オープニングライブが終わり、アクアは参列者やファン達へ丁寧な挨拶をする。
舞台挨拶などの場で挨拶する機会も増えただけあって、慣れた様子の挨拶をしたところで、アクアはふっと息を吐いて楽にした。
「堅苦しい挨拶もここまでだ。ここからはいつも通りにやらせてもらおうと思う。大輝も楽にしていいぞ」
今も現場では姫川と呼ぶことが多いアクアだが、星野大輝としてこの場にいる彼のことを下の名で呼ぶ。
それがどうやら少し嬉しかったらしい大輝は笑顔を見せながら答えた。
「なんだ弟よ、兄貴でもお兄ちゃんでも好きに呼んでいいんだが」
「いや大輝でいいだろ。というか、んなこと一回も言ったことなかったし」
アクアは先日大輝が正式に家族の仲間入りした時から、彼のことを大輝と呼ぶことにした。
色々と照れもあり、一番呼びやすい呼び方を選択したのだが、大輝はそれを仕方がないと言いたげな揶揄いの視線を向けつつ受け止める。
「仕方がねぇな、弟のわがままに応えてやるのもお兄ちゃんの役割だし大目に見てやるよ。……にしてもオープニングイベント、アレ誰が考えたんだ?花嫁にやらせるパフォーマンスじゃないだろ」
大輝は、話を変える意味も込めて、最初のオープニングに行われたアイ復活ライブwith B小町Rについてアクアに問いかけた。
このためだけに特注されたウェディングドレスなど、手間を考えればかなり前から準備されていたのが伺える。
「第一案はルビーだな。どうしても母さんにこの晴れ舞台で成長を見せたかったんだと。母さん自身が歌ったのはあいつの趣味。そこから皆乗り気で肉付けされてあの形になったわけだ」
「そのためにドレスも踊れる特注品も用意は流石シスコン……いや全員の希望を叶えたなら嫁コンか?」
元からルビーには甘いと思っていたのだが、それは事実婚状態となっても変わらないようだ。
それどころか他の嫁にも甘そうなのが透けて見えていた。
「まぁオープニングトークもそこそこに話を進めるとするか」
大輝はこれ以上アクアを弄っても進まないと考え、会話を切り上げてスイッチを真面目モードに切り替える。
「次は乾杯とさせていただこうと思うのですが、乾杯の音頭は、新郎新婦の友人である鳴嶋メルト様にお願いしております」
「……なんか大輝さんに様付けで呼ばれると違和感すげぇな」
大輝から指名されたメルトは、一人そんなことを口にしながら、円卓からステージの方へと向かう。
「ご紹介に預かりました鳴嶋メルトです」
『おっ!音頭はメルトが取るのか』
『やっぱアクア達共通の友人って言ったらメルトよな』
『ケンゴとノブユキでも悪くはないんだけどそっちはあかねちゃんと二人だったらって感じだしね』
『『15年の嘘』で皆共演したことあるから最適よ』
紹介されてすぐに、先程までアイがライブをしていたステージへ上がったメルトが、軽く自己紹介をしながら頭を下げる。
頭を下げた彼へ拍手が送られ、それに対してメルトも笑顔を返した。
拍手が静まったのを見て、メルトは言葉を続ける。
「初めてアクアと会ったのは『今日は甘口で』の撮影で、当時芸能界を舐めていた顔だけでどうにでもなると思っていた俺に、アクアとかなちゃんと二人で、芸能界の厳しさを叩き込んでくれました。あの経験のおかげで俺は間違いなく役者として貴重な一歩を踏み出せました。感謝してもし切れません」
『『今日あま』初期のメルト演技やばかったもんなぁ』
『久々のかなちゃんの演技なのにってキレてたわ』
『それがこんな立派になって……今年のドラマ文句なしだったし』
メルトは改めてあの時のことをアクアに感謝する。
アレがなければきっと自分は今のようにちゃんと仕事に責任を持てる役者になれなかっただろうといつも思っていた。
「そして『15年の嘘』では、B小町Rの全員と共演し、アクアと彼女達の絆を間近で見てきました。世間から見ても特殊な夫婦形態ではあると思いますが、これからもこの六人は絆を違えることなく、助け合って幸せに生きていけると俺は思います」
そこで息を吸って、最後の締めの言葉を口にする。
「アクア達の輝かしい未来を祝って、乾杯!!」
「「「かんぱーい!」」」
『『『かんぱーい!!』』』
