【推しの子】ヤケクソハッピーハーレムルート   作:ただの暇神

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二人して赤子の肉体に引っ張られて寝てしまってから数時間。

仕事から帰ってきたアイによって食事や入浴と一通りお世話をしてもらったアクアとルビー。疲れ果てた彼女が眠りにつくと再び二人きりとなる。

アイドルで忙しいのにちゃんと母親になろうとしている彼女に兄妹揃って感謝してから昼の会話その続きを始めた。

 

「せんせ。こんな近くにいたんだね」

「それは僕のセリフだよ。まさかさりなちゃんが本当に転生していて妹になるなんて思っても見なかった」

 

顔を合わせてくすりと笑い合う。

医者と患者というのは離れすぎていて、友人というには年齢差があり、恋人というには少し遠いそんな彼らを結ぶ言葉が兄妹となるとは二人にも予想外だった。

 

「転生した直後にさ」

「うん」

「もしかしたらさりなちゃんもどこかで転生して元気にやっているんじゃないかってそんな都合のいいことを思ってたんだ」

 

きっと素面では普段言えない言葉がアクアから出る。それだけこの再会がインパクトを与えたということなのだろう。

少し悪ぶる傾向にある吾郎ことアクアの中では後日黒歴史確定といっていい言葉だった。

アクアの語りを聞いてルビーは内心限界ファンのそれになっていたがバレないようにひた隠す。

 

「私もせんせの家族になれるなんて思わなかったなぁ。あの日、そんな可能性は潰えちゃったと思ったから」

 

あの日というのはさりなとしての人生が終わってしまった日のことだと吾郎も察していた。

 

『せんせ、だぁいすき……もし……生まれ変わっても、きっと』

 

あの日さりなが最期に残した言葉は呪いのように吾郎の中に残っている。

彼を生かしたのもまた彼女の残した遺言であり、少女が思っている以上に彼女は彼にとって重いものになっていたのをまだルビーは知らない。

 

「そういえばさせんせ、あの宮崎公演のチケットちゃんと使った?」

 

B小町の宮崎ライブ。それはさりなが人生最後に行こうと計画していたライブであり、さりなの心残りだった。

アイ無限恒久久遠推しのオタグッズを手に入れたライブも結局体調が悪くなってガチャしかできなかった彼女にとって行きたくて行きたくてしょうがなく、でも結局身体が持たずに行けなかったモノ。

『S席・プレミアム/アイ』は最前列でライブを見られるだけじゃなく個別ブースでアイとお喋りまでできる現地ライブ限定配布品。

吾郎が大事な研修期間に何週間も仕事をすっぽかして東京まで行ってなんとかさりなのために手に入れた特別なチケットだ。

1会場につき10枚限定配布というとんでもない代物なので、折角だったら使っていて欲しいというのがルビーの本音だった。

 

「あーあのライブ自体には行ったよ。最高だった」

「なんか引っかかる言い方だね、どうしたの」

 

痛いところを突かれたなとアクアは思いながら当時を振り返る。吾郎は当時さりなに渡したチケットとは別で自分用のチケットを買っていた。一緒に見るつもりだったから。それを使っただけだった。

あのチケットは彼女にとって最後の希望だったからとさりなの両親に渡すため、主治医の先生に預けていたのだが、彼女の死後3日後、父の方だけが来て遺体を引き取りに来た際に、受け取りを拒否されてしまったらしい。

それからはお守りのように吾郎の家で保管していた。

 

「いや、本当に最高のライブだった。たださりなちゃんと一緒に見られたらもっと良かったなってだけさ」

「せ、せんせ!好き!結婚して!」

「16歳になったら考えてやるよ」

「……懐かしいね」

 

慣れたようにプロポーズに定型文を返して笑い合う。

もう前世の話だ。ルビーにライブチケットのその後について話す必要なんてないだろう。

雨宮吾郎は親というものに幻想を抱いていた。だけどそんなものはあの日に粉々に砕け散った。

だからせめてルビーにはその幻想を持ち続けてほしい。その思いで余計なことは言わないことを決めたのだった。

 

「その……聞いたらいけないかもしれないんだけど。……せんせはさ、どうしてその死んじゃったの?私大きくなったらせんせを探そうと思ってたのに」

 

さりなが死んだ後の出来事について根掘り葉掘り聞かれていく内にとうとうアイが病院に来たこと、つまり吾郎が死ぬところまで話が進んでしまった。

アクアとしては馬鹿正直に大学生くらいの男に突き落とされたなんて言うつもりはない。

先ほど理解したように赤ん坊の時はちょっとしたショックで体調が悪くなったりもする。

 

「暗い中外を散歩している時に崖から足を滑らせて落ちてしまったんだよ」

「えぇ!?せんせそんな最期はないよ……」

「ちょっと間抜けかもな。いいんだよ、僕は今この幸運に感謝すらしてるんだから」

 

ルビーに少しだけ嘘を交えて答える。

雨宮吾郎を殺した犯人はまだ捕まっていない。

 

それから数日、二人はこれでもかと時間を埋めるように二人きりになるたびに話をしてネタが尽きひと段落がついたところで落ち着きを見せ始めていた。

 

「少し落ち着いてきたから一応言っておくが……流石にアイから授乳強請りまくるのはやめとけよ?腹減った時は勿論いいけど」

「せんせだと……せんせだと分かっていればもうちょっと猫被ったのに。もうママのおっぱい吸わない方がいいかなぁ」

 

