夏の終わり
「海だーっ!!」
打ち付ける波の音以外に何も聞こえない砂浜にルビーの元気のいい声が響き渡る。
それに続いて車から降りてきたB小町Rのメンバーも、自分たちの他に誰もいない場所に思い思いに口を開いていた。
「へーほんとにプライベートビーチみたいだね」
「そうなんよ〜まえ撮影で使ってなぁ」
この場所について皆に教えたのはみなみだ。
今度発売するグラビア雑誌の撮影で訪れた場所であり、立ち入り可能な海辺だというのに人がいない静かな場所。
いわゆる業界人のみぞ知る穴場と言うべき海は、アクア達が来ても騒ぎにならない。
「ライブも終わってようやくゆっくりできる時間だよ〜バッチリ楽しまないと!」
「と言っても今日はもう夏休み最終日だけどね」
「それは言わない約束だよフリルちゃん!?」
『15年の嘘』『28時間テレビ』そして先日行われたB小町Rライブ。それだけでなく各々の抱えるドラマなどの撮影。
そのどれもが彼女達にとって一大イベントであり、当然ながら本番だけでなく下準備である練習にも相当の時間が費やされている。
それは当然プライベートな時間が大きく削れることに繋がっており、彼女達は同棲始めていて良かったと心から思っていた。
「最近うちら全員ほんまに忙しかったもんなぁ」
「みなみちゃんも来月からのドラマ主演だもんね。凄く楽しみだよ」
「現代のクノイチって設定は楽しそうよね。……というかCM見たけどお色気殺法って何よ。思い切りぶん殴ってたじゃない」
「それはうちも正直ツッコミたいとこあったけど、言うほど露出とかもないんよ。結構いい感じに撮れた自信あるから楽しみにしててな?」
みなみは連続ドラマ『忍びの掟は守られない』で主演が決まっており、既に撮影も9割終わっている。
クノイチだけどお色気殺法(物理)を駆使するヒロインのアクションものという名前からは予想ができない作品だ。
これまで培ってきた彼女の演技力がしっかり作品に反映できたとみなみも自信を持っている。
そんな楽しそうなB小町Rメンバーと比べて、清々しい海を見ているはずなのに暗くなる男が一人。
「海……はぁ……俺の車」
「大輝くんまだ引き摺ってるんだ。またお姉さんの胸の中で泣いてみる?」
大輝は以前アクア、フリル、ゆらの三人を連れて海に来た時のことを思い出して悲しい気持ちになっていた。
そんな彼に手を広げてニコリと微笑むゆらは、清楚なヒロインといった表情だ。
ただ大輝はそんな彼女にじとっとした目を向ける。
「やったらまず間違いなくこの場にいる全員に揶揄われるだろ。というかまたってなんだよ、一回もそんなことなったことないだろ」
「あっ……覚えてないんだ。あの日の……こと」
「いや誰だよ!?ゆらさんが本気でやったらみんな騙されるだろ。勘弁してくれ」
ちょっとしたボケをゆらが混ぜれば大輝もしっかり反応する。
その様子を見てMEMちょが傍にいたアクアに声を掛ける。
ちなみに人数的に五反田の車ですら全員は乗ることができなかったので、MEMちょの車にも何人か乗ってきていた。
「ん?……んん???あれぇ?アクたん、あれってもしかしてもしかする?」
「察しがいいな。ただ確定してはなさそうだからそっとしとくのが良さそうだぞ」
「へ〜あのゆらがねぇ。……あれ?もしかしてほんとに私だけ行き遅れるんじゃ」
以前から仲が良かったが、以前以上に近づいた距離感。
アクアも内心で思っていたことをMEMちょから問い掛けられ、もしそうなら二人のことを応援しようと考えながら返事をした。
「なんで俺が日曜のパパみたいなことをしないといけないんだ」
五反田はため息を吐きながら少し疲れた様子を見せつつ車から降りる。
