【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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たった一つの願い

静かに始まったもう一つの『15年の嘘』。

『15年の真実』と身内からは呼ばれている映画だ。

元は映画を分ける予定がなかったため、『15年の嘘』と両方呼ばれていたのだが、いつしか二つを分けるためにそう呼ばれるようになっていった経緯がある。

その始まりは上映版の『15年の嘘』とは異なり、金髪の少年が閉じられた扉の前でランドセルを横に体育座りしているところから始まる。

 

『……帰ってこないなぁ』

 

どうやら幼い少年は親を待っているらしい。

家の鍵は閉まっており、彼は自分の家に戻ることができないようだった。

 

『お腹空いたよお父さん……』

「驚いた……よく調べたね」

 

驚きながら小さく隣のアクアに問いかけるヒカル。そんな彼にアクアは同じく映画の邪魔にならないよう小さく言葉を返した。

 

「元の住所は結構簡単に辿れたから、あとはその近所に住んでいた人とかから目撃証言とかな」

「そこまで動いてもらえるなんて親冥利に尽きる……なんて言った方がいいかな」

「ああ、父親だし恩人だから可能な限り最高の条件で結論を出してほしいんだよ」

「……」

 

アクアの言葉にヒカルは言葉を返せずに沈黙し、映画に集中する事を決める。

映像の中で時間は過ぎてそのまま日が暮れていき、結局その日、彼の親は帰ってこなかった。

そしてそれからしばらくして、彼は施設に送られる事になる。

 

 

景色は暗転して変わり、続いて映されたのは少し古びた一軒家。

パリンというガラスが割れる音と共に現実を映していないような遠い目をする黒髪の少女の姿が映される。

音の原因は少女の面影がある女性が、彼女の傍にグラスを投げつけたから。

 

『ねぇ答えてよ!アンタまだ9歳でしょ?なんであの人はアンタに色目なんて使うの!?私結婚まで考えてるのよ?私の幸せを邪魔しないで』

 

ひとしきり女性は叫んだ後、手を上に振り上げ……何かを堪えるようにその場から離れる。

日の機嫌によっては直接手が出てしまう事もあっただろうというのは容易に想像できた。

彼女、星野あゆみはアイの実母である。アクアとあかねが調べた結果、現在の住所を確認し、彼女から直接話を聞いたところもある。

 

『まさか孫の顔を見られるなんてね……孫のお嫁さんの姿まで見る事になるとは思わなかったけど』

 

アクアは話を聞きに行ったとき、そんな言葉を掛けられたのが印象的だった。

そんなあゆみを演じたのはあかねだ。

直接話を聞き、プロファイリングを駆使して、可能な限り本物の彼女を再現するためは、彼女ほどの適任はいない。

事実彼女は、自分勝手でも複雑なあゆみの心情を上手く映像で伝えられていた。

 

『食べようかな。いただきます』

 

ただ、そんな自分勝手な感情は幼い少女には伝わらない。

幼い少女、星野アイは、話が終わったのを確認してから食べようと思っていたご飯を再開する。

ガラス片がいくつか白米の中に混じってしまっており、それを退けてから、箸で米を一口分口に含んだ。

 

『……いたっ……まだ残ってたんだ』

 

ガリっという硬い感触と共に、口が切れる感覚に思わず顔をしかめるアイ。

悲しそうな声でそう言った彼女はゆっくりとご飯を食べ進める。

それから数日後、彼女の母と、少女に色目を使った男は破局した。

 

 

それから時間が飛んで、再び場面が変わり、今度はヒカルの人生に転機が訪れる。

手に職を付ける過程として、施設から勧められたララライに所属する事になった。

 

『ほ~色男だな。俺の若い頃みたいだ』

『言うじゃない清十郎。妻の前で昔の武勇伝でも語る気?』

『いや、人聞き悪いからね!?とにかくよろしくヒカル。俺は上原清十郎、あっちは妻の愛梨だ』

 

大輝の演じる清十郎とフリルの演じる愛梨。二人はヒカルがやってきたのを見て、最初は純粋にかわいがっていた。

だが、ヒカルのまだ何も知らない本当に無垢な姿と持って生まれた魔性の魅力は、人を狂わせていく。

 

