「さっ!正解者の皆さん戻ってまいりました〜」
「流石です!三組の皆さんが正解を選びました!」
その声と共に戻ってきたのはアイとゆら、そして格付けという番組で名物となっているミスターパーフェクトの三人。
ミスターパーフェクトは正答率が高過ぎて別室送りとなっており、先ほどは部屋にいなかった形だ。
扉から堂々の凱旋、全員一流らしく歩く姿すら様になって見える。
「アクア、ルビー!ママやったよー!!」
アイは戻ってくるなり並んで座っていた二人の元へ飛び込むように近づいてギュッと抱きしめる。
「おめでとう母さん」
「ママ最強過ぎ!!私がお酒飲めるようになったら色々教えてね?」
「もちろん!二人が20歳になったら、私がいいお酒奢ってあげるからね〜」
二人からの歓迎に嬉しくなりながら、大人になったら一緒に飲もうと約束するアイ。
ただ実のところ、自分よりアクアの方が詳しくて親の威厳がなくなるかも?と少し不安に思いながらもアイは笑顔で返事をする。
息子に負けないために今度ゆらからお酒を勉強しようと思うアイだった。
「大輝君、私たちもアレやる?」
「いらねぇ。そういうのはドラマならともかく俺らは違うだろ。星野みたいに弄られたくない」
横で三人を見ながらもう一組の正解者はそんな会話をしていたとか。
勝ち組が喜びをひとしきり分かち合ったところで、司会は話を進める。
「間違った皆さんはこちら」
悲しいBGMと共に扉の横にある小さな扉から這うように出てくる不正解者達。
その姿はどこか哀愁を感じさせる。
「ごめんよぉ皆〜」
「大丈夫MEMちゃん。私たちが挽回するから」
「エンタメの神様に愛されてる。実質大勝利だよ」
「うぅ……あったけぇよ〜」
MEMちょなりに年上としてチームを背負おうとしていたらしく、結構本当にダメージを負っているらしい。
あかねとフリルに慰められ、MEMちょは涙を流していた。
程々に映像が撮影が撮れたところで次のお題に移る。
「次のチェックは弦楽八重奏です」
これもまた定番チェックだ。
MCからの説明が行われるが、ルールは単純で総額80億にもなる楽器の演奏を当てろというもの。
しかも今回は特別にハズレの方はチェロの弦が1本抜けているというサービス問題である。
「『チーム私人逮捕』からは姫川大輝様」
「プロに任せたかったな、これ」
「私は確かに元アイドルだけど、弦楽器はさっぱりだけどねぇ。頑張ってよ大輝君、一流は君にかかってるんだから」
そう言いながらもゆらの目からは信頼らしいものは感じられない。
大輝も敏感にそれを感じ取り、彼女に半目を向ける。
「その目がもう疑ってないか?」
「前回見事に外してくれたからね……」
「ぐっ……リベンジ見せてやる」
前回大輝が外したうちの一つがこの弦楽八重奏だ。
信用がないのも当然と言えるだろう。
大輝本人も少し気にしていたらしく、悔しそうに表情を歪めた。
「前回はお前一つも当てられへんかったもんな」
「今回、俺は参加が決まってから仕事の合間に格付けの過去問を調べて練習したんで前とは違いますよ」
「テスト勉強かいな!」
司会に言われた厳しい言葉に対して大輝は謎の自信を見せながら返す。
まるで詰め込み教育のような発言に、思わずツッコミを入れる大御所であった。
「『チーム星野家』からは星野アクア様」
「俺か。音楽系なら母さんかルビーなら強そうだったんだが」
続いて紹介されたのはアクア。今回初参加となるため、発言だけ見れば不安そうだが、その様子は気合十分に周囲からは見えている。
ただアクア本人が気合を入れている理由は少し違った。
(いきなり姫川と同じタイミングか。ついてるかもな)
「頑張ってねおにいちゃん!ドルオタの力を見せる時だよ!!」
「弦楽器とドルオタ関係ないだろ」
「音楽は音楽だもん大丈夫だよおにいちゃんなら行ける!」
アクアが気張っている理由を勘違いしたのか、ルビーは笑顔でエールを送る。そんな彼女にアクアは短くツッコミを入れる。
音程ならともかく音の質という面では楽器同士ならともかく歌ではなかなか分からないとアクアは主張したが、ルビーには認めて貰えなかったようだ。
「大丈夫、アクアは音の良し悪しが分かるって信じてる!」
「まぁ昔こういうの聞く機会もあったから少しは分かるか?」
