3月、一般的に別れの季節になりがちなこの日。
例に漏れずアクアにも一つの別れの時が訪れていた。
「卒業生代表、星野愛久愛海」
「はい」
今日は陽東高校の卒業式。
マイク越しに伝えられたその言葉に応えながらアクアは立ち上がり、壇上へと向かう。
アクアのフルネームに反応して所々で笑顔が見られるが、これはもう仕方がない。
ただ映画で名前の由来が伝わっているからか以前ほど笑われることはなかった。名付けた張本人であるアイは、ようやく時代が私に追い付いたね、なんて思っていた。
当のアクア本人は、それを気にした様子はないが、撮影現場など芸能活動中に今よりずっと緊張する経験をしてきたにも関わらず、ちょっとした緊張を感じていた。
去年は送る側だったアクアは、今年送られる側となっている。
大学には行かないと今世では決めたアクアにとっては学生を演じない限りは最後の卒業式になるだろう。
(俺も大きくなったもんだよな。死んだと思った次の瞬間に推しの子供に転生した時はどうなるかと思ったが……こんなに充実した波乱万丈な人生を歩むことになるとは思いもしなかった)
アクアは壇上に上がってから視線を動かして周囲を確認しながら自分のこれまでを振り返る。
最初に目に入ったのは客席で一際輝いて見える美しい女性だ。保護者席から笑顔でぶんぶんとアクアに向けて手を振るのが目に入る。
転生前の推しのアイドルであり、今生の母親でもある星野アイ。
さりなが布教してくれた彼女は、アクアにとって前世では得られないかけがえのない存在になった。
視線を集めてしまうそのオーラに負けないよう、アクアも壇上で精いっぱいのカリスマ性を醸し出しながら口を開く。
「この暖かな春の訪れを感じさせるこの季節。春の訪れを感じさせる時期が今年もやってきました」
アイの隣で一瞬仕方がないなという視線を彼女に向けてからアクアの方を見るのは、先月アイが交際発表をし、公に一緒にいることが出来るようになった父親だ。
神木輝。アクアにとっては演技の師匠の一人だ。アクアが今日本中から認められる俳優になれたのは、ひとえに彼の教えてくれた技術があったからこそだろう。
彼もまた他の保護者に比べたら圧倒的に若々しく、その生来の容姿は自然と人の視線を惹きつける。
まだ同じ家に住んだりしているわけではないが、今手配している数世帯が暮らせる新居が完成すれば、一階はアイとヒカルの家になるんじゃないかとアクアは考えている。
これまでアクア達のフォローを陰ながらしてくれていたヒカルには感謝の気持ちが強いため、そんな未来が実現すれば恩返しをしていきたいと考えていた。
「思い返してみると三年間というのはあっという間で、この伝統ある陽東高校に入学した当時のことを今も鮮明に思い出せます」
ヒカルの隣にいて、アクアのことを後方兄貴面で見ているのは、アクアより先に主演男優賞を取ったりと俳優としてのライバルでもあり、血縁関係的には半分繋がった兄でもある上原大輝。
去年は『鷹研ぎ』の効果もあって主演男優賞はアクアが獲得していたのだが、今年は大輝が取ることに決まっていた。
ヒカルとアイが正式に籍を入れた場合、養子に来ないかと声を掛けられており、その場合は苗字が変わることになる。
アクアはそうなったらなんて呼ぶかなと少し頭を悩ませていた。
「学校や事務所、家族のサポートがあってこそ、学校生活をしっかりと送ることができました」
そんな大輝の隣は事業での疲れが抜けきっていない壮年の男にまだまだ若々しい容姿の美魔女、そしてアクアに向けてアイの真似をして手を振る将来性を感じさせる可愛らしい幼女の三人組、斉藤一家が並んでいる。
壱護がアイのサポートを真摯にしてくれたからこそ、アクア達の家族の今がある。
アイがアイドルをしていた頃は、下手をしなくともアイよりお世話になっていたミヤコには、アクアも頭が上がらない。
愛瑠の尊敬する視線を受けて、アクアは彼女の期待に応えられるようにこれからも頑張りたいなと改めて感じさせられた。
そんな彼らをアクアは、普段口には出さないものの、もう一つの家族のようにも感じていた。
「もう卒業してしまった先輩方にも色々と教えられることが多かったため、後輩には自分が学んだことを伝えたいと思いながら学校生活を送っていきました」