『ねぇヒカル……私と楽しくて気持ちがいいこと……しない?』

『え?どんなことですか?』

『ヒカル、私は貴方を愛してあげる』

『愛梨……さん?』

『ね?いいでしょ?貴方は本当にかわいいわね』

『……はい』

 

愛梨は自身の持つトラウマと、ヒカルの輝きに当てられて、少しずつ歪んでいった。

ヒカルも子供ながらにそんな言葉を掛けられて貪られ搾取される。

これがおかしいことだと気が付いた時には、もう手遅れで、身体を差し出すことでしか愛され方が分からなくなっていった。

 

 

再び暗転してから場面が変わる。

今度は何処かの施設で毎日のように手紙が来ていないか職員に確認する子供の姿だ。

 

『今日も手紙来なかったな……』

 

早回しにされた映像は、月日の流れを感じさせる演出となっている。

日付を確認してから毎日施設の入り口に視線を向けるアイ。

 

『お母さんもう出所したはずなのに迎えに来ないや。どうしてだろ……私っていらないのかな』

 

結局彼女を迎えに来る母親なんてどこにもいなかった。

この情報はアイから聞いたわけではない。

当時の施設にいた人や担当者に話を聞いて組み上げた話だ。他にもナイーブになっていた時のアイが、きゅんぱんに話した事もあるという。

アイも本当に全部見せるとは聞いていたが、ここまで調べているのには正直驚かされた。

今更過去で傷つく程彼らは弱くない。アクアが信じた通り、冷静に自分の過去を見ていく。

 

 

これは真の意味で二人の始まりの物語。

アイの人生を俯瞰で見るのと同時に、ヒカルの人生を見ていく映画だ。

アイのシーンは共通の場面が多かったが、ヒカルのシーンはその多くが撮りおろし。世間に公開される事はないフィルムとなっている。

彼のいた施設やララライ、当時の住所付近に住んでいた人などからも情報をかき集めて作り上げたもう一つの物語だ。

この映画は自分達の昔を改めて二人に見せるという目的以外にももう一つ。

アイにヒカルの、ヒカルにアイの人生を見せる事が目的となっていた。

二人は互いの事を知らない。嘘つき同士に必要なのは、嘘を取り払った互いの歩みだ。

『15年の嘘』のベースなだけあって、アイのパートは映画の流用が多い。

だが所々見せ方が変わったそれは、アクア達から見てもまるで別の映画かのようだった。

 

そしてヒカルのパートは完全な撮りおろしである。

 

『君は勝手に産んだんだ。僕も勝手に助けてもいいだろう』

 

ヒカルがヲタ芸赤ちゃんを初めて見た時。

 

『初めまして、僕は神木輝。君のことはよく知っているよ。演技もしっかり見させてもらっている。これとか僕のお気に入りでね』

『『ばぶ!ばぶ!ばぶ!ばぶ!』』

 

ヒカルが初めてアクアと会った時。

 

『無事だとよ。なんとか峠は越えたらしい。意識は戻ってねぇらしいが、少なくとも命に別状はないってさ』

『あぁ……よかった』

 

アイがリョースケからの襲撃の際に助かったと知った時。

ヒカルにとって主だったアイに関する場面は、全てこの映画に詰め込まれている。

ちなみにこの場にはいないが、アクア、ルビー、かな、あかねの子供時代は、全てツクヨミが担っている。

アクアはツクヨミから『あのね、私の事なんだと思っているんだい?こき使いすぎだろう、もうちょっと敬え』とお叱りを受けたとか。

 

4時間。それがこの映画の総時間だ。

『15年の嘘』から消えた部分もあるが、それ以上にヒカル関連で増えた部分も多く、トータルでは上映版より長くなった。

だが、カットするべきところはないと言い切れる程に、この映画は完成されていた。

最後にアイとヒカルが話すシーンが流れたところで、画面は暗転し、映画が終わったと判断した二人はアクア達に感想を述べる。

 

「……想像以上に良い出来だったよ。僕より僕に詳しいんじゃないかいアクア」

「そう言ってもらえたなら徹底的に役作りをした甲斐があった」

「ホントだよ。ルビーも私!って感じだし、皆もそれぞれ演技うまかったなぁ」

「やたー!ママに言ってもらえるとほんと嬉しい!」

 

