないとどうにもならないよね。

 言葉だけじゃ腹は膨れないってね。

 

 

「そっちの状況は三沢から聞いた。いや、本当に助かった。皆、パンの大きさ一つで揉めるくらいだったんだ」

 

「あの2人、何もないところでコンロとか色々召喚したりしてたけど、あいつらも精霊なのか?」

 

「ああ。料理が得意な二人だ。俺も一足先にいただいたよ。連れてきて正解だったね」

 

 

 食べ物が原因で内部分裂とか割とリアルで洒落にならないんだわ。

 ただでさえ民度がアレな遊戯王世界。

 初期より遥かにマシになったが、ブルーイエローレッドという生徒間の格差。

 しかもこういった異常事態は十代たちネームドキャラは日常茶飯事だが、実は一般生徒にとっては経験はない出来事である。

 

 うーん、何も起きないはずはなく。

 ユベルもこんなガラ空きのボディ、崩すのなんて簡単すぎて笑っちゃってるよね。実際、《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》が出るまでずっとユベルの掌の上だったし。

 

 てなわけで対策が急務だったってワケ。

 あらかじめ食糧庫から非常食を決闘(デュエル)場へ動かしておいた甲斐があった。

 

 

「皆さまー! お料理ができましたわー!」

 

「ご馳走ザウルス! 皆の分もちゃんとあるから、順番守って一列に並ぶドン!」

 

 

 そして食べられるが味気ない食料と、出来合いじゃない調理が必要な食材は《ヌーベルズ》の弟子たちが調理してくれる。

 剣山くんと明日香の取り巻きの……ジュンコの方だったかな? 二人が呼びかけると生徒たちはちゃんと一列に並び、順番に料理を受け取っていく。奪い合いも起きてないな。

 

 よし、第一の問題であった食糧は無事解決。

 これでマルタンユベルの兵糧攻めは失敗に終わることだろう。食糧を求めて脱走するやつもでなければゾンビも増えることはないはずだ。

 

 

「アニキィ、アタシたちも一口ィ〜」

 

「黙れ、これは俺様の弁当だ」

 

「でもオイラ達、涎が止まらなくってェ……」

 

「もうお腹が空いた気がしてェ……動けなくってェ……」

 

「ええい、うるさい雑魚ども! 気が散って味わえん!」

 

 

 あ、万丈目とおジャマ三兄弟じゃん。

 そっか。意識してなかったが、万丈目は元々食糧庫の番人をしていたせいで真っ先にゾンビの大群に狙われたんだよな。

 ここに食糧があれば残るし、襲われなければゾンビにもならないのは当然か。

 

 見渡してみるとレイと鮎川先生もいた。

 ソンビ騒動がそこまで大きくならなかったためか、保健室から無事に避難することができたのか。

 

 と、袖が引っ張られる感覚。

 振り向けば背後に控えていたハレが何やらじっと配給の様子をじっと見ていた。

 

 

「ねー、ご主人ー。あたしもアレ貰ってきてもいい?」

 

「ハレったら……私達はお店で食べたばかりじゃない。ご飯だって限りがあるんだから、普通に考えたら他の人たちに行き渡るように我慢するべきでしょ?」

 

「ぶー……こんなに美味しそうな香りがここまで来るのがいけないと思うんだけどー」

 

「確かに、俺も腹減ってきたなぁ」

 

 

 十代とハレが揃いも揃ってお腹を擦っている。

 はははこやつらめ。特に十代なんか精神的に余裕が生まれて主人公特有の能天気さが出てきている。

 

 いい匂いってどんな料理作っているんだろう、あの弟子2人。

 すんすん、と鼻を啜ってみる……ん? 

