「さぁ皆さん、次のチェックがいよいよ最後のチェックになりますが……一流芸能人はお一組のみございます」
恐らく今、『チーム星野家』がカメラに抜かれているだろう。
アイはそれを意識してカメラに向けてキメ顔をする程度に余裕がある。
アクアもそんなアイが映えるように横で少しだけ表情を作っていた。
「普通芸能人がお二組、三流芸能人がお二組」
このグループは『チームGKT』『チーム俳優』『チームアスリート』『チーム芸人』が所属している。
ミスターパーフェクトがいる『チームGKT』はまさかの二問目で相方がミスをした結果、普通芸能人にランクダウンしていた。
本人は個人連勝を相変わらず伸ばしたものの、相方が戻ってきた当時はやってくれたなと詰問しており、いい感じにエンタメとなっている。
「そして……そっくりさんがお二組。いや〜、二回連続でそっくりさんが参加するなんて有名人も大変やなぁ」
「……おかしい、こんなはずじゃなかったんだが」
「大輝君、演技は凄いのにどうしてなんだろうね」
ゆらは大輝を見ながら苦笑する。
大輝はこれで参加して一度も正解したことがないという記録を作ろうとしているのかと言いたくなる連敗を喫していた。
前回から通して正解数は驚異の0である。
「かなり色々蘊蓄話してから入るのに外れるのもはや狙ってるやろ」
「いや、マジで自信あったんですよ」
「やろうな、ほんまおもろかったわ。俳優より芸人向いとるんちゃうか」
六組目として大輝が部屋に入り、中を確認して大輝だけだと理解した瞬間、呆然と立ち尽くす後ろ姿。
やったわコイツというスタジオから残念なものを見るゆらの視線。
それだけで司会は大爆笑していた。
程々に大輝を弄ったところで、司会は次のそっくりさんグループへ声をかける。
「そんで国民的アイドルにそっくりの皆さん。今のところ黒川あかねっぽい人がおる時しか当たってへんが?……というか黒川、お前だけおかしいやろメインスタジオでの予想も全部合っとるし」
「その、色々お父さんに教えてもらったりしたので」
「は〜凄いなぁ……まぁそっくりさんやけど」
そんな会話の裏でかなが少し気まずそうに視線を逸らしている。
理由はそっくりさんまで落ちた原因はかなにあるからだった。
かなは隣にいる当時のパートナーへと声をかける。
「フリル、どうしてあの時私を止めてくれなかったのよ」
かなとフリルの二人が挙げた札が異なっており、結果だけ話すとかなが挙げた札は2ランクダウン、フリルの挙げた札は正解だった。
そのため、フリルが強く言えば回避できたのにとかなは主張するのだが、彼女にも言い分はある。
「あんなに自信満々なの邪魔できないよね。それに内なるコメディエンヌ魂が、重ちゃんに従った方が正解でも不正解でも面白いって叫んでたから」
「アンタねぇ!?」
結果としては、かなの意見を採用し、彼女は自信満々に三部屋のうち一部屋を開け放つ。
中に誰がいるかを確認して、明るい表情を一瞬で暗く変えた。
『姫川さんだけ……終わったわね』
『おい、流石に酷過ぎるだろ』
『あー……これ重ちゃんやったね。1ランクダウンならいいけど2ランク落ちちゃうかも』
『不知火もかよ』
死神のように扱われて不満そうな反応を見せる大輝だが、結局2ランクダウンの部屋を引いていたので、二人の言葉は何も間違っていなかったと証明する形になってしまったらしい。
そんなそっくりさんまで落ちた『チームアイドル』へのインタビューを終えたところで、いよいよ最終チェックの紹介が始まる。
「さて、最終チェックはこちら……炒飯です」
最後に用意されたのは定番の料理系だ。
これまで多くの参加者を奈落に落としてきた門番的チェックである。
ここにいる多くの人はそれなりに良い物を食べてきているはずであり、チェックとしても的確と言っていいだろう。