斉藤一家とは反対側、アイの隣には彼女と並んでも輝きを損なわない美しい少女たちがいる。この学校の卒業生でもあるかなとあかねだ。
以前はアクアが送る側だった二人だが、今日はアクア達の巣立ちを見届けるために休みを取ってやってきていた。
初めて会った時はアクアと少し諍いを起こしていた最初のライバル有馬かな。
アクアより早くにその才能を輝かせ、10秒で泣ける天才子役というフレーズは今なお皆の記憶に残っている彼女がいなければ、きっとアクアは今ほど演技に取り組むことはなかっただろう。
太陽の演技と称される彼女の演技は、自身だけでなくその場にいる全員を際立たせる演技の質を引き上げるという天性の女優であり、いるだけで作品の質が1ランク上がると謳われるほどだ。
また、弄られ体質でもある彼女は、バラエティーでもその活躍を広げている。
アクアにとって初めての同僚であり、自分のファンだと言ってくれた黒川あかね。
優秀な頭脳と父から教わったプロファイリング技術、そして卓越した表現力を使う彼女の演技幅は、千変万化なんて呼ばれ始めており、アクアにも真似できないほどである。
また、最近公開された若者がもっとも憧れる女優ランキングでアイを抑えて一位を獲得しており、これはあかねの持つ頼り甲斐や万能性が加味されているとはいえ、偉業と言っていい。
楚々とした顔立ちとスタイルの良さも合わさって男女ともに人気が高く、今年はアイとゆらと共にCM女王の争いを繰り広げるのが予想されており、苺プロは嬉しい悲鳴を上げている。
こんな二人が揃って彼女とは本当に自分は幸せ者だなとアクアは感じていた。
「クラスメイトも忙しいからという理由で学校生活が不規則だった中、同じ学生として扱ってくれてどれほど救われたかわかりません」
クラスメイト達の方に視線を向ければ、アクアと一緒にこの学校を巣立つ恋人たちであるフリル、みなみの姿も目に入る。
二人とも微塵もアクアに対して心配するような表情はせず、期待と信頼だけを一心に向けている。
少しクラスの中で浮いていたアクアに対して臆することなく話しかけてきた不知火フリル。
フリルは演技も歌もバラエティーもすべての分野で最上級の才覚を発揮しており、レギュラーとなった番組もいくつか持っていた。
演技は全てが不知火フリルになるとすら言われる固有の物で、だからこそ持つ外連味が他では代用が利かないと重宝されていた。
かなり変わった感性を持ってはいるものの、だからこそ生まれる独特な表現こそが彼女最大の持ち味だ。視力が上がるの表現は今や全国を超えて世界で使われる表現となっている。
『黙っていれば国民的美少女』なんて呼び名もある彼女だが、今は『喋っていても国民的コメディエンヌ』という呼び名も増えており、本人は喜んでいるとか。
最初は一般人のファン兼妹の友人という誰よりも遠い仲から始まった寿みなみ。
本当に偶然の出会い、その時の会話からルビーの取り組んでいたアイドル計画に加入した彼女がいたからこそ、グループの構成がしっかりと定まり、皆に新たな視点が得られた。
特徴的な髪質に似合う笑顔と醸し出す独特の色気、そして自己プロデュースによって使われるエセ関西弁が彼女に唯一の個性を持たせている。
またそのアイドル離れした肉感的なスタイルは、世の男性の視線だけでなく、女性からも憧れを抱かせるものとなっており、他のメンバーにはない明確な強みだ。
そんな二人もまた彼女という星野アクアは世の男性に憎まれてもしょうがない立場にあった。
「彼らとも今までよりずっと会う機会は少なくなることでしょう。それは寂しさを強く感じさせます」
同じく推しのアイドルであるアイから生まれるという経験をした妹である星野ルビー。
前世の助けられなかった患者でもあり、アクアにとって罪悪感の象徴でもあった少女の転生体でもある彼女は、アクアにとって特別な存在だ。
大人気グループB小町Rの中でも僅差ではあるが一番人気を勝ち取るなど、世間的に見ても現代最高のアイドルと言っていいだろう彼女は、前世からの夢を叶えて今その想像の先に進もうとしていた。
