12月25日。世間ではクリスマスと呼ばれる日。
恋人たちの日なんて呼ばれることもある日だが、アクアはデートではなく、恋人達であるB小町Rのライブを見るために東京ドームへ集っていた。
今日来たのはアクア一人ではない。何人もの関係者と一緒にである。
「ヒカル!今の腕回しのとこキレが足りてないよ!アクアのを参考にもっと腕を回さないと」
「アクアの歴戦のキレを見た後じゃ、僕の付け焼刃のヲタ芸なんてその他大勢にしかなれないと思うよ?……まぁ僕が普段やらないタイプの表現でこれはこれで悪くないし、もうちょっと練習しようかな」
関係者ということでアイの誘いでやってきたヒカルは、アイに指導されてヲタ芸の練習をさせられていた。
最初はアイの押しに負けてと言った様子だったヒカルだが、身体全体を使っての推し表現というのはまた珍しく、娘の晴れ舞台を祝う父親として気合が入っている。
今は現役の役者を退いているヒカルだが、メディアEYESの社長として役者たちに演技を教えることはある。
自分の引き出しを増やすのは悪い選択でもなかった。
「そういえば、この席に僕は居ていいのかな。まだ公表してないよね?」
ふと一度動きを止めたからかヒカルは疑問を口にする。それに対してアクアは気安く答えた。
「いいんじゃないか。ある程度映画の内容は知られているわけだし。映画をきっかけにヨリを戻した訳だからどのみち近々公表するだろ?」
「……アクアは意外と大胆な選択するね。確かに来月にはアイが公表するみたいだけど」
「でしょ~!さっすが私とヒカルの息子だよね~」
「母さん、多分褒められてないぞこれ」
ヒカルとアクアの顔を見比べてから何故か自信満々にふふんと胸を張るアイ。
こういう子供っぽいはずの仕草がいつまでも似合い、人々を惹きつける脳は、彼女の魔性が成せる技と言っていいだろう。
「とりあえず父さんどうする?もう一回見せてもいいが、正直ヲタ芸なんて身内でやる分には好きにやっていいだろ」
「いや、僕も折角ルビーにエールを送るなら全力を出したいからもう一回頼むよ」
「……分かった。もう一回やるからな」
そう言ってアクアは再びキレキレの動きでヲタ芸をアイとヒカルに見せ始める。これまで俳優として鍛えてきたおかげもあって、全く色褪せないパフォーマンスを二人は笑顔で見ていた。
そんな三人を少し離れたところで見ていたゆらはその様子を見て大輝に話しかける。
「そういや大輝くんはあの二人と一緒にやらないの?」
ヒカルの息子ということが映画によって公になった大輝。
順調に星野家とも仲を深めており、参加するのも浮かないだろうと考えての言葉だった。
「いや、アレに交ざるのはちょっとな」
「まぁちょっとアクア君のはキレキレ過ぎるかもだけど、家族の交流って奴じゃない?」
「家族か、確かにそうかもな。そう考えると全員ドルオタ一家って相当特殊だよな」
大輝は自分も女好きの気があり、アイドルにハマる素養を感じている。
自分の血に眠るだろうドルオタの可能性に苦笑いを浮かべた。
「大輝くんもいっそドルオタになるとかどう?なんなら君が望むなら特別限定復帰ステージとかしてあげようか?」
「……」
「あっそこ真剣に悩んじゃうんだ。可愛いなぁ」
くすくすと笑うゆらに少し気恥ずかしくなり視線を逸らす大輝。
少しずつ、だが確実に二人の関係は変化し始めている。
二人が少しいちゃついてるのと同じ頃、アクアたちに視線を向けている一人の少女、ツクヨミはヲタ芸を元気にヒカルへ披露するアクアとそれを見るアイとヒカルを見て、ため息を吐いていた。
「はぁ……相変わらず騒がしいね。他の客も来ていないのにここだけライブ中かと思うくらいだ」