「……おにいちゃん?後でその話聞かせてね」
この後やるべき事を考えていたために、ぽろっと言ってしまった前世の話。
それを聞いて女の気配を感じたルビーがニコリと笑みを浮かべながら言った言葉は、チェック以上にアクアにプレッシャーを与える。
「昔の話は別にいいだろ」
「いやだ!お兄ちゃんのことはなんでも知りたいんだもん!」
「はぁ……分かった。今度話すって」
「……これほんまに兄妹の会話なんか?浮気問い詰める彼女に見えるわ」
アクア達の話が一区切りしたところで司会が苦笑しながらそんなことを言う。そしてその感覚は、アクアとルビーの関係を考えると決して間違いではなかったりする。
アクアとルビーの普通に慣れるのはなかなか大変そうだった。
「『チームアイドル』からは黒川あかねさん、不知火フリルさん」
「あかね、もし意見が食い違ったら私が譲るから安心して」
「えぇ!?フリルちゃん!?」
「不知火、お前それ丸投げやないか!」
B小町Rからはあかねとフリルの組み合わせが指名されたが、フリルの丸投げ宣言に司会も呆れてツッコミを入れる。
「あかねならたとえ分からなくても推理で当てられるという信頼があるから。本気で予想はするけど食い違ったら私の直感よりアテになる」
「え?なにその信頼。本物の『乱歩』はアクアやなくて君だったんか」
「ちょっと分析が得意なだけでそういうのは……」
あかねは照れて謙遜するが、アクアもあかねとコンビなら食い違った時、あかねに譲りそうだと思いながら話を聞く。
司会のターゲットが他に移動したところで、アクアは移動前にあかねの方へチラリと視線を向けてアイコンタクトを取る。
この後大輝とアクアはチーム的に隣の席になる。そしてその反対側があかねとフリルになるため、協力の要請だ。
あかねが小さくこくりと頷いたのを見て、アクアは覚悟を決め、別室へと移動した。
「星野、お前格付け初めてだよな?」
「ああ、前回の姫川みたいにはなりたくないとこだが」
「やめろ、俺の黒歴史だ」
隣の席ということで、アクアと大輝の二人は軽く雑談をする。
隣ということでアクアがその気になれば手を伸ばして、服に付いた髪くらいならば採取するのは難しくない。
ただ一人だと意識が逸らせないので、あかねの協力が必要になる。
アクアがそう思ったのを読んだかのように、タイミングよくあかねが大輝へと声を掛けた。
「姫川さん、先日の撮影ではお世話になりました」
「黒川、俺こそ勉強になった。あのアプローチは俺にはないものだったからな」
共演があったばかりという事で、あかねから自然な話題を振るのが難しくなかった。
そしてあかねが話しかけた隙を見て、アクアはそっと大輝の髪を彼の服から回収する。事前に見つけていたのもあってその流れは澱みなく、人に指摘されるようなこともない。
カメラの向き的にも大輝の視界的にも死角となる位置を見つけるのは難しくなかった。
(とりあえず保険は入手できた。あとは本命だな)
あかねと大輝の会話が終わったところでアクアは大輝に再び声を掛ける。
「そういえばこの後苺プロで打ち上げに行くんだが、姫川も行かないか?」
「飯か……悪くねぇな。ただ事務所水入らずじゃないのか?」
大輝としても人と飯を食べるのは嫌いじゃないしむしろ好きな方だが、その組み合わせで自分がいるのはどうだ?と遠慮しようとする。
ただそれに合わせるようにあかねが声を掛けた。
「そんな……全然気にしないですよ。アイさんもきっと喜びます」
「私もマリンとどんなやりとりしてたのか気になってたから是非」
あかねは打ち合わせ通りだが、フリルは連携ではなく普通に話に乗ってきていた。
アクアは一体何を聞かれるんだ?と少しだけ警戒心が湧くが、ここで妨害するわけにもいかないため耐える。
それから少し悩んだ大輝だが、一組目2チームが審査に行ったところで口を開いた。
「まぁ、いいならこっちこそお願いしたいくらいだ」
やはり決め手としてはアクアだけでなく、複数から参加してほしいと言葉を貰えたからだろう。
番組終了後に楽しみが増えたなと素直に思う大輝だった。
「姫川さん、――さんスタンバイお願いします」
「はい……じゃあ星野、黒川、不知火。また後で正解の方で会おうぜ」
ちょうどそのタイミングで大輝の出番が来たとスタッフから声が掛かり、彼はチェックに参加するため部屋を出ていく。