 

 

「なら俺の分ってことで貰ってくれば? 俺はまだお腹空いてないし、せっかく作ってくれたのを残すのも勿体無いもんね」

 

「やったー! ありがと、ご主人! 行ってくるー!」

 

「俺も俺もー……ってお前ら誰だ?」

 

「ふっふっふ、あたしは御剣の家の御巫、ハレちゃんだ! ご主人に一番頼りにされている精霊なのだ!」

 

 

 えへん、と自信満々に胸を張るハレ。

 否定はしないどころか、誇張抜きで大変ありがたい存在なのは同意だ。一番、と表現されたため、全面的に同意するとニニの方に角が立つからスマイルだけ送っておこう。にっこり。

 

 

「出鱈目言わないの……ニニと言います。マスターのお側に仕えさせていただいています」

 

「あー、あの時ぼやーって見えた時のか! 知らないカードの精霊だ! よろしくな!」

 

「よろしく! それはそれとしてニニも来るの? お弁当はんぶんこする?」

 

「私はハレが騒ぎを起こさないように着いていくだけ……お弁当は少しちょうだい」

 

 

 おう、秒で打ち解けたなあの3人。

 俺なんか最初戸惑いすぎて、もたついた会話しかできなかったのに。

 主人公、ちょっとコミュ強すぎない? 

 

 俺より早くあの2人と仲良くなりやがって……後で俺もハネクリボーを“ブッ癒やして(モフって)”やる……ッ。

 森の中では鍛え上げたモフり力、たとえ犬でも猫でも熊でも俺のゴットハンズには無力よ……すんすん。

 

 

「ははっ、尊の精霊も面白い奴らだな。良い関係性みたいで安心したぜ」

 

「そうだね。ヨハンみたいに家族とまでは言えないけど、俺みたいな取り柄のないやつにも優しくしてくれるし、決闘者(デュエリスト)冥利につきるよ」

 

 

 残されたヨハンとともにそんな話をする。

 こういう時、マサラ人よろしく「みんな出てこ〜い」とやるのが通例だが、今は普段精霊に馴染みのない人たちにも実物として見える世界。混乱させちゃいけないよね……すんすん。

 ──────あれ、やっぱりだ。

 

 

「そんなこと──────って、さっきからどうした? 鼻でも詰まったのか?」

 

「いや、十代とハレが美味しそうって言っていた香りってなんだろなって」

 

「え、しないのか? 俺もわかるぞ?」

 

「うん、しない……鼻通りはいいのにおかしいな?」

 

 

 試しに服とかも嗅いでみても何も臭いがしない。

 決闘者(デュエリスト)になってから花粉症とか病気なんて無縁だったのに。

 異常なレベルで身体能力が向上しているのと何か関係があるのかな。料理長のところに戻って料理でも処方してもらうおうか。

 ただし《ハングリーバーガー》以外で。美味しかったけどしばらくはいいかな。多少なりとも時間がたった今でも全然食欲ないし。

 やっぱりカロリー高いのかな、アレ。

 

 

「あ、尊……後ろ後ろ」

 

「ん?」

 

 

 急にヨハンがバツの悪そうな顔をして俺の背後を指差す。

 ヨハンってこんな顔するんだな、とアニメでは観られなかった表情を新鮮に思いながら振り向く。

 

 

「……羨ましいッス」

 

「うわぁ、ゾンビ!?」

 

 

 見慣れたゾンビみたいな顔があった。

 翔くんがこの世の終わりのような表情でこちらを睨んでくる。

 

 なんてことだ! 原作どおりゾンビになってしまっている! 

 しかも避難所まで侵入してきているなんて、どこからかゾンビが通れる穴があるってコト!? 

 

 

「なんてことだ! ゾンビ化が進行する前に翔くんを決闘(デュエル)で拘束せねば!」

 

「人聞きが悪いッス。尊くんへの怨念でこうなっているだけッス」

 

「いやいやまたまた」

 

 

 じゃあなんスか。

 ネームドの被害がゼロってことじゃないスか。

 万丈目はわかるけど翔くんはマジでゾンビ回避フラグなんて回収した覚えないんスけど。

 

 

「翔君は一緒にここまでの避難誘導を主導でやってくれたわ。オブライエンとは別行動だけど、私とジムが一緒になって周囲の巡回もしていたの」

 

「あらまあ大活躍」

 

 

 すると明日香からのフォローが入る。

 生き残っているどころか、ちゃんと仕事してるじゃん。

 避難できている生徒が多い気がするなー、と思ったらそんなことがあったのか。

 翔くん、成長しているのか? この短期間で? 