「今回はミシュラン二つ星のシェフに作っていただいた炒飯を用意させていただいております。また、ハズレの方は町中華のベテランの方にお願いしておりまして、こちらを選んだ方は最後なので2ランクダウン。そして……絶対選んではいけない『絶対ありえへん』を選んだチームはその場で即消えていただきます」
ここ数年お決まりのパターンをMCが宣言すると、アクアの近くからゴクリと生唾を飲む音が聞こえてきた。
そちらにチラリと視線を送るとプルプルと震えているルビーが視界に映る。
「そしてこの『絶対ありえへん』も定番!司会の作った炒飯です。素材もスーパーの食材を寄せ集めた物とミシュランから大きくランクダウン。これを選ぶような芸能人の方はいらっしゃらないと思いますが……お気を付け下さい」
毎年この炒飯を選んで大変な目に遭う芸能人が後を断たない。
炒飯が味付けが強いものが好まれがちというのはあるのだろうが、それにしてもこの誤答率はかなりのものだ。
「ちなみに、この問題を正解しますと普通芸能人の方々は一流芸能人に格上げさせていただきます」
この救済処置は何年かに一回ある救済処置だが、今年はあるらしい。
ミスターパーフェクトもこれにはニッコリ。
相方に絶対当ててこいよと激励を飛ばしている。
上手くいけば一流芸能人が三組いる状態で終わりを迎えられる事になりそうだ。
チェックの内容紹介が終わったところで、次は参加者の紹介へと移る。
「『チーム星野家』からは星野ルビー様」
「あっあわわ、やっぱり私だぁ……たっ助けてママ、おにいちゃん……」
これまでアクアとアイが出た回数より少なかったため、ルビーは自分が呼ばれると予想はできていたが、この大一番に呼ばれてガクガクと震える。
ドームライブですらこれほど緊張していなかったと断言できるほどの緊張度合いに、アクアとアイもルビーへとエールを送る。
「頑張ってねルビー!」
「まぁ『絶対ありえへん』なんて選びようがないから大丈夫だろ」
「うっ……何でそんなプレッシャーかかるような事言うのおにいちゃん……。もう終わったから気楽なんでしょ」
「バレたか」
先程最後のチェックを正解で終わらせたアクアの気分は実に軽い。
最初の弦楽器と異なり、その次の審査は分かりやすかったため、間違えていないと自信があり、実際に正解。
更に裏ミッションである大輝関連も終わらせて、気楽なものである。
ルビーがビクビクとしながらも勇気を奮い立たせ、次のインタビューへと移る。
「『チームアイドル』からは、有馬かなっぽい人と寿みなみっぽい人」
「ぐっ……この呼び方ムカつくわね」
「ウチらも偽物になってもうたからなぁ。扱いが悪くなるのも仕方ないやろ」
「こうなったらせめて画面には残ってやるわ!」
今度はかなとみなみのコンビが参加する事になるらしい。
かなの宣言は低い目標だと思われるかもしれないが、三択の内二択は消えてしまうのでここは正念場だ。
「頑張ってかなちゃん、みなみちゃん。皆でエンディングに映ろう!」
「応援してるよ重ちゃん、みなみ。最悪消えるにしても面白い感じでお願い」
「ワインから挽回の機会貰えなかった私の分まで頼むよ二人とも〜」
チームメイト三人からのエール?を受けて、二人は覚悟の決まった表情を浮かべる。
背水の陣なのである意味ルビーのように変なプレッシャーを感じずに済んでいると言えるだろう。
「『チーム私人逮捕』からは片寄ゆらっぽい人」
「うっ……またこのパターン。私ここまで間違えてないのに間違えたら一発で消えちゃうよ……」
ゆらは前回の思い出が蘇る。
前回は三流から2ランクダウンで消えたという過去を持つ。
流石に今度は間違えるわけにはいかない。
「ゆらさん頼むぞ、正解以外だと消えるからな」
「プレッシャー掛けないで。十割大輝君のせいだよね?前回に続いて」
ジトッとした目をゆらが向ければスッと大輝は視線を逸らす。
そのまま少しだけ申し訳なさそうに口を開いた。
