【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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告白

(結果はあかねの予想通り……か。どうするべきなんだろうな)

 

特番の撮影が終わって少し時間が経ち、アクアと大輝の遺伝子鑑定の結果が返ってきた。

その結果を見て、朝からアクアは憂鬱な気分になっている。

相談したくとも内容的に誰彼構わず出来るような代物でもない。

これからどうするか頭を悩ませている。

 

(一応映画について策はある……問題は姫川にこの事実を隠すかどうかだ)

『メディアと世間は真実を求めないってことだよ』

 

アクアは以前にそう言った事がある。

正直なところ、話が順調過ぎて作戦そのものがボツになりかけていた代物だが、こうなってくれば再活用する必要が出てくるだろう。

ただそれと大輝をどう扱うかは別問題だ。

 

『親父の問題は俺がケリをつける』

 

そう言って大輝は、『15年の嘘』で『上原清十郎』役として参加する予定を口にしている。

そこまでの覚悟を決めている相手に対して、真実を隠したまま対応していいのか。

だがこれは知ってもいい気分にならない類いの話である。言わないのも正しい選択に思えていた。

 

今日は苺プロ年少組で唯一アクアだけが学校に来ているのもこの憂鬱さに拍車をかけている。

普段ならば、誰かしらがアクアの様子に気が付いてエールを掛けるところだが、今日は二年生の教室にB小町Rのメンバーは誰もいなかった。

クラスメイトもアクアの様子が少し変なことくらいには気付いているものの、どんな事情かも分からないので首を突っ込む勇気が起きなかったようである。

ほとんど記憶がないまま放課後になり、帰り支度をしていたアクア。

そんな彼に一人の来客が訪れる。

 

「アクア、今日この後って時間ある?」

「空いてる……珍しいな、かなから声掛けてくるなんて」

 

訪ねてきたのは有馬かな。

普段は誘い待ちな彼女なのだが、今日は自分からアクアの元へとやってきていた。

アクアから言われた珍しいと言う言葉に、普段より冷静にかなは返事をする。

 

「まっ、いいじゃない。私もたまには素直なのよ……他の皆がいないんだし、私が力にならないと」

「自分で言うことかよ」

 

後半は小さい声でアクアには聞こえなかったが、自分のことを珍しく素直と言ったかなに、アクアはツッコミを入れる。

対してかなは、アクアを励ますためにここに訪れていた。

かながアクアの調子について知ったのは偶然であり、たまたま校内ですれ違った時の様子がおかしかったのに気付いていたからだったりする。

かなとの何でもない会話を通じて、少しだけ自分の調子がマシになったのを感じ取って、現金だなと自分のことを思うアクアだった。

 

「にしてもどうしたんだ?」

「アレよ、私ももうすぐ卒業でしょ?その前に一回くらい制服デートしときたいなって」

「……」

「にゃ!?」

 

かなが自分からデートなんて言葉を口にしたりやけに行動的だったりと不自然な点が多かったため、アクアはかなのおでこに手を当てて熱がないかを確認する。

アクアから触れてきたことで一瞬にして顔を赤くしたかなだったが、プルプルと首を振って気を取り直した。

今日のかなは簡単には諦められないのである。

 

「なっなにすんのよ!?」

「いや、熱とかあるかと思ってな」

「アンタの中の私はどんだけ素直じゃないのよ」

「お前鏡見て言えよ。普段の自分思い出してまだそのセリフ言えるのか?」

 

自分でも素直でない自覚くらいはあるが、そこまでされると思っていなかったかなは、恥ずかしそうに誤魔化してこほんと咳払いをして本題に入る。

 

「まっいいでしょ?暇なら付き合いなさい」

「はぁ……分かった」

 

楽しそうに笑みを浮かべるかなに釣られてアクアもほんのり笑う。

それから鞄を持って二人並んで学校を出た。

 

「それで何かやる事決めてるのか」

「そうね……正直これと言ってやることがあるわけじゃないのよね〜アクアは何か今やりたい事ある?」

「ノープランかよ」

 

目的もなく歩きながら、二人はこのあとどうするかを話し合う。

これまで頑なにデートではなく、出掛けると言ってきたかなが、あえてデートという言葉をアクアに使った。

アクアはそれがどういう意味なのかある程度察しており、それがまたこの後の行動を制約してしまっている。

 

「アクアこそ考え過ぎよ。でも折角だし他のB小町Rメンバーと行ったことない場所や、やっていない事がいいわね」

「それ結構ハードル高いからな?」

「そりゃ四人も相手いたらそうなるでしょうね。……じゃあ、こういうのはどう?」

 