ギリギリのタイミングで招待に成功したとアクアはホッと息を吐くのだった。
それから少しして、三組目としてアクアは、あかねとフリルと並んでチェックを受ける事になる。
演奏開始前の待ち時間、フリルがアクアに声を掛けた。
「マリン、私たちとマリンどっちが当てられるか勝負しよう。外した方は何でも言うことを聞く……どう?」
「何でそんな賭けに乗らないといけないんだよ……ちなみにどっちも外したりどっちも当てた場合は?」
今もカメラが回っている最中であり、フリルがあえてこのタイミングでぶっ込んだのは何かしら撮れ高を狙ってのことだろう。
彼女としても、フリルとあかねというアクアと公にカップリングする層が多い二人組だからこそ提案したところがあったりする。
「その場合もマリンの勝ちでいいよ」
「……俺は舐められてるのか?」
それだとアクアは自分だけ不正解でなければ勝ちという事になる。
そんなに正解引けないように見えるのか?とアクアはフリルへ呆れた視線を向けた。
「ううん、別にマリンから命令されるのもありってだけ」
「あの、フリルちゃん。私も連帯責任なのはおかしくない?」
事前に一切相談されていないのに一緒に景品にされそうなあかねは、ここでようやく声を上げた。
もちろん状況把握に遅れたというのもあるが、バラエティー的にはフリルに完全に巻き込まれた方が美味しいかと途中から思っていたのもある。
あかねも幼い頃からの度重なる出演によって、かなりバラエティーに慣れたところがあった。
そんなあかねのツッコミも兼ねた言葉にフリルは真顔で返事をする。
「あかねも嬉しいでしょ?」
「嬉しいけど!……あっえっと違うのアクアくん」
「俺はどんな反応をしたらいいんだ」
「あのーそろそろ始めますよ〜」
そんなやりとりを見ていたが、スタートの合図が来て申し訳なさそうにスタッフが声を出す。
アクア達は揃ってスタッフに謝罪の言葉を口にしてからチェックはスタートする。
結局有耶無耶な感じになったが、勝負というならアクアは負けたくないと内心で思っている。
元々外したくないとは思っていたが、更に負けられないと意識を強くしていた。
(弦楽器の違いなんか分からないけど、やるだけやってみるか)
正直なところ全く自信などないアクアだが、音の良さを見分けるくらいはしたいなと意識を研ぎ澄ます。
弦楽器に馴染みがあるわけではないが、B小町Rのマネージャーをしていた時に、曲選びなどをしていたからか、音に関しては敏感になっていた。
研ぎ澄まされた精神状態で音楽を分析しているとBの楽器で違和感を感じる。
(音、飛んだな。これが言っていた弦がないって話のやつか)
音の質について差は分かるのだが、どちらが高い楽器なのか断定しきれなかったアクア。
ただAの演奏と比較して、Bの演奏は要所の音が飛んでいるのに気がついたため、どちらが正解なのか予想する。
先に選んだアクアが入った部屋は……誰もいない。
既にいた4組の挑戦者は全員がBに入っていた。
「これは……やったか?」
誰もいないAの部屋でガックリと項垂れるアクア。
自信があっただけに、そのショックはかなりのものだった。
そんな様子を見ていたメインの部屋だがいいリアクションをするなぁと眺めていた。
「あちゃーおにいちゃん凄いリアクションっぷりだね」
「いや〜アレは本気でショック受けてるよ」
『チーム星野家』で待ち中の二人はそんなアクアを見て笑顔になる。
勿論バラエティーを意識はしているのだろうが、その反応自体は本心から出たものだと家族の二人からはよく分かった。
そしてそれを見抜くのは家族だけではない。
「アイツあれで負けず嫌いだから自分が最初に外すってのが嫌なんでしょうね」
「普段しっかりしとるのにこういう時だけ子供っぽいとこ見せるのええよな」
「た、確かに普段かっこいい系のアクたんがこういう仕草するのちょっと可愛いかも」
「アレやな、ちょっとコイツがモテてるの理由分かった気がするわ」
そのギャップが異性ウケするのだろうと司会も感じていた。
司会も普段キリッとかっこいい相手がこういう少し情けないところを見せている姿が人気が出るのは、これまでの経験で知っている。
画面の向こうではそんなアクアに声をかける人物が一人。