「あー……ちょっと記憶にねぇな」
「いや、答弁から逃げる政治家じゃないんだから」
「なんか君らも仲ええな」
司会はそんな彼らを見て、苺プロ周りは本当に賑やかだなと、今回彼らが参加してくれて盛り上げてくれて良かったと思うのだった。
賑やかな紹介も終わり、参加者達が別室へと移動し、最後のチェックを待つだけとなる。
メインルームではその光景を見ながら好きに話せる状態だった。
「というわけで……会場の皆さんとテレビの皆さんには正解を発表させていただきます」
これが最後の問題ということで泣いても笑ってもこれがラスト。
テレビ的に消えるという表現を活かすため、最後だけは誰かが答える前に発表されるのが常となっていた。
少し独特な緊張感の中、正解とドボンである『絶対ありえへん』が公開される。
「正解はC。こちらがミシュランの炒飯。そして絶対選んではいけない炒飯が……B。もしこれを選べば……一発でぼーん」
その言葉に反応するのは『チーム星野家』と『チームGKT』。
個人ではパーフェクトなミスターパーフェクトもここ2年最後に相方がドボンを引いて一発退場を繰り返している。
もうトラウマのようになるのも仕方がない事なのかもしれない。
『うわっなにこの格差』
会場が答えを教えられている間に、控え室ではあまりの格差に、かなが唖然とする。
自分たちが犬の飲み皿なのに対して、ルビーはやたら良さそうなグラスに入ったジュースである。
不公平を感じるのも無理はない話だ。
『一流とそれ以外の差凄いなぁ。ウチらなんてペット用の受け皿やもん……あとこのお皿で飲む時ってどう飲むのがマナーなんやろ。流石にペットみたいに飲むんは恥ずかしいから持ち上げてええよね?』
そういいながらみなみは受け皿を持ち上げてから水を飲んでいた。
それを見たかなはじとっとした目でみなみを見る。
『……アンタよく普通に飲めるわね』
『まぁ中身はふつうのおみずやろうし気分の入れ替えやね』
妙に色っぽくペット皿で水を飲むみなみ。その姿はテレビでは少し背徳的な人気を獲得しそうだった。
『先輩達の見た後に自分の見たら私なんか偉い人になった気分!』
「見て見てアクア!あのルビーのドヤ顔!可愛すぎない?」
「確かに可愛いけどアレは調子乗ってそうだな。……嫌な予感がする」
先程までの緊張はどこへやら、随分リラックスした様子を見せるルビー。
どうやら自分の待遇がいいのを見て、これまで積み重ねた正解が自信になったようである。
とはいえルビーが自分で正解したのは一つだけなのだが、身内の正解は自分の正解のような感覚なのかもしれない。
『うぅ……大輝君め。この恨み後で晴らすからね』
「人気女優やアイドルが普通にアレで水飲んでるの絵面がやばいよな」
「アクア、今度お家でやってあげようか?」
「母さん……その発言、マジで俺が誤解されるから勘弁して」
会場でそんな話をしている間に、早速1グループ目が挑戦。
最初の参加者はゆらだ。
彼女は演技をする時と同じくらいに真剣な表情を浮かべている。
目隠しをされてAから順に口元へ炒飯が運ばれていき、Cまで味わったところで力強く頷いた。
それから少しだけ考えた素振りをしたが、ゆらは自信ありげに札を上げる。
『……答えはCです』
「おっしゃあ!!」
ゆらが答えを出した瞬間、いい声と共に立ち上がりガッツポーズをする大輝。
とてもそっくりさんで全問不正解の男とは思えない盛り上がり方だった。
「あっはっはっはっは、大絶叫しとんな。そっくりさんやけど」
「いや、マジ嬉しい。下手な賞貰うより嬉しい」
「そんなにか!?」
ゆらは自信があるようでCまで真っ直ぐ足取りも軽い。
ただ部屋に入り、ソファーに座ったところで、ゆらは祈るように手を合わせる。
自信はあっても外れる時は外れるのだからこの仕草も納得だろう。
ここから3つのグループが続いてCとAを選んでいき、全てギリギリ消えないラインに踏み留まる。