これでアクアは普段クールなフリをしているのだから世も末だなと言いたげなツクヨミ。ただ彼のクールは既に本性がバレているのでファッションクールと呼ばれている。
そんな少しツンとした彼女へ、彼女の隣にいた愛瑠がツクヨミに注意をする。
「つくちゃんあんまりトゲトゲしちゃメッだよ」
「……愛瑠。最近なんだかやたらと私の面倒を見ようとしてないかな」
これまでどちらかといえばツクヨミには甘える一辺倒だった愛瑠が、最近は少しずつだがツクヨミが変なことをしないようにと見張っているような節が見られるようになっていた。
どこか慈愛の籠った視線を向けられると月詠も落ち着かないわけである。
ツクヨミの疑問に対して愛瑠は、将来性の塊である胸を張って、笑顔で答える。
「つくちゃんは意外とポンコツだからしっかり見といてって言われたの!つくちゃんに頼りっぱなしはよくないって」
「へぇ、誰から?」
「にい!」
愛瑠にとってトップクラスに頼りになるアクアから言われた言葉だ。
素直な彼女はしっかりそれを実行に移していた。
犯人を知ったツクヨミはイラッとした表情を浮かべながら呑気にヲタ芸をしているアクアに鋭い視線を向ける。
「……あの元ヤブ医者、一度話し合う必要があるね」
「つくちゃん変なお医者さんに診察されちゃったの?」
「何でもない。こっちの話だよ」
ツクヨミは頭の中で黒髪白衣にメガネの男をひとしきりボコボコにしてスッキリする。
あとで本人にも小言を言ってもこれは許されるだろうと彼女は思っていた。
「そういえば珍しいね、つくちゃんが一緒にライブ行きたいって!」
話が落ち着いたところで愛瑠はツクヨミに今日のライブに来た理由を質問する。
これまで愛瑠が誘ってもライブに付いてくることがなかったツクヨミ。
そんな彼女が何故?という疑問があったらしく、愛瑠は幼いなりに鋭い質問を問いかけた。
「今日ばかりは流石に現地で見届けたいと思ってね」
「???今日って何かあるの?ねえ達も何も言ってなかったよ?」
どこか遠い目をするツクヨミに愛瑠は不思議そうに首を傾げる。
愛瑠はB小町Rのファンになってから、彼女達の情報を色々と調べているが、特別変わったイベントはなかったと記憶していた。
「……そうだね、この世界においては何も起きていないから私が勝手に意識しているだけだよ」
「変なつくちゃん。あっそろそろグッズ買いに行こ!ねえのグッズもあるし、つくちゃんも欲しいよね」
「別に星野ルビーのグッズなんて……分かった行くから。その目で見ないでくれないかな」
この後、愛瑠の押しに負けたツクヨミは、『ルビー無限恒久久遠推し!!!』のキーホルダーを買ったところをアクアに見られ、羞恥で顔を赤く染めることになる。
それから数時間後、何か起きることもなくドームライブはスタートする。
B小町Rは年齢こそ20歳にも満たないメンバーで構成されている年若いグループだが、ドームライブを複数回行っているベテランアイドルだ。
磨き上げられた踊りと歌は、彼女たちの整った容姿も合わさって会場を爆発的に盛り上げる。
『うちの関係者席でさっきからサイリウムが暴れ散らしてるのは突っ込んだ方がいいのかしらね』
『あはは、ホントだよね!おにいちゃーん楽しんでね〜!!』
『アクアさん呆れた目でこっち見とるんやけど』
『皆視力いいね。やっぱり一緒の家に顔がいいメンバーが集まってるからかな』
『フリルちゃん流視力トレーニングの効果ありってことかも?』
途中でこんなアクア弄りも入れたりとMCも慣れたもので、ファンをトークでも笑顔にしていた。
B小町Rファンにとってアクア関連は定番のトーク内容だが、毎度バリエーション豊かであり、このパートだけの切り抜きが作られる人気コンテンツでもある。
このライブの後にも、切り抜きに新たなシーンが多数追加されることになるだろう。
