本編残り2話。
アクア達の交際が世間を騒がせてから半年が過ぎた。
『15年の嘘』から地続きのリアリティに溢れつつも非日常な苺プロ周辺の物語に夢中になったのか、以前にも増して強い人気を獲得している。
その人気に負けないようアクア達も日々技術を磨いていた。
そして今日、苺プロでも初めての企画が行われる予定となっている。
『あー自分のこと緊張してきた』
『後方親面多すぎ問題』
『どんな配信になるんだろうな』
『昔配信者がやってたこともあるし、実績的にいい感じにまとめてはくれると思う』
予定時刻数分前となったYouTubeのライブ配信。
そこには既に1000万を超える人が集まっており、コメントは期待の現れか流星のように流れているため、まともに見ることもできない。
日本語だけでなく、それなりの数、英語などの他言語も混じっており、国際的な人気が伺える。
ライブ配信の概要欄にも今日はコメント対応は基本ありませんと記載されており、こちらまで手が回らないことを示唆していた。
『アイも公開披露宴とかやりそうだと思ってたけど、いつのまにか身内だけでしたみたいだしな』
『プロポーズぶちまけたせいで躊躇なくなっただけの可能性がある』
『結局アーカイブから削除しなかったしな』
『流石に披露宴見せるのは別の理由じゃね?』
本日の企画はアクアとB小町Rメンバーによる結婚披露宴だ。
実は既に挙式は各家族ごとに別日に分けて行っており、家族同士の綺麗な思い出として綺麗に仕舞われている。
エンタメ性も何もない、ただ一人ずつアクアと絆と心をより強固にを結ぶ儀式。
とても家族にとってはいい思い出になったが、不特定多数の人に見せるようなものではない。
それと比べると、今回は、プロポーズが本気だったと証明する意味を込めての結婚披露宴であり、事実婚関係を確固たるものとするという意味を込めてのものだ。
入籍は難しいが、今はそれなりに制度が整っている。
アクア達はそれをうまく活用していた。
『誓いのキスも見たかった……』
『そこだけは秘密って言われちゃったししゃーない』
『俺らはここだけでも見られるだけありがたい』
『もうB小町Rメンバーとアクアのキスシーン1回はやってるんだからそれ見とけよ』
『ウェディングドレス見られるだけ満足だわ』
『絶対可愛すぎるからな。この日視力上がる対策で視力落としてきたわ』
多くの視聴者が、ファンが、今から起きるイベントを楽しみにしている。
コメントからはその熱量の高さが伝わっており、各種SNSもこの日のためにサーバーに対策をするなどかなり努力を見せていた。
『にしても会場にいる人たち錚々たるメンバーだなぁ』
『みたのりおだ。『鷹研ぎ2』にもしれっと獄中状態とはいえ出番あったもんな』
『『今ガチ』やら『東ブレ』やら『深ワン』やら結構前の作品で関わった人たちも来てるなぁ』
『アクアが関わった人たち大成してる率高すぎる』
設置されたカメラのアングルはどこか広い会場を斜め上から撮影しているようだ。
円卓がいくつも置かれた会場には、しっかりとした正装を着こなした男女が多くおり、その誰もが一流かそれに準ずるかといったオーラを纏っていた。
会場の一面には謎のカーテンが設置されており、純白のそれが空調に合わせて少し靡いている。
そこまで明るい会場ではないはずなのに何故か眩しく感じられるほどの彼らの存在感は、そこにいるだけで視聴者を楽しませる。
「皆様、本日は星野アクア、ルビー、かな、あかね、フリル、みなみの結婚披露宴にお越しいただき誠にありがとうございます」
『姫川じゃん』
『真面目な姫川大輝久々に見た気がする』
『上原大輝としてはかなり歳の割に渋い役とかも多いんだけどな』