そしてかな達の出番がやってきた。
『みなみ、消えるわけにはいかないわ。B小町Rのプライドに懸けて乗り切るわよ』
『ウチも家族が見とるやろうし正解したいなぁ。ええとこ見せたいし』
単純に消えたくないという気持ちだけでなく、好きな人と共演しているというのもあって、余計に下手な真似はできないと二人とも気合が入っている。
二人とも口に運ばれた炒飯を転がして舌に全神経を集中させて、味覚が受け取る刺激を可能な限り分析する。
そのあとは米を噛んで広がる風味を堪能した。
料理人だけでなく食材も違うのだから十分に効果がある。
そして少し悩んだ末に、二人は答えを同時にあげる。
『Bね』
『Cやろなぁ』
その意見は真っ二つ。どのみち間違えたら消えるという場面だが、見事『絶対ありえへん』が候補に上がっている。
それを見て司会はテンションが爆上がりだ。
「割れたぁ!いけぇ!有馬かな、押し通せ!」
「アイツ結構いいもの食べてきたはずなんだが……」
「かなちゃん……」
「みなみ、頑張って」
アクアとあかねは昔から長い付き合いだけあって少し残念なものを見る目で画面のかなを見てしまう。
フリルの声が聞こえたわけではないが、ちょうどその声に呼応するように、みなみは、かなと意見が割れたのを見て説得を試みる。
『かなさん、それ多分やけど司会の人の炒飯やろ?味付け濃かったし、確かに美味しいんやけど、ちょっとだけ家の味っぽいと思うわ』
「あーつまらんなぁ。これじゃ流石に有馬が折れるやろ」
司会も流石にここまで言われてはそう簡単には意見が変わることはないだろうと諦め気味な言葉を口にする。
ただ画面向こうでは、かなが逆にみなみを説得していた。
『みなみ、いいから信じなさい。こういう優しい味作れるのはミシュラン認定されてるような料理人よ』
『ホンマ?……うーん。でもウチも高いところそんな行ったことあるわけやないから……かなさん信じるわ』
「マジか!?ようやった!有馬かな!!」
二人の札がBになったところで両手を上に上げて喜びを表現する司会。
みなみが庶民派なところが仇になってしまって、自信満々なかなに意見を合わせる形となる。
「……流石重ちゃん、笑いの神に愛されてるね」
「かなちゃん、今度いいところの炒飯食べに行こうね」
「……姫川さんといい本気でバラエティーして完璧な負けっぷりなのは最高だねぇ」
おそらく『チームアイドル』の三人は今頃テレビの向こうでは姿を消されてしまっているだろう。
誇張された芸人がかなやみなみの姿を映しているに違いない。
そして二人は誰もいないBの部屋へ。
『……ちょっと待ちなさい。なんで誰もいないのよ!?』
『あー……これやってもうたなぁ』
『でもよく考えたら姫川さん居るわけじゃないし、まだ可能性あるわよね』
「おい、星野。有馬の俺の扱いおかしいだろ」
「良かったな姫川、かなりオイシイぞ」
大輝は扱いが不服なのか、有馬かな係であるアクアへと話を振る。
ただアクアから見れば別にバラエティーでこの扱いはオイシイし良いだろ?と思っていたりする。
「道化は普段の星野で十分なんだが」
「俺を巻き込むな。少なくとも普段はおもちゃかもしれないが、今日はそんなシーンなかっただろ」
後日、この特番放送後に勝利確信シーンなどがネタにされるなど思っていないアクアは、大輝の言葉に反発する。
そして放送後に『なんでだよ』と思わず口から出すことになるのだった。
その次は『チームGKT』だったのだが、まさかの正解で一流返り咲きを決める。
ミスターパーフェクトはこれまで相方に消されてきた分嬉し過ぎて涙ぐんでいたのがアクアから見ても印象的だった。
感動のシーンが終わったところで、トリを飾るルビーがやってくる。
「歩く姿も一流だけあってサマになっとるなぁ」
「多分アイの歩き方をモデルに自分用にアレンジしたんでしょうね」
