コスプレ企画の話を聞いて一週間が経った。
みなみから衣装選びを手伝って欲しいと連絡を受けたアクアは、学校が夏休みで仕事も休みなこともあって事務所でコスプレファッションショーを朝から見学している。
「じゃーん、次はこれやけどどうやろか。劇中で人族の子が着てる衣装なんやけど」
みなみはその衣装にあったポーズを自分から取り、アクアの審査を待つ。
紅色のシンプルな道着風の衣装であり、その割には少しピチッとした肌に合うような服装だ。
これが三着目の衣装であり、アクアは先程までと同じようにじっと衣装を見てから自分の感想を述べる。
「みなみのスタイルが強調されてて悪くはないんだが……個人的には一着目の袴姿の方が良かったと思う」
「そっかぁ、ウチとしては結構自信あったんやけど」
「勿論似合ってはいるんだが、比較としてな。というか、今更だけどいいのか?俺の意見で全部決めて」
アクアは今見た中で一番良かったのは変わらないと告げるとみなみは少し寂しそうだった。
みなみはコスプレファッションショーを始める時にアクアの意見で決めると宣言しており、事実アクアの反応で今のところは衣装をキープしている。
それでいいのか?と問うようなアクアの言葉に、みなみははにかみながら答えた。
「勿論……折角やからアクアさんにええなぁって思うて欲しいし」
「そうかよ。みなみがいいなら良い」
みなみのそんないじらしい言葉にアクアは心拍数が上がり、照れくささを誤魔化すように雑に返事をする。
ただ彼女の方が恥ずかしかったようで顔を赤くしながらカーテンを閉めて着替え始めた。
メイクの調整などもあり、衣装ごとにそれなりの時間をかけているが、アクアは自分の審美眼を養えるので悪くない機会だと思ってこのファッションショーを楽しんでいる。
待つこと少し、みなみは準備ができたところでカーテンを開けてアクアに新しい衣装を見せた。
「これが最後の衣装なんやけど……どうやろ。脇役やけど可愛いって最近評判の子なんよ」
今みなみが着ているのは、漫画特有の改造和服で、アクションもできるように動きやすさに特化している。
肌の露出こそ多くはないが、何処か色気と清楚さの両立をしており、みなみの持つ生来の雰囲気と顔立ちが服と噛み合っていて、アクアから見ても彼女の長所が際立つ良い衣装だと感じた。
アクアは先程までと同じようにみなみの方をじっと見てから感想を口にする。
「俺はこれが一番好きだな。みなみとも合ってるし、何より肩についている小物のアクセントもいい感じだと思う」
肩には原作でこの子に付き添っている手乗り猿のぬいぐるみが付けられており、細かい再現をしようという努力が見えていた。
そんなところもアクアの評価ポイントである。
「あっ!気付いてくれたんやね。このお供のお猿さんかわええから付けてみたんよね。……アクアさんもいいって言うてくれてたし、これにしよかな?」
「これからリメイクしていくのか?」
「せやね、この子出番少なかったから衣装の特徴とか分からなかった部分もあったんやけど、最近は出番増えてきたしウチもお気に入りなんよ」
心からの賞賛と細かいところに気付いてくれた点にみなみも顔を綻ばせる。
自分で仕事の合間を縫って作った物を褒められたため、嬉しさもひとしおだった。
ちなみに今回見せた四着は全て脇役で『東ブレ』のメインどころであるつるぎや鞘姫の衣装はない。
これの理由は単純で、みなみ自身がつるぎと鞘姫はかなとあかねのモノだと思ってしまっており、自分でしっくりこないと感じているのが理由だったりする。
汚さないように衣装を着替えて私服に戻ったみなみは、衣装がどうにか決まったとほっと息をついてからアクアに話しかけた。
「ミミちゃんに誘われてコスプレ好きになったんやけど、何がお仕事に繋がるか分からんもんやね」
