【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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遊園地

現在の時間は8時5分。

かなは予定されていた時間を僅かに過ぎてしまっていた。

余裕を持って移動しようとタクシーに乗ったのだが、渋滞に捕まった結果、少し遅れた形となったわけである。

 

「ご、ごめんアクア……余裕を持って出たはずなんだけど……ちょっとタクシー渋滞しちゃって」

 

なんとか合流したかなは、アクアへ謝罪を口にする。

アクアは結構時間を気にするタイプだと、かなは長い付き合いで知っている。

まさかの事態とはいえ遅刻してしまったかなは、折角アクアから誘ってくれたのにと内心焦りながら口を開く。

 

「気にしなくていい。5分程度だし、本読んでたからな」

 

そんな彼女に対して本当に何でもないと言いたげにアクアは返事をする。

不安そうな声を出すかなに、安心感を与えることを意識して、声色も極力柔らかく調整していた。

 

「そ、そう?それなら良かったけど」

 

かなは、アクアの言葉に納得してから、ほっと息を吐いて彼の姿をしっかりと確認する。

アクアの格好はといえば、しっかりと特徴的な金髪を隠すために、黒髪のカツラで変装をした上で、雰囲気を変える演技をして星野アクアだとバレないように対処している。

そのため大きな騒ぎにはなっていなかったようだ。

それでもアクアの整った顔立ちは隠しきれるものではなく、周囲にいた年頃の女性の多くに注目されている。

 

「あの人結構カッコよくない?」

「ホントだ!声掛けてみよっかな〜」

 

結構かっこいいで済んでいるのは、アクアの演技力が高く、見た目以上に地味な気配を醸し出せているからこそだろう。

このような声がかなの耳にも聞こえており、彼女としては、アクアが知らない女にも興味を持たれて少し面白くない気持ちと、自分はこれからこの男と一緒に出掛けるんだぞ羨ましいだろうという子供じみた優越感の二つを同時に感じる。

アクアは、かなの到着に合わせて読んでいた本を仕舞ってから、かなの方をじっと見て、少し考える素振りを見せてから口を開く。

 

「アイドル衣装を着ている時も思ってたが、かなはそういう可愛らしい服が似合ってるな」

 

かなの恰好はロリ&ガーリー路線でフリルなども多い可愛らしい恰好だ。

本人は女子受け路線と考えてはいるのだが、有馬かなという素材を最大限に引き出しており、かなり魅力的に仕上がっている。

後付けとして掛けている野暮ったい眼鏡が少々アンバランスではあるが、少しでも変装しておかないと騒ぎになりかねないため、そこは仕方がないだろう。

 

「そ……そう?あ、ありがと。アンタもその、悪くないんじゃない?黒の髪色に合う服になってると思うわよ」

(どうしたのよ今日のアクア!?なんかいつもならそっけない感じなのに服装とか褒めてくれて……あれ?これ本気で私を攻略しようとしてる?)

 

かなは自分が挑発的に言った言葉を思い出す。

 

『アンタが私を欲しいなら、他に女がいてもアンタがいいって私に思わせてみなさい!そうしたら……』

『私はアンタの……アンタだけの推しの子になってあげる』

 

アクアが二股どころか五股したいとふざけた事を言った際、それでもいいと思わせるくらいに攻略して見せろと、かなはアクアに言った。

それを実行しようとしているのかもしれない。そう思うとかなは頬が熱くなると同時に奇妙な対抗心が芽生え始めた。

 

(そうと分かれば油断はしないわ。私はそんなに簡単に五股なんて認めたりしないんだから)

「なんだよその目……まぁいい、とりあえず行くか」

 

絶対に負けないという強い意志を乗せた目に、アクアはなんで睨まれてるんだ?と不思議そうにしながらも目的地への移動を提案する。

 

「どこ行く!ディズニー?東京タワー?」

 

先程した決意が早くも崩れるように彼女が、思わず声に喜びが漏れるくらいはご愛嬌だろう。

明らかにウキウキとしながら質問をするかなに、アクアは軽い調子で返事をする。

 

「よく分かったな、ディズニーで考えてる」

 