「カントクさんおっきな車持ってるから」
「……独身なのにね。憧れとかあるのかな」
ゆきとミミは車から降りながら、そんな彼の言葉に理由を口にした。
撮影の時にも五反田の車は使われており、この場にいる全員は最初にこの計画が出た時からこの車を使おうと考えていた。
そしてミミの言葉が結構グサリと突き刺さったのか、五反田は反発する。
「車は広い方が何かと便利だろうが!機材運んだりスタッフ移動したり映画ってのは何かと大変なんだよ」
「あはは〜いいじゃんカントク〜!ほら可愛い子供たくさんって感じでさ〜婚活まだしてるんでしょ?」
最後に降りてきた女性、アイは昔とは違うニコニコとしながらも自然な笑みで五反田を揶揄う。
耐性のない人間ならば、その生まれ持った美貌を最大限に活用した笑顔ひとつで見惚れても仕方がないだろう。
だがすっかりアイという存在に慣れている五反田はそのくらいでは動じない。
「いや、お前は何普通に参加してんだよ。撮影関係な……くはねぇが、元ネタであっても撮影中不在だっただろ」
今回は一応打ち上げという名目のはずなのに、当然のようにいるアイに呆れた視線を向ける。
彼女は結局撮影に一度も来ることはなく、大人しく11月に予定されている試写会を楽しみにしていた。
「えーいいでしょ?折角私も丸々休み取ってるのにアクア達がいない家にいるなんておかしいもん!私だってここで一緒に遊ぶ権利はあるよ!」
「もんじゃねぇよ、子供か!」
こんな事を言いつつも、五反田は付き合いが長いからか、やたら手の掛かる妹のようにアイのことを内心思っていたりする。
だからどこか甘い対応となっていた。
「まさかガキの集団を海に連れてくる為に使うとは夢にも思わなかったわ」
「本当にありがとうございます」
「監督さんにこんな事させてしまってぇ〜」
渋々といった様子を見せる五反田に、あかねとMEMちょはあらためて礼を言う。
五反田は、「まぁいいけどよと自分で了承したしな」と言いながら言葉を続ける。
「男子共はクーラーボックス運べ。あと浮き輪とボート膨らませとけーパラソルとシートも……」
そう言いながら自分も車から色々と取り出す姿は、言葉の割に楽しそうなものだ。
指示通りに五反田の手伝いをしながら、大輝は不思議に思ったことをアクアに問いかける。
「父親面満更でもなさそうだな」
「本当はあの車婚活してた時に買った奴だしな。憧れてたらしいぞ。週末は妻と子供を連れてキャンプに行くの」
五反田からは色々と教わることも多かったアクアはその辺りの事情にも詳しかった。
なんなら婚活を今でも続けており、諦めきれないみたいだと教えると大輝はウキウキとクーラーボックスを運ぶ五反田の背中を悲しそうに見つめる。
「せつねぇなぁ……というかこれからお前とB小町Rの奴らのイチャつきを見せつけられるの婚活してる独身男性に毒過ぎないか?」
「流石に周りに人がいる中でそこまではやらねぇよ」
「ホント、これと血が繋がってるんだから俺の女好きも仕方がないよな」
「自己正当化に俺を使うなっつの」
「流石生き別れの兄弟……仲良いな」
これまでツッコミを入れずに黙っていたメルトも思わず口を開く。アクアと大輝は、二人が思っている以上に楽しそうな会話のラリーを繰り広げていた。
「……ホント喧しいね。なんで私もついてくるハメに……まだ愛瑠に付き合って遊んでいた方が有意義だったような気がする」
「ほらほらつーちゃん!こっちおいでよ、着替えないと!」
「はぁ……ふふっまぁこう言うのも悪くはないか」
そんな男達の言葉のリレー見て呆れた視線を送っていたツクヨミ。