話を聞いてから楽しくなって公式アカウントでもアップするようになってから一年。
自分でもすっかり趣味となったコスプレが仕事のきっかけになるとは思いもしなかった。
最近は他の仕事としてもコスプレの写真集出さないか?と言った話も来ており、今回に限らずみなみ独自の路線を開拓しつつある。
今回撮影の日に予定が空いていたのは本当に偶然で、ミミがアクア経由で誘えたのはタイミングが良かったと言える。
みなみの言葉にアクアは頷きながら自分の意見を口にした。
「仕事のきっかけなんてそんなもんだ。俺なんて初仕事はカントクにうっかり前世の感覚で話したことがこの業界に入った原因だし」
「そうなん!?そのエピソード面白そうやし教えてくれん?」
みなみは自然と上目遣いを作り、アクアに話の続きを促す。
その純真そうな瞳なのにどこか蠱惑的な表情に少しアクアはドキッとしつつ、みなみなら話してもいいなと頭で確認をする。
別に隠している話でもなく、アイとの血縁関係や前世を伝えている相手だ。当時のことを思い出しながらアクアは口を開いた。
「そういえばこの話を人にしたことなかったな。アイが初めて参加したドラマ現場でのことなんだが……」
アクアとしてもこれがなければ役者にはなっていなかっただろうなという話で、どうしても裏事情なども絡むため、聞かれてもぼかしていた。
ただみなみには、もう秘密らしい秘密もないので気になるならと話していく。
「それで俺が思わず前世の感覚で『あっいえ我々は赤ん坊ですがそのような粗相はしないよう努めさせていただきます!現場の進行を妨げないのは最低限のルールなのは承知しておりますので弊社のアイを今後ともご贔屓に』って言ったらカントクに思い切り目を付けられてな」
「そらそうやろ!?その時のアクアさん1歳とか2歳でそんな反応したら誰でもビックリ通り越して怖い思われても仕方ないと思うわ」
みなみもここは思わずツッコミを入れる。
まさか俳優『星野アクア』誕生のきっかけがそんなところにあるとは予想もしていなかった。
「あの出来事がなかったら俺は役者やってなかっただろうな」
「……カントクさんお手柄やなぁ」
将来の最優秀若手俳優を誕生させた五反田に、みなみは見る目あるなぁと尊敬の念を抱くのだった。
『バンッ!!』
ちょうどその話がキリ良くなったところで、二人の借りていた部屋の扉が突然音を立てて開かれる。
開かれた扉からは焦った顔をしたミミの姿が現れた。
彼女が慌てているのが表情だけでアクア達にも伝わってくる。
一体何事だ?と二人はミミへと視線を向けた。
「みなみ、たいへ……あっ……もしかしてミミ、またお邪魔?」
ミミはアクアとみなみが隣り合って座っているのを見てやっちまったという顔をする。
アクアは特に何も疾しいところはないが、せめてノックくらいしろよと呆れた目をミミに向け、彼女も気まずそうに視線を逸らした。
ただみなみは気にした様子もなく、ミミに慰めの言葉を送る。
「いや、アクアさんのお話聞いていただけやから気にせんでええよ?ちょうどお話のキリもええところやったし」
「そ、そうなんだ。距離近いし、みなみだからなんかえっちなことしてるのかと思った」
「えぇ!?う、ウチそんなイメージあるん?」
「あっごめん……つい本音が」
B小町Rの中で一番ピンクなのはメンバーカラー通り彼女だなと思っていたミミは、思わずそんな事を口にする。
ミミの言葉にガーンとショックを受けるみなみを見て申し訳なくなるが、彼女には、どうしても伝えたい話があるらしく、気を取り直して口を開いた。
「え、えっと……みなみに大事な話があって」
「それなら俺は席を外した方がいいか?」
アクアは気を遣ってミミに声を掛ける。
