【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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過去作

6月に入ってアクア達が出演するバラエティーが放送され始めた。

変わらずアクアやB小町Rメンバーは各々忙しい日々を送っており、様々な番組でその活躍を見られるようになってきている。

この日も撮影日であり、アクアはフリルと共に月9の撮影現場にやってきていた。

撮影も終盤、放送も近いという事で、これまで以上に皆気合が入っている。

今は撮影が順調という事で設けられた休憩時間。

アクアは初のロケ地という事で少しでも立ち回りをよくしようと、周りの地形を確認するため歩いていた。

ただそう言う時に限って予期せぬ出会いがあるものである。

 

「やあ」

 

幼い声の聞こえた方に視線を向けると、見覚えのある少女がいるのが目に入って、アクアはゲンナリした顔を浮かべる。

 

「……なんでここにいるんだよ、動物園はともかくここ関東だぞ」

 

初めて会った時も宮崎にある雨宮宅だ。

そこから彼女は宮崎在住なのだろうと考えていたため、アクア的にはこの場所で見るのは完全に予想外だった。

アクアの表情に満足した様子で彼女はご機嫌に答える。

 

「答えてもいいけど、偶然、なんて言っても君は信じてくれるかな?」

「……確かに信じないかもな」

 

人外にも見える整った顔立ちに綺麗な銀色の髪を持つ幼女、ツクヨミ。

目を細めて挑発的な笑みを浮かべている彼女にアクアはこいつには遠慮いらないなと思いながら会話をする。

既に彼女がその外見通りの子供ではないとアクアは知っていた。

 

「それで、何の用だ」

「君に用事があるとは限らないんじゃない?」

 

はぐらかすように言うツクヨミだが、この撮影現場に忍び込んでいる時点で何か用があると思う方が自然だった。

疑いの視線を受けても気にした様子がないツクヨミは、少なくとも年相応の少女ではないだろう。

 

「随分女関係が爛れているみたいだからね、本当に種馬になる事が使命だと勘違いしていないか確認しにきたんだよ」

「これでも真面目なんだが、それにアレは冗談だって言っただろ?」

 

アクアは宮崎の動物園で確かに『俺の使命は、B小町Rの皆と付き合って子孫を残す事だ』なんて宣言はしたが、流石に本気で言っていたわけではないし、直後に冗談だとツクヨミに言っている。

ただ疑った事があるのは事実のため、アクアは少し動揺していた。

そんなアクアを見て満足そうに不敵な笑みを浮かべるツクヨミは揶揄い混じりの声色で返事をする。

 

「私を揶揄うからだよ、自業自得だよね」

「お前……結構気にしてたんだな」

「うるさいよ?ちなみに本当に用事はないかな。ただ近くに来ていたから様子を見に来ただけ。使命の事を覚えているかの確認くらいだよ」

 

使命、その存在こそ覚えてはいるものの、アクアは意識し過ぎないようにしていた。

最初は運命のような何かだと思っていたのだが、よく考えれば本当に強制力のあるものなのであれば、そもそもアクアに教える必要などないのだから。

二度目の人生、自称神の話を聞いてやるほどアクアにゆとりはなかった。

 

「俺も忙しいからな。おつかいなら別の人に頼んでくれ」

「神から与えられた使命をおつかい扱いとは……最初はあんなに意識してくれたのに呑気なものだね」

 

アクアの気楽な返しにツクヨミは目を細める。

しばらく見つめ合うアクアとツクヨミだが、アクアの答えが変わらない事を理解したツクヨミはため息を吐いてから踵を返す。

 

「まぁいいよ、君は今のところ使命をしっかりと全うしているみたいだしね。自覚がなくともこなすなら問題ない」

「は?それはどういう」

「あれ?マリンこんなとこにいたんだ。そろそろ時間だよ」

 

ツクヨミが去ろうとしたところで、新たな人物がこの場に現れ、その声に彼女の歩みが止まる。

共演者であり、アクアの幼馴染でもあるフリルだ。

彼女はアクアとツクヨミの二人を交互に見て少し考える仕草をした後、アクアの方へと視線を向ける。

 

