【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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克服

予想外に起きた天童寺まりなの登場。その影響は夜になっても色濃く残っている。

家に帰った後もルビーは顔色の悪さが抜けきらず、家に帰るなり汗を流すと言って最初に風呂へと向かい、席を外した。

その間にアクア達はリビングで状況を確認し合っている。

 

「アクアくん……その、天童寺まりなさんってやっぱり……ルビーちゃんの前世の関係者なのかな?」

 

あかねによる確認の意味を込めての言葉。

既に他B小町Rメンバー全員が既に彼女の正体に勘付いているのだろう。

向けられる視線がアクアからわかることだけでも教えてほしいと思っているというのが伝わってくる。

 

「……少なくとも俺が知るあの子の母親の名前と一緒だった。俺は一度しか直接見たことがなかったが、当時の面影はかなりはっきり残っている方だと思う」

 

最近アクアは前世で面識があった人達との再会が続いていた。

ツクヨミなら何か知っているかもしれないが、あの話が終わったところで何時の間にかいなくなっていた。

それこそが知っている証拠とも言えたが、アクアからは連絡を取る術がないため、どうにもならない。

 

「は?ちょっと待ちなさい。アンタって前世でも一年くらいはルビーと一緒にいたんでしょ?なんで知らないのよ」

 

かなはアクアの言葉に不安のせいか少し棘がある言い方で嚙みついた。

アクアとルビーから聞いた話通りであれば、吾郎とさりなは彼女が最後の時までそれなりの期間一緒に過ごしていた。

そんなアクアが細かい情報を知らないなんておかしいと思っての反応だった。

だが、これは単純な理由がある。

 

「見舞いに来てないからだよ」

「は?……」

「さっき言った一回あった事があるってのも危篤の連絡が主治医から送られたときじゃない。何ならあの子が亡くなった後も3日経ってようやく父親が来ただけだった」

 

当時の事を思い出すとアクアは当時抱いていた複雑な怒りが混ざった感情がぶり返す。

実際に吾郎は主治医である藤堂にどうして彼女の両親は来ないのかと八つ当たりのように聞いてしまった事がある。

その時の彼の返事はそんな親掃いて捨てる程いると冷淡だったが、その通りなのだろう。

酒に明け暮れて何とか自分を維持していた吾郎からすればなんでだと言いたい気持ちで溢れていた。

アクアの言った言葉に皆がその状況を想像して暗い気分になる。

普段は明るい星野家に闇が落ちたその時、リビングの扉が開いて一人の女性が顔を出す。

 

「ただいま〜!!……あれ?この空気どうしたの?だ、大丈夫!?」

 

そんな暗いムードを照らすような明るい声が家に響く。

皆が一斉にそちらへと視線を向ければ、年齢を感じさせないあどけないきょとんとした表情を浮かべる今生のアクアとルビーの母、アイが帰ってきた。

アクアは母に余計な心配を掛けまいと口を開く。

 

「母さん、心配しモゴ」

 

ただアクアの言葉は強制的に中断されることになった。

アクアが突然塞がれた口に驚いて横に目をやれば、隣にいたフリルが物理的に手で覆っているのが見える。

フリルはアクアの代わりとばかりにアイへと話しかけた。

 

「お義母さん、お話があります」

「なになに!いいよ、ママ何でも聞いちゃうから」

 

一緒に住むようになってから一ヶ月以上が経ち、稀にお義母さんとアイの事を呼ぶようになったフリル。

アイ自身もその呼び方自体は気に入っており、露骨に反応が良くなった。

それからフリルは今日あった事をアイへと順番に伝えていく。

最初は皆の空気を見て真剣に聞いていたアイだったが、全ての話を聞いた後に、先程のアクアの動きが誤魔化そうとした物だと気が付いてから表情を少し変える。

少しあざとさすら感じる不満顔となった彼女はアクアにじとっとした視線を向けながら彼に話しかけた。

 

「あー!またアクア隠し事しようとしたでしょ!もう一人で抱えちゃうダメっていつも言ってるのに!」

 