アクアとルビーだけでなく、全員で情報を整理して、神木輝と星野アイの二人を分析した結果だ。

返事をしたアクアとルビーだけでなく、皆嬉しい気持ちが湧き上がる。

 

「あっ!でも二人とも映画はまだ終わりじゃないよ?まだちょっとだけあるんだ〜」

「「???」」

 

ルビーの言葉に首を傾げる二人。

あれほどキリがいいところまで放映したというのに、何が残っているんだろうかと考えていた彼らに、ルビーの言葉は間違っていないと証明するように画面が変わる。

映画のエンドロールに流れたのは『アイドル』を歌うルビー達……ではなく、少し古い画質のイマイチな映像だ。

画面に映るのは一番星の輝きを持つ一人の女性、今より幼い彼女が画面の向こうにいるだろう息子に向かって話し始める。

 

『きっとアクアは私達がどうして別れたか。そこが気になってるよね』

「えっ!?ちょ、ちょっと待ってアクア!と、止めもごもご!?」

「ごめんねママ。でもおにいちゃんがこうした方がいいって言うから」

「もごーごもごもごもご~(ルビーの裏切り者~)」

 

始まった映像が何なのかを理解したアイは、これまで見たことがないほどに動揺して、なんとか隠そうとして声を上げたが、事前にその可能性を考えていたルビーがアイを取り押さえる。

完全に娘に体格で負けているアイは、簡単に取り押さえられてしまい、顔を赤らめながら娘にジトっとした視線を送った。

推しからの視線に心が痛むルビーだが、何よりも信じている兄がこれが母のためになると言っているのだからとルビーも我慢する。

 

「珍しいもの見たわね、あのアイがこんなに動揺するなんて」

 

付き合いの長いかなも見たことがないアイの様子に驚きの表情を浮かべている。

普段のアイは多少変な事があってもサラッと流してしまう大胆さがあるが故の驚きだが、それに対してみなみは苦笑いをしながら小さく返事をした。

 

「うーん、でもこれアクアさん大概鬼畜やと思うんやけど」

「確かにそれもそうね。私だって告白を人前で上映されたらこうなるわ」

「いや、重ちゃんなら普段から大差ないでしょ」

「そこがかなちゃんの可愛いところだもんね」

「しれっと私を弄ろうとしなくていいのよ、画面に集中しなさい!」

「いや、これはあまりまじまじと見てやらない方がアイさんのためだろ」

 

横で小さくそんな会話がされているが、ヒカルはサプライズ映像の方に意識を持っていかれて気にする様子を見せずに、映像のアイが何を言うのかを待っている。

本物のアイが取り押さえられている中、画面の向こうにいるアイは、アクアへ話しかけるように分からないなりに自分の当時の感情を口にしていく。

 

『君を背負えないから別れよって『私は君を愛せない』って。私"達"が居なくなればきっと彼は大丈夫だと思った』

 

自分と上原愛梨はそれほど変わらないのではないか。愛がわからないくせに彼を束縛する存在なのではないか?という考えがどうしても彼女の中にはあった。

誰よりも嘘が得意で誰よりも嘘を見抜けるヒカルには、このアイの言葉が本当なのだと分かってしまう。

 

『最初は産むの怖かった。彼の負担になるのは分かってたから……でも出来なかったなぁ。……本当は彼とずっと一緒に居たかったから』

『彼の背負っているものを一緒に背負って、彼の子供達と一緒に……一緒に未来を生きたかった』

『愛とかよく分かんない私が愛したいと思った初めての人だから』

『ねぇアクア、15年後の君たちから見てあの時の言葉はちゃんと嘘だった?愛せないなんて嘘だったよね?』

 

そんな言葉を最後にアイが手を伸ばして録画終了をしたところで映像が終わる。

アイが未来のアクア宛てに残したビデオレターが終わったところで、アクアはアイとヒカルに向けて言葉を向けた。

 

「母さんには一回言ったけど、この言葉に今改めて言わせてもらう。アイのあの時の言葉は愛だった。これはヒカルさん……父さんに母さんが残した時を超えたラブレターだ」

 

アクアは面倒な二人に自分が考えるこのビデオレターの正体を口にする。

これ単体だと流石に唐突感はあるが、先程までアイの人生を見てきたヒカルにはこの言葉がしっかりと身に染みるだろう。

 