そんな中、よく通る声が会場で存在感を持ってその場の空気を塗り潰す。
本来苗字は変わらないのだが、あえて読み手が統一しているのは、彼らに気を遣ってのことだろう。
カメラが声に合わせてふっと切り替わった。どうやらカメラがいくつもあるらしい。
そして黒髪に眼鏡を掛けた端正な顔立ちの男を映し出す。
「本日司会を務めさせていただきます姫川……」
ここまで口にしたところで大輝は『じーっ』という擬音が聞こえそうな視線を少し呆れた表情をしているヒカルがいる家族席……ではなくカーテンから感じた。
僅かに開かれたカーテンから覗く瞳に、射抜かれるような気分になった大輝は、今日は仕事ではなく新郎、そして新婦の兄として参加しているのだと思い出して、セリフを修正する。
「凄い視線がカーテンの方から飛んできておりますので、訂正させていただきます。新郎の兄、……星野大輝です。よろしくお願いします」
少しだけはにかみながら笑みを浮かべて、そう最近得た新たな名前を口にした大輝は、深々と頭を下げる。
大輝の名乗りに会場からは多くの拍手とそのやりとりへの笑顔、そして驚きが送られた。
『星野!?』
『確か15年後の嘘で血が繋がってるとは聞いてたが引き取られてんのか!?』
『あーそういうことかぁ……良かったなぁ大輝君』
『推しの照れた幸せ顔……いい』
『最近彼女も出来てたしマジで今後幸せになってほしいわ。頼むぜゆらたそ』
本名が星野大輝になったことついての情報は初公開であり、コメントの驚愕も納得というところである。
先日、大輝は正式にとある夫婦に引き取られ、彼らの苗字に変わったばかりだった。
二人は星野に苗字を統一しており、ヒカルもその時から星野輝である。
そしてついにゆらと付き合い始めたばかりだったりする。
(名前が変わっても親父やお袋のことを忘れるわけじゃない。だけど今回はプライベートだ。二人の分も背負って、だが前に進む意思表示もしたいし、ちゃんと癖つけないとな。ゆらに後で揶揄われそうだ)
上原の名を残すべきか、新しい家族を受け入れて前に進むかの選択で、大輝は後者を選択した。
代わりとして、彼は芸名を新たに増やし、舞台の時は『上原大輝』、カメラ演技の時は『姫川大輝』とわざわざ複数の名義を持つようになっていた。
自分なりの背負い方と大輝は考えており、周りは手間が増えるはずなのだが、その考えを尊重してくれている。
大輝は自分の名前を少し噛み締めてから、言葉を続けた。
「今日は弟、妹、そして義妹達の晴れ舞台。この場にいる方々に目を映せば、多くがその道の一流と呼ばれるプロの方々。彼らが積み上げてきた良い関係が見えるようで私もホッとしております」
まずは形式的に固く、しかししっかりと挨拶をしてから大輝は空気を緩める。
感情を纏うような演技をすることができる大輝にとって、この辺りの調整で周りを巻き込むのはそう難しいものではない。
以前特等席でかなの太陽の演技の手本があったのも、いい参考になっていた。
「事前に『固くやるなよ?テレビ慣れしてるし分かってるだろ?』と新郎に言われてはおりますので……ほどほどに崩しながら司会をやっていけたらと思います」
元々ドラマだけでなく、その高い能力や実に天然バラエティ向けな性能からバラエティの機会も増えた結果、すっかり場回しも上手くなった大輝。
アクア以外にもう一人のライバルとして認識しているみたのりおから見ても、以前よりできる幅が広がったのを強く感じるほどだ。
「そして今回は披露宴のライブ配信間で行われるということで、1000万を超える人間が見ているとか。……1000万人以上が見る結婚披露宴なんて殆ど聞いたことないし、国を挙げたイベントか何かか?」
『草』
『国葬ならぬ国婚かな』