アイは母親としてその辺りのアクアの性質はとうの昔に把握している。

子供の頃から相談してねと伝えているのにこれが反抗期か……と言いたげな彼女に対してアクアは返事をする。

 

「母さんにだけは言われたくないんだが」

「ママはもうアクア達に隠し事してないよ!」

「それもそうか。……分かった。母さん、ルビーを元気付けるのを手助けしてほしい。あの時ルビー、いやさりなちゃんに希望を与えた君ならきっと出来る」

 

後半は半ば吾郎としての頼みになったアクアの言葉を聞いてアイは笑顔で答えた。

 

「もっちろん!私はルビーのママでさりなちゃんの推しだもんね!」

 

こうしてアイも加えた星野家メンバーは、改めてルビーが風呂から出たらどう慰めるのか、色々話し合うのだった。

 

 

その頃お風呂ではルビーは一人自分の感情に整理をつけていた。

 

「はぁ……まさかお母さんと会うなんて。……元気そうだったなぁ」

 

ルビーの記憶に残っているまりなは、いつも辛そうでいつからかさりなのことをまっすぐ見なくなってしまっていた。

だからあんなに元気そうな彼女を見たのはいつが最後だろうと思うくらいに記憶に残っていない。

シャワーが彼女の身体を打ちつけるが思考の闇は一向に晴れない。

 

「元気そうなのはいいことのはずなのにどうしてこんなに辛いんだろ」

 

もう彼女は天童寺さりなのことをある程度過去のことだと割り切っている。

アクアに甘える時は口実として使うが、実のところルビーとしても甘えられて一石二鳥なんて考えがないでもないのだ。

それなのにここまで今更過去のことで自分が落ち込むと思わなかった。

 

「私はどうしたいんだろ。お母さんに何か聞きたいこととかあるのかな?」

 

自分の感情をルビーは整理していく。

はっきり言ってアイを正しく母として認識できるようになった頃から天童寺家のことを深く考える日はなくなっていた。

アイとアクアという愛する二人に囲まれて、仲のいい友人達と一緒に最愛のお嫁さんになる。

こんな満たされている彼女からすれば、古傷のようなもので克服できている話なのだ。

もしまりなと再会しなければ、きっとルビーは改めてショックを受けるようなことはなかっただろう。

それなのにショックを受けた理由を考えるとルビーの中で一つの答えが出た。

 

「あっそっか。私がいなくなったのにいた時より元気になってるのが寂しいんだ」

 

自分がいた頃より楽しそうな笑顔を見せていたのが、さりながいらない子だと言われているようで辛かったのだ。

ただルビーはあの頃よりずっと大人になっていて、普通では絶対しないような濃厚な人生経験を積んでいる。

だからそこから考えて冷静に一つの考えを導き出す。

 

「でも私は本当に愛されてなかったのかな。……ううん、きっと違うよね。だって私が死にそうなことが辛かったからお母さんはあんな表情を見せてたんだもん」

 

きっとここ最近ずっと心が満たされていた彼女だからこそ、愛に囲まれて生きた新しい人生を送ったからこそ出せるポジティブな結論。

きっと天童寺さりなのままでは出すことができないだろう考えだ。

そこに思い至った瞬間、ルビーは陰鬱な気分から立ち直る。単純と言われればそれまでかもしれないが、これも一つの問題解決なのかもしれない。

そのままの勢いで風呂から飛び出し、皆に元気な姿を見せようと動き出した。

 

身体を拭き、着替えて髪を乾かした彼女は飛び出るようにリビングの扉を開ける。

 

「お風呂上がったよ~!次誰が入る〜ってママ!いつの間に帰ってきてたの!?おかえり~」

「たっただいま!あ、あれ?ルビー普通に元気だね?私たち励まし企画とか検討してたんだけど」

 

明るく元気いっぱいの声は、空元気などではなくあの嘘のプロであるアイから見ても元気満々なルビーを見て聞いていた話と違うと困惑するアイ。

そんな不思議そうな顔をする彼女を見て、アクア達から話を聞いたんだろうと理解したルビーは、どうして自分が今元気になっているのか理由を口にする。

 

