追加後返事
「……ふふっ分かってたつもりだったけど、いざしっかり言われると……うれしいなぁ。"うん、私を君のお嫁さんにしてください"」
アクア達の交際発表直後、SNSどころか一部の地域では地元の野球チームが優勝したかのような騒ぎが起こったらしい。
その盛り上がりようは異質と見ていた人たちから言われ、まるで自分の恋が叶ったかのような喜び具合だったとか。
盛り上がったのは一般人だけではない。
配信直後に身内からも大量に連絡が来ていた。
『まさか息子に先を越されるとは思わなかったよ。おめでとうアクア。ルビーのバージンロードで手を組めるようになっているといいけど』
『やるとは聞いてたけど、まさかプロポーズまで公開するとは思わなかったぞ弟よ。切り忘れたかマジかって感じだし、今度店で話聞かせろ』
『あのアクア君がプロポーズする年齢になったんだなって……時間を感じるね。MEMじゃないけど私ももうちょっと頑張らないとかな』
『アクアが最初五股してるって聞いた時は流石にどう?って思ってたけど、責任取るってなるとすごってなるよね。ちゃんとあかね達を大切にしてね』
その中から数例を抜き出すとこんなメッセージが送られている。
実際にはこの何十倍の連絡があり、アクアも返事をするだけでかなり時間を使ったくらいだった。
そんなわけで発表翌日、アクア達は事前に騒ぎになるのを踏まえて、予定を空けており、事後処理の対応をしつつも皆でリビングで過ごしていた。
『さて始まりました、『切り込みサンデー!』。本日は今日本で一番ホットな話題である【芸能人星野アクアの五股交際】について皆の意見を聞いていきたいと思います』
そんな中、つけられていたテレビで情報番組が始まる。元々アクアはこの番組の存在を知っており、とある連絡を受けていたからこそチャンネルをここにセットしていた。
様々な時事を扱う番組として長く放送されており、それなりに人気があった。
今日の議題として提示されたのは、アクア達の交際について。
知らない人用に説明の一環として、アクアが小さな箱を手に取って、かなの方に歩いて行くプロポーズ直前の姿がテレビでも映されている。
何も事情を知らなかったら何かの撮影かドッキリと思われるような映像なのだが、普通に流すようだった。
「あ!見て見てアクア!!アクア達の話を今からやるみたいだよ。ここの覚悟が決まった感じのアクア好きなんだ〜」
とても楽しそうに画面の向こうに映るアクアのプロポーズシーンを指差すアイ。彼女はこの話を聞いていなかったため、純粋に喜びを露わにしている。
彼女自身アクア達が帰ってきた瞬間に、アクアに向かって飛びついて『私達の息子かっこよすぎ!!男らしかったよアクア!!皆も本当に良かったね!!!』と大興奮だった。
それほどに彼女はアクアのプロポーズを気に入っており、なんなら自分用にアクアがプロポーズした部分だけ切り取った動画をミヤコにお願いして保存してもらったほどである。
「映像の使用連絡は来ていたんだが、取り上げるのが早いよな。よく人を集められたというか」
昨夜と今朝の時点でニュースでは取り上げられていたが、昼の情報番組でも取り上げられるとはペースが早いとアクアは感じている。
それだけアクア達の起こしたことが社会的に影響があると考えられているということかもしれないが、どうやって人員を確保したのかという点は、不思議に思っていた。
「うーん、多分だけど元々情報番組で芸能人の恋愛をやる予定だったんじゃないかな?そのままアクア達の話にスライド?みたいな」
「なるほど。それならこの対応の早さも納得がいくか」
アイの予想にアクアは納得する。
事前に用意されていたコメンテーター達は考えていた文章を練り直すことにはなっただろうが、まだ対応が可能な範囲だった。
アクア達がそんな話をしている間も映像は淡々と進んでいく。
「うぅ……何が『は……はい』よ。もう完全にチョロ雌じゃない……。で、でも私がアクアの奥さんかぁ……えへへ」
今流れているのは、かながプロポーズされる場面であり、顔を真っ赤にしてがちがちになっているかなの姿が映し出されている。
目をぐるぐると回しており、今にも倒れそうな姿だ。
そんな自分を見て、かなは自分ってこんな感じなの!?とショックを受けつつも、プロポーズが本当にあったことだと再確認して、自然と笑みがこぼれる。
それは長年の夢が叶ったというような幼い少女を彷彿とさせる可愛らしいもので、長年のファンであるあかねが、『かなちゃん!かなちゃん!星野かな!!』と心でリズムよく歌いながらしっかり撮影していたとか。
