【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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再演

コミケ当日、アクアは一人で会場へと訪れていた。

刀鬼の衣装に久々に身を包んだアクアは堂々と他のコスプレをしている人たちの中に紛れ込む。

ただ普段のように敢えて空気になるように振る舞っているわけではないアクアは、両親から受け継いでいるスター性が自然と周囲の視線を惹きつける。

周囲の人々はざわざわと様々な反応を見せていた。

 

「あの人恰好良すぎない?」

「あの刀鬼もしかして……」

「刀鬼のコス、舞台に寄せてるなぁ……すげぇ」

「クオリティーたかっ。というかどこかで見たような」

「わっ!刀鬼……あれ?ましゃかアクアしゃま、本物!?」

 

その際立った容姿はコスプレをして歩くだけでも周囲の注目を根こそぎ刈り取る。

更に衣装はアビ子の手配によって当時のものそのままだ。

気付く人は当然気付くものである。

半公式のコスプレと言ってよく、反則技に近かった。

 

(アビ子先生、俺がこの格好でコミケに参加すれば『東京ブレイド』の宣伝になるからって理由付けてたけど、コミケに来るような人は『東京ブレイド』の事みんな知ってると思うんだが。……まぁ気を遣ってくれたんだろうな)

 

アクアは頭の中でこうなるまでの経緯を思い出していた。

最初はこっそり私的理由として参加するつもりだったアクアだが、アビ子に参加できる事になったとメッセージで連絡したところで雲行きが変わったのだ。

 

アクア:ということなので俺は当日飛び入り参加で参加者に紛れますね

アビ子:え?それだとアクア君のギャラは?というかコスプレイヤーじゃない人が突然そんな恰好していたら不自然だよね?

アクア:心配しなくても大丈夫ですよ

アビ子:良くないよ……私に任せて!

 

こんなメッセージのやり取りをした後、アビ子は一体何をするんだろうかとアクアは気にし続けていたが、すぐにその答えは分かった。

翌日、苺プロに出版社から正式に依頼がきたのだ。

苺プロとしてはB小町RやC式部に表紙グラビアの依頼が来ることはあっても、男であるアクアにとなると珍しい。

最初来た時は依頼を受けたミヤコも混乱していたとか。

 

アクアとしてはこれじゃ恩返しにならなくないか?と思っていたのだが、本人は満足そうだったのであまり追及はしていない。

ただ今後アビ子に頼られる事があれば、出来る限り協力しようとアクアは思うのだった。

 

「すみません……えっとその……それ、刀鬼のコス……ですよね」

 

思考の海に潜っていたアクアは見知らぬ女性に話しかけられて意識を戻す。

年頃は20代だろうか。身に着けているグッズから察するに『東ブレ』、それも刀鬼のファンだろうことは容易に予想が付く。

アクアに話しかけたのも刀鬼が好きだからこそだろうと思うと、公の場で好きをしっかり示している彼女を見て、アクアは内心で親近感を覚える。

自分もアイやB小町Rを推す時はガチガチの装備に身を包むからだ。

そんな彼女に対してアクアは口を開く。

 

「俺に何か用か、女?」

 

ただアクアは返答としてどこか冷たく突き放すような感覚を覚えるものを選択した。

そしてその返事を聞いて女の方も表情を悲しみに……ではなく満面の笑顔に変える。

今回の依頼を受けるに当たって、アクアはアビ子から一つお願いをされていたのだ。

基本的にこの会場では刀鬼として振舞ってほしいと。

それに従ってアクアは刀鬼のしそうな返事をチョイスした。

 

「ひゃあ……しゅごい目の前で……というかやっぱり本物!?な、なんで……。ぶ、舞台見させてもらいました。その……握手してください」

「握手だと?そんなものが何故必要なんだ」

「是非させてください」

「……今回だけだぞ」

 

そう食い入るように言われ、鬱陶しそうに渋々といった様子でアクアは突き出された手を握る。

刀鬼は基本冷たいが、女に対しては甘い一面がある。こういう押しの強い相手には弱かった。

数秒ですぐに手を離したが、女性はとても嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

「ありがとうございましゅ!一生の思い出にします」

「早く行け」

「はい!ただいま!」

 