『この日のために全国の店舗の営業止めたチェーン店あるの好き』
『休日やってくれなかったら国麻痺してそう』
大輝の思わずと言った調子で出た言葉に、会場もコメントも笑いと共感に包まれる。
コメントにもあるようにかなり大きなサービス業でも、この日休みを用意しているところがいくつかあったほどである。
六人の影響力の強さがよく分かる話だと思いながらも、大輝は話を元に戻して、真面目に進行する。
「彼らと共に歩み、競い合ってきているものとして、その影響力や成長性は恐ろしくもありますが、頼もしくもあります。この結婚がそんな彼らの新たな門出になればいいなと思いつつも、そろそろ新郎新婦達をお呼びしたいと思います」
そこで一息吸ってから大輝はしっかり会場すべてに聞こえる声で本番の始まりになる言葉を口にする。
「それでは、新郎新婦、入場」
大輝の声に合わせて、先ほどまでもゆらゆらと自己主張をしていたカーテンがバッと開かれ、大型のステージが顔を覗かせる。
そこにいるのは新郎新婦ではなく、この会場でも一際輝く一番星。そして一度聞いたら頭に残る印象的な曲が流れ始める。
「『無敵の笑顔で荒らすメディア』」
「『知りたいその秘密ミステリアス』」
流れ始めたのは、B小町Rが唯一継承しておらず、越えるべき壁であり続けている曲『アイドル』だ。
そして歌い手は当然……。
『なんでアイ!?!?』
『復帰!?マジ????』
『ルビーちゃんが寄せてるわけじゃなくて???』
『これが3x歳ってマジ?可愛すぎるだろ』
『さらに人妻でもある……あのヒカルとかいうイケメン許すまじ』
『まさかのお母さんのライブに合わせての入場かよ!?』
新郎新婦の母であり、B小町でアイドルをしていたアイが歌い踊る姿を見て、ファンは皆驚きの声をコメントにしていた。
彼女が最後にアイドルとして活動したのはもう十年も前の話。
だが、この日のためにアイはずっと練習を重ね、磨いていたのだ。
というより元々体力作りの一環や、もし娘からダンスを見せてと言われた時のために、実は普段からいくつかの曲の踊りはしっかりと練習しており、本番へのブランクこそあるものの基礎部分は問題ない。
更にこの十年、女優として培った技術も合わさって、今が全盛期だと主張する人がいてもおかしくはない程のクオリティに仕上がっていた。
『でもこれ大丈夫か?アイの踊りブランク感じさせないくらいキレキレなんだけど』
『流石は『アイドル』で究極のアイドルを願われた存在だけはあるなぁ』
『ここで目立ちすぎると息子と娘の結婚披露宴霞まない?大丈夫?』
アイという輝きが起こした出来事。
それは『15年の嘘』が証明している。隠されている部分も多いとはいえ、あの映画は真実の方が多い映画だ。
にわかなファンでも、アイそして『アイドル』の存在感をよく知っている。不安視してしまうのも仕方がないかもしれない。
現役時代を知らなくとも、この圧倒的なパフォーマンスは、見ているとそう感じさせるだけのものを持っていた。
『大丈夫だって今のB小町Rの皆なら』
『いつも通り後方父親面してドッシリ構えとくわ』
『究極のアイドルを超えろっていう緊急企画みたいなもんよ』
『今日この日、アクアとB小町Rは伝説に並び、伝説を超える!』
『子は親の背を超えたくなるし、親は子に超えられるのを喜ぶもんよ』
見ているもの達の興奮と不安はそう間違ったものではない。
事実ここまで彼女はそうさせるほど圧巻のパフォーマンスを見せている。
だがずっと見てきたファンは、B小町Rの皆の可能性を信じている。
もう彼女達は、あの星野アイにだって負けない力を持っているのだと。
「『天才的なアイドル様』」
「「『今日何食べた?好きな本は?』」」