「お風呂で色々考えたら元気が出てきたんだ~。お母さんが撮影現場にいたのはショックだったけど!でもよく考えたらさりなが死んで22年も経つんだよ?よく考えなくても吹っ切れてない方が不思議だよね!」

 

当時彼女に愛されたかったのも本当だし、最後来てくれなくて寂しかったのも本当だ。

だけどさりなは最後一人ではなく、好きな人に見送られ思われていたのだからそれ以上望んだら贅沢なくらいだと本気でルビーは思っていた。

そして、今の彼女が元気だからと言ってさりなが愛されていなかったとも限らない。希望は捨てないでいいと彼女は思い直したわけだ。

可能性は低くとも、知る機会もないだろうしその考えも間違いではない。

ネガティブに考えるより楽しくいこう。それがルビーの出した今を生きる結論である。

 

「それにさ、今の私にはママとおにいちゃん、そして皆がいるから!!」

「っ!ルビー!愛してるよ~!!」

「私もだよママ!!」

 

感極まってルビーのそばに行き、ぎゅっと彼女を抱きしめるアイ。最強の顔面を持つ親子の抱擁。宗教画か何かかと思うくらいに美しい光景を見て、パシャリと横でシャッターを切る音が聞こえてくる。

 

「いい……視力検査今なら全部突破できそう」

「フリルちゃんやないけどほんまに目に良さそうやもんなあの二人。顔良すぎて堪らんってなる人多いやろし」

 

きっとこの後、いつものようにSNSでファンに対して幸せのお裾分けが行われるのだろうなとアクアは頭の片隅で考える。

同棲状態が公表されてから以前にも増してこういった画像が増え、ファンは歓喜しているらしいし、フリルは自由に自分の視力アップコレクションを自慢できるのだからウィンウィンの関係だ。

 

「何よルビー、嬉しい事言ってくれちゃって。アンタがそんな素直な事言うの珍しいんじゃない?」

「私はいつも素直!というか先輩にだけは素直とか言われたくないな~」

「うっさいわね!これでも前よりはずっと素直になったでしょうが!」

 

かなは今自己申告した通り、以前と比べて相当に素直になった。

アクアにしゅきしゅき!とまではいかなくともある程度甘えるようになっているし、以前よりも面倒な部分が減っていると自分でも認識するくらいに。

 

「確かに……。それに!先輩達とはおにいちゃんのお嫁さんズとしてこれからずっと一緒なんだし家族だよ!これが今の私のすべてだね!」

「家族……まぁお嫁さんズって頭の悪そうな呼び方はともかく間違ってないわね」

 

かなはサラッと自分達も大切な物に入れていたルビーに嬉しくなり、明るい笑みを見せる。

散々揶揄われていても友人として改めて言われると嬉しかった。

そんな彼女に対して当然だと言いたげにルビーは言葉を返す。

彼女の場合は友人をすっ飛ばして家族扱いの括りだったが、それでも大切な事に変わりはない。

 

「うちもいつも皆に明るい希望をくれるルビーちゃんの事好きよ」

「ありがと~!私も優しくて包容力あって楽しいみなみちゃんが好き~!」

 

流れか勢いか、今度はみなみがルビーに対してそんな事を口走る。

そのままアイとの抱擁に続いてみなみとも抱き合うルビー。

一時期空気が沈んでいた反動か皆テンションが振り切れているようだった。

 

「撮れ高のオンパレード。……私の指が持つかな」

「連写使って後で整理しなさいよそんなに指バタバタさせなくてもよくない?」

 

先程から撮影に回って忙しそうに立ち回るフリルに呆れたような視線を向けながらかなはそんな助言を言う。

その言葉にはっ!と気付いたような素振りを見せたフリルは、連写での撮影に切り替える。

 

「……重ちゃんに気付かされるとは。星野家のルックスに魅せられ過ぎて思考がマヒしちゃってたね」

「おいごら、これでも学校の成績では上位だったんだけど!?」

「ジョークだよ、ありがと重ちゃん」

「っホント最初から素直に言いなさいよね。今時ツンデレなんて流行んないわよ」

「……どの口が言ってるの?」

 

一度揶揄われた後に素直なお礼を言う事でただお礼を言われるより嬉しくなったかなは、照れくさそうに顔を赤らめる。

 