「マリン、いくら守備範囲広いとはいえその子は逮捕されちゃうよ。手を出したいなら私で我慢した方がいいんじゃない?」

「フリルは何を言ってるんだ……というかコイツちゃんと他の奴にも見えるのか、一安心した」

「そりゃあ見えるよ?どうしたの」

「……いや、見えるなら別にいい」

 

不思議そうに首を傾げるフリルにアクアは濁した言葉を返す。

アクアは少しだけ本気でツクヨミが他の人に見えない何かという可能性を考えていた。

ただフリルが反応しているということは、少なくとも転生者にしか見えない何かというわけではない。

 

「そりゃあ見えるだろうね。君達と同じようにこの器も母から産み落とされたものだよ……まぁ普通の親とは言えないけれど」

 

やたらと大袈裟な言い回しをするツクヨミ。

自分の頬を摘んでこの肉体は実在しているよ?と言いたげにアピールをしながら彼女は言葉を続ける。

 

「触ってみる?どこにでもある子供の躯さ」

「いや、そんな事するわけ……フリル?」

 

挑発的な彼女の言葉にそれこそ事案になりかねないと拒否しようとしていたアクアだが、隣にいたフリルの動きに言葉が止まる。

フリルは一歩前に出てツクヨミの正面に行くとそのまま顔へと手を伸ばした。

 

「見てよマリン、もちもち。ツルツルしてて芸術品みたいなこの顔立ち、将来アイドル向いてると思うけどどう?」

 

彼女は先程のツクヨミの言葉を了承と受け取って頬をもちもちと引っ張って弄ぶ。

ツクヨミは何が起きているのか理解できていなかったのか少し固まってなすがままになっていたが、状況把握が追いついて青筋を立てた。

 

「不知火フリル……無礼だよ?私がその気になれば君の魂なんて指先一つで」

「おお、厨二キャラ……私たちにはいない属性だね。マリンはやっぱり見る目があるよね」

 

どうやらフリルはアクアがアイドルの卵を見つけてスカウトしようとしていたと勘違いしていたらしい。

アクアの方を見て目をキラキラさせている。

整った顔が好きな彼女のお眼鏡にかなったようで、不満そうな彼女を無視してモチモチと頬を引っ張っていた。

 

「星野アクア、コレをどうにかしなよ使命だろう」

「お前こそ使命雑に使ってんじゃねぇか。フリル、こいつはただちょっと偉そうなロリだ。別にアイドル志望じゃない」

 

相変わらず上からのツクヨミに対してもう少し放っておこうかと考えたアクアだったが、まかり間違っても神だった時のため、念には念を入れて助け舟を出す。

そんなアクアの言葉にフリルは露骨にがっかりした顔をした。

確かにアクアから見てもツクヨミは顔も声もキャラも良い。

成長すればアイドルとして極上の素材だが、存在が色々と怪しい時点で誘うつもりもあまりなかった。

 

「残念……折角才能ありそうなのに」

「やるわけないだろう?私を誰だと思ってるのかな?」

「可愛い餅肌厨二ロリ」

 

フリルの返事にツクヨミの表情が変わる。

自分が舐められているのを理解して怒りを含んだ表情へと変化した。

 

「星野アクア、番はちゃんと躾けてくれないと困るよ?」

「番……いい目をしてる。もう予約済みだし今度の『鷹研ぎ』楽しみにしててね」

「……大変だね君も」

 

フリルの癖ある対応に抱いていた怒りすら消え失せたツクヨミの同情的な視線に複雑な心境を抱くアクアだった。

 

 

結局ツクヨミはフリルの対応に疲れたと言って帰っていき、アクアは本当に暇なのかあいつと思いながら撮影場所へと向かう。

色々あったせいですっかり忘れていたようだが、元々フリルはアクアを呼びにあの場に来ていたのだ。

 

「珍しく遅かったな早熟。不知火のやつが迎えにいってからも少し時間が空いたように見えたが」

「悪いカントク、少し人に捕まっててな」

 

素直に頭を下げるアクアを見て、フリルが少しだけ補足を入れる。

フリル自身もツクヨミに絡んでしまった責任を感じての行動だった。

 

「マリンのファンっていう子供がいたから少し対応してたの」

「あー……どうやってここに忍び込んだか知らねぇが、それなら仕方がねぇ。あんまり無下にも出来ないだろうしな」

 

