【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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反転

「ふー疲れたね〜!なんかアイスでも……あっそういえばそろそろライバーが始まる時間じゃん!折角だしみんなで見ようよ」

「白々しいぞルビー。狙ってただろ」

「あはは、まぁそのつもりで来ていたから大丈夫だけど……あの頃の私の演技かぁ」

 

日曜日、やたら朝早くに集まろうと言い張るルビーの願いを聞いて、アクアとあかねは苺プロの事務所に集まっていた。

放送5分前になった途端、自主練習を切り上げて休憩しようと言い始めた辺り、最初からライバーを皆で見るつもりだったのを隠すつもりもなさそうである。

収録からそれなりの時間が経っているので、どんな編集になっているかアクアも楽しみにしていた。

そんな話をしている間にオープニング前の導入パートが始まる。

 

『前回までの仮面ライバークロノスは!亜空四天王の一体ジゲンが引き起こした時空の歪みを正しい時へと導いた時崎優斗!しかし限界を超える力を引き出してしまった反動が優斗と沙織に襲いかかる!二人はどうなってしまうのか』

「はわーライバーってこんな感じなんだね。これまで見たことなかったから新鮮だ」

「子供がいつから見始めるかわからないから前回見てなくてもわかるようにこうなってるらしいぞ」

 

オープニングが流れてからCMが挟まる。まだアクアやあかねの姿は見えない。

元々個人で自分たちの演技を見返すつもりだったアクアたちはCM明けが訪れるのを待つ。

 

「間に合ったぁ!まだ始まってないよねアクア」

「アイ、珍しいな事務所にいるの」

 

その時、突如休憩室へと駆け込んできたアイ。

実際には昨日は泊まりがけのロケへ行っていた事を知っているので、朝早くに戻って来られていることに驚いたのだ。

 

「日の出をバックに撮影する必要があっただけだからね〜。終わったらアクアの勇姿を見るためにって急いで帰って来ちゃった」

「アイさん……凄い行動力ですね」

「勿論あかねちゃんの可愛いところも見るからね」

 

そう言いながらパチリとウインクを決めてあかねに返事をする。

ちょうどタイミングよくCMが明けたらしく、画面に動きが現れた。

 

『わわっ!眩しっと思ったら私の身体ちっちゃくなってる!?何が起きちゃったの優斗』

 

あかねの初演技が始まる。

この頃のあかねは髪を肩口に切りそろえており、とある子役を彷彿とさせる髪型をしていた。

元のヒロイン役である女優の人と同じ髪型ではあるが、憧れと髪型をお揃いにしたかったというのが本命だろう。

アクアは軽くあかねの方を向く。

彼女は今、髪を伸ばしており、初めて出会った時の髪型に近くなっていた。

最近はかなの話題が出た時やたらとツンケンしているのを目撃しているので、何かあったのか?と気にかけていたりする。

 

「あっ!あかねちゃんがテレビに映ってるよ!可愛いよねお兄ちゃん」

「いきなり聞くな、いや可愛いのは確かだけど」

「うぅ……テレビのお仕事は初めてだったけど、お友達に見られるのは思ったより恥ずかしいよ。しかもこの時の演技、本当に力不足って感じちゃう」

 

あかね本人はこの時の自分の演技を見て穴があったら入りたいとすら思っている。

画面の中で慌てるあかねの役は彼女から少し離れた元気系のキャラクター性であり、そこを頑張って演じてはいるものの本人はクオリティに納得ができていなかった。

キャラの考察が不足しており、厚みが彼女的には物足りない。

今ならもっと上手くやれる!というのが彼女の主張である。

 

『大丈夫か沙織、巻き込んで悪い』

 

そんな慌てる少女に金髪の男の子が冷静に声をかける。

声は冷たさがあるものの、何とか落ち着かせようとする優しさも感じる不思議な演技。

アクアが演じる今作の主人公、時崎優斗だ。

 

「きゃわかっこいい!アクア、なんかいつもより2割マシでカッコよく見えるね」

「ほんとキリッとした表情で目も鋭く尖らせてるのに何処か暖かさを感じて優しさが貫通してるって言うかね。どうなのあかねちゃん。やっぱりおにいちゃんって現場で見ててもそんな感じ?」

「えっと……その……かっこよかったよ」

 

裏話を聞きたいのかルビーが質問をすると恥ずかしそうにしながらもあかねは答える。

アクアはこれは公開処刑か何かか?と思い始めていた。

物語はそのまま進んで行く中、アクアとあかねは自分の演技を俯瞰で見ることでイメージを修正していく。

次の演技はもっとこうできると役者としての2人をさらに成長させる要素となるのだ。

順調に放送は進んで行き、アクアが演じている決めシーンまでやってきた。

 