 

 

「尊くんばかりズルイッス。ボクもあんな可愛い子たちと一緒に決闘者(デュエリスト)としてのロードを駆け上がりたかったなぁ──────ハァ」

 

邪心経典(ヤク)でもキメていらっしゃる?」

 

 

 まあ今はネチネチとした怨念を送り続けられているけどネ。

 

 そういえば翔くん、バリバリの機械族使いのくせにBMG(ブラック・マジシャン・ガール)とか大好きなタイプだったわ。

 だったら機械族の女の子テーマ使えばいいやん──────と一瞬思ったが、残念ながらそんなテーマあまりなかったぜ! 

 パっと思いついたのが《オルフェゴール・ガラテア》だったし。リンクテーマな上に、何か強火のニーサンがついてきそうだな。

 

 KO───この世界ではペガサス会長か───ドラゴンの首を増やすよりもロボ娘を増やしてほしいと切に願いながら、翔くんの抱える闇は是非ともユベルに利用されないようにコントロールしてほしいものだ。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 巻き上げられた砂が操縦席の窓を叩く。

 乾燥し切っているせいか、砂埃が溜まることなく、ハーキュリーベースは空を駆ける。

 デュエル・アカデミアで一息入れた後、俺達は再び外へと出ていた。

 

 皆の食事が終わった後、正気を取り戻した翔くんが皆を集め、皆を集めて決めた方針を思い出す。

 

 

『クロノス先生やナポレオン教頭とも話し合ったんだけど、今ボクたちにとって大きな問題は3つあるッス』

 

 あの藤木遊作ばりの“今週の3つ”を発動。

 提示された課題は以下の通りだった。

 

 ①元の世界への帰り方

 ②生活基盤の確保

 ③内外からの脅威への対策

 

 まず、①は全員が共通として掲げる大目標である。

 ある程度改善されたとはいえ、資源は有限だ。

 このまま異世界で暮らそうなんて口にする生徒はいない。

 皆、元の世界に戻りたいはず……アモンは違うのかもしれないが。

 

 

『まずは元の世界との連絡の手段を探ろうと考えている。ツバインシュタイン博士なら解決の糸口を見つけてくれるかもしれないしな』

 

『脱出の方法は三沢くんに任せるしかないッス。ボクたちができることがあったら遠慮なく言ってね』

 

『ああ。助かる』

 

 

 この点に関しては三沢に任せるしかない。

 明確なゴールはわかっているし、何だったら答えを知っている俺だが、これは自力で辿り着かないと、皆からの納得と合意は得られるとは考えづらい。

 

 俺は困ったときの助け舟くらいはやっておこうと思う。

 頑張れ、三沢。お前がナンバーワンだ。

 

 

『で、2つ目の問題は……何か問題あったっけ?』

 

『問題大ありナノーネ!』

 

 

 ②はクロノス先生とナポレオン教頭が熱弁していた。

 

 

『元々孤島にあるデュエル・アカデミーアは、自前の発電設備で電気を賄っていマースが、そこからの供給が途絶えているノーネ! 幸い、今は建物内の予備電源で動いていマースが、このままだと食糧が尽きる前に電気が使えなくなっちゃうノーネ!』

 

『電気がなくなれば行動が制限されてしまうのでアール! 室内のライトは勿論、エアコンから何から何まで動かなくなると一気に生活が不便になるのでアール!』

 

『当たり前だと思っていたものが使えなくなると生徒たちの不満やストレスが溜まるのは食糧問題で散々体感したノーネ! まーた食糧不足の時の二の舞になるノーネ!』

 

 

 避難状態とはいえ、インフラは最低限確保しないといけない理由。それは大人として真っ当な意見だった。

 水は保存水がある。ガスは……火さえ起こせれば代替可能だ。

 ただし電気はこうもいかない。 一緒に異世界転移してきたアカデミア側の発電設備も故障しているのはジムたちが確認している。照明、空調と一番必要なエネルギーなのに一番心許ないのが正直なところ。