子供がいる生活というものに内心少しだけ憧れのある五反田は子供に甘い。

嘘もついていないため、五反田からは特に追及もなかった。

他の役者達も若手であるアクアの遅刻理由を聞いて、それは仕方がないかもしれないと許してくれる度量があり、アクアは出来た大人達で良かったとホッとする。

ただ、元は社会人という経験があるのに時間管理をミスしたのをアクアは内心で大きく反省した。

遅れを取り戻すため撮影が再開される。

 

「よし、よーい……アクション」

 

カチンコの音が鳴り響き、カメラが回り始める。

この瞬間にアクアは意識を完全に切り替えて、演技へと集中する。

その瞳はあらゆる演技を真実に見せる才能の証。

見るものを魅了するのは両親から受け継いだ才能だ。

今のアクアはそれを自覚して使いこなしている。

 

「ふぅ……誰もいないね」

 

周りに誰もいないことを確認してからアクアが演じる主人公『鷹野浩一』はボソリと呟く。

先程までの気怠そうな気配をガラリと変えて、真剣な表情をカメラに見せる。

カメラマンの腕には鳥肌が立ち、一目で分かる才覚の塊、オーラというべきものがカメラに映っているのでは?と思わせるカリスマ性。

 

「この事件、裏がある。僕の予想が正しいなら……このままじゃ絶対に解決できない。瑞稀はどうするつもりなんだろうね」

 

不敵な笑みを浮かべる浩一は、底知れぬ気配を感じさせ、コレまでのキャラクター性から逸脱していないはずなのにとその場にいた全員に畏怖すら抱かせた。

 

「カット!OKだ。文句なし」

 

この言葉の通り五反田からすればなんの不満もない演技だった。

アクアは前世という特大の秘密を抱えており、その気になれば前世のキャラクター性を引き出す演技も可能だ。

そのため、あかね程ではないがキャラクターの切り替えという分野においてはそれなりに自信があった。

今回は鷹野浩一という人間の本性の部分。

普段の態度は全て仮初であり、本質的な部分は別にあることを示唆している描写。

 

「早熟は不気味なキャラ本当上手いな。前は見た目と中身のギャップがあるキャラクターに特化していたが、本質を隠しているってキャラにも適用できるようになった感じか?」

 

五反田は初めてアクアが演技をした時のことを思い出していた。

見た目と中身のギャップというのは年齢的なものが大きいと当時は思っていた。

だが、アクアの嘘を真実にする演技は、キャラクターそのものに説得力を与える。

そしてそこからあえて演技をずらすことで意図してあの不気味な感情を呼び起こさせる事ができるようになっていた。

 

「カントクの予想通り。俺の得意な演技ってなると感情演技になるんだろうけど、こういう武器もあった方がいいなって」

 

アクアが新しい得意な演技を探った理由はシンプルで、今以上に優秀な役者になるためだ。

当然一番は演技が上手くなりたい、誰にも負けたくないという感情から始めたことだ。

アクアは自分の代表的な演技の種類があまりないと思っていた。

そして過去を振り返り、自分が武器にできそうなものを探した結果が、この原点回帰の演技だ。

 

「あの不気味さを意図して演出してるのが恐ろしいとこなんだよ、悪いな一応意図してたかの確認だった。勿論文句なし、150点くらいやれる演技だったぜ」

 

監督の頭にある絵を超えるのに、自然と上書きして満足させる感覚。

こちらが元から頭にあった映像と思わせる自然な演技。

これは『東京ブレイド』の舞台で最後の最後に偶然とあかねの演技、アクアの感情が噛み合った結果、一部から原作が上書きされたと言われた演技の応用。

当時は狙って行えなかった演技だが、今のアクアは得意な演技であればある程度狙ってできるようになっていた。

この後も遅れた分を取り返すかのように高いクオリティーの演技を連発したアクアは、結果的に少し早く撮影が終わる事になったのだった。

 

この日の撮影が終わり、いつものように着替えてからアクアの元へと来たフリルは少し不満そうな表情を浮かべていた。

 

「むぅ」

「どうしたフリル」

 