『沙織を解放しろ』

「前から天才っ!って思ってたけど今回はまた更に演技上手になったね。内心メラメラしてる感じなのにそうは見せないっていう。隠れた感情演技って感じがするよ」

 

テレビの中では小さな少年が冷たい声で告げたのを聞いてアイは感心を言葉にした。

この時のアクアは見立て通り心は熱く、だが頭は冷静にという状態を意識していたので、それが伝わっていたのは嬉しい限りだ。

 

『げひひ、時崎優斗。貴様よほどこの女が大事なようだな。その小さくなった体で何ができる』

『お前を倒すくらいなら問題ない。時の流れにその身を刻め、変身』

「見て見てここのアクアかっこいい!!クールな感じがアクアにあってるね!ポーズもバッチリ決まってるし。あかねちゃんはどうだった?このアクア正面から見て」

「バシッとポーズも決まってて最高でした。他にもさっきアイさんが言ってたみたいに常に熱い感情を内に隠してる演技をしてるって感じで私の解釈からもズレてないし見てて勉強になりました」

「もうただのファンじゃん!!」

 

ファン目線でのマシンガントークを聞いて思わずルビーがツッコミを入れる。

共演者とは思えない語り方だった。

喋り方も態度もクールなのに目の奥だけは熱く燃え上がるそんなアクアを見て少しドキドキもしたが、それ以上に参考になる部分が多くあったことに感激していたのだ。

改めて思い返すとあかねの心臓は普段より少しだけ早く音を立てる。

あかねはそんな自分のことを少しだけ不思議に思った。

 

「アイ、あかね。その反応は普通に恥ずかしい」

「えーいいじゃん!『それが始まり』の時から気持ち悪い演技上手かったけど、カッコいい演技も上手になってきてるよ。やっぱ世界一の役者さんになれる!」

「そこはカミキさんのおかげだ。あの人の自然な演技、あれをモノにできれば俺はもっと伸びると思っていたけど、こう放送されたものを見ても自分で伸びを実感できるくらいだし」

 

まだまだ本家本元の足元にも及ばないものの、これほど成長を実感できるのは芝居を始めた直後くらい。……いや初めてかもしれないとアクアは思っていた。

まだまだ吸収できる要素は多い。

幸い向こうから連絡先を交換してくれたこともあって、アクアは時間を見て演技の相談などをさせてもらおうと思っていた。

そんな自身の成長に感動しているアクアの横でアイはテレビで共演するアクアとあかねを見ながら将来のことを想像する。

 

「うーんこれからはアクあかの時代なのかな。私としてはアクかなも結構好きだったんだけどねー。あっ勿論アクあかも好きだよ?」

 

子役コンビとしてアクかななんて呼ばれたのも昔の話になりつつある。

まだあかねが入る以前はアクアとかなが共演することも少なくなかった。

アクかなは演技ができて受け答えもしっかりした子役コンビとして使いやすかったのだろう。

ただここ最近ガクッと一緒に仕事をする量が減ったのだ。

かといって2人とも予定がスカスカになったわけではなく、お互い別の仕事が入っていることによってすれ違っているというだけの話である。

元々事務所が違うこともあってかメッセージのやり取りは続いているものの、直接会う機会が減少傾向にあった。

 

「そもそもまだあかねとは一回共演しただけだぞ。放送も今日初めてされたわけだからそんなすぐ世論が動くのか?」

「それもそうだね〜、じゃあ、あかねちゃんのことは関係ないか。ただ佐藤さんが言うには、あの子最近音楽系に舵切る動きがあるらしいからさーあまり演技に出てこなくなるかも。……別にこないだ出た『ピーマン体操』にオリコン負けたからって気にしてるわけじゃないからね?」

「めちゃくちゃ気にしてるじゃねーか」

 

『ピーマン体操』。それは彗星の如く現れたキャッチーなフレーズと人気子役が踊りながら子供らしく微妙に外れた音程で歌う様が大バズしてオリコン1位を掻っ攫って行った大ヒットソングである。

バズ力で言うならばヲタ芸赤ちゃんに近いレベルのキラーコンテンツっぷりだ。

CD発売当日に朝からあかねに呼ばれて一緒に並ばされたため、アクアとしてはあまりいい思い出がない。

 

「あー知ってる!ロリ先輩が元気にぴょこぴょこ動く感じが可愛いんだよね。ほんと黙ってたら可愛いのに」

 

子役としての評価は上がった上、友人となった今でも口の悪さについてはこの扱いである。

 

『ピーマン体操』が受けたことで音楽系をメインに仕事を取ると言うのは事務所としてはありがちなのだろうが時間は有限だ。

その分だけ演技の仕事は減ることになるし、レッスンに費やせる時間だって減ってしまう。

 

(まだ大丈夫だろうが、このままだと数年で一旦仕事無くなりそうだなアイツ。大丈夫か?)