「うんうん、ルビーの方が背が高くて髪も金色だからねぇ。いいアレンジできてる!」
背が高いと言っても160cmなのだが、どこかその姿には普段はない気品が感じられる。
その整った容姿も合わさって非現実的な、バラエティーとは思えない映像に仕上がっていることだろう。
『おいしい!』
『あっこれ好き!』
『すっごくおいしい!』
AからCまで食べたルビーの反応はこの三種。どれも好反応と言っていい。
アクアは控室での浮かれルビーを見た時に感じた嫌な予感が強くなる。
『答えはB!』
ライブで必ずと言っていいほど決めているポーズをバッチリ決めたルビーはBの札を掲げる。
『絶対ありえへん』のため、一流だろうが問答無用で消えるドボン札を彼女は自信満々に提示した。
「サインはBかよ……やりやがったな」
「あちゃーやっちゃったねルビー」
「あひゃひゃひゃひゃ、やっぱ一流が最後一発で消えるの見るの堪らんなあ!」
アクアはガックリと項垂れ、アイも流石に苦笑する。
会場には高らかに笑う司会の声がよく響き渡ることになるのだった。
結果的に消えたのは『チームアイドル』と『チーム星野家』の二つ。
正解者の後に帰ってきた消えた面々は画面には映っていない事だろう。
ただ各々反省した表情を浮かべていた。
「かなちゃん、なんであんなに自信満々だったの?」
「いや、そりゃ自信満々にもなるでしょ。なんで炒飯あんなに美味しいのよ!?」
かなが外したのは司会炒飯というこれまで何人もの人を騙してきた名品だ。
今回は引っ掛かったのが二チームだけだったが、それでも被害は甚大である。
消えているためリアクションこそ視聴者には見えないが、声だけでもイメージが想像できるいいツッコミだった。
「ごめんなぁ、ウチがもっと自信あったら」
「どうせ重ちゃんの方が自信満々だろうから気にしないでいいでしょ」
「ぐっ……流石に否定できないわね」
そんなかなとみなみに続いてルビーが戻ってくる。
明らかにしょんぼりした様子のルビー。
アクアは彼女に呆れた視線を向けながら一言告げた。
「……言いたい事はあるか?」
「お、おにいちゃん?消えても怒らないって言ってたよね?ね?」
アクアがあえて見せた怒気にびくりと体を震わせながらも、そのアクアに抱きつき、上目遣いで縋るような視線を向ける。
「アクア、あんまりイジメちゃダメだよ。……でもルビー、流石にこれは間違えちゃったらダメじゃないかな」
「で、でも本当に美味しかったんだよ?ママやおにいちゃんも食べたらびっくりしたと思うなーって。こないだママが作ってくれた炒飯にそっくりで」
ルビーの始めた言い訳にアクアはため息を吐きながら答える。
「母さんの料理は確かに美味いけど、料理人ってわけじゃないぞ」
「だって私にとってはママの料理が一番なんだもん!」
「ルビー!!かわい……あっ!」
ここでアイも二人を抱きしめようとしてピタリと動きが止まる。
ルビーがどうして自信満々に今回の選択肢を選んだのか分かってしまったのだ。
そんなアイの様子にアクアは怪訝な視線を向ける。
「母さん?」
少し抵抗で目を逸らしていたアイだが、誤魔化すように二人まとめて抱きしめながら、思い至った理由を口にした。
「いや〜ルビーが言ったみたいにこないだ炒飯作ったでしょ?そういえば、あの時この番組のレシピ使って作ったな〜って」
その言葉を聞いた瞬間、アクアはルビーに向けていたジト目をアイに向け直す。
ルビーも大概だが、真の戦犯はアイだったようだ。
「それが原因かよ……ならしょうがないか?」
「わーいお兄ちゃん大好き〜!」
「アクア優しいよぉ!いい子いい子!」
アクアはルビーがどれだけアイを好きなのかよく理解している。
思い出補正が強過ぎたということだろうと納得する仕草を見せる。
そんな三人を見ていたフリルは、この姿が全国に公開されないなんて勿体無いと心から思う。