その声に合わせて会場やコメントでも声が返され、宴は始まる。
最初は雑談タイムということでアクア達と大輝でトークをしながら、皆の食事が進むのを見届けていく。
「新郎新婦が誰一人アルコールを手にとってないというのも珍しい結婚式だよな」
「年齢的に飲めないメンバーの方が多いしな。こればかりは仕方がない」
メンバーの半数以上が19歳で足切りされているのが大きな理由だった。
とはいえかなとあかねの二人は二十歳を過ぎており、法的には酒でも問題ない場面ではある。
「有馬と黒川……いや、なんて呼んだらいいんだ?」
「別に有馬のままでもいいわよ?実際に苗字変わったわけでもないし。それに芸名はこのまま行くつもり」
「私も同じかな。名前の方でもいいですよお義兄さん」
かなもあかねも特に呼び方は自由でいいと答えた。
揶揄いの意味が濃いだろうお義兄さんという呼び名に少し動揺しつつも、大輝は言葉を続ける。
「お義兄さん、そういやそう呼ばれる可能性を考えてなかったな。とりあえず今はそのままで呼ばせてもらう。じゃあ有馬と黒川が飲まないのはどうしてだ?もう酒試したんだろ?」
「あっあはは……」
「……色々あったのよ」
『すごかったもんなぁ、かなちゃんの酔い方』
『完全黒歴史と言っていいのでは?可愛かったけどさ』
『あかねちゃんも酔ったフリなのもあったけどいつもよりリミット外れてた感あるよな』
『甘えん坊レベル99って感じでほんと多幸感溢れてたわ』
大輝はB小町Rちゃんねるの動画を全て追っているわけではない。
だから知らなかったのだが、かなとあかねの二人が二十歳を迎えた後、初飲酒企画を配信で行ったのだ。
その時の様子がこちらである。
『えへへ〜あーくん聞いてる?ほら、皆にチュー見せましょチュー』
『おい、落ち着け。というかまだ一口だろ……雰囲気だけで酔ってたからまさかとは思ってたが、激弱じゃねーか』
『いいじゃない、もう婚約者よ……婚約者、えへへ〜』
『これ、黒歴史確定だな』
今にも画面の向こうにいる人たちへとラブシーンを見せつけそうなかなに、アクアは呆れた視線を向ける。
コメントは視力上がるの大合唱であり、実に楽しそうにかなの痴態を眺めていた。
アクアも呆れてはいるものの、恋人のこんな姿が可愛くないはずもなく、内心では嬉しさ半分といったところである。
他のメンバーも特に止めることなく笑顔でその様子を眺めていた。
『重ちゃん面白過ぎる……コメディエンヌとして負けられない。来年は私もやらないと』
『これが自然っていうのが一番先輩持ってるよね〜』
来年同じネタは出来ないなぁ〜と思うフリルに対して、計算でもなんでもないからこその強みがあるよなと思うルビー。
ただその辺りは先輩特権ということでルビーも仕方がないと受け入れていた。
『……ふぅ、アクアくん……ちょっと私も酔ってきちゃったかも』
『いやあかねさんは絶対嘘やろ!?』
あかねもすっといつものシャンとした姿を崩してアクアへしなだれ掛かり、トロンとした目を上目遣いに彼へと向ける。
いつになく弱いあかねの様子に、アクアはドキリとさせられた。
そんなあかねに恐らく便乗だろうと考えたみなみは、勢いよくツッコミを入れる。
『みなみちゃん酷いなぁ、嘘じゃないよぉ。アクアくん……ね?』
『あれ!?これほんまに酔うとる!?どっちなんやろうちじゃ見抜けないんやけど!?』
結局この後、かなはずっとアクアに甘え続けて、それからあかねも便乗して甘えるというただのイチャイチャ配信が続くことになる。
後日、自分の大失態を確認したかなは、いざって時以外は酒を飲まないと決めたとか。
あかねの場合は、本当に酔っていたのか、それとも便乗しただけなのかは本人にしか分からないが、少なくとも今回は酒類は遠慮し、結果として誰も酒を飲まないという形になったというわけである。
今回の披露宴は来客とファンどちらもが楽しめるように構成を考えられている。
大輝は軽くアクア達に振った話のキリが良くなったこのタイミングで、次のプログラムに進めることにした。
「乾杯したばかりですが、この辺りで新郎新婦の来歴を折角なので振り返っていきましょう。基本的に芸能界に出た時の物のみを抜粋しているみたいですが、それでも濃密な動画となっておりますので、食事や会話の肴にお楽しみください」