「「『遊びに行くならどこへ行くの?』」」
導入部が終わった途端、ふっと歌声が二つになる。
アイの綺麗な歌声にもう一つ、別種の心に響くような歌声が混ざる。
決してアイの歌を邪魔するわけではなく、だが添え物になるわけではない。
二つともがメインと言い張れる代物だ。そして変わったのは歌だけではない。
ステージには、紫のウェディングドレスを身にまとった美しい女性、フリルが現れていた。
アイとはまた違うタイプの容姿だが、すっと目を惹きつけられる感覚は彼女と近い特性を持つだろう。
そんなフリルの登場に、会場と配信は大いに湧く。
『おおおおおおフリルちゃんだあああああああああああ』
『パープルドレスじゃん!メンバーカラーなのもいいけどマジ綺麗過ぎ』
『いや一人で登場!?他の皆は!?というか新郎は!?!?』
『可愛いからなんでもよし!』
『フリルその格好で踊るの正気かよ!流石B小町Rだぜ』
『あーフリルの歌声ほんと脳に染みる最高ですわ』
B小町Rのみを純粋に追いかけ続けた多くのファンは、このフリルらしい歌い方や踊りに満足感を示し、隣にいるアイと互角に渡り合う推しを誇らしげに思っていた。
『あのアイと互角に魅せあってる……すごっ』
『すげぇアイが歌ってるのにアイだけが目立つわけじゃないの初めて見た』
昔B小町を応援していたものからは驚きの声が聞こえてくる。
他の子を推していた人も確かにいたにはいた。
だが、そういう人たちもアイこそが絶対という感覚は共有しており、今ステージ上にアイと一対一でいるのに同じくらい輝いているフリルに驚きを隠せない。
(いいねフリルちゃん。本気でやってるのに全然負けてないどころか私より少し視線集めてるかな。こういうの初めて……かも。ほんっとにスゴイ!)
そしてアイも内心で驚いていた。B小町でアイドルに本気で取り組むようになってから、いや、もっと昔からアイは誰よりも視線を集めてきた。
だが、今この瞬間はフリルの方に意識が向いている人が多い。それにアイは初めての状況に驚きつつも義娘の成長を喜んでいた。
フリルはアイと共に踊りのパフォーマンスまで見せていく。
靴はどうやら動きやすいものを選択しているらしく、一般常識的な結婚式の状態とは異なるようだ。
『いや〜いいっすね〜!』
『アイが相手と対等に目立つってタイプのダンス初めて見たけどこれはこれでいい!』
『フリルちゃんのターンでふわっとなるドレスええっすねぇ〜あと背中も綺麗過ぎて頭おかしくなる』
『動きにくさあるはずなのに、まさかあのドレス特注か?』
フリルのキレキレダンスを見て、コメントは更に盛り上がる。
(ふぅ……トップバッターとしての役割は十分果たせたかな。決してアイさんに負けたって感じではなかったけど、互角。ブランクありでこっちはウエディングドレス込みだからもうちょっと精進しないとかな)
一通りダンスを見せつけたフリルは、ぴょいっとステージから降りながらそんなことを考える。
ただこれは確かな一歩だ。アイを超えるアイドルになる。
ルビーの持つ夢、そして皆の目標に到達できるとようやく背中が見えたのだから。
フリルは、会場やカメラに手を振りながらも歌は続け、目的地である新郎新婦席にまで移動する。
そして自分のパートラストを歌い切ったところで、歌を止めてすっと着席した。
彼女が曲割でここを選んだ理由は至極単純だ。
(ふふっ事前に私のスマホはここに用意してもらっているし、時間もたっぷり。これでここからは特等席でマリン流に言えば『推し活健康論』できるね)
そう、誰より先にここに来れば、他の皆のパフォーマンスが特等席で見られるからである。
こんな時でも実にフリルらしい理由だった。
「「『誰もが目を奪われてく』」」