かながアクアに提案する。

アクアは予想していなかった内容に目を見開くも頷くのだった。

 

 

なんて事ない普通の公園。

子供の姿すらなく、静かなその場所でアクアとかなは二人向かい合って少し距離を空けて立っている。

 

「かなからキャッチボールしようなんて提案されるとは思わなかった」

「アンタ、時々友達とやってるって言ってたでしょ?流石にこれは他の女とやった事ないんじゃない?前世も通じて」

 

言葉のキャッチボールと合わせてボールが互いの間を行き来する。

アクアには言っていないが、おそらく彼女はある程度この日のために練習を重ねていたのだろう。

比較的コントロールされたボールがアクアのグローブに収まりやすい位置へと投擲されているのを見てアクアは感じていた。

 

「……確かにないな」

 

流石に遊び人全盛期だった頃の吾郎でも、女の子をキャッチボールに誘うことも誘われることもなかったなとアクアは思い返す。

そんなアクアの返事を聞いて、かなは、この女たらしでも未経験のことを引き出してやったと得意気な表情を浮かべた。

実のところキャッチボールに友達と行く事があると言う話を聞いた時点で、いつかやってやろうと彼女が一人練習していた成果が出ていたりする。

 

「アンタの50年近い人生で、私が初めて一番最初。よく脳裏に刻みなさい」

「50年は余計だっつの。……というか大袈裟に言ってるけど、たかがキャッチボールだろ」

 

そんな彼女に対して、アクアはキャッチボールで喜んで変わってるなと思いつつも、彼女が投げてくる球を受けながら口を開く。

 

「でもマジでいい球だな。勢いもあるしコントロールもいい」

「そう?始球式アイドル狙えちゃう!?」

 

嬉しそうに言うかなを見て、アクアは彼女がボールを投げる姿を頭の中で思い浮かべる。

B小町Rの知名度やかな自身の活動幅を考えれば、始球式を依頼されるのもあり得ない話ではない。

アクアも彼女の発言に肯定の意を示した。

 

「いいんじゃないか?もしやるなら現地に観に行くぞ」

「言ったわね?ミヤコさんに営業お願いしようかしら」

「理由がないだろ理由が」

 

普段から野球ファンを公言しているような人物が、始球式を依頼するならともかく、こんな雑談で始球式の依頼を探していたらバレた時に一部の過激な野球ファンからクレームが送られそうだ。

 

「このキャッチボールのエピソードをそのまま話せばいいんじゃない?」

「野球ファンには関係ない話だからな」

 

B小町Rは今日本で一番有名なアイドルユニットだ。

そして彼女たちが一人の男に懸想しているのは有名過ぎる話であり、知らないとモグリとすら言われているほど。

その会話の中で出たから始球式アイドル目指しましたと公言したところで、大した問題はない。

宣伝効果を期待する球団側としてはむしろいい宣伝になると言いたいくらいだろう。

 

程々に肩も温まってきたかと言うタイミングで、かなは本題に切り替える。

元々アクアの様子が変だからその理由を聞こうと思って連れ出したのだ。

雑談も楽しいが、アクアを元気にしたいという健気な少女らしい気持ちが根底にはある。

何より、昔から散々助けられた彼女としては、たまには自分が助ける側になりたいと言う気持ちが強かった。

 

「それで?結局アンタは今日どうしてそんなにどんよりしてんのよ。普段より圧倒的に暗いから何かに取り憑かれたかと思ったわ」

「……笑えねぇ冗談だ」

 

アクアはここ最近は会っていない自称神様、ツクヨミの事を思い出す。

アレが本当に人ではない存在だとしたら、ある意味アクアやルビーは彼女に取り憑かれていると言ってもいいだろう。

恐らく宮崎に住んでいるだろう彼女がこの辺りに来ていた『鷹研ぎ』の時の方が異常だったのかもしれない。

 

「何よ、アンタなんか取り憑かれてるような候補でもあったの?」

「これでも転生なんて不思議な現象を体感してるからな」

「……下手な創作よりよほど非現実的な体験してたら不安にもなるわよね、そりゃ」

 

フリルしかツクヨミの姿を見た事がないため、アクアも詳細を語るようなことはしない。

ただアクアの境遇を考えれば、あながちおかしな話でもないよなと、かなは素直に受け止める。

 

「悩んでる理由とかは言えない感じ?」

「まだ言えない。俺だけの問題じゃないからな」

「そっ……まぁ、なら仕方がないわね。でも悩みなんて抱えてても解決しないんだから、もし言いたくなったら言いなさい」

 