最初に表示されたのは、可愛らしい赤ん坊が赤ちゃんの服を着て写真撮影されている画像だ。
愛くるしい笑顔を浮かべており、その容姿はこの時点で将来性を感じさせている。
「私じゃない!?ちょっ流石に恥ずかしいんだけど」
『かなちゃんの初仕事の奴だ!』
『これ知ってる奴は古参オブ古参』
『重曹舐める前か……赤ちゃんの頃から可愛いなコイツ』
かなはスクリーンに映し出された自分の姿に恥ずかしくなる。
まだ技術も何もない無邪気に母が喜んでくれているから写真撮影に参加していたと言った時代だ。
「かなちゃん可愛い!!私もこの時の画像って入手できなかったんだよね」
「あかねが入手できないって相当貴重品だな」
「うん、私がかなちゃんファンになった時にはもう非売品で。赤ちゃん用のってなると中古で出回ることもなかったから」
かなの初仕事ということで、もし今まともに手に入れようとすればプレミアが付いている事だろう。
続いて表示されたのは、赤子二人がサイリウムを振り回す映像。こちらは逆にもう誰もが知っていると言っていい。
金髪の並んだ赤子は、どちらも元気いっぱいにステージで踊るアイドルを応援しており、その子のことが好きなのが良く伝わってくる。
今来ている異常な人数の視聴者もそのほとんどが知っている代物、ヲタ芸赤ちゃんだ。
「私とおにいちゃんだ!!何度見ても私達すごっ!!ってなるね」
「本人が驚いてどうすんだよ……にしても目立ってんな俺ら」
「家族席でアイさんがきゃわ~って顔しとるなぁ」
「この二人はアイさん特攻だからそりゃこうなるよね。マリンもルビーもかわゆす」
『年に何回か見たくなる動画ランキング堂々の一位』
『このキレキレのヲタ芸が世界を変えたんだよね……』
『実際これがアイを真の意味で覚醒させたと思うと世界に影響与えすぎ』
この出来事があったからこそ、アイは自分の子供に対して愛を獲得できたと言ってもいい。
昔はただの世界面白映像でしかなかったこの場面も、裏側を知れば感動する人も少なくはなかった。
次に表示されたのは、金髪の少年と赤みがかった髪をした少女が並び立つシーンだ。
一人の女性が自分を変えようと決意して、やってきた謎の村に現れた不気味な子供達。
かなの演技も十分不気味なのだが、それから行われたアクアの演技は、見ているだけで鳥肌が立つようで、見ている物を嘘へと引き込むような深みを感じさせた。
今とは比較にならないが、当時のアクアが見せた大人の演技。雨宮吾郎という成人男性をこの子供の身体で再現したからこその不気味さは人の心を掴んでいた。
「有馬の演技もいいんだが、これが俳優・星野アクアの原点か。実はこれまで見たことなかったんだが……これ当時よくできたな、どうやったんだ」
「企業秘密だ。今でもこの演技は応用して使ってるしな」
「この後、私は敗北感で泣くのよね……いや、あーくん怖すぎでしょ」
「私はこのシーンでアクアくんのファンになったんだぁ。この大人も泣いちゃうくらいの怖い演技でこの人みたいになりたいなって。懐かしいなぁ」
『今見ても不気味だわこの子供』
『まだ2歳とかのはずだからこれだけ出来たらそりゃ不気味だよ』
『このシーンがなければ、あかねちゃんが苺プロに入らなかった可能性が』
『これもまた運命の分岐点なのかね』
あかねは、苺プロに入りたいと考えるようになったきっかけの演技に熱い息を吐く。あの時はまさか憧れのかなごと、この演技をしていた男の子のお嫁さんになるとは思いもしなかった。
かなは、あの日アクアと知り合っていなければの自分を想像しようとして諦める。今の自分はあまりにアクアが多くを構成し過ぎていて、出会わなかったなんて可能性を想像できなかった。
アクアはここで初めてのライバルを得た、そして初めて出演した作品ということで当然印象に残っている。
再び映像は切り替わる。金髪の少年が冷たい目で世界を見据える。だがその奥には熱い心が見え隠れし、決して冷徹な人間ではないと分からせてくれるおかげで、見ていて気分がいい。
それに対して黒髪の少女が、エールを送り、少年はポーズと輝くベルトの力で仮面のヒーローへと姿を変えた。