「「『君は完璧で究極のアイドル』」」
フリルは歌うのを止めたが、まだ歌は二つに聞こえる。
今度はまるでアイのような歌がアイの歌と共に響き、それが歌うごとに少しずつ澄んだ本人のものへと変化していく。
新郎新婦席でニコニコとしているフリルと入れ替わるように現れたのは、ただ一つしかないはずの一番星。一番星の娘であるルビーでもない。
ただの少女が、同じ手法でそのアイドルの頂へと手を掛ける。
『あかねちゃんだああああああああブルードレスマジ似合ってる一生推す!!!』
『あーマジで生きててよかったありがとう神様!』
『一瞬アイが分身したかと思った……』
『最初ガンガンにアイに寄せてたとこから少しずつあかねちゃんになってく感じがあかねちゃんの演技の成長を感じさせてエモい』
『アイちゃんの演技もいいけど、あの澄んだ歌声がたまらんのですよ』
あかねにしかできないコピーからの少しずつ変えるという演出に視聴者も会場も大喜びだ。
贋作でしかなかったものが、その人個人のものになっていく。それも一つの成長である。
アイの演技を完全に解除してもあかねの惹きつける魅力は変わらない。自分の中に完全に吸収した要素ということで、二重で演技をさせなくとも使いこなしていた。
(完全に『嘘つきの瞳』を自分のものにしてる。嘘つきの才能があるって感じじゃなかったんだけど、他の才能でそれを補ってる感じなのかな。……成長したね、あかねちゃん)
自分のファンでもあり、アクアのファンでもある彼女と同じステージに立ってこうして一緒に歌い踊るというのはアイにとっても新鮮だった。
あかねという千変万化の役者は、さまざまな表現を高レベルにこなすことができる。
(ふぅ……今できる全部は出せた。アイさんは流石にハイレベルだけど私たちは負けてないって思えたかな。にしてもフリルちゃん、いい笑顔でこっちにピースしてるなぁ)
あかねは、フリルと同じく舞台から降りても、淑やかな雰囲気をまといながら、堂々とその注目を一心に受けながらフリルのいる席の隣へ移動して、自分のパートが終わると同時に歌うのを止めて着席する。
「「『はいはい、あの子は特別です』」」
「「『我々はハナからオマケです』」」
元はアイが歌うことのなかったパートであるここに合わせるように、転調部分が持つ闇を晴らすような純白のドレスに身を包んだかなが現れる。
赤みがかった髪色と白の衣装のコントラストは、かなという幼さを感じながらも整っている素材を活かしており、すっと自然に目を惹いた。
『かなちゃんのドレス可愛いいいいいいいいい!!』
『おお!マジ最高じゃん出方完璧か?』
『普通の結婚披露宴だと新郎と一緒だろうけど、今回は一人か』
『歌い方あえて明るくしてるのもこの部分の闇祓う感じですこ』
『ニノの演技で歌ってた時と全然違ってかなちゃんって感じでいいっすね』
現れた最初の花嫁にコメント欄は大盛り上がりだ。
かなは自分の笑顔溢れる演技が太陽と称されていることをよく知っている。
だからこそ満面の今自分が抱いている最高という気分を表に全面的に出して、喜びを表現して暗さを祓う。
(『それが始まり』で初めて共演した時に感じたセンスは本物だって改めて感じるね。あの時はまさかアイドルになるなんて思ってもいなかったや。……アクアってば罪な男だなぁ〜)
初めて会った時からずっと成長した少女。
まだ未熟な子役だった彼女が今は立派な女優でありアイドルとなっている。
そして今や自分の義理の娘の一人。初めて会った時は思いもしなかったが、それがアイには嬉しかった。
(ホントこの人永遠のアイドルって感じよね。だからこそ挑み甲斐があるって感じだけど……引き分けかしらね。でも……ようやく見えたわよ、アイの背中)