ライブは常にいい空気のまま進行していき、あっという間に最後の曲が終わるところまで進んでしまった。
ファンはまだまだ物足りないという思いを載せてコールをする。
「「「アンコール!アンコール!!」」」
すべてのプログラムが終了したと言って奥に引っ込んでしまったB小町R。
そんな彼女たちが戻ってくるように、様式美ではあるものの観客は声を上げていた。
その声を聞き届けただろうタイミングで、やたらとファンシーな衣装に着替えた五人がBGMと共にステージへと戻ってくる。
流れる軽快な曲に合わせてアンコールはスタートした。
「『POP IN,POP IN 2』」
五人がポンポンと自分の頬を叩きながら片足で跳ねる姿は実に可愛らしく、ポップな曲と衣装も相まってどこかほっこりさせる。
実は愛瑠が一番好きな曲で、アクアはヲタ芸をしながらライブを見つつも、視界の隅でノリノリで踊っている彼女が見えて、気持ちがほっこりさせられる。
「『一瞬たりとも離れない〜がぶっ!』」
くるくるとキレよく踊ったり、かなり運動量の多い曲だが、これまでのライブでかなり動いて疲れているだろうに動きを全く鈍らせないどころかキレキレである。
彼女たちの日々の努力の積み重ねの成果だった。
「『アイらびゅポップゅーよそ見しないでね』」
「『愛あらわに結局はおんりゅーじゃん!』」
「『行く先々現るポップゅーらーびゅー』」
「『ず〜っと隣でね』」
非常に明るい曲なはずなのだが、どこか重い決意のようなものが込められているようにも見えて、歌詞に合わせて全員の視線がこちらに向いたようにアクアには感じられた。
実際彼女達の愛は重い。仮にアクアが何かの理由で死んだとしても、そう簡単に逃すつもりはないだろう。
「『POP IN,POP IN 2』」
最後に中央で五人が集まりポーズを決め、それに合わせて拍手が巻き起こった。
「アンコール曲は『POP IN 2』でした〜!どう?今日はクリスマスってことで、最後は楽しい感じの曲にしたいな〜って思ってたの」
「「「うおおおおおおおお最高だああああああああああ」」」
「良かった!皆で相談して決めた甲斐があったよ〜」
アンコール曲も終わり、エンディングトークを始めるルビー。
『STAR☆T☆RAIN』を作曲したヒムラが手掛けたB小町Rに向けたオリジナル曲である『POP IN 2』が最後の曲に選ばれていた。
ルビーの明るい姿をイメージして作られた曲であり、元気に愛を唄うアイドルらしい曲でもある。
あの微かに見える重そうな要素も、ヒムラが的確にルビーの根幹を見抜いたからこそ描かれたのかもしれない。
ただ全体的にはやはり楽しくなるような曲で、クリスマスという楽しい日を彩るに相応しい曲だとB小町Rメンバーで選んでいた。
「いつも私たちを応援してくれてありがとうございます。私たち五人はまだまだアイドル活動を頑張っていきます!もしかしたら、たまーに長期の休暇とかあるかもしれないけど、これからも応援よろしくお願いします!!」
会場にいる観客達は皆、ぺこりと頭を下げたルビー達に向けて拍手を送る。
こうしてB小町Rクリスマスライブは幕を閉じた。
ライブが終わったからと言ってすぐに自由になるわけではない。
今回はクリスマスライブということで、事前に抽選に当選した一部のファンは推しにファンサを受けられる権利が与えられていた。
「わぁ!ルビーちゃん本物だぁ!えっと……ファンです!サインください!!」
「……あれ?どこかで見たような……」
ルビーは自分のファンという少女とその母親と対面しており、少女は緊張した様子でルビーにサイン色紙を渡す。
ただそんな彼女の顔にはどこか見覚えがあり、ルビーは記憶の海を漁っていた。