きっと本放送ではこの映像は代わりに同じポーズをとった芸人で表現されることになるか、全く映らないかのどちらかになるだろう。
それは世界の損失だ、そう思うほどに視力が良くなる光景で、自分は特等席で見られて良かったと思うフリルだった。
番組の締めが撮影され始める。
「始まった時は苺プロ多いなって話しとったけど……一人しかおらんな。いや片寄はそっくりさんやから0か」
苺プロ全員がウッと思わず反応する。
開始時にここまでの惨状になるとは思いもしなかった。
9人いた苺プロが事実上全滅である。
「なんかさっきまでこの辺に、苺プロの一流芸能人がおった気がするんやけどおらんなぁ……帰ったんか?」
「うぅ……美味しかったです。ご馳走様でした!」
「素直過ぎるわ!?まぁまた機会があったら挑戦してや」
映像としては見えないと分かっていてもルビーは司会に向けてお辞儀をする。
そんなルビーを見て思わずツッコミを入れながら次回の参加を待っている旨を伝えた。
そんな司会の言葉にルビーは笑顔になる。
「はい!またママとおにいちゃんと一緒にリベンジしたいです」
「なんで俺も巻き込まれる前提なんだよ」
「おにいちゃんダメ?」
ルビーは再びアクアへと上目遣いを向けながら縋りつく。
視線を逸らしたアクアを見てもう一押しと考えたアイも同じポーズをとった。
「アクア……ルビーもこう言ってるから……ね?」
「はぁ……すみません。来年もこの辺り空けときますんで、ぜひオファーお願いします」
「お、おう……手のひら返し凄過ぎん?」
アクア達初めての格付けは、最後の最後急転直下の映す価値なしで終えることになるのだった。
「みんな〜お疲れ様!かんぱーい」
アイが珍しく張り切った音頭を取り、苺プロwith大輝の打ち上げが始まる。
二十歳を超えているメンバーはお酒を、それ以外のメンバーはジュースやお茶を手に持ち、グラス同士を打ち鳴らした。
打ち上げが始まってすぐ、アクアは隣にいた大輝に話しかけられる。
「おい星野、残念だったな」
「……なんで姫川が勝ち誇ってんだ。全敗してただろ」
その表情は実にいい笑顔であり、とても一度もチェックを当てられなかった男とは思えない。
ある種清々しさすら感じる程だった。アクアが残念なものを見る目で大輝を見るが、まるで効いた様子がない。
「もともとチーム戦でこっちは最後まで画面に映ってたからな。俺の勝ちでいいだろ」
「流石に全敗した奴に言われるとムカつくなこれ」
「姫川さん!私の事も馬鹿にするんだ……」
「あー悪かったよ星野妹。まぁ司会炒飯は旨いらしいからな。有馬も引っ掛かってたしそう言うこともあるだろ」
「なんで私が巻き添え喰らってんのよ!?」
まさかの流れ弾に対して、かなは、勘弁して欲しそうに反応する。
番組の影響か、全員が普段よりテンション高く楽しんでいた。
打ち上げが始まり、それなりに時間が経過したところでアイがアクアと大輝の側へとやってくる。
「大輝君飲んでる?」
「あぁ、はい。勿論です」
「よかった〜アクアが急に誘っちゃったみたいだから無理してたらいけないかな〜って心配してたけどそんなことなさそうかな?」
「むしろこういう集まり結構好きなんでありがたいくらいです」
「うーんもうちょっと砕けた感じで話してくれたらいいっていつも言ってるのに」
アイは遠慮がちな大輝を見て少し不満そうに頬を膨らませる。
子供っぽい仕草のはずだが、アイがやれば歳を感じさせない魅力的な表情となっていた。
そちらに多くの視線が向いたのを見て、アクアは作戦を決行する。
「あっ悪い姫川」
「星野?……割り箸変えるだけだから気にするな」
アクアはうっかり皿に手を当てて、大輝の箸を、床に落としてしまう振りをしながら回収する。
割り箸であるため持ち帰りは問題ない。
DNA鑑定では髪の毛より唾液の方が成功率が高い。
アクアは採取できる物に限りはあるが、最善を尽くしていた。