 

 最悪、雷族のモンスターを実体化させるなんて案も出たが、並大抵のモンスターでは継続的な供給は難しいだろう。

 

 以上を鑑み、優先度が高い問題だと一同は納得した。

 ついでに言えば、元の世界との連絡を取る際も、偶然アカデミア側の発電設備が復旧したことによって実現できたことだ。

 その点で言えば、俺にとってはもっと優先度が高くなる電気が必要だったりする。

 

 

『で、3つ目は外のモンスターと、中のゾンビたちだな。今の所はバリケードで耐えているが……』

 

『フン、雑魚が何人束になろうと関係ないが、忌々しいこの腕輪がある以上、相手にするのは時間と体力の無駄でしかないな』

 

 

 幸い、今は少ない被害で抑えられたが、万丈目が言ったように、物量と決闘(デュエル)エナジー吸収のコンボは非常に厄介だ。

 

 別に私怨ではないが、あんなメタビデッキで固められたゾンビとか二度と相手したくないんだわ。本当に。

 雑魚が束になってかかってきたら効果魔法罠無効手札全ハンデスなんて“引退”に追い込まれるようなこともあると学んだ俺。

 もう何がなんでも相手しないことを心に決めた。

 

 

『そもそも俺達をこの世界に連れてきたアイツ──────コブラに取り憑いていた奴が何かしてくるかもしれない。備えておく必要があるな』

 

 

 極めつけにはマルタンユベル。

 ゾンビは相手をしないようにいなせばいいが、俺にとってはこっちの方が脅威だ。

 十代を追い詰める愛情表現が上手くいっていない以上、また次の手を仕掛けてくるに違いない。

 油断していると足元を掬われてしまうのは火を見るよりも明らか。用心を重ねておくべきだ。

 

 

『尊くんはアカデミアの外の探索と、使えそうな物資があれば調達してきて欲しいッス。現状、外を自由に、かつ、遠くの距離まで動けるのは尊くんがいないとできないッスから』

 

『任された。まずはここに来る途中に見かけた発電施設をあたってみるよ。《ヌーベルズ》みたいな協力してくれる精霊もいるかもしれないし』

 

『お願いするッス』

 

 

 で、俺達は外の哨戒が役目となった。

 現状、ハーキュリーベースで安全に外で行動できるのは俺だけ……正確には運転と実体化はハレとニニのおかげなんだが、まあ順当な役回りだろう。

 

 

『十代君、ちょっと良いかニャ?』

 

『ん? 大徳寺先生?』

 

 

 あと、出かける前になんか十代と大徳寺先生が隅っこで話していたな。

 もう出発前だったから内容は聞けなかったけど。

 きっと錬金術師アムナエルとして異世界脱出の手助けをしてくれることだろう。

 申し訳ないが、この点についてはファラオを連れてきて良かった。

 

 

「ただいま到着〜っと」

 

 

 と言うわけで、俺は三沢が見つけた発電施設に来たわけだ。

 考え事をしていたらあっという間に着いてしまった。すごーい、ハーキュリーベース君、イーグルブースターよりずっとはやーい! 

 

 と、冗談はさておき。

 俺に続いてハーキュリーベースから降りてくるゲストに会釈する。

 さあ、イカれたパーティーを紹介するぜ! 

 

 

「改めて同行ありがとう。こう言う過酷な環境に慣れている人がいるだけで心強いよ」

 

「……」

 

 

 オースチン・オブライエン! 

 以上だ! 

 単独行動を憂いてくれた翔くんが誰か同行者を募ってくれた。

 すると真っ先に名乗り出たのがこのガチガチ傭兵のこの男ォ! 

 

 アカデミア側はブルーベレー隊に任せてまで俺達についてきてくれるなんて……君も俺のファンになったのかな? 