「あっ!そういえば皆で私を励ますつもりだったって言ってたけど……何やる予定だったの?」

 

ルビーはアイが励まし企画と言っていたのを覚えており、確認のために問いかける。

実際にやってもらわなくとも皆が自分のために考えてくれたことを聞くだけでも嬉しいと思っていた。

そんな彼女の疑問にアイがニコニコしながら答える。

 

「いやールビーがもし明日も元気なかったら苺プロのスタジオ借りて『15年の嘘』のB小町役の子達に手伝ってもらってB小町復活ライブやろーって話してたんだよね〜」

 

最初アイはニノときゅんぱんにお願いしようと本気出していたがすぐにメッセージで私たちを殺す気かと返信が戻ってきていた。

もうダンスなんてしなくなって久しい彼女達がそんな事をすればどうなるか考えたら当然と言える。

 

「うちらからゆらさん達にもメッセージ送ったから七人でって話してたんよね。忙しいやろうにすぐに出来る言うてくれるの皆凄いわぁ」

「え……み、見たい。で、でも私元気なのに皆の時間を使わせるのはどうなんだろ……私の心の天使と悪魔が戦ってる」

 

ルビーがうーんと頭を悩ませているが、内容が平和なためアクアは自然と笑みを浮かべる。

そして周りをチラリと見てまだ皆話し足りなさそうだなと感じて口を開いた。

 

「……皆まだ入らなさそうだし、俺風呂入るから」

「いってらっしゃーい」

 

わいわいと楽しそうな皆にそっと風呂行ってくると告げてアクアはその場を離れる。

アクアが思っている以上にルビーは心が強かった。

ただ、それはそれとしてアクアには少し気になっている事があった。

洗面所に向かいながら、手始めに軽く調べようとスマホを取り出したところで、後ろから声を掛けられる。

 

「お風呂にスマホは良くないよアクアくん」

「……あかねか。大丈夫だろ防水機能付いてるし」

 

そんなアクアの動きに何か意図があるだろうと気付いていたようで、あかねは一人アクアにこっそりついてきていたらしい。

釘をさすように言った言葉の後、その真意を確認する。

 

「アクアくん、何するつもり?」

「特に何か仕掛ける訳じゃない。ただ、天童寺まりなは28時間の事を口にしてた。その辺りが少し気になっただけ。もしかしたらさりなちゃんの気になってたことも分かるかもしれないしな」

 

あかねに対して隠し事は得策じゃないなと考えたアクアは、今自分が考えていた事を簡単に口にした。

ルビーはもう前世の未練はこれで解消と言い張っているが、やはり母親に愛されたかったという気持ちは本物だろうとアクアは思っている。

まだアクアとルビーが互いに前世を知らなかった頃、異常なほどにアイに甘えていたのはその反動の可能性が高い。それくらいに母の愛に飢えていた。

もし調べてみて出たのが嫌な事実であれば闇に葬り去ればいいし、ルビーにとってプラスなら開示すればいい。

そんなアクアの考えを短い言葉で察したあかねは少し考えてから話を続ける。

 

「なるほどね……もし良かったらだけど、私にも手伝わせてくれないかな」

 

最初いつものように一人で大丈夫と言おうとしたアクア。

ただあかねの真剣な眼差しからは逃がさないと訴えかけるように感じる。

あかねはどこかアクアを一人で行動させるのを過度に嫌っている節があるようにアクアからは見えていた。

ただアクアは彼女のそんなところが嫌いではない。

少しだけ悩んだ後、アクアは承諾の意を彼女に示す。

 

「……分かった。ただ無理はするなよ。あかねはまだ撮影がかなり入ってるわけだし」

「アクアくんも人の事言えないでしょ。まだ裏の撮影は残っているワケだし」

「そうだな。お互い無理のない範囲で動こう。『28時間テレビ』はライブ前の大事な時期だしな」

 

星野家頭脳担当の二人は、この後しばらく空き時間に天童寺まりなについての情報を集める事にする。

希望のある真実があることを願った彼らの願いは叶うのか、この時の二人には分からなかった。

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