「おお……映像作った人は分かってるね。やっぱりこれ好き……かっこよ」
「フリルはこれで俺に興味持ってくれたらしいし大切なシーンだな」
「おにいちゃんとパパの初共演もこれだよね~この頃のおにいちゃんってどっちかと言えば可愛い感じ!」
「あはは、私の演技はまだまだだなぁ……。アクアくんやヒカルさん、他にもいろんな人に教えてもらえたからここから成長できたよ」
『クロノスとか青春の真っただ中だわ』
『学校でみんなでごっこ遊びしました』
『これ大人の時主人公がアクアの父親なんだっけ』
『今思うとこの時点で偶然ニアミスするとか親子ってすごい』
仮面ライバークロノスもまた、アクアとあかね、フリルにとっては転機の作品だ。
アクアはこの時『嘘つきの瞳』の演技をヒカルに教わり、あかねは初めて出演した作品、そしてフリルはアクアという推しを得た瞬間である。
このように転機となった作品を、ある程度絞って、当時のアクア達を映すような構造となっており、時系列は飛び飛びだ。
それなりに仕事を持っていたアクア達の仕事全てを映すと後発組との平等性に欠けるというのも理由の一つだろう。
映像が変わり、何処か暗い印象を与えるアクアと、天真爛漫なかなに、大人びたミステリアスなあかねの三人組が映し出される。
転生という非現実的な要素とミステリーを組み合わせた不朽の名作で、原作はいよいよ最終章に入ったと世間でも話題になっていた。
「乱歩か……間違いなくこの作品で一歩二歩演技が進化した自信があるな。いい機会を貰えたと思う」
「そうだね。転生者って存在を表現するために大人びた女の子じゃなくて、子供だけど中身は大人を演じるってなったのは凄くいい機会だったかな」
「私もこれのおかげでもう一花子役時代に咲かせられたのよね……」
「うちもこの作品大好きなんよね。アクアさんのファンになったのここやし……今見てもかっこええもん」
『分かる。クラスの女子の8割はここの陰のあるアクア君にやられてたわ』
『ショタに目覚めたお姉さまはあまりに多いと言われている』
『乱歩はそもそもストーリーが原作からブレてないのが本当最高だわ』
『原作ファンでも見返したい神ドラマ』
『転生探偵乱歩』は、精神的な成長を促すドラマでもあったとアクアは考えている。
自分のトラウマと向き合い、より深い感情演技ができるきっかけになった作品だ。
あの時、自分の精神が暗く落ち込んだ時、引き上げてくれたかなに、アクアは今でも感謝していた。
かなとあかねにとっても、その難易度の高い演技をこなした経験は、今も息づいている。
これまでとは異なり、バラエティーのワンシーンが表示される。
アクアも小学生高学年に差し掛かっている時期のはずなのだが、画面上では幼い演技を見せてキャスト達を驚かせていた。
それに対してアイが『すっごい気持ち悪かったね!』と笑顔を向けている姿が映し出される。
「あーこれみなみが見に来てたんだっけ」
「そうだよ!私ここでみなみちゃんと仲良くなって、結果的にB小町Rに誘うことになったんだ~」
「今思うとホンマ偶然の偶然なんやけど、人生何が起こるか分からんなぁ。この一回で人生変わり過ぎやし」
「……確率凄いよね。ここでルビーちゃんとみなみちゃんが仲良くなってなかったら加入してなかったと思えば運命を感じちゃうよ」
『あーこれがみなみちゃんとルビーちゃんが出会ったって噂の……』
『見にくる子までレベル高いって凄くない?』
『本当巡り合わせって大切なんだなって』
これがB小町Rのメンバーが確定する最後の分岐点と言えるだろう。
もしこの出来事がなければ、四人でデビューしていたか違う人がメンバーとなっていたに違いない。
アクアとしては、この時のルビーのファインプレイに賞賛を贈りたいくらいだ。
ここまでの映像は、本当に運命の分かれ目と言っていい作品が絶妙に選ばれており、このチョイスをしたのは誰なのかとアクアは興味があるくらいに的確に感じられた。
映像が変わり、CGによりカラフルな属性のぶつかり合いが表現される中、そのCGに二人の少年の演技が真実味を吹き込んでいる。
雷と氷の激しいぶつかり合いは、アクアと大輝の演技によって、感情と無感情の衝突を強調されていた。