アクアの言葉にかなは驚いて彼の顔を見る。

ディズニーという提案は無理だろうと分かっていての言葉であり、それを肯定する言葉が来た事で、かなは少し頭が混乱する。

 

「えっと……本当?」

 

昨日はかなり悲しい思いをした彼女だが、その反動かのような幸せに本当にこれでいいのだろうかと不安を感じ始めている。

アクアへの確認も不安で声が少し揺れていた。

 

「もし違うところに行きたかったらどうしようかと思っていたが、結構好きだろ」

 

長い付き合いのため、忙しさやタイミングもあって最近ディズニーに行けておらず、新しい施設などを楽しみにしている事を知っていた。

今は当日その場に行って買う事が出来ないため、もし違う場所を提案されていたらどうしようかと内心でアクアは不安だったのだが、無事正解を引いたようである。

 

「嬉しい!ありがとねアクア……ん?」

 

かなは喜びをアクアに伝えたところで引っ掛かりを覚える。

そしてその理由に思い至って驚愕した。

 

(……予約してるじゃない!?もし昨日私が行かないって言ったらそのチケットどうするつもりだったのよ!?まさかとは思うけどルビーとかと使ったんじゃないでしょうね?)

 

今のディズニーは予約制であり、基本的に当日券はない。

それなのに祝日のこの日、当然のようにチケットを出してきたという事は、少し前にこのチケットは予約されたものだという事だ。

そう、『鷹研ぎ』最終回翌日のこの日、アクアは最初からかなをディズニーに誘うつもりだった。

 

(ツイートすらしなかったのを見た時は、もしかしたら誘いを拒否られるかもと思ったが、結構あっさり提案に乗ってきてたな。どういう心境の変化があったんだ?)

 

アクアは実のところ、かなが『アクアなんて知らない』と意地になってしまい、デートの話が難航する可能性を考えていた。

ただ実際はほとんどノータイムで返事が来たので、アクアの方が少し予想外というか意外に思っていた。

実際はアクアの想定より更にかながチョロかっただけだったのだが、アクアはその辺りまでは予想できなかったようである。

 

(もし誘いが断られてたら、かなに一番詳しいだろうあかねにでも相談をする可能性があったからな。そうなると色々最低過ぎるから何とかなって良かった)

 

彼女の一人に、これから別の女の子とデートするんだけどどうするべきか?なんて質問をする男にならず、アクアは内心ほっとしていた。

 

「とりあえず人気どころは回れるように導線は考えてるけど、ある程度は現地の状況を見て少し変更する。もし絶対行きたいアトラクションとかあったら先に言えよ?」

「……うん、分かった」

 

アクアが前もって自分を誘おうとしていた事実を知り、妙にしおらしくなっているかな。

いつもの強気はどこへやら、顔を赤くして大人しくアクアに付き従うのは、まだ調子が狂っているからか。

それはアクアには分からない。

 

「やっぱり祝日だけあってそれなりに人がいるわね」

 

実際に施設に入ると祝日だけあってそれなりの人が来場していた。

昔ほどの混雑というわけではないが、十分に人が多く、人気ある遊園地というのが空気感でも伝わってくる。

 

「確かに多いが……それでも以前よりは入場者が管理されてるだけあって待ち時間も常識的だな」

 

アクアはアプリを見て待ち時間を確認しながら、自分の予定しているルートで問題なく回れるかを確認する。

少なくとも今のところは、それ程大きな変更は不要そうだなとアクアは一安心した。

 

「ねぇ、そういえばアンタってディズニー行ったことあるの?」

 

かなは、ふと気になったことをアクアに尋ねてみる。

星野アクアとはもう15年ほど一緒に過ごしている彼女。

ただディズニーに行ったという話は聞いたことがなく、もしかしたら自分が最初かも?と少しテンションを上げる。

そんなかなに、アクアは素直に返事をした。

 

「今世ではないな」

「……てことは女遊び最盛期に行ってたのね。やっぱ医者って皆そんななの?」

「医者に対する偏見が過ぎる。人によって違うぞ」

 

東京の大学に通っていた吾郎は、それなりにこの時期遊びを覚えていた。

当時からデートスポットとして優秀だったため、何度か足を運んだことがある。

 