女同士でしたい秘密の話だったりする可能性を考えての提案だった。
ミミはアクアの提案に少し悩んだ素振りを見せてから口を開く。
「うーん……一応居て?頭いい人がいるかも」
「いったいどんな話なんだよ」
「ミミじゃどうしようもない感じなの。実は……『東京ブレイド』から衣装変更になりそうで」
アクアはその言葉に目を見開く。
たった今みなみの衣装選びを手伝ったため、実にタイムリーな話題だった。
みなみもびっくりしてミミに問い掛ける。
「えぇ!?なっ何があったん?……あれ?ウチにはまだ連絡来てないんやけど」
慌ててスマホを確認するみなみだが、特に連絡らしいものは来ていない。
ミミは何処でその情報を知ったんだろうと首を傾げる彼女にミミは話の続きを口にしていく。
「えっとにーちゃんからついさっき連絡が来たの、これなんだけど」
どうやら案件の話で事務所に来ていたミミも先程知ったばかりの話らしい。
そう言いながらミミはアクア達にメールを見せる。
アクアとみなみはそのメールを読み、何が起こっているかを理解した。
「マジで出版社から許可が出なかったのか」
「そうっぽい?こないだ確認した方がいいってアクア達に言われてからにーちゃんに伝えたの。それから毎日ディレクターに掛け合ってくれてたみたいで、今日ようやくディレクターが確認してくれたんだって」
アクアとあかねが少し懸念していた悪い予感が的中してしまったらしい。
早期に判明した理由は、シュンが結構しつこくディレクターに確認をした事が原因だった。
根負けしたDが出版社に確認した結果、駄目だと返事がきたとの事だった。
アクアとしても念には念を込めてという程度の確認だったので、まさか本当に却下されるとは思ってもみなかったため、内心で驚いている。
もうすぐ8月になるこの時期、既に依頼が来たコスプレイヤー達は衣装の用意を内製なり外注なりで始めているだろう。
タイミング的にはかなり不味い状況と言って良かった。
「二人は別のコスプレ用意できるのか?」
「私は普段から結構コスするから替えはあるよ。……でもこのために衣装作ってたから……残念」
昔つるぎのコスプレをしたことはあったが、今回はいい機会なので別のキャラに挑戦しようとミミなりに頑張って作業をしていた。
そのため、立場上伝えただけで悪くない兄には、全然気にしていないと返事をしていたものの、内心はとてもガックリしている。
「ウチも今日アクアさんに選んでもらってこれから頑張ろう思うてたから寂しいかな。でもしょうがないと思うんよね、原作者がノーと言えばそれが結論やし」
みなみも折角アクアにいい感じと言ってもらえた衣装をモデルによりいい衣装になるよう調整しようと頭で構成を考えていた。
まだミミのように手をつけていなかっただけマシなのかもしれない。
アクアはそんな二人を見て頭の中でどうにかする手段を考える。
そして一つだけアクアの手持ちのカードでなんとかできる可能性を思い付いた。
アクアはミミに現状を再確認する。
「まだ他のコスプレイヤーの人たちには連絡してないんだよな?」
「え?う、うん。あのメールの後すぐ電話掛けたけど、ギリギリまでテレビ局が粘りたいんだって。にーちゃん愚痴ってた」
そんなことになったら衣装を用意できない人も出て本当に炎上しそうだなとアクアは懸念を深めながら、自分の持つカードでなんとかできる可能性に掛けることにした。
「……駄目元だが一応可能性はある。少し待ってろ」
そう言いながらアクアはとある人物にメッセージを送る。
駄目元での連絡だったのだが、忙しいはずなのにすぐに返事が返ってきてアクアは驚かされることになった。
とあるマンションの一室。
チャイムを鳴らすとガチャリと中から扉が開けられた。