精霊と呼ばれる超生命体同士の戦いを描く作品。そして、アクアと大輝の初共演シーンである。
「いや、これは結婚式にはいらなくねぇか」
「いいんじゃない?ライバルの登場ってやっぱあーくんにとっては大きかったでしょうし」
「この頃はもう私もかなちゃんもライバルって感じではなかったから、大輝さんがいたからアクアくんは今くらい凄い役者になれたと思いますよ」
「そうだな。ありがとう大輝」
『アクア休止前最後の仕事これだったのか』
『今見てもメンバー豪華だなおい。ゆらちゃんもこの頃にはかなりブレイクしてたし』
『こうしてみると意外とライバル意識してた時期長いんだな』
実際にここから数年共演しなかったのだが、アクアはこれから大輝のことを意識して演技の練習をするようになった。
アクアが休止期間もしっかり伸び続けたのは、大輝の影も大きいだろう。
この時はまさか兄になるなんて思いもしなかったなと、近くで楽しそうに笑う大輝を見て思う。
ただ、結果的に彼が兄になって嬉しくも思っていた。
一つのステージが映される。ドームとは比べるべくもないくらいに小規模なステージ。だが熱量は本物であり、伝説の息吹を感じさせる。
そこには五人の可愛らしい少女が歌い踊り、そのオーラはこの先彼女達がどこまでも伸びていくのを想像させた。
「デビューライブだね~前日から楽しみすぎて眠れないかと思ったよ~」
「この頃はアクアくんが芸能活動する代わりに私達のマネージャーしてくれてたんだよね」
「懐かしいわね~おかげで私達も結構色々好き勝手できて助かったわ」
『伝説の初ライブだああああああああああああ!!今見てもテンション上がるわ』
『あの時からレベル高いんだよなぁ流石に今よりは拙いとこもあるけどそれも可愛さにしてるし』
『この全員がセンター張れる最強ユニット感は今も昔も変わってないんだよなぁ推しててよかった』
そしてそんな少女たちを客席で見守る一人の男が少しだけクローズアップされている。
これまで潜んでいるとは言われていても誰かは特定されていなかったアクアだ。
完全武装のその姿は、普段のオーラは何処へやら馴染んだドルオタそのものである。
「んふっマリン晒されてるじゃん。これ地味に初公開情報だよね」
「ふふっせやなぁ。そういえばアクアさんが行ってたとは伝えられてたけど、ここまでの格好しとるのは初情報やったと思うよ」
「おにいちゃん私達のこと好き過ぎるよね!ホント最高って感じ!!」
『アクア普通に混じってて草』
『これアクアかよ草』
『人多過ぎて流石にヲタ芸できてないのも笑顔漏れるわ』
会場にいる人たちも思わず笑顔になるドルオタアクアの姿に、アクアも流石に少し羞恥を覚える。
だがこの日推したという事実は全く恥じることなく、むしろ誇りに思っていた。
この日誕生したアイドルの卵たちは今、完全に開花し、世間をその才能の輝きで照らしている。
それからもB小町Rのアイドルとしての活動がいくつか流される。
そしてそのたびに見えるアクアの影は、マネージャーというよりもただ一人のファンとしての物と考えた方がイメージとしては近かった。
映像の一つに、今年で引退を表明して、アイドルではなく推す側に回ると公言している鈴城まなの姿も見える。
本日は参列者の一人として参加しており、彼女も自分の若い姿に時間の流れを感じていた。
「どうですかまなさん。実際あの時元気をもらったアイドルが結婚というのは」
「アイドル界の常識を破壊しつくした子達なので、らしいというか……こういうアイドルもいてもいいのかなと思わされましたね。今後も推すよ!!」
「ホント!?ライブのチケット送るから見に来てね!」
「私普通にファンクラブ入ってるから応募させてね。もうすぐ一般人だし」
実際まなに話を振られ、ルビーとこんなやり取りがあり、ファンは昔アイドル番組で共演した時のことを思い出して温かい気持ちになったとか。
映像は、明るいアイドルのライブシーンから一転、暗い倉庫へ。
フードを被り、顔が隠れている男の襲撃からヒロインを守ろうと必死に心を奮い立たせて、前に出て庇うメルト。
この場面だけ見れば、誰と誰の結婚の話だったか?となるようなシーンだが、この場にいる人たちも懐かしい表情を浮かべる。