かなは以前はどれほど遠いか分からなかったアイの背までの距離を理解する。決して手が届かないわけではないと思えたくらいには、彼女の自意識も長年で改善されていた。
ステージから離れる時は、『私達を見ろ』と主張するような雰囲気を醸し出してステージ上のアイだけではなく、披露宴という場所に相応しい花嫁である自分にも視線を集めて見せながら、用意された席へ着く。
かなは、先に席に着いていた二人に出迎えられ少し照れ臭いながらも達成感を感じていた。
「「『誰もが信じ崇めてる』」」
「「『まさに最強で無敵のアイドル』」」
今回現れたのは、ピンクのウェディングドレスに身を包んだみなみだ。
濃すぎない色合いは白とはまた異なるが、光り方によっては桃色にも見える彼女の髪色より淡くされており、その分長い髪が動くのが生えやすくデザインされていた。
『あ〜なんか魂浄化されそう。聖女かな?』
『でっ………』
『笑顔が純粋過ぎるわ嬉しいが漏れ出てるしかわゆい』
『あんなにえちちな身体してるのにえっちさより可愛さが先に来るのが凄い』
『踊りが見た目に反して鋭いのも合わさって存在の説得力を感じるのが最高です』
みなみが現れると今度はコメント欄でみなみのファンが彼女に対して感想やエールを送る。
ほとんどのコメントは可愛いや綺麗、でかいなどの容姿を漠然と褒めるコメントだ。
ただ本質的にみなみの武器は肉感的な身体、そして色気の調整力である。
みなみだけステージに立つアイをリアルタイムで見たことがないという課題があったにも関わらず、みなみはしっかり負けることなく視線を集めることに成功していた。
(みなみちゃんは初めて知り合った時、一人だけ遅かったし少し浮いちゃうんじゃなんて少し心配してたけど全然だったね。……B小町Rの皆は私とは、B小町とは違うって確信できたきっかけをくれた子だなぁ)
知り合うタイミングにあれほど差があったのに、ここまで皆と対等な関係を築いたみなみ。
アイは本人には言ったことはなかったが、実は少々憧れに近い思いを抱いたこともある。
自分の中で過去の出来事を完全に昇華する最後の一押しになった相手でもあった。
(リハーサルでも思うたけど、アイさんってほんますごいんやなぁ。流石は伝説のアイドルなんて言われとるだけあるわ。でもうちやってアクアさんも皆も見てくれてるから負けへんよ!)
隣にいる伝説のアイドル。
生で見ておかなかったのを後悔するその迫力を見てもなお、みなみはパフォーマンスを落とさず、むしろ引き上げる。
しっかり一番星に負けることなくアピールした彼女は、三人が待つ席へ向かい、着席するとほっとひと息を吐いた。
「「『得意の笑顔で沸かすメディア』」」
「「『隠しきるこの秘密だけは』」」
次に出てきたのはルビー……ではなく、アクアだ。
淡い水色のタキシードに身を包んでおり、アイドルをやっているわけではない彼だが、その両親から与えられたオーラを前世からの気性で磨いているからか、アイの隣にいても霞むことはない。
『アクアで草』
『ルビーちゃん待機してたのにお前かーい!』
『でも声質が全然違うのにしっかり合わせてていい感じにコントラスト聴いてて好き』
『アクア様ほんとかっこいい……第六婦人空いてないですか……いや無理だよレベル高過ぎる』
コメント欄にはアクアが来たことで予想外だと驚く声が複数ありつつも、何度かドラマの主題歌をやったり、B小町Rを応援するために振り付け完コピしたりとしてきたおかげで動きに一切の迷いはない。
アイも思わず笑みを浮かべる。
(ふふっまさかアクアと一緒にこうしてステージで歌う日が来るなんてなぁ。思いもしなかったよ!でも上手いねアクア、やっぱアイドルもなれたんじゃないかな?)