中からは小柄な女性が一人ニコニコと笑顔でアクア達を出迎えている。
妙に上機嫌だなと久しぶりに会う彼女に思いながらも、アクアは挨拶をした。
「ご無沙汰しております、アビ子先生」
「アクアくんいらっしゃい!お茶飲む!?これ5万円もするお茶なんだって!」
「……マジか」
確かに演技を作品の参考にしたり、アクア達が稽古をしている時、過去のエピソードを色々と聞いていたりとそれなりに会話はしていた。
その時に砕けた話し方をしてくれるようにはなっていたのだが、それを踏まえても想像の数倍歓迎されて連絡したアクアも困惑する。
「どうしたんですか?以前お会いした時よりテンションが」
「頼られて嬉しくて〜アクア君しっかりしてるから中々恩返しする機会もないと思っていたし」
話を聞くと以前アクアが脚本問題の解決に動いた事を知っているらしく、いつか何かの手助けになれたらと思ってくれていたらしい。
「……やはり見境ないスケコマシなのでは?」
事情こそ知らないが、どうせ女を落とす手練手管を発揮したんだろうなぁとミミはジトっとした目をアクアに向けながら小さく呟く。
幸いアビ子には聞こえなかったようで、アビ子はそのまま機嫌良くアクア達に話を続けた
「とにかく上がって上がって。今日は昨日吉祥寺先生が片付け手伝ってくれたおかげで片付いてるから心配しないで大丈夫」
「ありがとうございます」
アビ子の言葉にアクアは相変わらず仲良いなあの二人と思いながら、部屋へと上がらせてもらう選択をする。
アクアとしては当初メッセージ上でやり取りをしても良かったのだが、お願いがある旨を伝えたら今日は暇だからウチおいでよ!という乗り気なメッセージが来たため、関係者二人を連れて訪ねることにしたのだ。
「急な連絡なのに対応してもらってすみません」
「全然大丈夫、最近は時間にも余裕があるから。そっちの二人はアクア君の新しい彼女さん達?やっぱりかっこいいとモテモテだね」
脚本騒動の時、吉祥寺から言われたアドバイスを胸に最近育てていたアシスタント達がしっかり出来るようになったおかげもあって、最近の彼女は比較的自由な時間が取れるようになっていた。
今回すぐに対応できたのも既に原稿が上がっているからに他ならない。
「違う。というか当たり前のように複数の彼女がいる言い方はやめろ。なんでアビ子先生すらその認識なんだ!?」
「だって掲示板とかSNSでもよく話出てるよ?今B小町R界隈ではアクフリが熱いよね!私は『今ガチ』の時から基本アクあか派ですけど他の派閥の良さも分かる!」
「……そういやこの人群像劇のバトル漫画描いてるけど、元々バリバリ少女漫画の『今日あま』大好きだったな」
アクアが思わず砕けたツッコミをしてしまうが、アビ子は人と親しくなりたいと思っているタイプのため、鋭いツッコミをされて内心嬉しくなっていた。
笑顔で理由を口にする彼女を見て複雑ながらアクアは、こほんと咳払いをして調子を戻す。
「あー彼女ではないですけど今日の同行者を紹介します。寿みなみと吉住ミミです」
「あ、戻っちゃった。別にタメ口でいいのに。二人とも初めまして、鮫島アビ子です」
アクアはある程度アビ子の様子が落ち着いたのを見てから順番に二人を紹介する。
アビ子は戻ってしまったアクアに不満そうな様子を見せながらも自己紹介を行なった。
「初めまして寿みなみ言います。よろしゅうお願いしますね」
「あ!ドームライブ観に行かせていただきました!ボンキュッボンなスタイルを見事に魅せていて創作意欲湧きましたよ!!エセ関西弁キャラもいいなーと思ってて『東京ブレイド』か次の連載で出してみようかなーって思うくらい良かったです」
アビ子としてはアイドルといえばある程度スレンダーな子が多い中、Gサイズで動きの激しいパフォーマンスをするみなみは色々と勉強になっていた。