『15年の嘘』でのアイの心情を汲み取る演技力と全てを照らすような輝きを持つ彼女は、今後は女優業の方も引っ張りだこになる予定であり、既にミヤコはオファーの取捨選択を行い始めている。
そんな彼女とは今世で妹であり、恋人という非常にインモラルな関係になっていた。アクアは本当に罪深い。
アクアの人生を振り返るとここまで見てきた彼らの比重は非常に大きい。
彼らとは今後も長く一緒にいることになるだろう。
いや、アクア自身が末永く皆と共にいたいと思っている。別れの季節とはいっても全ての関係がなくなるわけではない。
「ですが別れも大切な経験です。このことを糧に私達卒業生は、より大きな世界へと羽ばたいていきます」
だが、確かに別れを感じさせるものもある。
芸能科のクラスは一つしかないのもあって3年間色々な学校行事を共にしてきたクラスメイト達、学校行事などでは一緒に活動することもあった一般科の生徒、そして忙しいアクアのスケジュールにある程度合わせてくれた学校の経営層や教師たち。
彼らと会う機会はこれまでよりずっと減る可能性が高かった。そこにアクアは少し寂しさを感じている。
だがこれからの長い人生で、また巡り合える日もきっと来るだろう。そうアクアは自分の心に整理をつけ、改めてお世話になってきた皆に感謝を口にした。
「皆様、本当にありがとうございました。卒業生代表……星野愛久愛海」
自分のフルネームを自分で言うのはいつ以来だろうか。今後口にする機会はないんじゃないか。
最後にそんな気にしても仕方がないようなことを考えながらアクアは頭を下げる。
それに対してこの場にいる人たちは皆、アクアの答辞に対して拍手を送り届ける。
今世では何度もやってきたことのはずだったアクアだが、少し気恥しさと嬉しさに包まれるのだった。
答辞のあとは卒業生で歌を歌ったり、拍手で送り出されながら退室したりとテンポよくこなしてクラスに戻ってきたアクア達。
この後担任からの挨拶などがあるが、まだ学生のみしか戻ってきていない。
しんみりしたムードがあり、涙を見せる生徒などもいる中、アクアに向かって一人の男が声を掛けた。
「星野~写真撮ろうぜ!俺芸能界引退して大学進学予定だし、星野とクラスメイトだったんだぜって自慢したいし」
「いいけど動機不純だな」
「わりわり……っとサンキューなこれでバラ色のキャンパスライフだぜ」
芸能科にいるだけあって顔立ちの整った男だ。
アクアとも仲が良く、休み時間などで話したり遊んだりする機会もそれなりにあった。その声は底抜けに明るい。
クラスでも人気のあった人物だが、残念ながら芸能活動では芽が出ず、普通の学生としての人生を歩むことに決めたらしい。
要望通りアクアと男でツーショットを撮影し、それを男は嬉しそうに見る。きっとキャンパスライフでネタには困らないだろう。
「調子いいなアイツ」
「アクア、ちょっといいか?」
どこか呆れた様子のアクア。ただ彼に話しかけてくるのは一人ではない。
続けて背の高い知的な顔立ちをしている男がアクアへと声を掛ける。彼もまたアクアとの付き合いは深く、修学旅行の時は同じ班に配置された人物でもあった。
「いや~俺って元々アクアに憧れて芸能界入った口だからさ、マジクラスメイトになった時ビビってたわ」
「そうだったのか。これまでそういった話はされたことなかったな」
アクアはこれまで三年間一度も聞いたことのなかった話を口にされて、それこそ修学旅行などでもっとその話を振ってもおかしくない内容ではないか?と驚かされる。
普段見せない様子のアクアにくすりと笑みをこぼしながら男は気安く返事をする。
「そりゃ、同じクラスだからってクラスメイトからそんなの言われるのはどうかと思ってたしな。ってことで卒業するしサイン頼むわ」
どうやらこれまではファンとしてマナーを意識していたらしい。だが最後ならお願いしたいことはいくつかあった。
そう言って男は渡されたばかりの卒業アルバムをアクアへと手渡す。
寄せ書き用にある空きページが開かれたそれを見てアクアは呆れた視線を向けながらもそれを受け取った。
「それが願いかよ……いいけど」
「あっさりだな。アクアって割とこういうファンサいいのか。あっ名前も併記してくれると助かる」