フードを被ったアクアがこの場全てを覆い尽くすほどの闇を演出したその時。
『それでも……それでも光はあるから』
ヒロインであるかなが、光で照らして闇を祓う。
太陽と称される彼女の笑み、そして10秒で泣けると言われた泣き演技の混合技により、場の空気を完全に自分のものとしたかなの名シーンだ。
「『今日あま』も思い出深い作品だよな。さっきメルトが挨拶で言ってたけど、俺もあの作品僅かとはいえ出られてよかったと思う」
「ホントね。メルトは確かに最初ダメダメだったけど、私とあーくんの話をよく聞いて自分を磨いていたわ。いい作品に仕上がったのは、アンタの努力のおかげでもあるのよ」
「……っ何度言われても照れるなこれ」
『今日あま組が今も仲良しで嬉しい』
『かなちゃんのメス顔シーンで一部のファンにアクアが出演してたのバレた話好き』
『主人公に恋するシーンの表現でストーカー役の人に恋してどうすんだって言われてたな』
かなはコメント表示の画面にちらりと映ったコメントが恥ずかしかったらしく、視線を逸らして顔を赤くする。
ウェディングドレスという特別な衣装を着てはいるものの、普段通りのそんな姿に可愛いなと内心惚れ直すアクアだった。
次の光景は日が暮れた中、向かい合う二人の男女。アクアはただ真剣な表情をして、少女の紡ぐ思いを受け止める。
この中の誰よりも公の告白が早かったあかねの告白は、B小町Rの方向性を完全に決定づけたと言ってもいい。
一途な思いを告白した少女は、いつか少年を攻略するのだと決意を表明して、今現在、その本懐を遂げていた。
「……改めて聞くと申し訳なさと恥ずかしさがあるな。悪いなあかね。あの時はいい返事ができなくて」
「ふふっ全然いいよ。今私と一緒にいてくれるって決断を出したから、それで十分かな。これからはずっと一緒だよ」
「懐かしいね、私たちも毎週今ガチ実況して嫉妬したりしてたし」
「今見返すと絶対恥ずかしいやつやなぁ……見返せへんもん」
『毎週二人の行く末追ってたわ。このハッピーエンドを迎えて感動しかない』
『アクアお前正気かよと思ってたけど結果的にこれでよかったと思う』
『この時あかねちゃんと付き合ってた世界線も興味はあるけど、やっぱ今の皆が好き』
『この乙女顔であかねちゃんのファンになったんだよなぁ』
これまでは仲の良い幼馴染という括りで皆が動いていたが、『今ガチ』以降は皆、アクアへの想いを隠さないようになっていった。
もちろん、一部漏れ出る部分などはあったものの、全く隠さないという今のB小町Rで当たり前の要素はここが本格的な始まりだと苺プロは考えている。
結果的に、今のB小町Rの成功を見るに、この判断は正解だったと言えるのだろう。
次の映像は、鞘姫を抱きしめる刀鬼。
感情の爆発とも言えるその姿は、アクアの持っていた感情演技を更に進化させたことで、過去の経験を今のキャラクターの感情へと完全に変換できるようになったからこそ見せることができていた。
「結局この対決は引き分けって感じだったな」
「今度『東ブレ』の舞台続きがあるだろ?あれで決着つけようぜ」
「ふふっそうだね。原作で鞘姫も勝ちヒロインになったし、感情の見せ幅も広がって楽しみかな」
「いや、つるぎだって負けてないから!」
『まさかアクアのせいで刀鬼が二股することになるとは』
『まだ三股の可能性が残ってんだよなぁ』
『アクアのせいとは明記はされてないからセーフ』
『現実は五股なこと考えたらまだマシ定期』
アクアの仕事では珍しい舞台での仕事。
アクアと大輝、かなとあかねというライバル対決は、原作の方向性にも影響を与えたと言われている。
最近、原作で刀鬼が鞘姫にプロポーズしたり、つるぎを誑かした責任を取らされたり、鍔女といい雰囲気になったのはアクアのせいだと一部で言われていた。
アビ子はこれでいいんです!キャラは生きてるんですからと宣言しているとか。
アクアは今も楽しそうにゲスト席で吉祥寺と並んでご飯を食べているアビ子に視線を向けると、実に楽しそうに手を振られ、なんともいえない気分になった。
東京ブレイドの舞台から場面は変わり、何処か気怠そうな表情を浮かべる物臭そうな男と気楽そうな素振りをする警察官の女が映し出される。