それだけでなく、リアルでエセ関西弁を貫いてキャラ立ちをしている彼女は漫画のキャラクターとしても強そうだと感じており、参考にしたいと思っていたりする。
アクア周りはアクア本人といいB小町Rといいネタの宝庫だなぁと思わず笑顔になる程だ。
「わぁ、絶賛やなぁ……。褒めて貰えるんは嬉しいけど照れるっていうか。ウチこそ『東京ブレイド』いつも楽しく読ませてもらってます」
よく読んでいる漫画の作者から自分の仕事を見た感想を言われて思わず照れるみなみ。
両手で頬を押さえながら身悶えるみなみは、可愛らしくアビ子は内心で更に良いアイディアが降りそうだなと考える。
「よ……吉住ミミです。はっ初めまして。えっとその……ファンです」
「ミミちゃんよろしくお願いします。私、『今ガチ』マジで見てたんでミミちゃんのことも結構知ってるんですよ。先月も『東ブレ』のコスしてくれていましたよね。昔のものよりクオリティー上がってましたから嬉しいです」
「わわっ……こ、こんな凄い人に認知されてるのは予想外……。私も『東ブレ』めちゃくちゃ好きだから嬉しい……」
ミミはみなみと比べると知名度に劣るため、本人も知られていない前提で自己紹介した。
ただアビ子はアクあか派を宣言している通り、『今ガチ』をしっかり視聴しており、ミミにも興味を持っていた。
「二人ともファンって事なら私のサインとか入りますか?全然書きますけど」
「えっ!ほ、本当にいいの!?」
「ウチもいただけるなら欲しいなぁ思うんやけどええんですか?」
互いの自己紹介が終わったところで、アビ子がした提案にそわそわする二人。
アクアは遠慮しとけと言おうと思ったのだが、それより早くにアビ子が了承する。
「勿論いいですよ、二人のしているコスプレの画像を見させてもらったんですけど、細かいとこまでしっかり作り込まれてて『東京ブレイド』愛を感じさせてもらったので」
笑顔で言うアビ子の言葉にはお世辞などが含まれているようにも見えない。
アクアはその発言に引っ掛かりを感じた。
こういう時のために持っているらしいサイン色紙を取り出して、二人に向けたサインを書き始めたアビ子に、アクアは質問をする。
「アビ子先生って自分の作品のコスプレされるのって嬉しいんですか?」
「え?そりゃあしっかり衣装作ってやってくれる人は私の作品好きなんだなって嬉しくなりますよ」
アクアの疑問に対して心底不思議そうなアビ子。
アクアはちょうどいいのでそのまま今日来た理由を説明する。
「実は……」
それからアクアは少し長い話をアビ子へと話していく。
今度みなみとミミが出る番組で『東京ブレイド』のコスプレを披露する予定だということ。
番組が許諾を取ろうとしたら出版社からNGが出てしまったこと。
もしかしたらアビ子先生にどんなコスプレをするのか理解してもらえれば、許諾が得られるかもしれないと思い連絡させてもらったこと。
これらを順番に説明した。
「なるほど……結論を言うと私はコスプレ全然OK。編集者もコミケで沢山コスプレしてもらえるデザインにしろって言うくらい寛容かな」
「そうなのか……」
思わず素で返してしまうアクア。
じゃあなんで断られたんだ?と首を傾げる姿にアビ子が少し申し訳なさそうに口を開く。
「多分だけど……私がこないだの脚本みたいに怒るような展開があるって編集が事前に予想したからじゃないかな?今回私のところにまで話も上がって来てないし」
その言葉にアクアは『深掘れワンチャン!!』の番組内容を思い出す。
地上波ではないからこそ出来る攻めた内容がウリの番組であり、深掘りする内容のチョイスがギリギリのラインを攻めがちだ。
恐らく今回もただコスプレイヤーの話題を深掘りするだけでなく、少し際どい話がある可能性は高い。