「流石にどこでも対応してるってわけじゃないけどな。クラスの友人として付き合いがあった奴にこれくらいするのは普通だろ」
スラスラと慣れた手付きで書いてアルバムを返すアクア。男は描かれたそのサインを見て嬉しそうに表情を緩める。
それを見てアクアも温かな気分になっていた。
彼は芸能界に今後もいるようだし、できれば仕事などを共にできればなと内心で思う。
その話が落ち着いたところで、今度はアクアに眼鏡を掛けた男が話しかけた。
「アクア、今日の予定覚えてるか?」
「卒業記念の打ち上げだろ?ホント一般人の卒業式みたいだな」
「俺らも所詮は青春真っただ中な学生だったし」
男側の幹事を担当している男の言葉に、アクアはその言葉に対して確かにと思う。
元々あまりにも仕事と学校の両立をし過ぎてその感覚が抜けていた。
これまでの打ち上げの流れはあまり参加してこなかったのも、影響しているだろう。
「アクア君達が皆揃ってこういうの参戦できるのって初めてだよね!楽しみかも、クラスでやる以上の夫婦漫才集期待してるね」
こちらは女子側の幹事だ。委員長タイプというわけではなく、どちらかというと毎日がパーティーといった明るい人物で、ルビー達とも仲が良い。
モデルをやっている子で、アクアのいない日は一緒にご飯を食べたり遊んだりも多かったらしく、今後も交友が続きそうな一人だ。
「ただの打ち上げで何期待してんだよ。……ルビー達に何か吹き込んだか?」
アクアに話しかける前はルビー達と何やら話をしていた彼女。
アクアはそんな彼女のすぐそばにいたルビー達に、視線を移しながら問いかける。
「え~ひどーい!皆、そんなことないよね~」
「そーそーおにいちゃん、時には柔軟な対応も必要なんだよ」
「本当だね。マリンはちょっと追求しすぎじゃないかな」
「せやなぁ、うちらやって内緒話くらいすることあるんよ?」
彼女の言葉にルビー達三人は揃ってこくこくと頷きながら賛成の意を示す。
普段の三人との反応の差を感じたアクアは、怪しいなと少しジトっとした目を作ったが、それ以上の追及はしない。
「……まぁいいけど。あんまり三人の教育に悪そうなこと言うなよ」
「いや、過保護か」
べしっとツッコミをする姿を見て、実はバラエティー方面も狙ってるのか?と少し的外れなことを考えるアクア。
しんみりしたような愉快なようなそんな空気は教師が戻ってくるまで続くことになった。
卒業式も終わり、アクア達はそのまま打ち上げ会場へと向かう。
時間としては早いだろうと言いたい時間だったが、夜には家や事務所での祝いも多いだろうということで、配慮された結果が昼にやってしまおうという珍しい結論だった。
昼時に終わった卒業式の勢いそのままにクラスメイト達と来たのはカラオケだった。
「はーい、というわけで!やっぱり最初はこの人です!今度ドラマでテーマ曲を歌うことになっている星野アクアさん!はい、拍手!」
ぱちぱちぱちとカラオケのパーティールームに詰めかけた元クラスメイト達から多くの拍手を向けられるアクアは思わず突っ込んだ。
「いや、俺かよ。普通ルビー達だろ……てっきりその話を教室でしてたと思ってたんだが」
「いや〜最初はその予定だったんだけどこっちの方が面白いって言われたから変わったんだ〜」
「マリンの歌って普段聞けないし、こういう時に思い切り聞きたいよね」
「うちらはいつもは聞かれる側やからなぁ。アクアさん頼むなぁ」
アクアが生で皆の前で歌うことなんて滅多にない。
恐らくそれが三人としては嬉しいのだろう。ルビーは期待を、フリルは好奇を、みなみは喜色をそれぞれ浮かべてアクアを見る。
それ以外もアクアが何を歌うのかと期待の籠った視線を向ける。
流石にここで歌わないほどにアクアは空気を読めないわけではない。アクアが曲を選択してすぐにイントロが流れ始める。
「『Go! Go! STAR☆T☆RAIN』」
「『ウー! ハー! Fuwa! Fuwa! Fuwa! Fuwa!』」
「『Go! Go! STAR☆T☆RAIN』」
アイドルソングらしいハイトーンな曲を全く変えず、ノリノリで歌い始めるアクア。その曲調を聞いてクラスメイトも何人かは首を傾げた。
「あれ?これスターティー?なんか違くない?」