社会現象と言っていい大ヒットをした『才ある鷹は陰でひっそり爪を研ぐ』のワンシーンだ。
フリルにとっては初の大舞台の主演であり、彼女の実力を大きく向上させるきっかけになった作品でもある。
『鷹研ぎ2』が絶賛放送中なのもあって、タイムリーな話題だった。
「私にとっては告白した作品でもあるから思い入れすごいね……今思うと流石に撮影中告白は大胆だったかな」
「フリルからの告白やキスも印象的だが、シナリオが個人的に好きで、続編が決まった時はかなり嬉しかった作品だな」
「放送直後にかなちゃんが嫉妬して凄いことになったんだよね」
「え!?なんであかねはそれ知ってんの!?やっぱり私の部屋に監視カメラとか仕掛けてない!?!?」
『鷹研ぎマジで好き2も相変わらず大好調だし3頼むわ』
『アクアの外見が天才キャラとマッチしてて没入感すごいし、フリルちゃんのぶりっ子もすこ』
『かなちゃん嫉妬してたのかわよ』
『あかねちゃん名探偵過ぎるんだよな……犯人役も探偵役も似合い過ぎる女』
月9という看板を立て直した番組として、2年経った今も語られていた『鷹研ぎ』。
アクアとフリルの演技が綺麗に噛み合い、物語の真実性を引き上げたからこそ爆発した人気と言われている。
また、アクフリというカップリングが、これをきっかけに大きくシェアを伸ばし、アクアがハーレム状態にならないかなというファンの意識を強くしたのもこの作品だ。
2になってもその魅力は健在であり、視聴率は前回と同じく高い水準をキープしていて、3もほとんど確実と言われていた。
監督を任されている五反田は、嬉しい悲鳴をあげているとか。
場面は再びアクアが刀鬼の格好をしているシーンへ。
ただ今回は一緒にいるのが鞘姫でもなければ、つるぎでもない。
この後に刀鬼とのカップリングが増えた鍔女だ。
明らかに現実の演者がキャラクターに影響を与えた一例だが、作者本人が笑顔なのでいいのだろう。
「わぁ!『深ワン』だ!みなみちゃんのコスプレ似合ってるよね!これ自作なんでしょ?今度私にも似合うコスプレ作って!」
「ふふっええよ〜ルビーちゃんなら何でも似合うやろうけどね。……にしてもまさかこれきっかけで次回の舞台でうちが鍔女役やることになるとは思わへんかったけど」
「みなみの衣装はかなり原作を読み込んで作られてるからな。アビ子先生も絶賛してたし」
『みなみちゃん自作衣装なのが凄いよなぁアイドルの傍でこれ』
『鍔女の要素しっかり抽出してるんだよね』
『ルビーちゃんのコスプレも普通に楽しみ』
元々ちょっと名前が出る少し出番の多いモブというポジションだった鍔女の出番が、普通の準レギュラークラスになったのは、この『深ワン』が原因と言われている。
キャラデザの可愛らしさもあるが、コスプレをした際のみなみの仕草でキャラ解釈が深掘りされたとアビ子は口にしており、そういうパターンもあるのかとアクアも驚いたくらいだ。
アイとの親子バレ、格付けの苺プロ実質全滅なども流れた後は、『15年の嘘』のシーンが映し出される。
もう撮影からは1年の時が経つため、関係者としては懐かしい気持ちになる作品だ。
実のところまだロングランで放映している場所があるくらいには人気がある。
「この作品は私が初主演だったね!すっごく緊張したなぁ」
「ルビーは初めてとは思えないくらいバッチリこなしてたと思うよ?お義母さんも喜んでたし」
「この映画は撮影のカロリーすごかったのよね……ちなみにあーくん的に感想は?」
「母さんと父さんが結果としてよりを戻せて良かった」
「あはは、確かにアクアくんはそこが先に出ちゃうよね」
「最近の仲良しさん具合見とったら、うちらもサポートできて良かったって思うわ」
『あのアイが人妻になるきっかけになった映画とも言えるのか』
『毎日幸せそうな皆を見られてファンとしても嬉しい』
『アイの成長を追体験できる神作品でした』
家族席からはアイとヒカルも笑顔を浮かべている。嘘の天才と言える二人だが、この祝いの日は嘘は使わない素の笑みだ。
今二人が並んでこうして笑顔を浮かべられるというのなら、アクアは動いた甲斐があったなと改めて思うのだった。