 

演技が下手になったわけじゃない。むしろ演技は初めて会った時よりずっと伸びている。

ヒカルの演技を少し手に入れたアクアでも演技力はまだ追いつけたとは思っていない。

役を取り続ける上でやはり難になってくるのはあの性格だった。

個人として付き合いがある分にはこういう奴だからなと思える。

だが業界人として見れば遥か年下なのにあの態度は思うところがある人だっている。

多少改善したとはいえ、昔やったことがなくなるわけじゃない。

そのデメリットを上回るメリットがあった有馬かなブームが過ぎた今、使わないという選択肢も出てきてしまう。

アクアは自分も気をつけないとと思いつつもかなの事を心配する。

もし悩みがあって打ち明けてくれるなら聞きたいとアクアは思うのだった。

 

(結局のところコミュ力と言っていた監督の考えは正しかったな)

 

こんな身近で感じることになるとは当初思いもしなかった。

ちょうどかなブームのピークが終わる時期に入れ替わるようにデビューしたのはあかねだ。

流石にかなほどではないものの、後釜としてなのか少しずつ露出を増やしてきている。

アクアを使うならあかねも使ってみてというまさにバーターに相応しい仕事をアクアがこなしていたのも一因だろうが、なによりあかねには才能があった。

 

(まぁあかねの場合は演技の天才というより天才が演技やってるって感じだけどな)

 

前世医者になった自分から見ても明らかに頭の回転が速い。更に洞察力に優れており、磨きがかかって憑依型の域に達し始めた演技がかなりのものだ。

足りない才能を他の才能で補った結果、他の人とは違う個性的な演技になっている感覚を覚える。

仮面ライバーの撮影をした時は普通の演技だったが、仮面ライバーの放送が始まった辺りからやたら調べ物をするようになり、最初心理学の本なんて読み始めた時はどうなることかと思ったが、そこからメキメキと成長していた。

アクアも自分では真似できない演技だと思いつつも、何か参考にならないかと分析し始めている。

ただそんな伸び盛りなあかねについて最近少しだけアクアが気にしている点がある。

 

「へーかなちゃんが。まぁあの性格なら当然じゃないかな」

 

ゾッとするような冷えた声であかねが言うのを聞き、始まったとアクアは思うのだった。

 

「最近有馬に厳しいなあかね」

「ねー、わざわざ私たちも連れてまでピーマン体操のCD複数枚買ってたのに」

「もっもう!それは言わないで!黒歴史なの」

 

枚数制限のCDを複数買いするのは重度のファンくらいだろうと思われるのに何があったのだろうかとアクアは不思議に思っていた。

自分も吾郎時代にお布施用も含めてB小町のCDを買っていたので気持ちは分かる。

最終的にかなが獲得した役のオーディション、それに参加して以来あかねは妙に彼女に厳しい。

苺プロのオーディションでファンと名乗って、毎日のようにかなの話をしていたとは思えない状態だ。

負けたのがよほど悔しいのかと思えば、これまでアクアたちが見てきたあかねを考えればそれは違うだろう。

前は髪型や帽子もかなのお揃いにしていたとは思えないツンツン具合、例えるならばそう。

 

「なんかあかねちゃん反転アンチみたい」

「ルビー、思ってても口にするな」

「もう!そんなことないもん!かなちゃんが悪いんだもん」

 

アクア達が理由を聞いてもあまり言いたくないらしく、一人ばちばちと火花を散らしている。

タイミングが噛み合わなかったせいもあり、事務所では一度も会っていなかった二人だが、この様子だとどこかで出会ったようだ。

アクアから見てもかなのあの性格の悪さはどう考えてもあかねの生真面目さとは相性が悪いと思っていたのでこうなるのも然もありなんといった感じである。

同性の子役なのでライバル関係の方が正常であり、それで成長するならば苺プロとしては文句はなかった。

 

「まぁあかねの演技はアレからぐっと伸びてるから良い刺激だったのかもな」

「うんうん。私から見ても前は正直普通〜って感じだったんだけど、今はもうビシビシオーラ出す時あるもん」

「ほっほんとですか!」

 