 ハーキュリーベースから降りた途端にスタスタと先に行っちゃったけどネ。歩くの早っ。

 

 

「感じ悪ぅ〜」

 

「仕事人なだけだよ」

 

 

 むぅ、と睨むハレを落ち着かせる。

 

 淡々としているのも彼の魅力。

 まだ距離を感じるが、仲良くなるチャンスはまだ一杯ある。焦らず距離を詰めていこう。

 今はまだ私が動く時ではない。

 そしてゆくゆくは……まんじりともせず俺とのカードトレードを受け入れろ……という流れでムフフ。*1

 

 それはそれとして、当初の目的は忘れていない。

 この三沢が見つけた発電施設に来たのは②の問題の解決のため。

 アカデミアの発電設備を修理するための部品の調達。

 もしくは発電設備を賄える精霊の協力を仰ぐこと。

 

 前者は専門的すぎて俺にはわからん。

 その辺はジムとオブライエンが色々話をしていたっぽいし、任せるしかないか。

 何か掘り出し物が見つかれば元の世界との通信も早く復旧して脱出までの短縮が期待できそうだ。

 

 後者は頼まれたものの、俺からしたら発電施設に精霊なんているのかな、というのが本音なところだ。

 まあ、努力目標として頭の隅に入れておこう。

 

 

「室内は意外と片付いていますね」

 

「うん、俺も瓦礫まみれだと思っていた」

 

 

 外は砂漠の影響もあって砂埃が表面を覆いかぶさるように付着していた反面、見たところ室内は綺麗な状態で保存されている。

 埃も少ないため、手入れされているような印象を受けるものの、書類や机など人が居たような痕跡がないような気がする。

 

 仕事した後というのだろうか、例えば点検のためのヘルメットや工具すら存在が見られない異質さ。本能的に妙な居心地の悪さを感じさせる室内を慎重に調査を進めていく。

 

 

「何にもないねー」

 

「うーん、収穫なし」

 

 

 そんなところを一通り入れるところを回っても何も得られず。オブライエンも一緒に行動していたが成果が見られない。

 なんでこんな施設があるのだろうか、と根本的な疑問が浮かぶが、答えられる者なぞいるはずもない。

 

 さて、立ち往生。

 こんな時はやり方を変えてみるしかないか。

 

 

「電波電波……っと」

 

 

 ここでジムから借りた電波測定器を取り出す。

 これはデス・ベルトによる決闘(デュエル)エナジーの吸収仕様をいち早く感知した優秀な機器。

 何か可動している設備があれば反応があるに違いない。

 

 

「よし、数値がぶれている……ってレベルじゃないよコレ!?」

 

 

 ポケットから取り出してみた途端、針は最小値と最大値を行ったり来たり。

 まるでメトロノームと化した測定器。bpsは185くらいでビートを刻んでいる。うん、明らかに異常だわコレ。

 

 

「故障でしょうか?」

 

「ニニ、縁起でもないことをいわないで」

 

 

 それじゃあ俺が壊したみたいじゃん! 

 べ、べべへ、弁償しないと……そこまで高くはなさそうだけど、俺の財力は山レベル基準。支出もなければ収入もそこまでない。

 ぶっちゃけ、6桁まで行けば間違いなく破産だ。ジムに土下座する覚悟を決めるしかない! 

 

 

「貸せ」

 

 

 と、オブライエンが俺から測定器を取る。

 

 ひょっとして直してくれるのか、と淡い期待を抱きながら成り行きを見守る。

 移動しながら、時には方向を変え、あらゆる条件で測定器の数値を観察する。

 

 あれ、俺が見た時と動きが少し違うような? 

 

 

「故障ではない。ブレの速さは場所によって僅かに変わっている」

 

「……まさか、見えないだけで現在進行系で動いているものがあるってコト?」

 

 

 オブライエンは否定しない。

 え、割と冗談だと思って口にしたんだけどマジなんすか? 