そんなアクアを見てフリルは少し不満そうな気配を見せており、アクアは理由を尋ねる。

少し悩んだ末にフリルは自分の今の考えを口にした。

 

「ちょっと前はそのうち追いつけそうに見えたのにまた離れた気がする。私より月9で成長してない?」

 

フリルは自分が伸びている実感がある。

それこそ演技が得意な幼馴染達にも負けないくらいまで伸びるのではという勢いで。

だというのにアクアが今まで以上に高くなったようにフリルには見えていた。

ただそんなフリルに対してアクアは呆れたように返す。

 

「少なくとも俺の方が成長してるってことはない。フリルは自分の成長を甘く見積りすぎだろ」

 

アクアの方が現在値は高いものの、フリルの方が明らかに伸びている。

アクアは特に技術面でそう感じていた。

今回のアクアがやった演技も今まで出来ていた事が狙ってできるようになったくらいの差でしかなく、実力の上限が増えたわけではない。

平均値は上がったかもしれないが、遠くはなっていないというのがアクアの考えだった。

 

「ふーん、まぁいいけど。マリン、今日も凄い演技だった。あの不気味な感じは『それが始まり』の系譜かな?『乱歩』以来だよね?」

「正解、俺のファンかよ……そういやファンだったな」

「もち、とはいえ昔は『それが始まり』は履修してなかったけどね」

 

アクアが突っ込んでから冷静に呟いた言葉にフリルは大きく頷く。

改めて見るとまだ初心者だったんだなと思わせるアクアと当時からかなり完成度が高かったかなの二人が出ている映画。

アクアとかなの人気が最近また伸びており、『それが始まり』のDVDは今プレミア価格になっていたりする。

見たい人は今の時代ならば配信で見られるため、そちらで見るのが基本だ。

フリルもアクアと共に行動するようになってから暫くしてその存在を認知して配信で見ている。

ちなみにあかねの家にはこのDVDが10枚あり、全部丁寧に保管されていたりする。

それを見たかなは『こういう奴に金渡したらダメなのよね』と言いながらその事実にドン引きしていたとか。

 

「今見ると流石にアラも多いけどな。当時は完璧だと思ってたんだが所詮初心者の浅知恵か」

「いや、普通に不気味な子供出来てたよ?」

「まぁ不気味は不気味なんだが、かなみたいに不気味な演技をしてたわけじゃない。今だから言えるが、アレ半分は吾郎なんだよ」

 

当時の演技、そのカラクリを口にする。

フリルはその名前を聞いてこのギャップによる違和感に納得がいったのか確かにと頷く仕草を見せていた。

 

「あーなるほどね。確かに幼児が違和感なくアラサー男性の精神性してたら不気味だよね……マリンの秘密を知ってから見ると色々今までの映像から掴めるものがあるかも。帰ったら見返そうかな」

「今のフリルに役立つ何かがあるとは思えないんだが」

 

アクア自身が見る分には自分へのダメ出しに使えるのだが、フリルに対するメリットがイマイチないように感じられた。

あの不気味さはその精神の差によって生み出されているもので技法などでもない。

ただフリルは既に予定を決めているようでアクアの手を取りながら口を開く。

 

「という事でこれからマリンの家行くよ」

「は?」

 

突如として切り出された提案にアクアは唖然とする。

今の話がまさか自分も一緒に見るという話だと思っていなかったが故の油断だった。

いくらまだ日が暮れるまでにしばらく時間があるとはいえ、急な提案にアクアは驚いてその真意を尋ねる。

 

「何が『というわけで』なんだよ……どう考えても俺を巻き込む必要ないだろ」

「やっぱり実際に演じた人が隣にいた方がどんなこと考えながら演じたのか聞けるし。それにマリンの家には行ったことなかったからついでに行ってみたいなって。社長さんとは違うんだよね?」

「確かに違うけど普通の家だぞ……まぁ分かった、それで気分転換になるなら安いものだしな」

 

星野家に行ってみたいという部分が本音らしいフリル。

彼女は既に星野家の秘密を知っているため、アクア的にも家に来る分には問題などない。

バラエティーの収録続きだったり、主演級のプレッシャーだったりと気楽そうに見えて意外とフリルなりにストレスを抱えているのだろうとアクアは解釈し、その息抜きがてら家に来るのを了承する。