アクアの悩みは絶対に言えないものだと理解したかなは、自分が頼られなかった悔しさはありつつも、何か思いやりのようなものを感じたため、引き下がる。

とはいえこうして話をしているだけで、アクアとしてはかなりメンタル的に余裕が出てきていた。

やはり気を遣う必要がないやり取りができる相手は貴重であり、癒しになるということだろう。

 

「そういうかなは、なんか悩みとかないのか?」

 

かなり楽になったアクアは、逆に彼女に聞いてみる事にした。

以前ならともかく、今のかなはB小町Rという友人がいる。

溜め込むようなものなどないだろうと軽い気持ちで聞いたのだが。

 

「そうね……あるっちゃあるわ」

「……どんな悩みだ」

 

まさかの返ってきたのは悩みがあると言う肯定。

アクアは一体どんな話が出てくるんだと精神的に身構えながらも、かなが溜め込まないように尋ねる。

 

「アクアは教えてくれないのに聞くの?……まぁいいけど。私、アイドルを今後も続けるか悩んでるのよね。ほら、私もうすぐ高校生も卒業じゃない?いい区切りかなって思って」

 

アクアは、かなの言葉に動揺して、投げられたボールを思わず取りこぼす。

いつかこんな日が来るかもしれないというのは理解していたはずだった。

 

『確かにやられっぱなしってのはつまんないし?まっやるとしても中学から長くて高校までかしらね。そのくらいの間、本気でアイドルやって私を捨ててったやつに後悔させてやろうじゃない!』

 

元々彼女がアイドルを始める時など、こんな事を言っていたし、アクアも勿論その言葉を覚えていた。

だというのに彼女がアイドルを辞める姿をこれまで想像した事がなかったのだ。

明らかに動揺を見せるアクアを見て、かなはニヤリと表情を崩す。

 

「あら、そんな動揺するくらい私のアイドル気に入ってくれてたんだ」

「……当たり前だろ。そもそも俺がかなにアイドル勧めたわけだし」

「懐かしいわね」

 

アクアのストレートな言葉に照れて頬を赤らめながら、かなは少し視線を逸らす。

かながアイドルになったのは、彼が自分を信じてくれたからだ。

アクアのためにアイドルになった……なんて押し付けがましい事を、かなは言うつもりはない。

ただきっかけになったのは間違いなく、自分なりに損得勘定をした上で、合理的だと判断したからこそ、あの話に乗ったのだ。

それでもしっかりと自分の事も推してくれているアクアを見ると、心が暖かくなる。

 

「アンタにアイドル誘われて、もちろんキツイことも沢山あったし、ルビーみたいにアイドルやるために生まれてきたみたいな子と自分を比べて悔しく思ったこともあったわ。でも間違いなくアイドルをやって良かったと思ってる」

「……それなら良かった」

 

もし、かなが自分の未来のためにアイドルを辞める選択肢を取るとしても仕方がない事だとアクアはわかっている。

それでも寂しいものは寂しいなと思っていると、かなは続きを口にした。

 

「で、私も色々考えたわけよ。私のマーケティングとしてアイドルを続けるのと辞めるのどっちがいいか。さっきまで悩んでたけど、今決まったわ。……私はアイドルを続けるわ」

「結局辞めないのかよ。今の間に決めるようなことあったのか?」

「そうね、私としては十分にあったわ」

 

普段から大きめのライブであれば仕事に穴を空けてでも来ているアクア。

全員分のサイリウムを持って全員にエールを送るアクア。

その本気度をかなは侮っていたわけだ。

初めてライブをした時、アクアの『推しの子』になりたいと思っていたわけだが、本気で5人全員を推しているのだと、決して口だけではないと、ようやくかなは、心の底から理解できた。

そう思えば感情が大きく昂り、気付いたらかなの口は動いていた。

 

「アクアに初めて会った時、私はこの顔だけコネ野郎って思ってたわ」

「めちゃくちゃ酷くないか。とはいっても俺もコイツ、アイの事舐めやがってと思ってたが」

「前世からのドルオタも大変ね」

 

初めて出会った時のことをお互いに思い出す。

まだ互いに小さく、感情のぶつけ合いのような衝突も経験した。

 

「いや、お前が母さんの演技見てもないのにケチつけたのが悪いだろ」

「まぁ昔の私ってほんと口悪かったし?」

「昔だけじゃなくて今も十分悪いけどな」

 

軽口の応酬をしてから互いに目を合わせてからクスリと笑い合う。

それからはキャッチボールと共に飛び交う長い付き合いの思い出。

幼児だった頃から順に、小学生にあがったばかりの頃の話、苺プロに移籍することになった話、アイドルになることを決めた話、アクアが休止していた話、アイドルになった話をしていく。