 ハレとニニが俺を守るために周囲に控えながら構えを取る……が、見えない相手にどう対応すればいいのか検討もつかず困惑するばかり。

 

 せめて姿さえ見えれば──────と思った時。

 

 パチっと目の前が光る。

 なんだろう、と思って反射的に手を差し出してみた。

 

 

「ニーッ!?」

 

「えっ!?」

 

 

 いつの間にか、手足の生えた青い筒状の何かを掴んでいた。

 それはまさか触られると思ってなかったのか、したばたと必死に身動きを取ろうとしていたが抜け出せない。

 結構強く握りしめているようだ。なにせ俺自身が驚いているのだから。

 

 

「イーッ!」

 

「ミーッ!」

 

 

 それを皮切りにどんどん同じようで、それでいて色や形状が異なるモノたちが抗議するように声を上げる。

 今掴んでいるモノも含め、どこかで見覚えがあるモンスターのような気がするが、はて? 

 

 あ、思い出した! 

 このGX時代で雷族といえば! 

 

 

「《電池メン》!?」

 

 

 古来よりあるカード郡のため、単体では使い勝手が良いとは言えないが、エクシーズやリンクと言った召喚法が増えるとそれなりに出番が増えていたりするカードたちだ。

 実際、《充電池メン》や《太陽電池メン》など細々と後続のカテゴリが出ている印象がある。

 

 

「ニ、ニーッ!」

 

「あっ」

 

 

 少し思いを馳せていたら、俺が握っていた《電池メン-単二型》がするっと抜け出して廊下を走り抜ける。

 光のように逃げていったのを黙ってみているしかなかったが、ようやくこの施設の謎の手掛かりを掴めた気がする。

 

 さっそく追おうと走ろうとしたが……なんかハレとニニが顔真っ青になっている。どうしたのだろうか? 

 

 

「ご、ご主人大丈夫!? なんかピカーッって光ってバチバチしてたよ!?」

 

「え、ほんと?」

 

「てっ、手を見せてください! 火傷とかしていませんか!?」

 

「いや、別に……」

 

 

 手を見ると、確かに黒ずんでいるが別に熱くも痛くもない。擦ってみると取れたため、ただの汚れだろう。ウェットティッシュで拭いておこう。この状態でカードを触りたくない。

 

 

「動けるか?」

 

「うん、全然大丈夫だけど」

 

「……そうか」

 

 

 オブライエンまで心配してくれていた。

 別に何ともないが、ちょっと距離が縮まった感じがして嬉しい。どうしよう。このまま渾名とかで呼んでみても許されるかな? 

 ファーストネームはオースチンだし……うーん、いいや、オッブとかで。

 呼びやすくて親しみやすさもあるからアリなんじゃないか?*2

 

 

「電波の乱れはあいつらが原因のようだ。追うぞ」

 

 

 相変わらずの仕事人っぷりに惚れ惚れする。

 渾名はチャンスがあれば呼んでみよう。

 

 さて行こうと電池メンたちが逃げた先を走る。

 ……ハレとニニはまだ心配そうな表情だ。

 よくわからないが、心配させてしまうのは申し訳ないな。

 落ち着いたらあとでお礼言っておこう。

 

 と、辿り着いたのは──────施設の地下室。

 先程探索した時には見当たらなかった未探索の場所だ。円形状に広場があり、中央には何やら重々しい物体が機械音を鳴らしている。

 

 

「あ、いた」

 

 

 その隅っこにぷるぷると震わせる電池メンたち。

 明らかに怯えているような様子に、何やら俺達が悪者になったような構図だ。

 いや、違っ、俺達はただ話を聞きたかっただけなのに……これはマズイ! 

 

 大丈夫だよー、怖くないよー、と呼びかけようとしたが──────間に合わなかった。

 

 

「コラー! 何してるんだ!」

 

 

 あーっ、お約束ーっ! 

 落雷のごとく空気を弾けさせながら俺達の前に二人の人影が降り立った。

 

 

「俺達の子分を虐めるなー!」

 

「なー!」

 

 

 間に立つのは金髪の少年少女。

 逆立った髪の少年が前に、その後ろに隠れるようにツインテールの少女がこちらを睨む。しかし、二人とも髪がバチバチと帯電しているように見える。 明らかに俺やオッブのような人間じゃないのは確か。

 

 ええっと、《ONiサンダー》と《ONeサンダー》か。

 なんだここ。《ヌーベルズ》のようにテーマの統一性がないな。雷族の寄合所か? 