今回はこんな場所まで見に来る必要なかったなと自分の不要な行動を冷静に考える。
ただルビーから呼びかけられ、たまにはいいかと気持ちを切り替えたツクヨミは、ゆっくりとそちらに向けて歩き始めるのだった。
各々何をするかは自由だが、海ということで全員が水着に着替える。
五人の彼氏という大役を担っているアクアは、水着の感想を告げようとする。
そんな彼の前には"六人"の女性がいた。
「……なんで母さんもいるんだよ」
「あーアクア酷いよ!ほらほら、ママの水着見て何か言うことない?」
アイの水着は上は白のヒラヒラとした可愛らしいビキニで、下はパレオが巻いてある。
どこか清楚な感じは、彼女の持つ魅力と噛み合っており、アクアは素直に感想を口にする。
「最高に可愛い」
「わーい!私もまだまだ若いって言えるね!」
息子に褒められてアイはその場でぴょんぴょん跳ねる。
年齢を感じさせない可愛らしさが似合う完成された容姿は、そんなあざとさすら感じそうな仕草も自然と許容させた。
「マザコン……」
「おい、というか推しが似合う水着来てるんだからこれ以外に言う言葉ないだろ」
「ふーん……じゃ、じゃあ私のは……どう?」
かなが選んだのは水玉模様の入った黒のビキニ。
水玉が幼さの残る彼女の容姿と噛み合わせつつ、黒で大人な雰囲気をプラスしていた。
「チョイスがかならしいな。自分の強みを理解してて可愛いと思う」
「そっ……なんか負けた気がするけど、まぁ許してあげるわ」
口では少し不満そうにしながらも表情はニマニマと笑顔を隠しきれないかな。
アクアはそのまま順番に彼氏として、一人の男として感想を述べていく。
「ルビーは一緒に選んだから知ってはいたけど、よく似合ってる。可愛いな」
「やたー!おにいちゃんありがと!好き!」
ルビーのピンクで可愛らしい幼さを感じさせるが、しっかり出るとこは出るビキニは色香を感じさせる。
ルビーはアクアの言葉に満開の笑顔をいつものように振りまいた。
「あかねは、あかねって素材の良さを一番活かせる水着を選んできたな。綺麗だ」
「ふふっありがとアクアくん。お母さんと一緒に選んだんだよ」
あかねの白地に花柄の浴衣水着はスタイルの良さと合わさっていつも以上に大人びた美しい印象を与える。
あかねも浴衣水着は初の挑戦だったが勇気を出して着て良かったと思っていた。
「みなみは普段可愛いって印象が強かったけど、今日は綺麗が先行するな。思わず見てしまう魅力がある」
「そう言うてもらえるなら狙い通りやから……もっと見てくれてもええよ?」
みなみの前面はしっかり隠しつつ、背中は思い切り見せる黒の水着も、白い肌が強調されて目を惹かれる。
みなみ自身照れはあれど恥はなく、アクアの言葉に嬉しそうに表情を綻ばせる。
皆それぞれ個性が出ており、アクアから見ても本当に魅力的だった。
そしてトリに回されたフリルにアクアは最後に感想を口にする。
「フリルを見た瞬間ツッコミ入れそうになったのを我慢した俺を褒めて欲しい」
「ごめんねマリン。今日は割と泳ぐつもりだったから」
フリルは自分も流石にこの格好で可愛いと言われたいとは思っていなかった。
何せウェットスーツを着込んでシュノーケルを装着したいかにも本気で泳ぎますというガチガチの装備をして可愛らしさを排除していたから。
「だろうな……また別の機会に期待してる」
「そうだね。二人でプールでも行こっか」
「……策士やなぁ」
デート機会自体は今後B小町Rには平等に訪れる予定なので、単純に行き先を決めるような形だ。
ただ自然と水着デートを組み込めるというのは攻め方として上手いなと思うみなみ。