「その顔、心当たりある?」
「今回の番組、内容が結構攻めた感じなので」
「ウチも出演決まってから『深ワン』何本か見たけど、ネットやから地上波よりラインギリギリって感じなんよね。それがいい味出してて面白いんやけど」
アクアとみなみの言葉にどんな内容なんだろうと興味深そうにするアビ子を見て、アクアは『深掘れワンチャン!!』の過去回を検索してアビ子に見せる。
アクアが選んだのは『競馬場で一番大負けした人を探す回』であり、次から次へと映される賭けに負けた男達を面白おかしく魅せていた。
「あー確かにこういう番組ならそれなりに過激なこともやりそう。でも構成はかなり面白いかも、テンポ感がいいというか」
「業界でも有名な人がその辺担当しているみたいですよ」
「なるほど……分かりました。私から編集部に連絡して『東ブレ』のコスOK出しましょう」
アビ子は番組を見て多少過激なところがあるのは理解した。
それにギリギリを攻めているだけでこれまで炎上らしい炎上はしていない。『東京ブレイド』の品位を落とすような放送にはならないだろう。
それなら恩人達の願いを聞く方がアビ子としても気分がいいと判断した。
アビ子の言葉にアクアは頭を下げながら礼を口にする。
「ありがとうございます」
「全然気にしないで。これくらい恩返しにもならないし。ちなみにアクア君がゲスト出演してまた刀鬼やってくれると嬉しいんだけど難しいよね?」
「……あー、あまり期待はしないでください。聞くだけは聞いてみるので」
アクアの返事に検討だけでも嬉しいと笑顔のアビ子。
一応アクアはこの撮影日、奇跡的に仕事が入っていない。
可能か不可能かで言えば、今のところは可能だった。
勿論向こうのギャラなどもあるため、普通ならば難しいのだが、今回撮影場所はコミケだ。一般公開もされておりインタビューの予定もある。
つまり偶然を装うことは難しくない。
その場合はボランティアでノーギャラにはなるが、アクアには一つ考えがあった。
(あの人に恩を押し売りしておくのは悪くない。何か交渉材料くらいなら引き出せるかもしれないしな)
アクアは頭の中でこれまで何度もしてやられているプロデューサーを思い出す。
そう、『深掘れワンチャン!!』のプロデューサーは鏑木だった。
一応ミヤコの許可は必要になるが、それ以外は衣装なども当時のものを用意するのはそう難しくない。
撮影された映像を確認して驚く彼の顔を頭に思い浮かべて、アクアは少し笑みを溢す。
そんなアクアにミミは頭を下げながら声をかけた。
「あ、ありがとうアクア。アクアのおかげでにーちゃん元気になるかも」
「気にするな、友人に頼まれたんだから俺に出来ることくらいはする。というか礼ならアビ子先生に頼む」
この場を取り付けてくれたアクアに感謝を伝えるとアクアは自分は特に何もしていないと言いたげに軽く返す。
あくまでアビ子の厚意のおかげだと強調した。
「言われなくても分かってる、けど……ありがとう。アビ子先生もありがとうございました」
「全然気にしないでください、代わりに当日いいコス期待してますね」
ぺこりと頭を下げるミミに対してアビ子は余裕を持って返事をする。
舞台の件はアビ子を精神的に一回りも二回りも成長させていた。
「アクアさん、ミミちゃんまで攻略する気なん?」
「ちげーよ!みなみまで話をややこしくするな」
「あっ!ミミちゃんまでってことはみなみちゃんはやっぱり!創作意欲が湧きます!やっぱりアクア君周りは面白いなぁ」
一つの問題が解決して、アビ子の部屋には喧騒と笑顔が溢れる。
その日は日が暮れるまでアビ子の家で世話になり、『東京ブレイド』や『B小町R』の話題で盛り上がることになるのだった。