アクアの言葉に合わせて女性はスーッと去っていった。最後まで嬉しそうでアクアは内心でほっとする。

今回、舞台の時と同じかそれ以上にアクアの刀鬼の演技は仕上がっている。

周囲も流石にこの演技力とキャラ解釈の高さを見てアクアの存在に気付く人が増え始めており、アクア周りの喧騒は大きくなる。

今回しばらくブランクがあったはずなのに、高いクオリティーを維持できているのかについては理由があった。

 

~~~~~~~

 

コミケ前日、アクアは『東京ブレイド』で共演していた二人に協力をお願いしていた。

 

『悪いな二人とも。忙しい中わざわざ時間を作ってもらって』

『ホントよね~サービス残業って奴?まぁアンタがどうしてもって言うから手伝ってあげるけど』

 

挑発的な笑みを浮かべるかなは実に楽しそうにアクアに絡みに行く。

最近はアクかなの共演がない上にアクアの自由時間がほとんどない。更には学校も休みという事もあってアクアと出会う機会が大幅に減っていた。

かなから声を掛けたり連絡をしたりすればアクアは無理にでも時間を作るだろうが、かな自身は素直になれないため連絡が取れない。

結果としてB小町Rの中でもここ最近では会う機会が減っており、アクアから手伝ってほしい事があるという連絡が来た時は大喜びしていた程だ。

とはいえ実際に会えば彼女の誇りに掛けてアクア本人に知られる訳にはいかないといつも通りに強がっている。

 

『かなちゃん可愛いなぁ。アクアくん、結局かなちゃんへの埋め合わせしてないでしょ』

『……タイミングを逸した気がするんだが』

 

4月の頃には予定を計画していたのだが、双方の予定が噛みあわずいつの間にかアクアが忙しすぎて時間がろくに作れなくなってしまっていた。

そんなアクアにあかねは嗜めるように言う。

 

『駄目だよアクアくんから動いてあげないとかなちゃんは泣いちゃうんだから』

 

あかねは先日デートもできたし満足しているが、かなは暫く二人で出掛ける機会もなかった。

他のメンバーと違い、かなはアクアから動かないとよほどの事がない限りは自分から動かず意地を張るだろう。

あかねの言い方が癇に障ったのか、かなは目を剝いて二人の方を見ながら刺々しい口調で言う。

 

『こんな神話の神様並に爛れた奴なんかに誘われなくたって泣くわけないでしょ』

『神様に不敬じゃないかな?多分本当にいるだろうし……というか、かなちゃん?』

『何よその目』

 

あかねはかなに対して呆れたような視線を向ける。

かなは何を言われるのかと警戒しながらあかねの話を待つ。

 

『杉回りの時とか思い切り泣いてたよね?一人だけ声掛けられなくて』

『うっ……うっさいわね!?別にアクアから誘われなかったから泣いたわけじゃなくてアレは……そう!夫婦杉のスギ花粉のせいよ、あー目が痒かったわ!』

 

世界中に晒されている前例を持ち出されてかなは顔を赤くする。

最近作成されたCMのMADでも音源として使われており、皆の記憶に色褪せる事なく残っていた。

羞恥で顔を赤くしながら色々と言い訳を口にするものの、かなだってルビーやみなみならともかく、あかね相手にそれが通じるとは思っていない。

そのため、早々に言い訳を諦めて話題を変えて誤魔化す方に話を誘導する事にシフトする。

 

『と、とにかく今はそんな話はいいのよ。それで何の用なのアクア。急に私たちの時間が欲しいって』

『あっ逃げちゃった。……でも私も気になるかな。教えてアクアくん』

 

つい先程までバチバチと火花を散らしていたはずなのに、今度はアクアの呼びかけ理由について尋ねてくる二人。

アクアは仲いいなこいつらと思いつつも本題を切り出した。

 

『実はアビ子先生からの依頼で、今度のコミケで久しぶりに刀鬼の演技をすることになったんだが、いきなり実践だと色々感覚が不安でな。二人にはつるぎと鞘姫を演じてもらって掛け合いをして感覚を戻したい』

 

いくら世代最高クラスの演技力を持つアクアでも、しばらくやっていない演技の精度はどうしても落ちる。

そのため、同じく『東京ブレイド』の演技をしていた二人に手伝ってもらい、当時に感覚を近づける事で可能な限りアビ子の要望に応えようとしていた。

ただアクアがコミケでコスプレをすることを知らないかなは、アクアの提案を聞いて不思議そうに首を傾げながら尋ねる。

 

『え?結局アンタってコミケに出ないんじゃなかったの?みなみがアクアは出られないって残念がってたわよ?』

『みなみ達とは別枠で参加する事になったんだよ。上手くいけば共演になるが、基本的には『東ブレ』の宣伝要員がメイン』

『伝えてないのはサプライズってわけ?へ〜面白い事するじゃない』

 

アクアと遭遇した時ほぼ確実にいいリアクションを見せる事になるだろうみなみを想像して、かなはニヤリと笑みを浮かべる。