籍は現状入れられないのだが、気分はもう新婚さんである。
「うちって自分ではもっといい感じに返事したつもりやったんやけど、顔真っ赤やなぁ。恥ずかしくなってきたわ」
「いいじゃん。世間でも視力上がるって話題になってたよ」
「話題になったなら余計はずかしゅうない!?」
かなのシーンが終わったが、テレビの映像は続く。
どうやら順番通り全員のシーンを流すらしく流れたのはみなみへのプロポーズシーン。
彼女は自分ではもっと自然な笑顔を浮かべていたつもりだったが、緊張が顔に出て慌てているのが、画面越しにも分かる状態であった。
フリルはそれに対して皆が褒めていたと慰めるのか追い討ちをかけるのかわからない反応を示す。
「そもそも、それ言うたらフリルちゃんの素直な笑顔も滅茶苦茶話題になってるやろ」
「ふふっ『黙っていれば国民的美少女』だからね」
「それ自分で言うん?というかフリルちゃんもちょっと顔赤いやん」
「これは思い出し赤面というか。あの時は顔が赤くなる余裕すらなかったから」
続いてフリルのシーンが映し出されるのに合わせて、みなみはさっきフリルに弄られた意趣返しのようにトレンドの一つを口にする。
フリルはあまり表情に出さないことが多いため、珍しくしっかり笑顔になったシーンは演技以外だと貴重だ。
赤面を指摘されたフリルだが、どうやらプロポーズへの思い出し照れということらしい。
「あっ私だ。なんだかわかってる感出しちゃってるの良くなかったかなぁ」
「そんなことないよあかねちゃん!しっかり頬赤くなってるし、最後の『うん、私を君のお嫁さんにしてください』とかすっごくドキドキしたもん!もう超絶可愛いから自信持って!!」
「……改めて言われるとすっごく恥ずかしい……かも。側から見た私ってこうなってたんだね……」
あかねは少し反省するように言葉を口にしたが、すぐさまルビーが否定する。
実際ルビーの言う通り、あかね自身が思っているよりずっと喜びと恥ずかしさが相手に伝わる表情をしている。
カメラ越しに見ることでそのことに気が付いたあかねは、自分の中に残っている余韻が再燃したかのように顔を赤らめた。
「そして私!いや〜何回見てもおにいちゃんからのプロポーズは最高だね……昔は何度私が『好き!結婚して!』って言ってものらりくらりかわしてたのに」
「いや、何回も言ったけど、当時の君12歳だから。僕捕まっちゃうから」
「ふふっアクアくん前世返りしちゃってるよ」
「前世のこと突っ込まれるとこうなりがちなんだよな」
ルビーは画面の向こうでは涙も流していたが、今はただ喜びで笑顔だけが現れていた。
アクアは思わず前世の感覚でルビーを嗜めてしまい、それをあかねが突っ込む。
変に隠し事がないとこういう場面も気楽なものだった。
映像に合わせて当時の振り返りが終わり、アクア達個人の問題としてはこれでいいかもしれないが、社会的に見てどうかという点は間違いなく議論されるのがこの番組だ。
『実際どうなんでしょうね。あまり普通の夫婦形態とは言えないですが』
『拒否反応を示す人も勿論いるとは思いますが、いいんじゃないですかね。恋愛は個人の自由ということで』
『ですが、これが普通だと子供が認識してしまうと問題があるのでは?彼らは相当な影響力を持つ芸能人なわけですから』
『そういった懸念から今後彼らの仕事に影響が出る可能性はありますね……果たして一般のご家庭からはどんな印象を持たれているのか、確認していきましょう』
否定派の言葉から始まった本編。
街中を歩いている人たちに無差別にする形式のインタビュー映像が公開される。
どうやら昨日の時点でインタビューを撮影していたようだ。
最初に映されたのは30代の主婦二人。買い物帰りといった様子だが、随分と楽しそうに話をしている。
そちらに許可を取ってからインタビュアーは声を掛けた。
『星野アクアさんとB小町Rの交際発表について意見をお聞きしたいのですが、五人同時交際というのはどう感じられましたか』
『ようやくアクア君が男を見せたねぇ。ずっとあの子を応援してきたからよくやったって主人と声を上げたもの』
『ほんとよぉ。あそこまでキープしておいて逃げるなんてしたら幻滅するところだったわ』
フラットな質問をしたインタビュアーに対して主婦二人が笑顔で答える。
どうやらこの二人はアクアの行動に対して賛成の立場らしい。
『ほら、あの子達は皆いい子でしょ?だからどうしても皆で幸せになって欲しかったのよね』