自分のクラスのアイドルということで一般的な人より歌詞に詳しいメンバーが揃っている。
よく聞いている『STAR☆T☆RAIN』とは違う始まりに引っ掛かりを覚えるのも無理はない。
「むー!むー!!おにいちゃん、私が最推しって言ったのに!!!」
「え?ルビーちゃんなんで怒ってるの」
「これB小町の『STAR☆T☆RAIN』やからなぁ。うちも色々言いたい気分やわ」
「マリンってホントアイさん好きだよね。それを全く隠さないのが強いというか」
そう、アクアが入れた『STAR☆T☆RAIN』はB小町バージョンの物だった。
現代風にアレンジされているB小町Rのものとは出だしが違うため、聞く人が聞けば違いがわかる。
B小町Rのメンバーからはアクアが自分たちの曲ではなくアイの曲を選んだことに複雑そうな声が上がっていた。
「あー、それは……アクア君が悪いね」
「ってか原曲キーなのにバチバチに歌えてるのすごくない?」
その場にいる皆は採点結果96点と高得点を叩き出したアクアにドン引きすることになる。
卒業式の打ち上げも終わり、家に帰ってきたアクア達。
芸能科だけあって歌を嗜んでいるメンバーも多く、かなりレベルの高いカラオケ大会は皆満足感を得て終わった。
心地よい疲労感を持ったままリビングへと入る。するとパンッと弾けるような音と共にリボンがアクア達へと降り注いだ。
「「「卒業、おめでとう!!」」」
アイ、かな、あかねの三人はリビングに入ってきた四人をそれぞれクラッカーを綺麗に飛ばして出迎えていた。
三人とも満面の笑みという言葉が相応しく、フリル風にいうならば視力が上がる空間が形成されている。
とりあえず打ち上げでどんなことがあったのかと尋ねられ、アクア達は起きた出来事を三人に伝えていった。
「それでね、おにいちゃんがスターティー歌ったんだけどママバージョンだったんだよ!?酷くない!?」
「へ〜アクアくんそうなんだ……アクア、こっちの方がいいかな?」
「なんか罪悪感凄いから母さんの真似はやめろ」
ルビーの話を聞いてあかねが揶揄いの意図を込めて会話中にアイの演技を挟む。
相変わらずのそのクオリティーに声色まで寄せられていたそれを聞いて、アクアは思わずアイの口元とあかねの口元どちらが動いているかを確認する。
「まぁアクアがマザコンなんて今に始まったことじゃないし気にする必要ないでしょ。あっでもあかね、もし将来的にアイの真似してってアクアに言われたら突っぱねるのよ?」
「流石にんなこと要求しねぇよ」
わいわいと楽しく騒ぐアクア達を見て、アイは笑顔の中に少しだけ何故か影を落とす。
「……ほんと大きくなったね皆。アクアとルビーなんてついこないだまでこんなにちっちゃかったし、フリルちゃんもみなみちゃんもまだまだ子供だと思ってたんだけどなぁ」
一体いつの話をしてるんだよといいたくなるアクアだが、アイは言葉を続けていく。
「『15年の嘘』……ううん、『15年の真実』を見た時からホントは分かってたんだぁ。もう皆大人になっていってて私がお世話できることなんてあんまりないんじゃないかなって」
アイにとってここ最近の子供達の成長は嬉しくも少し寂しいものだった。
もうアイのしてあげられることなんて何もない。そう感じてしまえるほどに大きくなった子供達は、そう遠くないうちに巣立ってしまうんじゃないかという想像を掻き立てる。
「ママ、大丈夫だよ」
「ルビー?」
「私たちはこれからもママと一緒にいるから。新しいお家になったらお部屋はちょっと遠くなっちゃうかもだけど、共有スペースもあるしたくさん一緒にいる!だって私たちずっと家族だもん」
そんな少しナイーブになっていたアイにすぐさま気付いたルビーはフォローを入れる。
ルビーにとっては当たり前の言葉であり、アイもその言葉になんで不安になってたんだろ?と自分の疑惑を恥じる。
賑やかで楽しい家族を望んでいるアイの希望を叶えたいと子供達が思っているのは知っていたのだから。
「ふふっホントおっきくなったよ!ルビー、皆、卒業おめでとう!これからも一緒だからね〜!」
アイは笑顔を浮かべながら今日高校を卒業した四人を改めて祝福する。
夜空に輝く一番星が、そんな門出を讃えるように煌めいた。