「もごも~!?(アクア~!?)」

「わ~ママ顔真っ赤だ……可愛い~待ち受けにしたいなぁ」

 

未だ捕縛されたままのアイが、アクアの言葉に更に顔を赤くする。

自分がどう考えているか以前に、息子が解説した通りならば自分の行動は凄く恥ずかしいのではないかと考えられるくらいには、今のアイは人間味に溢れていた。

 

「ルビーちゃん、ファンの一面出ちゃってるよ……気持ちはすっごくわかるけど」

「というか恥ずかしさもあるでしょうけど、酸欠なんじゃない?そろそろ離してあげたら?ビデオレターも終わった事だし」

「あっ!ご、ごめんねママ」

「ぷはっ死ぬかと思った~皆酷いよ~!?」

 

アイは本当に酸欠になっていたわけではない。

だが、自覚できるほどに顔が赤くなっているのを誤魔化すようにそう口にしてから、自分の手をうちわ代わりにして、熱を冷ますように顔を仰ぐ。

そんなアイを横目に見ながら、アクアは言葉を続けた。

 

「今の二人がどう考えているのか、どんな感情を抱いているのかは俺には分からない。だけど、少なくとも当時の二人は愛し合っていた。俺はそう断言する」

 

あくまでアクアが出した結論を二人には伝える。

だが、ここから先はアイとヒカルの今の気持ちが関係してくる。アクア達に出来る事はここまでだった。

 

「あとは二人が自分たちで決めることだ。俺とルビーのことは気にしないでいい。二人だけで、自分たちがどうしたいのか……それだけを話し合ってほしい」

 

それだけ言うとアクアは、B小町R達に目配せして、彼女達と共にシアターの外に出ていった。

そんなアクアを見送ってから大輝もヒカルに話しかける。

 

「俺も似たような感じだな。一応俺を引き取ってはいるわけだけど、気にしなくていい。俺ももう一人暮らししてる大人だしな」

「……大輝」

「ヒカルさんとしては、俺は望んでいなかった子だろうけど、俺は色々と教えてもらったり世話してもらえて感謝してる。お袋のことは気にせず自由に生きたらいいんじゃないか」

 

大輝もそれだけ伝えるとあとは二人に任せようとシアターの外に向かっていった。

 

「……」

「……」

 

残された二人は少し気まずい様子で沈黙を返し合う。

ただいつまでも外の人たちを待たせるわけにはいかないだろうと二人とも考えており、どう切り出すかを悩んでいた。

 

「アイ……っ」

「ヒカル……っ」

 

互いに顔を向かい合わせて、話しかけようとしたタイミングが被り、また気不味いという感情が二人ともに湧いてくる。

向き合っているヒカルは、これまで見たこともない様子を見せるアイに、結局いつまでも消えなかった自分の感情を口にすることを決めた。

アイの気持ちが今どうなっているのかはわからない。だが、ヒカルは勇気をもって一歩踏み出すことにした。

 

「アイ、僕は君のことが好きだよ。愛している」

 

一度もアイ本人に言った事がなかった言葉をヒカルは口にした。

映画を見る前に言ってしまえば、アイはきっとその言葉を依存と捉えただろう。

だが、ヒカルがアイ達のために自分から行動し、これまでずっと支えてきたのを見てもまだ依存とアイは言い切ることができなかった。

沈黙を返すアイに対してヒカルは言葉を続ける。

 

「確かに僕は君が居る時だけ生を感じられた。君さえいれば他には何もいらなかった。きっともしあの時君が僕の言葉を受けて結婚してくれたとしても幸せにはなれなかっただろうね」

 

もしあの時ヒカルの手をアイが取っていたとしても、きっと子供たちを愛する事は出来なかっただろう。

大輝なんて因縁を考えればもっとだ。

仮にあそこで結婚していたとしても二人とも愛というものを最後まで理解しきれなかっただろう。

 

「でも今は違う。君と殆どずっと離れて過ごしているけど、僕は今も生きていると感じられている。アクアが、ルビーが、大輝が僕に生きがいをくれた。目標ができた。だから僕は一人になっても大丈夫になっていった」

 

あの時拒絶されたからこそ、今のヒカルは子供たちも愛せるし、自分をしっかりと持って行動できるようになっている。

少なくとも今のヒカルはそう考えている。

 