頭には大きな蝶々リボンが付いておりチャームポイントとなっている彼女。
もう一つの特徴としては肩にかけた鞄にはルビーのデフォルメぬいぐるみが付けられていることだろうか。
そしてそのぬいぐるみには見覚えがあった。
ルビーの頭に点と点が線で繋がったような感覚が訪れて思わず声に出す。
「あっ!おにいちゃんにぬいぐるみとってもらった子でしょ!?ライブどうだった!?」
「え?どうしてルビーちゃんがかっこいいおにいちゃんに取ってもらったぬいぐるみのこと知ってるの?」
「あっ!?やばっ!?」
ただ冷静に考えるとあの瞬間はバレたら困る状況だったが、今知られても兄の善行がバレるだけで特に困らないことに気が付いた。
「実はあのクレーンゲームでぬいぐるみ取ったのって私のおにいちゃんなんだよね」
「「えぇ!?」」
これには付き添いである少女の母親も思わず声を上げてしまう。
確かに妙に顔立ちの整ったカップルだとは思っていたが、まさか現役のアイドルと俳優の兄妹だとは思いもしなかった。
お忍び中の彼女達が出掛けているところに偶然遭遇したということで、こんな奇跡あるんだなという驚きが思考を支配する。
ルビーもその間にサインをさらりと書いて少女にサインを手渡した。
「はい、サインしたよ〜。でもあの時のぬいぐるみ大事にしてくれてるみたいで良かった!」
「えへへ、ありがとー!いつもルビーちゃんだと思って抱っこしてるの」
娘の方は意外とサクッと立ち直ったようでルビーから色紙を受け取ると笑顔で返事をする。
ルビーは幸せいっぱいと一目で分かる少女の表情を見て、やっぱりせんせはみんなを幸せにしてくれる最高の人だなぁと思いながらファンサを続けるのだった。
ファンサービスも終わりB小町Rは着替えて控室へと向かう。
そこには今日ライブを見にきていた関係者の皆の姿があった。
「おにいちゃ〜ん!」
「暑苦しいし湿っぽい」
「そりゃあダンスで汗しっとりだもん!でもアクアニウム補給しなきゃ」
「はぁ……頑張ってたし好きにしろよ」
アクアの姿を視界にとらえた途端一直線に突っ込んで抱きつくルビー。それをアクアはなんとか胸に抱き入れて受け止める。
「相変わらずのシスコンよね……えっと、その」
「かな、どうかしたか」
かなは、じとっとした目をアクアに向けたかと思えば、恥ずかしそうに口を開けたり閉めたりと何かに悩むような仕草をしていた。
少しアクアが待つとようやく勇気が出たのか口を開こうとした時、事件は起きる。
「わた」
「マリンの左腕もらい」
「あっ!?フリル!?ちょっと待ちなさい」
横から掠め取られるようにずっと入ってきたフリルにアクアの左腕を取られる。
あまりのスムーズさに横槍を入れることもできずあっさりとかなの視線の先にあった腕は盗まれてしまった。
「じゃあうちは右腕で頼むわ。たまにはうちも交ざろかなって」
「えっ!?みなみまで入ったら……というかデカ過ぎでしょ。やっぱり遺伝って大事よね」
突然の出来事に思考を止めるかなが、何とか復帰しようとしたその時、今度はみなみがフリルとは反対の腕を抱き抱える。
かなは先を越されたことと、そのアクアの腕を抱き抱える際に強調された女性的な部分に視線を向け、悲しみに包まれる。
「私は背中からかな。よろしくねアクアくん」
「あかねまで!?どうしてこんなぁ……」
「マジで暑いんだが。……まぁ皆頑張ってたから多少は仕方がないか」
トドメとばかりにあかねがアクアを背中側からぎゅっと抱きしめ、アクアの四方すべてを占領されてがっくりとするかな。
アクアは流石に擬似おしくらまんじゅうのような状態に軽く苦言をしつつも、皆が頑張ったご褒美のようなものだと強くは言わず、大人しくされるがままとなっていた。
「あはは、見て見てヒカル。アクア不満は言ってるけど楽しそうだよ」