アイは子供の頃のことを思い出す。
ルビーがアイドルになると言った時、実は双子アイドルユニットをやるなんて話も出ており、それを全力で拒否していたアクアを思い出すと温かい気持ちになる。
アクア達は幸い特殊な構造の家とはいえ、同じ家に住んでくれる予定となっている。
だが、親の手を離れる感じがやはり寂しいなと少し思うのだった。
(『28時間』の時も思ったが、振り付け完コピするのと人前で見せるのとではまた感覚違うよな。でも俺は前座だ。頼むぞ、ルビー)
アクアは自分のパートを歌い終わったところで、すっとステージの隅に移動し、どこからか赤と赤のサイリウムを取り出す。
「「『いつかきっと全部手に入れる』」」
「「『私はそう欲張りなアイドル』」」
そしてそれと入れ替わるように赤いドレスに身を包んだ一等星の輝きを持つルビーがステージ上へ現れた。
アイから受け継いだメンバーカラーを身に纏い、かつての推しと初めて同じステージに立つ。
この一つの節目にどうしてもルビーがやりたかったことだ。
情熱的な色は常に楽しそうにしていたさりなにも、今楽しく笑顔を浮かべるルビーにもよく似合っている。
『親子共演だああああああああああああ!!アイルビ推し俺大歓喜!!!』
『ルビーちゃんのダンスほんと躍動感あってすごい好き』
『歌もずっと練習してたんだもんなぁ。最初の歌練習動画たまに見返して感動してる』
『二人ともすごいいい笑顔してるよ……マジで視力どころか生物として進化しそう』
ファン達もこの光景に思わず感動するものが現れるほどだ。
ルビーがどれほどアイに憧れているのかは、このグループを知っていて知らぬものなどいない。
親子関係が明かされてからもそれは変わらなかった。
輝いて見える笑顔とその圧倒的顔面偏差値の暴力で脳を焼かれる人もいるかもしれない。
「「『等身大でみんなのこと』」」
「「『ちゃんと愛したいから』」」
(ルビー……すごい、すごいよ!!うちの子だからだっていつもは言うけど今日は違うルビーだからすごい!!!ママだってまだまだ憧れてほしいから頑張らなきゃ!)
アイの子供への愛は本物だ。
あの日愛を知って、それからずっと大切に育んできた思い出は今でも即座に思い出すことができる。
その成長の補正を抜きにしても、今のルビーは誰よりも輝いてアイには見えていた。
「「『今日も嘘をつくの』」」
「「『この言葉がいつか本当になる日を願って』」」
(ママ、やっぱりすごい。アイドル引退してもう長いのに全然動きが衰えてないどころか細かなところは進化すらしてるかも!やっぱアイちゃんって最高!!でも負けない、せんせの前だもん!!)
変わらず最高のアイドルとしての資質を持つアイの姿。
だがルビーはいつか最愛の人に誓ったのだ。
アイをも超えるアイドルになると。
今の自分ができる最高を最愛の人に見てもらう。その一心でルビーは全力を振り絞る。
「「『それでもまだ君と君にだけは言えずにいたけど』」」
「「『Ahやっと言えた』」」
「「『これは絶対嘘じゃない』」」
「「「『愛してる』」」」
最後はアクアも合わせて歌を声を出す。それに合わせて会場からは大きな拍手が送られた。
あとはアウトロが流れるだけ。その間にアクアとルビーは四人が待つ席へと移動する必要がある。
ここでアクアはすっとルビーの方へ歩き、手を差し出した。
普通に考えれば、五人平等に扱うという点で、何もしない方が正解ではあるのだろう。
だが、アクアがこうしたのにはちゃんと理由がある。
「母さんは俺たちがスピカみたいに支え合うことを望んでるらしいからな。今後もずっとな。その姿を結婚ってところでも見せておこう」
「……うん!」
アクアの言葉にルビーは彼の手を取り、そして二人は他の皆が待つ席の方へと向かう。
こうして結婚式披露宴は盛大なスタートを切ることに成功したのだった。