「もうあそこまで堂々と褒めてるの見ると感心するわね。私たちも褒めてもらう?揶揄い甲斐はあると思うけど」
「いい……アクアは深入りは危険だから」
友人として付き合って行く分にはいいが、アクアは深入りし過ぎるとちょうどB小町Rのように沼に落ちてしまいそうという魅力がある。
ちょうどいい線引きが大切だと女友達二人は思っていた。
「……はぁ、世の中不平等じゃねぇか?」
「あー元気出してください監督さん」
「そ、そうですよ!アレはアクたんがおかしなだけで参考にしちゃダメというか」
「今度の婚活上手く行くといいんだがなぁ」
最初に危惧された通りアクア達のオーラに当てられた五反田は少し自信を喪失し、それをメルトとMEMちょがフォローする。
この自信がない状態で相手と会っても上手くはいかないだろうなと内心二人は思いつつも口には出さないでおいた。
「あーまじで俺の将来が不安だ。大丈夫かこれ」
「兄の姿を見て弟が心配するのは分かるけど、逆は珍しいね」
独り言のつもりで呟いた言葉だが、いつの間にか近くに来ていたゆらに拾われた大輝の言葉。
予想外の返事に一瞬驚くが、大輝はそのまま会話を続ける。
「あいつは俺よりしっかりしてるしな。それがああなるわけで」
「ふふっじゃあ大輝くんがそうならないように見張っててあげるよ」
「はっ?」
くすくす笑うゆらに大輝は少しドキリとして彼女の方を向く。
これからずっといるような言葉の真意を確認しようとしたところで、今度はゆらが話を振った。
「それで、どうかな大輝くん。お兄ちゃんとして弟の見本にならなきゃね」
「マジかよ……あー似合ってるんじゃないですかね」
「なんで敬語に戻ったの?まぁいいよ、ありがと」
赤という派手めな色でありながら、品のある佇まいが合わさって実に似合っていた。
動揺したまま話した大輝の感想に、ゆらは嬉しそうに微笑むのだった。
皆が好き勝手に動く中、アクアは順に皆の下を回る事に決める。
最初はアイとルビーという星野家組であり、そんな彼女達は何故か木の上に登っていたツクヨミを見つけて声を掛けた。
「ほらほらつーちゃん一緒に泳ごう〜」
「あっいいね!折角の海だし泳がないともったいないよ」
「あのね、私は」
アイとルビーに誘われるツクヨミはスクール水着。
ただどれだけ本名バレが嫌なのかツクヨミと名前のところに書かれている。
「あっ!もしかして泳げないとか」
「はぁー?泳げるしなめんな」
「チョロいなあいつ」
ルビーのナチュラル煽りに乗っかって泳ぐ事になったツクヨミ。
演技の時と同じくある程度できる自信があってのものだとアクアは思っていたのだが、実際はじまるとそれが違うのがわかる。
「おかしい。羽ばたきとそこまで変わらないものだと思っていたのに」
「羽ばたき?なんかつーちゃん面白いこと言うね」
「水の中で羽ばたくってつーちゃんペンギンだったの?」
「違う。ぶっ水が」
ただ実際に泳ぎを始めると明らかに泳ぐのは下手そうな様子を見せていた。
まだ小学校に入っていなさそうな年齢なので泳ぎを学んでいなくても不思議ではないのだが、普段神秘的で大人びた様子を見せるツクヨミが苦戦しているのが、アクアは少し新鮮だ。
結局アイとルビーによって泳ぎ方を教わる事になるツクヨミ。そんな彼女にアクアはたまには子供らしいなと思い、親近感が湧くのだった。
しばらくツクヨミの泳ぎ教室を見ていたアクアだが、続いて向かったのはかなとあかねの所である。
二人はアイドルとして女優として肌を大切にしなければと日焼け止めを塗ろうとしているらしかった。
そんな中、かなはアクアを見つけて声を掛ける。
「あっアクア!アンタ、私たちに日焼け止め塗りなさいよ」