『ずっと好きだってアピールしてる五人とそれに対応するアクア君というのも面白かったし、今後も発展が期待できるなんて楽しみしかないわ』
非常に好意的な生の言葉。ネットでは賛成が多いとはいえ、実際に見るとまた印象が変わる。
「ふふっアクア達がすっごく純粋に愛し合ってるんだってあの人たちにも伝わったんだよきっと!それはきっとアクア達が頑張ってきたからこそだって思うんだ〜」
「……そうか。がむしゃらに芸能活動をやってきたのがこんな形で生きるなんてな」
アクアはその言葉に目頭が熱くなる。
それからいくつかインタビューが続けられて、その多くが好意的な意見だった。
流石に否定意見もゼロというわけではなく、『世間に公表せず黙っていて欲しかった』という意見もあるにはあったが、圧倒的少数派といっていい。
アクアが今回の件を公表したことに、コメンテーターの一人はこう話す。
『おそらくアクア君は皆を日陰ものにしたくないという考えを持っていたのでしょう。それによる弊害は皆で背負うという意思を感じましたね。世間がそれを受け入れるというのであれば、これも一つの形ということです』
「うん、しっかりアクアくんの考えを見抜いてるね。この人観察力ありそうかな」
「実際今SNSとかでも調べてみたけど、結構一般論に近い人みたい。私たちの関係に賛成派ってとこかしら」
アクア達よりの意見を話すコメンテーターの言葉から他にもいたらしい賛成派が口を開いていく。
どうやら内心どう思っていたとしても、五股について肯定的な意見を最初に出すと言うのは難しかったのかもしれない。
『SNSを見ていても9割近くは賞賛ですね。アイドルのファンというものに私は偏見を持っていたのかもしれません』
『少なくとも彼らはかなり異端の存在なのであまり参考にしない方が良いかと。そもそもアイドルファンというよりそれ以外の人も今回は対象になるわけで』
『子供の頃から追っているというのが大きいのかもしれませんね。それも元々裏でする予定だったとはいえ、プロポーズまでしているわけで。その辺りは他の複数交際している人たちとは違ってくるのかなと』
実際の反応や状況の分析を行う声も出る。
普通に考えればここまで肯定一色になることはないはずの話だが、ここまでスタジオで反対意見は出ていない。
そのままスタジオにいる人たちは順々に自分の意見を口にしていく。
『ファンの間では、常々皆の恋が報われてほしい誰かが泣くのは嫌だって考えがあったみたいで、それが結果として今回の反応を作り出したのでしょうね』
『なるほど。確かにB小町Rはもうアクアくんを公言していましたからね。リアルタイムのラブコメを見ている気分になったと評判でしたし。……私も個人的な感想を言うなら、彼女達とお話しする機会があったので、報われてくれて嬉しい気持ちがありますね』
『プロポーズまでするなんて覚悟が決まってて凄いと思いますよ。皆本気で大切にするという意思が伝わってきました』
そして結局、反対寄りなのは最初のコメンテーターのみというかなり偏った状態なのが会場で分かってしまった。
こういう時は基本的に賛否両方をある程度疎に集めた方が話がしやすいので、番組の進行は大変かもしれないなとアクアは他人事ながらに思う。
「結果的にあのプロポーズ誤爆がいい方に転がってる気もするな」
「本気で責任取るつもりなんだって伝わってくるから変に不倫してるってより印象がいいんじゃないかな?」
「正妻公認で愛人囲ってるって状態よね、これって正直もうちょっと批判があるくらいは覚悟してたわ」
これまでの意見で多く出てきたのはプロポーズや男気のような言葉だ。
普通に考えると複数交際するような男が浮ついていないかと言われると微妙なラインだが、関係性の強さがそれを許容させている。
「誰もメンバーの中に兄妹が含まれてることにテレビですら突っ込まないのすごない?うちらはもう慣れとるからなんとも思わへんけど」
「多分ルビーちゃんが子供とか作らないどころかそういう行為すらしないって宣言しちゃってるからじゃないかな?変に突きたくないんだと思うよ?」
みなみのいう通り話が進む中でもこの話には誰一人として触れない。
兄妹での恋愛は様々なリスクがある。そしてそのことを一番調べて理解し、諦めたルビーの言葉があったからこそ、その覚悟を変に刺激しないという選択を皆がしているようだった。
結局ニュースと同じく、好意的に番組は最後まで走り切る。
『子供がアクア君の真似をして複数股出すようになったらどうするんですか?』という質問も反対の一人から出されたが、『比較対象にアクア君を出されれば簡単に沈黙してしまうのでは?』という言葉に特に反論はなかった。