「へー、ふーん」

 

アクアが前世でそれなりの遊び人だったという話を聞いてはいたかなだが、何処の誰とも知らない馬の骨がアクアとデートした事があると言う事実に少し不満を抱いた。

自分が最初に連れてきてもらったのかも?という喜びも否定されて、先程までの上機嫌さは何処へやら一瞬で機嫌が急落してそっけない返事をし始めるかな。

そんな彼女を見て、アクアは呆れた視線を向けながら口を開く。

 

「お前な、自分で聞いたんだろ……」

「別に?アンタが誰とデートしてようが私には関係ないし」

 

露骨に拗ねているのが分かるかなに、アクアは苦笑しながら口を開く。

 

「……今世ではかなが最初だ」

 

アクアは今世だと忙しかった上、相当な有名人という自覚があった。

今日も元から計画していたからこそデートの予定を空けられており、変装をしっかりしているから騒ぎになっていないだけで、中々遊園地で遊ぶと言うのも大変である。

ルビーから一度家族皆で行きたい!という提案があったのだが、アイとの家族関係が発覚していない状態では、なかなか難しかった。

アクアの言葉に、かなは表情を変える。

少しでも自分だけの特別が手に入ったという喜びの色だった。

 

「へー!ふーん!私が最初ね~!良かったわね~私がたまたま時間が合って。アンタがどーしても私とディズニー行きたかったから来てあげたわけで感謝しなさいよ?」

「マジで調子いいな……ほら、行くぞ」

 

今度は急激に機嫌が良くなる辺り、演技をしていない時のかなは、実に分かりやすい女の子である。

アクアはそう言っていつかの杉の時のようにかなへ手を差し出す。

その手を見てかなは思考を回し始める。

 

(え?これって手を繋いで歩く感じ?遊園地で手を繋いで歩くなんてもうただのデートじゃない)

 

まだデートではなくお出掛けだと自分に言い聞かせていたかなは、その手を握ってもよいものかと悩む。だがあまり時間は掛けられない。

そんな時、もはや姉妹に近い環境で育った親友が『今ガチ』で言っていた言葉を思い出す。

 

『いいんだよ。だって私たちは……幼馴染なんだから。それくらい普通だよ』

 

あかねの発言は『今ガチ』向けに演出があるとはいえ、幼馴染という理由だけで膝枕を敢行し、世間ではそれが普通かのように受け入れられていた。

それを考えれば手を繋ぐなんてそこまでの事ではない。

既にかなは自分が思っている以上に、B小町Rによって常識を歪められていた。

自分が手を繋ぐのに不都合のない理由を思い付いたかなは、恐る恐るアクアの手を取る。

何やら考えている様子を見せていたかなに、アクアは苦笑してから歩き始めた。

 

 

それから二人はアクアのエスコートでディズニーをとことん満喫する。

楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去っていき、夜を迎えていた。

 

「パレードの席取ってるからいくぞ」

 

事前にパレードをいい場所で見たいと言っていた彼女の要望に合わせて、有料の予約を取得していたアクアは、彼女の手を取ったまま口を開く。

 

「ずっと思ってたけど手慣れ過ぎてない!?アンタしばらく来てないって嘘なんじゃないの」

 

今日一日、かなは、アクアのプラン通りに行動してきたわけだが、ほぼ全ての乗り物やショーをストレスなく楽しめている。

ランチもディナーもアクアが予約しており、全額アクアが奢ってくれているため、かなはもうメロメロになっていた。

ただその手練手管があまりにも優れていると感じたかなは、アクアに疑いの眼差しを向ける。

アクアはそんな彼女に、呆れた視線を向けながらも答える。

 

「まぁ最初に言ったけど、今日のために結構調べたからな。相手に楽しんで貰おうと思ってプラン組めば、自ずとこういう感じになるんじゃね」

「かっこいい……こほん。や、やるじゃない。流石は元アラサー医師なだけはあるわね、及第点はあるわよ」

「アラサー医師を女遊びのプロみたいに言うなよ。というか及第点って酷くないか」

(私のこと楽しませようと……してくれてたんだ……)