「いつになく攻めた話をしてきたな。まぁいいけど」
アクアにすっと日焼け止めを渡しながらそんなことをいうかなにあかねからの入れ知恵だろうか?と思いつつも受け取り了承する。
そんなアクアに驚いたかなは、明らかに動揺しながら言葉を返した。
「い、いいの!?えっあっど、どうしよう揶揄うだけのつもりだったのに」
「慣れねぇことするなよ。……でどうする?」
「かなちゃんはやっぱりやめとく?私はお願いするよアクアくん」
「マジか。ここで乱入があるとか考えてもなかったんだが。……いいけど」
悩んでいるかなを差し置いて、これまで黙っていたあかねがすっとアクアの膨らませていたボートの上に寝そべる。
その肢体は白く綺麗で、普段からケアを怠っていないことがよく伝わってくる。
アクアは精神的に余計なことを考えないよう黙々と作業をするが、内心少しドギマギしながら作業を終えた。
「ふふっありがとアクアくん」
あかねも流石に恥ずかしかったのか頬を赤らめながら感謝を述べた。
アクアは気恥ずかしさを誤魔化すのも合わせて再びかなに話を振る。
「で?かなはどうするんだ」
「……うぅ……お願い」
上目遣いに涙目、彼女自身の容姿も合わさってアクアはあかねの時に続いて悶々としながら塗っていく。
これじゃまるで何も知らないガキだなと自分で思いつつも、今世ではこういった体験はしてこなかったのであながち間違いでもないだろう。
この短い間にグッと疲れたなと思うアクアだった。
かなとあかねの下から離れたアクアは、わいわいと楽しそうな声が聞こえてきたのでそちらに向かうと今度は埋められているMEMちょを発見した。
「……何やってんだ」
「あっマリン。見て見て虚乳MEMちょ」
フリルの言葉の通りMEMちょは埋められているだけでなく、砂で肉体が作られている肉体は本物の彼女より随分と盛られていた。
「ちなみにモデルはみなみ」
「え!?これうちがモデルやったん!?」
「きょの字が違いそうだよぉ!?」
モデルと素体がどちらも思わずツッコミを入れるフリルのボケなのか本気なのかわからない発言。
作られる過程を見ていたゆらも楽しそうに笑いながら口を開く。
「あははは、いいじゃんMEM。バズるかもしれないし撮っとく?」
「う〜……どうしようかなぁ」
「ここで悩むんがMEMさんのプロ根性を感じさせるなぁ」
「悩むってことは撮っとくね!後でないってなったらしなしなになるでしょ」
長年の付き合いできっとアップするだろうと考えた彼女はパシャリとスマホで撮影する。
普通に呆れ顔のアクアを一応フレームアウトさせているが、隣にいるメンバー的に一緒にいるのは察されるだろう。
あとでMEMちょはどうしよう?と悩みながらもアップして虚乳MEMちょはトレンド入りする事になる。
「あっアクアくん」
「さっきぶりだな、あかね」
先程素肌に直接触れた気恥ずかしさで少し恥ずかしそうな様子を見せる二人。
水辺でボールを使って遊んでいたのはあかね、ゆき、ミミの三人。『今ガチ』女子組のメンバーだった。
いつもより少し緊張しているように見えるアクアとあかねを見て、ニマニマとした表情を浮かべたゆきは、アクアへ声を掛ける。
「女の子の肌に触るなんて責任取らないとねアクア」
「そこだけ取るとマッサージ師は重婚不可避だろ」
「ほら、それはお仕事だから」
親友の恋が叶ったことを喜ぶべきか悪徳五股男に引っ掛かってしまっていたことを嘆くべきなのか。
ただ少なくともあかねは彼でないとダメだろうという謎の確信があるため、アクアのことをイジるだけイジる。
アクアが助けを求めるように黙って様子を見ていたミミへ視線を向けると、ミミはビクッとしてから言葉を発した。