『どうした星野、そんな項垂れて』
『……姫川』
AとBの部屋というのはモニターで繋がっており、メインルームとは違いやり取りが可能となっている。
『今回は俺の勝ちだろうな、まぁ一流芸能人ともなればこのくらい出来る』
「いや、お前さっき過去問がとか必死な事言うてたやんか!」
勝ちを確信している大輝のそんな言葉に思わず司会もツッコミを入れる。
一通りそんな反応を堪能したところでMCが声を上げた。
「ここでメインルームにだけ正解を発表します」
そういってMCの出した札はA、そうアクアのいる部屋である。
大輝はあの勝利宣言をしたというのに外れていた。
「大輝君、これ絶対恥ずかしいやつ」
「あはははは、大輝君面白いよ!誰も来なくて自信が全くなさそうなアクアとのギャップもいいね!」
「格付け名物ではあるけど、ここまで綺麗に態度が逆転しとると笑えてくるな」
パートナーであるゆらは、さっさと普通芸能人へと物が差し替えられている中、羞恥で赤くなった顔を手で覆う。
アイもあの自信満々っぷりで間違えた大輝と逆に不安で仕方がなさそうなアクアのギャップでケラケラと笑顔になっていた。
アイの言葉に司会も同意し、言葉の通り笑顔である。
どうやら二人ともしっかりバラエティーの質に貢献する事には成功したようだった。
「んで黒川あかねと不知火フリルか……少し画が笑えたから待ってもらってたけど答えはどうなんやろなぁ」
司会が合図を送り、二人の出した答えは……共にAだった。
おおっと会場が正解を選んだ二人に感心した声をあげる。
「流石あかねよね。ちゃっかりフリルも正解してるしやるじゃない」
「信じてたよあかねぇ、フリルちゃん!」
「あかねさんもフリルちゃんも凄いわぁ、ウチ正直自信なかったもん」
チームメイトの三人は正解した二人に感謝の念を送る。
もしこの段階で外れていたら二流芸能人、消えるのもそう遠くないとなるところだったと思えば、この三人の反応も無理ない事だろう。
『Aの方が音色が澄んでいて、聞き心地が良かったです。低音もしっかり響いていましたし。それとチェロの音が思ったよりはっきり飛んでいたので自信が持てました』
『聴力が良くなる感じだったのがAだったから』
二人はそれぞれ理由を答えて正解のAの部屋へ。
『あっアクアくん』
『……勝ったな』
ガチャリと扉が開いてあかねの姿が見えた途端、先程まで不安だった反動から、今度はアクアが勝利宣言をする。
あかねはそんなアクアの言葉に少し照れくさそうだが、嬉しそうにしていた。
やはり好きな人に自分が同じで喜ばれるというシチュエーションそのものが良かったようである。
「あっ、あかねちゃん入ってきたの見ておにいちゃんスッゴイいい笑顔になったね」
「よっぽど不安だったんだね……正解してるんだし帰ってきたらヨシヨシしてあげないと」
「いや黒川あかねの信頼凄すぎやろ!?」
さっきまでこの世の終わりかというくらいガックリしていたアクアが急速に回復するのを見た司会は思わず声をあげる。
苺プロに所属しているメンバー的にはそこまで意外ではないが、知らない人から見れば驚きかもしれない。
それから最後の一組がチェックを終えてBの部屋に向かい、出揃ったので結果発表の時間である。
数の上ではBが多いのだが、アクアは全く心配していない。余裕を持って発表結果を待つ。
司会がドアをガチャガチャと動かしどっちかと煽ったところで、アクア達の予想通り自分たちのいるAの扉が開かれた。
「おめでとう!いやぁ良かったな項垂れてたけど」
「いや、まじでやらかしたと思ったので……正解して良かったです。母さんの守った一流が守れてホッとしました」
「真っ先に出てくんのが母親のことってほんますごい家族愛やな」
司会のそんな言葉をアクアは笑みだけで躱しながら、今後の撮影を想像する。
少なくともあと一回は、自分がこのプレッシャーを受ける可能性があると気が付いて想像以上にハードな番組なんだなと認識を改め直すアクアだった。
ただ、このアクアの回答で流れを掴んだのか、『チーム星野家』はここからもミスなく突破していき、運にも助けられながら最終問題まで一流をキープし続ける事に成功する。
そして迎える最終チェック、『チーム星野家』一流維持はルビーに全てが託される事になった。