 

 

「驚かしてしまってごめんね。君達に危害を加えるつもりはないんだ。ただ、俺達はここに電気の蓄えがないか見に来ただけで……」

 

「嘘つけー! お前たちもあの鳥たちみたいにここを滅茶苦茶にしようとしているんだろー!」

 

「ろー!」

 

 

 ああもう決闘者(デュエリスト)特有の早とちりが始まった。

 料理長の時もそうだったけど、こういう時はいくら説明しても聞いてくれないんだよなぁ。

 

 まあ彼らの立場を考えると無理もない。

 よくわからないうちにこんな異世界に飛ばされて、ハーピィとかに襲われて、自分の身を守ることで精一杯。

 俺みたいな異端者がいたからこそ歩み寄れたものの、《ヌーベルズ》の皆だって原作どおりのアカデミアの生徒たちだけで協力関係を築けるかって考えると中々難しい。それこそ十代やヨハンが矢面に立たないと話しにならないくらいだ。

 

 そんな冷めた考えをしていると──────空気が変わった。

 

 

「どうした。我が子たちよ」

 

 

 誤解を解こうと弁明しようとした口が反射的に噤んでしまう。

 コツン、コツンと廊下を歩く音の出処を振り向けば、《ONiサンダー》と《ONeサンダー》のような電気で構成された長髪を靡かせる男が一人、こちらに近づいてくる。

 

 

「お、《OToサンダー》……?」

 

 

 姿は呟いたとおりのものなのに……なんだろう、この違和感。

 一見、俺達人間と変わらない背丈。しかし、一歩でも動けば対処されるようなプレッシャーを纏わせている。ハレとニニも感じ取ったのか、黙って雷の男を前に警戒を強化している様子だ。

 これは、明らかにレベル4が出す覇気ではない。

 外見と中身のちぐはぐさが異様すぎるあまり、位置関係として俺の斜め後ろにいるオブライエンですら冷や汗をかきながら対峙している。

 

 

「パパー! またあいつらの仲間が来たよー!」

 

「来たよー!」

 

「あっ」

 

 

 つい圧倒されて黙ってしまった。

 その隙に息子たちから端的に“敵”ということを伝えられてしまう。

 

 弁明しても時すでに遅し。

 既に《OToサンダー》……っぽいものはこちらを排除する用意を始める。

 彼が左腕を掲げると、あらゆる設備から光が集まっていく。火花を散らしながらできあがったのは避雷針のように刺々しいデュエルディスクであった。

 

 

「誤解だから! 落ち着いて!」

 

「──────もしあの小鳥共の仲間であるなら、ただでは帰すわけにはいかぬな」

 

 

 それに、と目の前の男は言葉を続けた。

 

 

「見たところ、人の理から外れようとしている者もいる。

 益々野放しにしていられん。見定めさせてもらうぞ」

 

「何それ?」

 

「……どういう意味ですか?」

 

 

 ハレもニニも何を言っているのかわからず怪訝な顔をしていた。

 俺もわからん。人の理ってなんぞや。何か俺をじっと睨んでいるような……? 《御巫》たちは俺に視線を移す。心当たりがあるのか、と。

 わ、わかんないっピ……。

 確かに身体能力は意味不明に向上しているけど、まだ人の範疇でしょ。さすがに大袈裟かと。

 ……いや、これは偶然俺が遮っているだけで実は? 