二人のやりとりを聞いてあかねも自分の意見を述べた。

 

『なるほどね……うん、アクアくんだけじゃなくてみなみちゃんやミミちゃんにもプラスになりそうでいいんじゃないかな』

 

彼女も実際にアクアとみなみが遭遇した時の撮れ高を考えると伝えていないのはいい方向に働くだろうなと感じており、アクアの意見に賛同する。

自分も予定さえ空いていたらアクアと合わせて鞘姫として参加したのにと少し残念に思った。

 

『とはいえアクアが参加しているって知った時の会場や番組スタッフはびっくりするでしょうね。普通やらせを疑われるわよ』

『アビ子先生が仕組んだとは言われるかもしれないが、それくらいなら問題ないだろ』

 

アビ子は許諾をしている以上、番組の存在は知っている。彼女が皆を驚かせたくてアクア君に手伝ってもらっちゃいましたと言うだけで誰も何も言えなくなるだろう。

かなも懸念していたポイントは全てなくなったのか

 

『そういう事なら……ここで会ったが百年目!!刀鬼、そろそろアンタを分からせてあげるわ』

『つるぎ……昨日もあっただろう』

 

かなはカチリとスイッチを切り替えるようにつるぎのキャラを引き出して掛け合いを始めるきっかけを作る。

刀つるをするのであれば、基本的にきっかけはつるぎからの絡みだ。

つるぎの大袈裟な言い方に刀鬼は少し呆れ気味に返す。

 

『あら?つるぎさん、お仕事は終わったのですか?』

『げっ鞘姫……アンタもいたのね』

『ふふっ……今日、私は執務も余裕がありましたから。【婚約者】とのんびり散歩というのも悪くないでしょう?』

 

最近、『東京ブレイド』の原作では刀鞘の機会が増えるに従って刀鬼と一緒に行動することが多いつるぎと鞘姫の絡みも圧倒的に増加した。

鞘姫は刀鬼の婚約者であり、普段控えめで気付かれにくいが刀鬼を大切に思っている。

淑やかで優しい姫だが、恋敵に何も思わないわけではない。

いつもより少しだけ当たりの強い姫が見られる組み合わせとして注目を集めていた。

 

『鞘姫、つるぎ。少し落ち着いてくれ』

 

そして原作ではこういう場面で刀鬼が二人を制して落ち着かせる場面が増えている。

これまでの刀鬼であれば鞘姫に否は言わなかったが、旅をしてきて少しずつ変化したという事だろう。

 

『むっ……刀鬼?つるぎさんを庇うというのですか?』

『そうは言っていない。俺は鞘姫にそんな事で争ってほしくないのだ』

『……しょうがないですね、ここは刀鬼に免じて引きましょう』

 

普段はしっかりしている姫がつるぎには少し対抗意識を出し、刀鬼もそれを理解して普段より年相応になる姫に内心喜びながらも嗜める。

 

『わだしを無視すっだぁいい度胸だぁ!』

『無視などしていない。同時に会話は出来ないだろう』

『ぐぬぬ、それっぽいこと言って誤魔化してねぇが?』

 

二人の仲の良さそうな空気を見てつるぎは少し不満そうになり、それをまた刀鬼が御する。

久しぶりに行われるアクア達三人での刀鞘、刀つる。

三人とも最初は舞台当時より演技が少しだけぎこちなくなっていたが、最新刊で追加された情報などを踏まえて立ち回る内に、互いの演技に引っ張られるように演技が向上していく。

 

『あー楽しかったわね~『東ブレ』で演技練習するの久しぶりだったけど、やっぱやり応え凄いわ』

『そうだね。打てば響く感じで演技をしていてもどんどん乗っちゃう』

『確認したが問題なさそうだ。二人とも助かった。これなら十分に人に見せられる』

 

最後には以前と同じかそれ以上のクオリティーまで寸劇の出来が良くなったと録画していた自分たちの演技を見て思うアクア。

二人のおかげで演技を仕上げられたアクアは二人に礼を言う。

 

『全然いいよ、私も久しぶりに鞘姫できて良かったよ。お家に帰ったら寝る前に『東京ブレイド』読み返そうかな』

『夜更かしするなよ?あかねも忙しいんだからな』

『ふふっ心配しなくても大丈夫だよ、でもありがと』

 

心配性な彼氏にあかねは苦笑しながら返事をする。

健康という言葉をよく意識しているのは、アクアの前世を知れば納得しかない。

こういう細やかなところにアクアの秘密の鱗片を感じられるのは、アクアと距離が近付いたんだと実感できて、あかねは嬉しかった。

 

『私も、その……あんたと久しぶりに遊んだ感じがしてそういう意味でも楽しめたわ。ただ忙しいのもわかってるけどもうちょっと連絡取りなさいよね』

『……ああ、約束する』

 

珍しく普段より素直に寂しそうな様子を見せるかなを見て、他のメンバーのように自分から連絡を送ることが少ない彼女へ、アクアはもう少しこまめに自分から連絡を送るようにしようと思うのだった。