結果的にフリルはひっそりとB小町Rの中で二番目に星野家へと足を踏み入れる事になった。

 

 

アクアがフリルを連れて家に帰ると飛び出すようにリビングから現れたのは一番星の輝きを持つ女性。

まだ少女とすら呼べるその容姿はいつまでも衰える気配がない。

笑顔でいつものようにアクアを出迎えようとしていた。

 

「アクア!おかえ……ってフリルちゃんがいる!?」

 

その大きな瞳はアクアとその隣にいるフリルを見て、驚きによって更に大きく見開かれて今にもこぼれ落ちそうだった。

少し長くなりそうだなと思ったアクアは、ため息を吐きながら母に言葉を向ける。

 

「はぁ……母さん、質問は後で答えるからとりあえず一旦上がらせてくれ」

「はーい!アクアいつのまにお嫁さん三人目ゲットしたの?ちゃんと増えたら教えて欲しかったなぁ〜」

「まだちげーよ」

 

フリルは自分から告白したいとアクアに言っており、どれだけそれらしい事を口にしていても決定的な言葉は言わないようにしていた。

番組撮影最後に待ち受けているらしい言葉を聞くまで、アクアとフリルの関係は現状ただの幼馴染である。

 

「ふーん……じゃあアクアとフリルちゃんはどうしてお家に?」

「私がマリンと一緒に『それが始まり』を見たくて」

 

フリルが理由を口にするとアイは目をキラキラとさせながら二人の方を見る。

 

「え!『それが始まり』見るの!?私も一緒に見ていい?」

 

自分の息子初めての勇姿。

今でも時折成長記録代わりに昔アクアが出演した映像を見る趣味があるアイ。

彼女からすれば息子や未来の義娘の一人と一緒に見られるなんてとテンションが上がっていた。

 

「勿論ですお義母様」

「どんなキャラだよ」

 

フリルの返事にアクアが軽くツッコミを入れる。

結局アイも加わり三人で懐かしい映画を見ることになった。

 

アクア達が出ていない部分から見ようという話になり、最初から映画を見始める。

 

『……はぁ、こんな顔本当に嫌。どうして私はこんななの?』

 

日常を過ごし、家に帰ってきたところで鏡を見て嘆く女。

この自分の容姿にとことん自信がない女が、何故か怪しい山奥にある怪しい病院で整形を受けるというのがこの映画のざっくりとしたあらすじだ。

五反田が脚本から作っているだけあって、話はよく出来ているとアクアも思っている。

 

「いやー私アクアのこと抜きにしてもこのお話好きなんだ〜。台本だけ読んでも面白いんだもん」

「分かる。この女優さんのコンプレックスありありな感じが作品に反映されていて見応えがある」

 

五反田がこの場に入れば少し顔を緩ませそうな褒め具合にアクアは何故か嬉しくなる。

前世の生い立ちからあまり人に懐かないアクアだが、五反田にはかなり心を許しているが、本人はあまりその自覚はない。

 

「昔アクアがお昼寝してる時にこの脚本についてカントクに聞いたんだけど、本物しか撮りたくないって思いながら作品を作ってるんだって〜」

「本物?」

「なんか展開のためにコンプレックスとかもしっかり撮って取り繕わないのがポイントとか言ってたかな?」

 

アクアもなんとなくは教えられていたが、ここまで細かい情報は初めて聞いた。

アイがしっかりその内容を覚えているということはそれだけ印象に残っていたことなのだろう。

映画についての話をしている間にも物語は進んでいき、いよいよアクアとかなの出番がやってくる。

 

『ようこそおきゃくさん……かんげいします。どうぞゆっくりしていってください』

 

かなのおどろおどろしい演技、そしてその幼い容姿にアイ達は思わず反応する。

 

「わぁ〜かなちゃん小さい!今は私より大きいんだもんなぁ」

「うーん舌足らずだけどこの時からしっかり演技できてる。天才って当時から言われていただけはあるね重ちゃん」

 