 

とくんと高鳴る心臓は彼女の心とリンクして早鐘を打つ。

それからパレードが終わるまでの長い間、彼女の頬の熱は冷めることはなかった。

 

締めとなるパレードも見終わって、記念撮影やお土産も購入したかなは、ほくほく顔で感想を口にする。

 

「あー楽しかったわね~アトラクションは楽しかったし、食事も全部美味しかったし、パレードも見れたし、満足したわ」

 

思い残す事は何もないという程にディズニーを楽しんだかなは、実に満足そうだった。

すっかり日も沈んでおり、辺りは夜仕様の明かりが光り、綺麗な夜景を生み出している。

 

「……楽しんでくれたなら良かった。じゃあタクシー呼んどいたから行こうか」

 

ほぼすべての施設を巡った彼らだが、役者として体力があるため、まだまだ元気は残されていた。

かなはチラリとアクアの方へと視線を向ける。

 

(どこに!?この後どうするつもりなんだろ……もしかして?)

 

かなは一つの可能性を考える。出掛け際に母が言っていた言葉を思い出す。

 

『ふふっ、いってらっしゃい。夜は要らないわよね?』

(……お持ち帰りされちゃう!!)

 

タクシーに乗り込みながらも、あわあわとするかなを見て、アクアは表情を普段の仏頂面からほんのりとした笑みに変えながら、運転手に行先を指示する。

これから行く場所としてとある目的に使用するホテルをイメージしたかなは、心臓が先程までより更に大きな音を立てる中、彼女なりに覚悟を固め始めた。

 

(そ、そうよね。どうせいつかはアクアとそういう経験をするわけだし、今のうちに経験しても早いか遅いかの違いなだけよね)

 

ほとんど完堕ちしているという降参宣言のような事を考えるかなは、運転手に到着を告げられて降りた先を見てきょとんと首を傾げた。

そのマンションには非常に見覚えがあり、間違ってもかなが想像していた場所ではないその場所。

アクアに案内されるがままにその中の一室まで移動する。

 

「あっアクア君ありがとね、かなを送ってくれて」

「いえ、これくらいは普通ですから」

 

到着した先はかなの家。

事前にアクアから送ると連絡を受けていたらしい母が、二人を出迎える。

アクアが母と少し話してから帰っていったのを見届けてから、かなは母に促されるままに家の中に入る。

少しの間固まったままだった彼女だが、少しずつ何が起きたのかを理解していき、表情を無から怒りへと変える。

 

「……普通に送られた!?何よ!?アイツ据え膳喰わぬは男の恥って言葉を知らない訳?ホント信じらんない!私の覚悟はどうしたらいいのよバカ!!」

「あらあら」

 

完全に今の状況を把握したかなが絶叫するのを見て、母は苦笑する。

怒り収まらぬと言った様子のかなは、不要なものを置くために先に部屋へと戻ってきて、ベッドに向けて持って行っていたバッグを放り投げる。

 

「あーむかつく!私がどんな気持ちで隣にいたと思ってんのよ。アンタだったら私は……」

『ピコッ』

「……」

 

放り投げた鞄から小さく音がしたのを聞いて、かなの声が止まる。

いそいそと鞄を取りに向かい、中からスマホを取り出した。

彼女の予想した通り、昨日と同じくスマホに表示されているのは、アクアからメッセージが届いたという通知。

かなはサッとロックを解除して内容を確認した。

 

アクア:今日はありがとう、楽しかった。また予定が合ったら誘う

 

アクアからの簡素なメッセージを見て、かなはにんまりと表情を変える。

 

「へ〜!楽しかったんだ〜しょうがないわね~そんなに楽しかったなら許してあげようかしら!心が天使よね、私!」

 

先程までの怒りはどこへやら随分と上機嫌に鼻歌を歌いながら荷物の片付けを行うかな。

その背後にある扉はわずかに開かれており、彼女の母が様子を窺っていた。

帰ってきた時のただならぬ様子に、扉をちょっとだけ開けて心配していた彼女の母は、一瞬で上機嫌になるあまりにもチョロい娘を見て、この子大丈夫かしらと将来を心配する事になるのだった。

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