そしてそのまま、机の下に手を伸ばしている仕草をして、あかねへと箸を受け渡し、代わりにあかねが用意した落としたことにする箸と入れ替え、消えた箸がないように落とした箸として隅に避ける。
(できることはやった。あとは結果を待つだけだ)
アクアは一旦あかねにアイコンタクトを取ってここからは二人も打ち上げを楽しむことにする。
あとは結果を待つだけだった。
打ち上げも後半に入り、お酒の入っているメンバーは少し酔いが回ってきたらしい。
例の如く量が多いゆらは勿論、途中からそれに付き合わされた大輝もいつもより酔っていた。
そんな大輝を見てアクアは少し気になっていたことを確認する。
「なぁ姫川。もし姫川は今更自分の血が繋がった親族が他にいるなんて知ったらどうするんだ?」
「あ?甥っ子とかってことか?聞いたことねぇからいるとしたら隠し子とかか。流石に星野達みたいな事案そうないとは思うが……もしいたら……嬉しいだろうな」
酒が入っているからかいつもより明らかに口が軽くなっている大輝。その本音をアクアは聞いた気がした。
大輝はヒカルに世話をされ、親として振る舞ってもらえて結構幸せだった。
それでも時折親族が欲しいと思ってしまう瞬間がある。
父親も母親も既にこの世を去っており、天涯孤独なのだと痛感させられた気分となるのだ。
そんなナイーブになった大輝を見てアイが声を掛ける。
「大輝君がもし母親が欲しいな〜と思ったら私がママになってあげるよ」
「いや、アイさん若過ぎて母親って感じじゃ……いや星野達の親だったな。若過ぎて頭おかしくなりそうだわ」
自分と12〜13歳しか変わらない相手が母親を名乗るなんて感覚がおかしくなりそうという大輝の考えは至極真っ当だろう。
良くて姉と言ったところだ。
「こう見えてママの母性は凄いから!……というか姫川さんって今ヒカルさんの所に引き取られてるんだよね?」
「ん?ああ、今は一人暮らししてるが結構長いこと育ててもらったな」
そういえばと言いたげにルビーが声を上げる。そんな彼女の言葉を大輝は軽く肯定した。
一体これからルビーが何を言うのかと全員の注目が集まる中、彼女は続きを口にしていく。
「で!私とおにいちゃんはヒカルさんの子供なわけで、つまり実質姫川さんは私の第二のお兄ちゃんって事になるよね!?」
「いいね、そしたら私も堂々とママ名乗れるし!」
「は?いや、血が繋がってるわけでもないんだぞ?」
閃いたと言いたげなルビーの言葉に、大輝は困惑しながらも否定の言葉を口にする。
ただそれには拒絶があるわけではない。
そんな大輝の後押しをするように顔を赤くしたかなが、グラスを持ちながら声を上げる。
「いいじゃない!ほら親も血の繋がりだけってわけじゃないわけで引き取って育てられたなら子供名乗っていいのよ!!わらしらってあかねの両親のことも本当の親みたいに見ちゃってたりするとこあるし?」
顔の赤さから考えて、明らかに酔っ払っているような挙動をするかな。誰も酒を飲ませていないため、雰囲気で酔っていたのかもしれない。
ただ彼女の言葉は、だからこそ本音だと伝わってくる。
真摯な言葉は大輝に確かに届いて、彼は小さく「そうか」と嬉しそうに呟いた。
「ジンジャーエールで酔っとるのすごない?」
「あ、あはは。『東ブレ』の時もなってたからね……ちょっと将来心配かも。……でもその言葉をお父さんとお母さんが聞いたら喜ぶと思うな」
みなみの言葉に対して前例を提示しながら、あかねはかなの言葉を嬉しく思う。
姉妹のように育った時間をかなも大切にしてくれているんだなとあかねには感じられた。
「今なら重ちゃん焚き付けたら告白してくれるかな」
「一生に一回な告白そんな形でやったら後でかなさん泣くやろ」
それからもわいわいと楽しい打ち上げは続いていく。
ただアクアは大輝の言葉が少し心に残ったままになるのだった。