そして長かったビデオも、最後は交際発表の話で幕を閉じる。
まだ半年程度しか経っていないが、事故による公開プロポーズはある意味国民の記憶に深く根付いていた。
「そしてプロポーズ……これが事故ってのが持ってるっていうべきなのか?」
「一応言っとくと、マジで血の気引いたからな?」
「完全に予定外だったもんね〜私もその直前が嬉しすぎた分落差凄かったもん」
『プロポーズが公開されたことによってこの披露宴が公開性になったからファンとしてはラッキーというか』
『真のサプライズを見たせいでテレビのサプライズ企画ハードルあがっちゃったよ』
『ある意味『今ガチ2』と言えるかもしれない』
ファンとしてはただの嬉しいハプニングだったのだが、当事者たちはそれどころではなかったようだ。
変なことを言っていないか急いで確認したりと、この後コンプライアンス部門はかなり精査したとか。
ビデオが終わったのを確認したところで、改めて大輝がアクアへ話を振る。
「長いビデオだったが、全く中弛みした場所なかったな。お前らの人生どうなってんだ。特にアクア」
「どうなってんだって言われてもな。そういう星の許に生まれたんじゃないか?」
「おにいちゃんの人生が波瀾万丈で、私たちも巻き込まれてるって感じだよね〜」
ルビーのいう通り、騒動の中心はアクアだったと改めて全体を見ていると感じる人も多いだろう。
実際にはここから更に転生回りの因果も入ってくるため、映像以上に凄まじい人生となる。
自分の来歴をこう映像付きでしっかり振り返ると、自分でも改めて濃密な、だが幸せな人生を送っているなと思うアクアだった。
それからは、多種多様な芸能人たちが出し物を披露していくことで、楽しく披露宴は進み、いよいよ最後のパート、花嫁の手紙だ。
親や家族への感謝を皆それぞれ事前に用意した手紙を口にしていく。
かなり特殊な婚姻形態を取る娘たちだが、幸せそうなその姿に親としては素直に見送る姿勢を見せていた。
「芸能界に入ろうと思ったきっかけはやっぱりママだから。……だからこの場を借りて言わせてほしいの。ありがとうママ。私を芸能界へ導いてくれて」
「……かな、本当に大きくなったのね」
四人目であるかなの言葉が終わり、コメント欄も感動のムードの中、いよいよ最後の新婦であるルビーの番だ。
「ママへ!まずはすっごい難しい環境の中、私とおにいちゃんを産むって決めてくれてありがとう!!おかげで毎日楽しく過ごせてるよ!アイドルとしても私にずっと希望を見せてくれて、永遠の目標です!」
アイの環境を考えれば、産まないという選択肢も視野にはあった。
そんな中、愛を知りたいという理由があったとはいえ、産むという決断をしてくれたことにルビーはまず感謝をする。
アイは涙ぐみながらルビーの言葉を受け止めた。
「パパは陰ながら私やおにいちゃんを助けてくれていたことを知っています。まだまだ思い出は少ないけど、これからは一緒の家に住む形になるし、沢山家族の思い出を作っていけたらなって思っています!よろしくね!」
ヒカルは裏で動いてきた場面が多い。
アクアですら気付いていない事もある中で、やってきたことがこの言葉で報われた気がしたヒカルは、ふっと肩の荷が降りたようなそんな気がした。
「そして壱護さんとミヤコさん!ママがアイドルとして活動してどうしても忙しい時、親として面倒を見てくれた二人にもありがとうってずっと言いたかったです。おかげで寂しい思いをせずに大きくなれました。二人はもう一人の私のお父さんとお母さんです!本当にありがとう!!」
壱護とミヤコも一つの子育ての終わりを感じ、涙をハンカチで拭う。
二人にとっても二人は息子と娘であり、その成長をこれほどしっかりとした形で見届けることになったことを嬉しく思っていた。
「最後におにいちゃん。……受け入れづらいだろう私の想いを真摯に受け止めてくれてありがとう。私と一緒に生きてくれてありがとう!これからもずっと末長くよろしくお願いします!!」
ルビーの言葉に、会場は大きな拍手に包まれる。
芸能界、いや日本一有名な結婚式と呼ばれることになる結婚披露宴はこうして祝福の中、幕を閉じるのだった。
次回、本編最終回