 

「それと『今日あま』。あの時は本当に助かったわ」

「アレは結局かなが最初から諦めないで頑張ったからこその成功だろ」

 

アクアはマネージャーとしてフォローはしていたが、方針など具体的な部分は彼女が動いていた。

アクアはその補助をしただけに過ぎないと本気で思っている。

 

「アンタにとってはそうかもしれないけど、でも私にとってあの日のアンタは間違いなくヒーローだったのよ」

 

頑張って頑張って、その最後に全てを失いそうになったあの日。

アクアが自分の大切な復帰戦をネットドラマのイメージが良くない端役なんかで使ってくれた時、かなは自分の感情に答えが出せた。

きっと自分でなくてもアクアは対処してくれたのだろうが、それでも嬉しかったのだ。

実際にはもっと小さな頃から持っていた感情ではあったのだが、あの時にようやく理解できたのである。

 

「かな。俺は普段のお前が言う通り、四人も既に付き合ってるやつがいる女たらしだ。誠実なんて口が裂けても言えない」

「自覚症状があるだけマシね」

 

自分の現状を改めて口にすると、その現状の異常さがよく分かる。

雨宮吾郎に『お前、将来推しの子供に転生して、さりなちゃんと兄妹になり、俳優として大成功しながら、アイドル四人と四股しつつ、別のアイドルに告白する事になるぞ』なんて言ってもまず間違いなく理解など得られないだろう。

 

「ただ、俺は四人だけじゃ満足できないらしい」

「……え?」

「今日改めてかなに元気をもらって、俺の今後の人生にかなが必要だと思った」

「ふぇ」

(こ……これっても、もしかして……もしかしちゃう!?え、どっどうしよう!?)

 

今度はかながボールを落としそうになる。ただ何とか慌てながらもボールを落とさずにキャッチに成功する。

アクアに何とかボールを投げ返してから、彼女はアクアの言葉の続きを待った。

アクアはアクアで、これまでは言われる側だったそれを、自分から切り出すのは思ったよりも勇気がいるなと感じて少し止まる。

想いを伝えてきてくれた少女たちに、改めて今度言葉と行動で示さないとなという考えが頭をよぎりながらも、今は目の前のかなに意識を集中する事に決めた。

アクアはシンプルな言葉で彼女に言葉を伝える。

 

「俺と付き合ってくれ、有馬かな」

 

アクアから投げられたボールと言葉を丁寧に絶対に落とさないようにかなはキャッチする。

グラブの中を確認し、取れているのを把握してから、返事を口にした。

 

「……本当に私もいていいの?」

 

小さな頃、一度親から見捨てられかけた少女の隠れた本音。

自分を必要としてくれる相手が欲しいと言う感情が表に出る。

 

「私はルビーみたいに純粋じゃないし、あかねみたいに頭も良くない。フリルみたいにアクアに感性が近くないし、みなみみたいな自己プロデュース力もないわ……それでもいいの?」

「俺はその四人と同じくらいに有馬かなが欲しいんだ」

「ほんとサイテーよ?言ってる事……でも、どうして?」

 

堂々と五股すると言っている男の言葉にかなは苦笑する。

元々はアクアを励まそうと思っていただけなのに、どうしてこうなってるんだろうと思いつつも、期待と不安で、かなの心臓はドキドキと音を立てていた。

 

「どれだけ辛い事があっても自分の力で立ちあがろうとするその強い意志が俺には眩しかった。それに一緒にいて楽しいからな」

 

既にかなの顔は真っ赤であり、目を回しそうなくらいに恥ずかしいのだが、許容値を大幅に超えているからか逆に普通の対応ができていた。

 

「わ、私もしゅき、よろしくあーくん」

(し……し、仕方がないわね。そんなに私のことが好きなら五股男でも妥協してあげるわ。よかったわね〜私が寛容で)

「あーくん??大丈夫かコイツ……まぁいいか。これからもよろしくな、かな」

 

全然冷静ではなかったようだ。

こうしてアクアは、全く予想外の形でかなと交際をスタートさせることになった。

 

 

その後、混乱するかなを家に送り届けてから、アクアは帰宅する。

まだ家には誰もいない時間帯で、アクアは一人部屋でどうするかを考えていた。

かなのおかげで精神がリラックスできたからか、頭が冴えている。

 

「これしかないよな」

 

アクアは自分なりの結論を出して、とある人物へと電話を掛ける。

 

「もしもし、ヒカルさん。今週末、少しでいいから時間が欲しい。答え合わせをしないか?」

 

メディアと世間は真実を求めない。

だが、アクアは真実が知りたかった。

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