 

 

「人の理──────まさかオッブ!?」

 

「……オッブ?」

 

「ごめんなんでもない」

 

 

 いきなり渾名は受け入れがたかったか恥ずかしっ……じゃなくて、人間離れしているのはオブライエンかと思ったがそれも違う様子。

 

 

「避けられそうにもないか」

 

 

 わけがわからないが、このままでは逃げられそうにない。

 決闘者(デュエリスト)特有の早とちりを解消させるにはやはりこれしかないということか。

 

 

決闘(デュエル)!」

決闘(デュエル)!」

 

 

「我のターン、ドロー」

 

 

 いつもどおり、先攻は相手に譲る。

 さて、相手のデッキは何だろうか。

 《OToサンダー》たちは自身の効果で同じレベルの雷族を並べてエクシーズ召喚するのが鉄板だが、この時代にそんな画期的な召喚法はまだ実装されていない。

 かといって《電池メン》も単体では力不足は否めない。一応、この時代のエース枠である《超電磁稼働ボルテック・ドラゴン》も重症気味のカードだし、何か一工夫がないとまともに戦えないだろう。

 

 まあ、《電池メン》たちの寄合いを見たかぎり《スプライト》とかいなさそうでよかった。

 手札もかなりいい方だし、このまま成り行きを見守って次のターンでまくりかえすとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思っていた時期もありました。

 ターンが返ってきたと思い、完成した盤面がこちらのとおり。

 

 

《超雷龍-サンダー・ドラゴン》★8 ATK/2,600

《超雷龍-サンダー・ドラゴン》★8 ATK/2,600

《超雷龍-サンダー・ドラゴン》★8 ATK/2,600

 

 

 

「なあにこれえ」

 

 

『最強』なのだった。

 

 

 あれこれ《電池メン》が3体並んだかと思えば、全部厳つい黒龍になっちゃった。

 あれれー、おかしいぞー? 

 融合モンスターなのに融合使ってなかったよー? 

 

 

「ターンエンド」

 

「お、俺のターン……ドロー」

 

「罠発動。《群雄割拠》」

 

「だからロックはルールで禁止ッスよね?」

 

 

 俺はもうだめかもしれない。

 

 

*1
※オブライエンは《ヴォルカニック・クイーン》を持っていません。

*2
※オブライエンは《ヴォルカニック・クイーン》を持っていません。





■メタビ三兄弟
 他称。もちろん血のつながりはない。
 長男は特殊召喚封じ。次男は魔法封じ。三男は罠封じを得意とする。時代が時代なら次男の《王宮の勅命》により世界の全てを崩壊させられていたことだろう。
 三男がたまたま《王宮のお触れ》が手札になかったため、その唯一の隙をつかれて敗北。彼らのデッキはしばしの間、物理的に“封印”されることになった。
 余談だが3人ともオベリスクブルーである。


■《銀翼のAXE-サリー》
 褐色機械族少女……いるじゃん! メカ娘!
 フィールドのモンスターを対象に、攻守100アップ効果の装備カード扱いで装備することができるカード。攻守の増減が少ないため令和のカードにしては若干重症気味だが、相手ターンでも発動できることから《御巫》とは相性が良い。
 メタビ三兄弟との決闘では、相手が攻撃してきたところに発動し、《オネスト》のような使い方で勝利を収めることができた。

 なお、このカードをデッキに入れるためにハレとニニの説得には骨が折れた模様。しかし異世界転移前は問答無用でデッキから弾かれていた時よりは前進しているのだった。


■《超雷龍-サンダー・ドラゴン》
 手札から雷族が効果を発動したターンであればフィールドの雷族効果モンスターを1体リリースして特殊召喚できる融合モンスター。この召喚条件の緩さから実質リンク1とも揶揄され、《ネメシス・コリドー》とともに出張することが多いモンスター。融合しろ。
 相手にドロー以外でデッキからカードを加えることを封じるロック効果と、墓地から雷族を除外して破壊から免れる耐性を持つ。

 なお、このカチカチ耐性効果と“特殊召喚”にはターン1制限は存在しない。OCG、マスターデュエル、そしてTCGでも制限解除されたため、この決闘のように3体雷族をリリースすれば“サーチ絶対許さない”盤面が完成し、破壊による除去も最低3回は耐えられる仕様。もはや過剰妨害。



 メタビ三兄弟との決闘シーンをカットしたら中途半端なところで切れてしまったため次の導入まで書いちゃいました(白目)
 でもメタビ相手はさすがに盛り上げられないから許して。
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