アイはすっかり成長したかなを思い出して嬉しくなり、フリルは演技の才能がこの頃から存分に発揮されているかなにやはり天才だなと再確認する。

そしていよいよアクアの出番がやってきた。

ごく自然に立っているだけなのに不気味に感じるのは、見た目とその雰囲気の不一致が生み出した代物だ。

 

『この村に宿は一つしかありません。一度チェックインしてから村を散策するといいでしょう』

 

相手を安心させるよう柔和な笑みを浮かべながら、何故か命の危険を匂わせる雰囲気。

当時は細かい技術など持っていないアクアだが、物語に引き込まれる恐ろしさが備わっている。

 

「いや〜凄いよ!改めて見てもすっごく気持ち悪いね」

「相変わらず子供に言う台詞じゃないぞ、それ」

 

見直してもアイの中では変わらぬ気持ち悪さを保っているアクアの演技。

アクアは思わずツッコミを入れるが、フリルはそんな二人を見て一つ思い付いた事があった。

 

「今のマリンがもしこの演技をするとしたらどんな風に演技する?」

「そうだな……やってみるか」

「え!ホントにやってくれるの?間近でみるアクアの演技久々だし楽しみだなぁ〜」

 

アクアが今から演じるのは気味の悪い子供の役だ。

その存在にブレが生じてはこのリクエストに反する。

つまりまずは子供の演技を作ってそれをベースに調整すればいい。

 

「あくまで視界は画面の俺に向けといてくれないか?」

「いいよ〜」

 

賛成の声が聞こえてきたところで、アクアは懐かしい演技を今の技術で再演した。

 

「『この村に宿は一つしかありません。一度チェックインしてから村を散策するといいでしょう』」

 

いつもより少しだけ高い声色は子供を思わせるチューニング。

あくまで子供の演技をしてそれに重ねるように不気味な子供を演じた。

以前子供を演じる演技をした事はあったが、身振りや子供に見える工夫をしなくていい分、精度は相当に高い。

ぞわりとアイとフリルに鳥肌が立つ。

まず最初に反応したのはアイだった。隣に座っていたアクアに飛びつくように抱き付く。

 

「やっぱりアクア凄いよ!もう世界一の役者さんだね!!」

 

自分の子が積み重ねてきた演技の成長を分かりやすく実感し、アイはとびきりの笑顔でアクアを褒め称える。

そんな素直な賞賛にアクアは動揺してほんのり顔が赤くなる。

 

「本当に良かった。今度やる演技のいい参考になった。ありがとう」

 

感情を表に出すアイに対して、フリルは淡々と、だが確かな信頼と感心を持ってしみじみと告げた。

実のところ彼女は今度の撮影でやる演技の方向性に少し悩んでいるところがあった。

今回『それが始まり』を見ようと提案したのも、基本的にはアクアの家に行きたいのがメインだが、少しだけ五反田の作品に隠された意図のようなものが見えるかもしれないと思っての選択だったりする。

今のアクアが見せた演技は一つの可能性を見せており、自分の目指す演技の方向性が見えたようなそんな気がした。

これだけで今日星野家に押しかけて良かったと思うフリルはほんのり控えめな笑顔を見せる。

 

「二人に喜んでもらえるなら本望だ」

 

過去の演技より今の演技を褒められたアクアは照れがありつつも嬉しそうに表情を綻ばせる。

結果的にフリルに流された結果ではあったものの、視聴会も悪くないなと思うアクア。

そんなやりとりをしている間に物語は終盤に突入する。

 

『……ふふっ』

 

整形が終わり、現れたのはアイが演じる整形後の姿。

先程まで皆無だった自信など既に存在していない。

ただ笑みを浮かべただけなのに、精神から作り替えられたかのような不気味な笑み。

そんな短いシーンだけ映して映画は終焉を迎える。

 

「問題提起のような作品なんだろうね、面白かった」

「カントクの映画って感じで今見るとクセ出てるよね〜」

「脚本はそれなりにライターの性格出る。逆に意図を読み取るのに過去作を見るのはいいのかもしれないな」

 

特に捻りもオチもなく楽しく映画を見ただけで感想を話し合う三人。

ただ思いの外、各々成長のきっかけを手に入れられた視聴会で、他の作品でも人を集めてやってみるのも悪くないかもしれないなと思うアクアだった。

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