「でも、君と一緒に居たい。いたらもっと楽しいだろうなと思う……アイはどうかな」

「……変わったねヒカル。なんだかアクアに似てない?」

 

前は自分から口説くような事はしなかったのにな~と言いたげなジト目をアイは向ける。

自分と会っていない間に、これほどの容姿があればいくらでも浮き名を広めたことだろうとアイは想像する。

そう思うとちょっとだけムカッとしたアイは、自分の心を半ば自覚して少しだけ棘のある返事をする。

 

「僕はアイの後は誰とも付き合ってないよ。未練たらたらでね」

「え~ほんとかなぁ。ヒカルカッコいいからモテたでしょ?大学も行ってたみたいだし」

 

ヒカルの否定を聞いても、アイはジトっとした目をヒカルに向けたままだったが、ヒカルはそれどころではなかったのだ。

追及されるより前にアイに対して反撃とばかりに一言口にする。

 

「やたら振られた時の事が夢に出てきて一種の恐怖症みたいになってたから」

 

そう。アイと別れてからアクア達の事を知るまでの間、アイの事を刻み付けるように、かなりの頻度でヒカルの夢に出たのは別れる時の光景だ。

まるで"何かの意思に導かれるように見た夢"は、ヒカルの精神を打ちのめし、一時はアイに関連する情報を可能な限り避けていたくらいだった。

それこそ偶然目に入ったヲタ芸赤ちゃんの存在を知らなければ、今のヒカルはなかっただろう。

その返事を聞いてアイは流石に申し訳なさそうに言葉を返す。

 

「……ごめんね?私そのあたりよくわからなくて。アクアにもこれはないって言われちゃったし」

「そうだね。嘘ならもう少し言葉を選んでは欲しかったかな」

「うっ……」

 

アイがしょんぼりした様子を見せる。こういうところも本当に以前と比べて変わったなとヒカルは思う。

だが、そんな変わったところが以前より魅力的に見えるのが彼女の凄いところだろう。

 

「でも、あそこで完全に突き放してくれたからこそ、僕は僕として自立出来たと思う」

 

上げて落とす息子から学んだかのようなテクニックを使い、話を進めていくヒカル。

これが無意識なのだから、やはり大輝は遺伝子に絶望するべきだろう。

 

「だからアイっ」

「っ……」

 

ヒカルの身長が伸びたことで記憶にあるよりずっと身長差ができてしまった二人。

そっとアイの顎を上げて、特に抵抗もされない事を察した彼は、アイにそのまま口付けをする。

触れるだけのキスはしばらく続き、少し呼吸が苦しくなるくらいのタイミングでゆっくりと離れて、それからヒカルはアイへ答えを求めた。

 

「君の答えを教えて欲しい」

「えっ……えーっと今の受け入れたのが答え……じゃだめ?」

「ああ、言葉にして聞きたいんだ」

 

アイの今の言葉で、ヒカルは返事を察しはしたが、一度も彼女から向けられた事がない言葉を、彼女から聞きたいとそう思い、真剣な眼差しを向ける。

そんなヒカルに折れたアイは、ヒカルに不安そうに問いかける。

 

「私なんて元々どうしようもなくて、アクアとルビーが毎日肯定してくれるから楽しく生きられているだけだよ?それでもいいの?」

「僕と同じように藻掻く苦しみを知っているアイがいいんだ」

「またヒカルに酷い事言っちゃうかもしれないよ?今度はヒカルが私の事死んじゃえ!って思っちゃうくらいに」

「その時はアクアとルビーと大輝に慰めてもらうことにするよ」

「ふふっそれでいいのパパ」

「子供達は僕よりずっとしっかりしてるからね」

 

自分が強いとは間違っても思わないヒカルがする返事を聞いて、アイはくすりと笑う。

 

「うん、私はヒカルを……」

 

アイは返事をする。だがこの先は彼だけの物としておこう。

ただこの日、その昔に少年が持っていた、たった一つの願いが叶えられたことだけは記しておこうと思う。

今の彼にはいくつもの願いがある。だがその願いはやはりヒカルにとっては大きなものだった。




今回すごく最終回感ある話ですが、もうちょっとだけ続きます。
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