~~~~~~~

二人の協力を思い出して気分が良くなるアクア。

二人のおかげで演技のキレも問題なし。

その時が来るまで周囲の注目を集めながらもコスプレイヤー……というより刀鬼として振る舞っていくのだった。

 

 

一方その頃、みなみはアクアが会場に来ている事など露知らず、ミミと揃って控室でコスプレに着替えて互いのコスを確認し合っていた。

 

「わあ!ミミちゃんかわええなその衣装!」

「ほ、ほんと?」

 

ミミは自分のコスをみなみに褒められて顔を赤くしながら笑みを浮かべる。

基本宅コスで加工を掛けるミミだが、あの顔面至上主義者である鏑木Pの番組『今ガチ』に出られる程度には顔立ちは整っている。

そんな彼女が着ているコスプレは、彼女の良さを存分に引き出す衣装となっていた。

 

「ホンマよ。その子最近加入した目黒クラスタの子やろ?雰囲気確かにミミちゃんに似てる思うてたけど、ちょっと小動物な感じがあるミミちゃんの庇護欲がええ感じに嚙み合っててウチはいいと思う」

「えへへ、アイドルやってるみなみちゃんにそこまで褒められたら嬉しいかも」

 

みなみの心からの称賛に照れながらも今度はミミがみなみの衣装をしっかりと見る。

 

「……」

「あの、ミミちゃん。ちょっと恥ずかしくなってきたんやけど」

「はっ……み、見惚れてた。みなみのほんわか雰囲気と色気が噛み合いすぎてて可愛い」

 

みなみの魅力は?と聞かれた時に多くの人が思わず視線を向けてしまうだろう胸の露出があるわけではないのだが、それでも存在感を感じさせる……でもそればかりじゃないと伝えるような衣装。

アクアの見たリメイク前の衣装と比較しても更に上がった完成度はみなみの魅力を最大限に引き出している。

 

「ほんま?嬉しいわ。……アクアさんにも見せたかったなぁ」

「アクアは逃げちゃったからね」

 

アクアが一緒かもしれないという話が最初に出た時、みなみは内心かなり喜んでいた。

かなやあかね、そして最近共演していたフリルと比べるとみなみはアクアと仕事をした回数が少ない方だ。

そのためB小町Rの中で自分しかできない分野であるコスプレで共演できればなぁと少し期待していた。

ただみなみはアクアのスケジュールを把握しているため強く言えないのである。

 

「しょうがないんやない?『鷹研ぎ』もどんどん視聴率ようなってるし、今アクアさんが来たら大騒ぎになって取材どころやないんやないかな?」

「……確かに。アクアに舞台と同じ衣装着せたら流石にバレちゃうかも」

 

更に時間も近いためSNSも確認していない。そのため今まさにコミケで営業妨害になるのでは?というレベルの話題になっているアクア来場を知るタイミングを失ってしまっていた。