「……ミミは六人目にはならないからね?」
「俺もこれ以上手を出すつもりはないから安心しろ」
どこか小動物めいた警戒をするミミに対してアクアも苦笑しながら答える。
一体何を事前に吹き込まれたんだろうかとアクアは呆れるが、そんな二人に対してゆきとあかねは少しジトッとした視線を向けていた。
「多分アクアがもうちょっと手広かったらミミは危なかったよね。チョロそうというかチョロいというか」
「分かる。ちょっとハマっちゃいそうな感じあったもんね。今も可能性ゼロじゃないというか……アクアくん、もし増やす時は皆集めて会議してね?」
「増やさねぇよ!どんだけ信頼ないんだ」
「……五股してるのにそんな信頼あると思う?」
アクアはゆきの言葉に少し考える素振りを見せ、そしてなんの説得力もないことを理解して言葉が止まる。
そして自分がチョロいと言われたミミも、密かに自分そんなこと思われてたんだとショックを受けていた。
なんとなくミミに申し訳なさを覚えたのもあって逃げるようにその場を離れたアクアは、次は男衆の下へと向かう。
「おっ早熟来たか」
「なにやってんだこれ」
「見りゃ分かるだろ?スイカ割りだよ」
五反田の言葉通り、今はメルトが目隠しをしており、大輝の適当な指示に翻弄されて変な方へと足を進めている。
「ほら、そこだそこ。思い切り行け」
「いや、これ絶対違うでしょ……あーでもわかんねぇ!やっぱ違うじゃん。大輝さんせめて近いとこに誘導してくれないと」
「それだとすぐ終わっちまうだろ」
仕方がないとその場で振り下ろされた棒は、ぼすっと土を叩きつけ、なんの成果も発生させない。
感触で外したのが分かったメルトは悔しがりながら大輝へと文句を言う。
「じゃあ次交代で俺な?見とけってそもそも回転されたくらいじゃ一流の役者は向きを見失わないからよ」
「……一流の役者ってすげぇな。ってアクア、いつの間に来てたんだ?」
「さっき。どうせ姫川外すだろうから真面目に案内してやったほうがいいぞ」
アクアの言葉を聞いてメルトはしっかり大輝を誘導していく。
ただ大輝は先程自分が騙したせいか少し疑心暗鬼になっていた。
「メルト、お前は一つミスをしたな」
「え?何をっすか」
「俺の感覚が言ってる。この右隣にあるってな」
そう言って折角真正面にいたのに九十度回転して虚空を打ち付ける大輝。
実はこの人ポンコツなのか?となったメルトは、これまで以上に大輝に親近感を覚えるのだった。
それからも泳いだり遊んだりと賑やかに過ごす時間はあっという間に過ぎていく。楽しい息抜きももうすぐ終わりだ。
五反田が家から持ってきたBBQセットを使ってのBBQが終わりを彩る。
「ほらあーくん、いい感じに焼けたわよ!あーん」
「んっありがとう……美味いな」
珍しく素直に肉を渡してきたかなに驚きつつも、アクアは目の前に差し出された肉を食べる。
自分の焼いた肉を褒めてもらえたのが嬉しいのか、かなは言葉を続けた。
「でしょ〜あかね程の見分け力はないかもしれないけど最近は慣れたもんね」
「うんうん、今のはいいよかなちゃん!アクアくんの食べたい順序をちゃんと把握してる」
「あかねは何目線なんだよ」
「うーん……ファン目線?」
かなとの関係は複雑に絡まり過ぎていて、あかねにとっては色々な側面がある。
今回は純粋に我が子のような推しのような気持ちで見ていた。
後方母親面よりはマシかもしれない。
「つーちゃん、私たちもアレやろ?はいあーん!」
「なんで私が星野ルビーの食いかけを……分かったよ」
「ふふっツクヨミちゃんってつんでれ?って奴なんだね〜」
「星野アイ?分かっていってるのかな?私がその気になればね」