実際はそんな単純な話ではないはずなのだが、彼らはこのお祭りのような空気に呑まれているのもあって特に指摘もなく、基本賛成で番組は終了する。
アクアとしても、番組の情報を聞いて、人から見た意見を色々と取り入れて、今後の活動で何を意識するべきかを再確認するのだった。
本当の意味で最後の宿題だった交際発表とその後片付けも終わった夜。
アクアは息抜きがてらに近所の浜辺まで出てきていた。
皆一緒に行きたいという視線を向けてはいたが、一人になりたそうな気配を感じたため、家に残っている。
あまり人通りも多くなく、もう暖かくなり始めた海の熱を吸った潮風が頬を凪ぐ。
「やぁ」
軽い調子なのに何処か神聖さを感じるような不思議な声。
アクアはその声に一人だけ心当たりがあった。
「ツクヨミか」
「どうしたの。こんなところで……。お家で可愛いお嫁さん達が待ってるよ」
B小町Rクリスマスドームライブ以来の再会。
出会った時よりいくらが大きくなったその身体は、人間の肉体を本当に持っているんだなと実感させる。
アクアの感覚としては神様とは言わずともそれに近しい存在だろうなと疑っていたから余計にだ。
だが、そんな怪しい存在にもアクアは特に臆することなく言葉を続けた。
「少し気になった事があったんだよ。でも家だと幸せ過ぎて頭回んないから出てきた」
「驚いた。君の口から惚気が聞ける日が来るとはね」
「惚気じゃねぇよ。ただの感想だ」
煽るような表情を作っていたはずのツクヨミの仮面が剥がれ、じとっとした呆れたものへと変わる。
彼女から見たアクアは随分と悲観的というか自分が救われるべきではないと考えているような存在だった。
それがポジティブになったものだなと思うと少しずつ表情が変わる。
彼女の表情の変化に気付いたアクアは、ツクヨミに声を掛けた。
「何ニヤニヤしてるんだ?というかお前こんな時間に出歩いて補導とかされないの」
「君ね、神の神秘を暴こうとするんじゃないよ」
ツクヨミに出会えたのは偶然だったが、今アクアが考えていたことはどちらにせよ、彼女がいなければ解決しそうもないことだった。
都合がいいとばかりにアクアは言葉を続ける。
「結局、使命ってなんだったんだ?まだ続いてるのか」
「ふふっ気にしないって言ってなかったかな」
心配そうにツクヨミに尋ねるアクアを見て、彼女は笑みを浮かべる。
「言ったろ。幸せ過ぎるって。気にしないつもりだったけど、少しでも不安要素があるなら先回りしたいんだよ」
「本当に驚かされるね。随分素直になったというか。B小町Rはファンだけでなく君のことも躾けていたのかな」
「……そうだな。皆と出会ってから色々あった。俺がもし変わったって言うならそれは間違いなく皆のおかげだろうな」
アクアは穏やかな笑みを浮かべる。
一切の虚像をまとわない星野アクア。それがこの場にいる彼だ。
そんなアクアを見て優しい目をしたツクヨミは、言葉を続ける。
「神様は別に君を助けてくれる存在……というわけではないよ。でも、今回は言っておこう。私が言っていた使命、それは果たされたよ。他ならぬ君の手によってね」
「は?」
「おめでとう。君を縛るものはもう何もない。あとは好きに生きたらいいんじゃないかな」
随分と軽い様子で告げられた答えにアクアが驚きの表情になるのは無理ないことだろう。
少なくとも去年のこの頃にはツクヨミから忠告すら受けていたはずなのに達成したとはどう言うことだろうと頭を悩ませる。
「再発するようなものでもない。少なくとも君が今を大切に生きる限りはね」
「相変わらず思わせぶりだな」
「君たちが子供だったから私がフォローしてあげたんだよ?感謝して欲しいくらいだよね」
姿形は子供そのものだというのに、随分と大人びたツクヨミ。
アクア達と同じ転生者なのか、人外の存在が宿っているのか。
アクアには結局彼女の正体は分からなかったが、きっと何かをしたということだけは分かった。
「これで君の前に姿を現すのも最後かな。うん、君の人生中々に楽しかったよ」
ツクヨミはこれまでを振り返り、少しだけ寂しそうに息を吐く。
アクアに関わるように頼まれた用事はこれで全てが終わった。あとはこの世界がどこまでいくのかを見届けるだけ。
ゆらゆらと歩くツクヨミをアクアはただ見送ることしかできなかった。
そのこと自体をアクアは何故か寂しく感じるのだった。
翌日、愛瑠に付き合わされて、事務所でままごとをしているツクヨミと再会し、結局長い付き合いとなるのだが、それはまた別の話。