「流石に少し暑いだろうけどモテモテだね、アクアは。僕もあそこまではなったことないかな」
「まぁ私とヒカルの息子だから当然だよね!」
「そのフレーズ気に入ったのかい?」
元々アイは自信家な発言をすること自体多々あったが、今回は自分の好きな人との子供ということで補正がかかっているのもあるだろう。
彼女の親バカは不治の病である。
「子供羨ましいよね。どうかな大輝くん」
「はぁ!?ちょっと待て、飛ばし過ぎだろゆらさん。飲んだか?」
「ふふふ、いい反応だね」
「揶揄ったのかよ勘弁してくれ」
かなり攻めたことを口にして大輝の度肝を抜く一流女優。
この二人はまだまだ先は長そうだ。
「本当に喧しいね、彼らは」
楽しそうに騒ぐ皆を見て、ツクヨミは呟く。
それは外見には似合わない大人びたもので、長い冒険がようやく終わったような表情を浮かべている。
「はぁ……ライブも無事に終わり。星野アクアはこの場でライブを見て皆に感想を伝えている。面倒だったけど、ちゃんとやり切ったよ。ほんと自分たちは楽しむだけ楽しんでるし……私の苦労を少しくらい知っておくべきだって言いたいところだね」
数年の人生では足りない重みのある言葉と共に、達成感と疲れを含んだため息を吐くツクヨミ。
そんな彼女の頭をすぐ後ろにいた愛瑠が抱き締めてから撫で始めた。
さながら彼女が真似をしてすっかり癖になった頬を膨らませる動きのやつに、あかねの真似と言ったところだろう。
ツクヨミはそんな愛瑠に少しジトっとした目を向けながら声を掛ける。
「愛瑠、その手はなんだい?あと暑苦しい」
「なんかつくちゃんやり切った顔してるもん。頑張った子にはいい子いい子!おつかれさま!」
その言葉にツクヨミは大きな目を更に大きく見開いて愛瑠を凝視する。
本当に察しがいい子供だなと感心しながらも、ツクヨミは自分の過去を懐かしみながら言葉にする。
「……そうかな?……うん、そうだね。本当無茶振りしてくれたよ」
「つくちゃん何かお願いされてたの?」
こてんと首を傾げる愛瑠に対して、ツクヨミは一瞬だけ郷愁を抱くような、昔を懐かしむ表情に自然と変わる。
その神々しいとすら言える顔立ちによく似合った姿は、もし認識できるものがいれば、思わず見惚れてしまったことだろう。
だがそんなツクヨミの表情の変化は誰かに認識されることはなく、すぐにそこから表情を変えて、怪しげな笑みを浮かべながら答えた。
「そうだね。とてもとても長いお使いだったよ。聞きたいかい?」
「うん!教えて教えて!」
どんな奇天烈なお話を聞けるだろうかと目を輝かせながら愛瑠はツクヨミに向けて身を乗り出した。
そんな愛瑠を見てツクヨミは揶揄うような声色で返事をする。
「ふふっ内緒だよ。残念だったね」
「ぶー、つくちゃんのけちんぼ!教えてくれるって言ったのに!」
思わせぶりな態度を取るツクヨミに愛瑠は不満をぶつける。
こればかりは愛瑠にも言うわけにもいかないと思いつつも、あの時に存在しなかった愛瑠ならば言ってもいいかなんて考えが、ツクヨミの脳裏によぎる。
「そうだね、君がもっと大きくなったら考えてもいいかな」
「ホント?約束だからね!!」
「はいはい。君が覚えてたらだよ」
揶揄い交じりに確約せず、愛瑠をあしらったツクヨミ。
それから改めてアクアたちに目を向ける。
誰もが笑顔で、悲劇も全て乗り越えて、人並み以上に恋愛を謳歌している姿が目に入ってくる。
(世界とは観測が生み出す虚像。その全てが真ではない。……だけど少なくとも、ここにいる皆にとって、今の私にとって、この光景は本物か)
彼女は自分だけの思い出を懐かしみながらも、この平和でどこまでも幸せな世界に居られることを嬉しく思う。
そしてそれがいつまでも続くことを願うのだった。