星野母子に翻弄されるツクヨミ。
近くにいる人たちは、普段の超然としたツクヨミではなく年相応とは言わずとも子供らしい姿に微笑ましくなる。
アイとルビーのカリスマ性が成せる技なのかもしれない。
「その気になればできてもツクヨミちゃんはやらないでしょ?」
「何を根拠に」
「ツクヨミちゃんはアクアとルビーが大好きってとこが一緒だからなんとなく分かるんだ〜」
「別に好きなんて言ったことないけどね」
ただ嫌いとも言わないツクヨミを見て、昔の自分並に素直じゃないなーと思うアイだった。
「MEMちょ、私たちもアレやろう」
「いやいやフリルちゃんはアクたんとやればいいのでは!!?ってもう口開けて待機しちゃってる!?」
アクアがかなに食べさせられているのを見て影響されたのはルビーだけではない。
推しから食べさせてもらえるチャンスを逃すまいと目を瞑って口を雛鳥のように開いて待つ。
それに対して思わずMEMちょはツッコミを入れたが、フリルには言い分がある。
「今日は重ちゃんが勇気出したで賞で譲ってあげようかなって」
「かなちゃん、お家一緒になってもアレが限界なんだ……ちょっと可愛いかも」
兄妹の壁を軽く越えるルビー、明らかに重力が強いあかね、画面にいても押せ押せのフリル、ポイントをしっかり押さえてアピールするみなみ。
彼女達に囲まれているのに一人慎ましやかに頑張るかな。
そんな彼女にMEMちょはそんなことを思う。
他にも影響されている人物はいる。ただ少し珍しい人物と言って良かった。
「あはは〜大輝くん、私たちもやる〜?食べる方でも食べさせられる方でも良いよ」
「ゆらさん酔っ払いすぎだろ。普段より明らかに早いぞ……疲れてんのか」
「酔ってないって〜ほらほらもっと飲も飲も!」
けらけらと笑うゆらは、誰がどう見ても酔っ払っていた。
そこまで酒に弱いわけでもなく、量もまだそれほど入れていないはずなのにと大輝は少し不思議に思う。
ただこの場をどう乗り切るか、色々と試行錯誤をして対処する事に。
ただ午前中にドキリとさせられたからか、絡み酒になっている彼女にも少し緊張させられる大輝だった。
「ゆらさんってお酒入るとこうなるんだ……普段はめっちゃ頼りになる大人って感じなのに」
「大丈夫かな?……なんか狙われたりとか」
ゆきとミミの心配を聞いて、彼女達よりゆらとの付き合いが長いみなみが代わりに答える。
「大丈夫やと思うよ?うちも現場で一緒になった事あるけど、人見て飲む量決めとるみたいやし。大輝さんが信頼されとるんやね」
みなみも薄々あの二人の可能性を感じていたが、そこまでは言及しない。
二人がどうなるかはまだまだ不明で、いつかそうなったら楽しいかもなと思うだけに留めていた。
「なんかどいつもこいつも青春してんな。鳴嶋メルト、お前もそういうのあんのか?」
男二人でポツンと肉を食べていた五反田は、対面にいるメルトに声を掛ける。
メルトは顔立ちも整っており、そういう浮いた話をもっと聞いていてもおかしくないと思っていた。
「前は結構色々してましたけど、今は全然。役者として成功したいんで」
あの日、アクアとかなに演技の魅力を教えられた日から、メルトは演技に全力を注いでいる。
他の皆が進む以上に前に行けないと追いつけない。だから時間を精一杯活用していた。
五反田は言葉を聞いてメルトの目を見る。諦めない目は、夢を追いかける希望を持っていた。
「良いこと言うじゃねぇか!今度俺が監督する映画でキャスト空いてるのあるんだけどやるか?」
「っ!?是非!」
賑やかな会話は最後まで静かになることなく続き、長かった夏は賑やかに終わりを迎えるのだった。