そのため二人してアクアが来れないのは仕方がないよねと残念に思いながらも結論付ける。

 

「あら?もう着替えてたのね遅くなってごめんなさい」

「あっメイヤさん……時間はまだ大丈夫なので……その、今回は協力ありがとうございます」

「最近有名なコスプレイヤーのミミちゃんから誘ってもらえるなんて嬉しいわ」

 

ミミは緊張した面持ちで彼女に声をかける。

メイヤはミミが苺プロに所属してコスプレイヤーという情報を公開した後に、彼女の方から連絡がありコラボした事があったコスプレイヤーだ。

そこまで親しいわけではないが、みなみとミミ以外の出演者を確保するために奔走していた兄のためにとミミが紹介した相手でもある。

みなみは初対面であるため、二人の会話が終わったところで彼女に声を掛けた。

 

「あっメイヤさん初めまして。ウチは寿みなみ言います。よろしゅうお願いしますね」

「……寿みなみ?あっB小町Rの……。コスプレやられてたんですね」

 

女性アイドルに特に興味があるわけではないメイヤもその名前には聞き覚えがあった。

東京ドームに出るレベルのトップアイドルであり、音楽番組などでも最近はかなり出演機会の多いB小町R。

ネットでの知名度も高いため好き嫌いは置いておいて知名度は相当なものだ。

 

「あはは、一応Twitterとかでコスプレ画像定期的に上げるくらいの感じやけどね」

 

みなみはプロのコスプレイヤー程に理念がしっかりしているわけではない。

そのため専業として活動している彼女からすればどうしても引っ掛かるところがあるのかな?と思いながら受け答えをしていた。

 

「そのコスしっかりできていますね、事務所のですか?」

「あーこれは自作なんよ。『東ブレ』やとこの子お気に入りで細かいところもこだわりたかったし」

「それは凄いですね、大変だったでしょう」

 

メイヤは口には出さないが少し驚いていた。

自分より年下でトップアイドルにまでなった彼女が自分でコスプレ衣装を作製しているという事実に。

 

「まぁ最近それでちょっと寝不足にはなったんやけどね……でもそれだけの価値はあったと思うんよ」

 

一番見せたかったアクアが直接見ることは出来なかったが、この放送は見ると約束してくれたのもあってモチベーションは高い。

アイドルが男のためにというのは本来良くないだろうが、B小町Rの場合はそういうものとして許される。

みなみなりにこのコスプレには勝負を掛けており、恐らく勝負を決めているだろうフリルに次いでアクアへ受け入れさせようと準備をしていた。

 

「本当によく出来てる。……才能がある子はいいわね」

 

みなみの努力も完成したもののクオリティーも認めている。

ただ少しだけみなみが羨ましく感じるメイヤ。

大人として最後の意地で思わず漏れた言葉を誰にも聞こえない程度の音量に抑え込んで、彼女は笑みを浮かべる。

 

「三人ともそろそろ出番なのでスタンバイお願いします」

「あっにーちゃん、やっときた」

「やっとってなんだよ、一応時間通りじゃないか」

 

シュンが三人に声を掛けるとミミが兄という雑に絡める相手が来たことで、自分で呼んでおきながらどう話すべきか思い付かず少し気まずく思っていた空気を逃すように話しかける。

内弁慶なミミらしいなとみなみもくすりと笑顔を浮かべた。

 

(いや本当に寿さんいる!?いやミミから連絡受けて確認もしてたけどなんでウチの番組なんかに!?というか実物可愛すぎる)

 

シュンは内心で驚いていた。

『深ワン』は業界受けのいい番組ではあるのだが、あくまでネットテレビである。

普通に地上波にも出ているみなみが出るのは予想外で、最初キャスティングの話で出た時は会議室がざわついた程だった。

ただ流石はプロというべきかいくら慌てていても連絡するべき内容はしっかりと伝えている。

三人にこれからの番組をどう進めるか再確認し、事前に了承が取れているコスプレイヤーをメインにインタビューなどを行っていくよう伝えておいた。

 

「もしそれ以外でも気になる人がいたら声掛けちゃって大丈夫なので。三人にはある程度自由にやって貰えたらと思います」

「「「はい」」」

 

シュンの説明を一通り聞いて三人は頷く。

少し変わったメンバーによる『深ワン』の撮影が始まろうとしていた。

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