センスタイプとしか言いようがないアイの言葉。

実際覚醒としか言いようがない成長っぷりで、あれをきっかけにアイは正式にあかねを身内と認めたんじゃないかとアクアは思っている。

それ以降あかねの事を名前で呼ぶようになったことから才能を認めたのだろう。

 

「で、アクアは今日そんなかなちゃんとデートだっけ?」

「デートじゃない。ちょっとした意見交換会みたいなもんだよ。場所もここだし」

 

もうかれこれアクアとかなはそれなりに長い付き合いだ。

スマホでのメッセージだけではなく直接会って一緒に演技の練習をするなんてことも珍しくもない。

基本的には苺プロの事務所に向こうが来て軽く演技を見せ合う形だ。

ここ最近ご無沙汰になっていたが、アクアは再会を楽しみにしていた。

 

「えっとその私も参加していい?」

「勿論いいけど喧嘩するなよ」

 

同年代で実力を切磋琢磨できる相手が増えるのは大歓迎だ。

最近の調子を見るにちょっとした小競り合い程度はあるだろうが、殴り合いのキャットファイトになるほどの仲ではないと予想しているのでアクアはさらっと受け入れる。

かなに許可をとったわけではないが、ルビーがいても普通にしていたから大丈夫だろうというのがアクアの認識だった。

 

「私はこのあと外部の人と歌のレッスンなんだよねぇ。まだまだ歌の技術がないからしょうがないんだけど……。あかねちゃん!ロリ先輩が抜け駆けしないよう見張っててね!あと、あかねちゃんもダメだからね!」

 

ルビーは致命的な音痴から普通の音痴へ、更に普通の歌へ進化を重ねているもののまだ上手いとは言い難い絶妙なラインに立っていた。

確実に一歩一歩進んでいるのが本人もわかっており、将来のため、そしてアクアに推してもらうため日々邁進している。

 

「え?抜け駆け?なんの話?」

「むぅ……そうだよねまだ4歳とかだもんね。私が考え過ぎかなぁ」

「あはは、ルビーはお兄ちゃん子だもんね。大丈夫だよアクアはルビーのこと大好きだから」

 

勝手なことを言うなと思いつつ否定もできないのでアクアは黙っているしかない。

立派なシスコン野郎だった。そんなアクアに救世主が訪れる。

 

「お?なんだやたら集まってんじゃねーか」

「佐藤社長!」

「俺の名前は斉藤だクソアイドル。何年も付き合いあるのにまだ覚えやがらねぇ。あかねすら覚えたのに」

「あはは〜私才能あるなーって人は」

「知ってるわ、いちいち言わなくていいが今日は許してやる」

 

営業から帰ってきたらしい社長に対して相変わらずなアイに呆れた様子の壱護。

アクアはそんな彼を見て違和感を感じていた。いつになく機嫌がいい。

3年以上過ごして過去一と言っていいかもしれない程だ。

この場にいた全員が露骨な壱護のテンションの高さに興味を示している。

それを理解しながら壱護は全員に宣言する。

 

「聞いて驚けよお前ら。最高の仕事を用意した。次のアイの誕生日、ついにドームでライブだ」

「ドーム……」

 

それを聞いたアイはそれが社長の夢だとミヤコから聞かされていたことを思い出す。

笑いながらプロポーズの時にそんなことを言っていたんだと話していた。

アイは愛を知らない。

周りが楽しそうにするからそれに沿った行動を取る。

条件反射的に、愛が何かをよく分からないからこれが本物なのかも分からない。

ただ自然と浮かんだ笑顔は本物だったらいいなと心のどこかで思っていた。

 

「ドーム!社長本当!ママがドームって!」

「ああ本当だぞルビー!B小町初ドームだ」

「ドームってアイドルにとって凄いハードル高いって聞くもんね。本当におめでとうございます。……あれ?まぁ気のせいかな」

(……ルビー思い切り口滑らせてるな。あかねが空気に飲まれてなんとか気付かなくて済んだが。相変わらず抜けてるな)

 

アクアも内心で冷静さを装ってはいるものの、推しがついにドームライブをやるという話はワクワクせざるをえない。

周りから見ても喜びが顔から溢れておりわかりやすい状態だが、アクアは気がつかない。

当日は仕事を入れずにライブを観に行かねばとまだ1年近く先なのに今から予定表の修正を検討している。

 

「つーわけでアクア。お前も今後色々な番宣とかやる時に合わせて宣伝してこい」

「いや関係ない宣伝入れられないだろ」

 

明るい未来の話。それはもうすぐそこまできていた。

 

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