悲しそうなルビーを見てアクアはフォローする。

 

「母乳は乳児の発達に必要な栄養素が数多く含まれているし、免疫にも影響する。可能なら哺乳瓶よりいいからそこは遠慮する必要はない」

「せんせ、流石お医者さんかっこいい」

 

顔を真っ赤にしながらアクアの言葉を聞くルビー。その内心は荒れ狂っていた。

赤の他人兼お兄ちゃんなアクア本人のことも元から嫌いじゃないどころか前世兄弟もいなかったので甘えも込みの口喧嘩をしていたところがあった。

だがルビーとしてさりなとしてはせんせだと知ったからには話が別だ。

前世の初恋の相手であり、今世で動けるようになったら探そうと思っていた相手。

大きくなったら結婚して!と言うつもりだった相手が姿形は変われど今目の前にいる。

はっきり言って意識しまくってしまう。元の吾郎もカッコよかったけどアイの遺伝子があるだけあって今世のアクアはまだ乳児でありながら天使のような見た目だし!?なんてルビーの頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 

「はぁ、前世を知った今だとルビーが母親への愛情に飢えているのとか色々な事情は分かってはいる。常識の範囲でなら好きにアイに甘えたらいい。僕もルビーが甘えられるよう色々努力しよう」

「え!ほんとありがとせんせ」

「ただし……あくまで前世は前世だ。"俺"たちはあくまでアイの子供として今世を生きることになる。君はもう健康なんだからこれから何十年もな。だから俺たちはアイの子供であるルビーとアクアだとしっかり自分を認識させないといけないわけだ。せんせはまぁ……たまにならいいが、基本は兄として扱ってくれよ?」

 

アクアは自分なりのケジメとして一人称を俺とした。

勿論アクアもルビーもそれぞれ吾郎やさりなから地続きのため別人になるわけではない。これまでの経験はしっかりと自分のものとして根付いている。

だが、これからの人生の方が圧倒的に長くなるのだ。それなら今のうちに自分たちはアイの隠し子で双子の兄妹だとしっかり認識しておくことが大切だと主張したわけである。

だが、そんなアクアの言葉にルビーは少し不満気に言葉を返した。

 

「えぇ〜せんせ16歳になったら結婚してくれるって言ったのに!約束反故にしちゃうの?」

「え?さりなちゃん!?いやそんなはずは」

 

ジトーっとした目を向けるルビーの瞳に動揺したアクアは心の看護師がロリコンと叫ぶ声を聞き流して自分の記憶を探る。だがやはり先日も使ったお決まりの台詞以外に言った記憶がない。

 

「えー16歳になったらしてやるよ!だったよ〜確かに覚えてるんだけどなぁ」

「……」

 

実はこの言葉にアクアは揶揄っていると断言出来ずにいた。

それは彼女が掛かっていた病気が関係している。退形成性星細胞腫、これは脳腫瘍であり、末期のさりなには稀に記憶の混濁が見られた。

彼女の内なる願望と普段行っているやりとりが混ざってしまい本当の記憶として存在している可能性がある。

アクアとしてはさりなの願いは吾郎としても勿論、兄としても可能な限り叶えてやりたいと言うのが本心だが、兄妹では結婚できないので約束していたとしても守れない。これだけは法律的にどうしようもないことだ。

戸惑いながらどうやって説得しようかとアクアが考えていると逆に彼女の方から話を打ち切ってきた。

 

「まぁこの話はまた今度しようよお兄ちゃん」

 

アクアはなんとなくここで話をどうにかしなければ後々凄いことになるかもしれないという危機感はあったものの前世を気にし過ぎるなと言った手前いつまでもそんなことを言っていられなかった。

ルビーとしても彼女が将来初恋の人を手に入れるのに数多い壁があるのは分かっている。

そのため、今のうちに布石を打つ。そのための会話だった。

 

(女の子はちょっとズルいんだよおにいちゃん)

 

長引いて結論を出されるのは望ましくない。恋する幼女はしたたかだった。

これ以上この話禁止というオーラをルビーから感じていたからか気を取り直してアクアは別の話へ切り替える。

 

「ここからが大事な話だ。さっきは前世を引き摺り過ぎるなと言った手前で申し訳ないが、今世ではアイドルをやりたいのか?」

 

アクアは前世さりながアイみたいな顔になりたいアイドルやりたいと言っていたのを覚えていた。

生まれ変わらなくても君は十分可愛いと本心から伝えていたが、結局助からなかった。

ただもうルビーは好きに色々な人生を歩むことができる。可能性だけなら無限大だった。

あくまで地続きの人間である以上夢や憧れなんて普通は変わりようがない。

 

「……そうだね。うん、私ママみたいな……。ううん、ママを超えるアイドルになりたい!」

「アイを超えるか、目標は大きいな。それにアイドルは大変だぞ。基本薄給だしメンバー間の格差だってある。いいことばかりじゃいられない」

 

ルビーには資質があるとアクアは思っている。アイの遺伝子を受け継いだ容姿、さりなとして持っていた引きつけられる輝き。

それらはアイドルとして羽ばたくための要素として強烈だ。

きっとアイドルになれば嫉妬される程の輝きを放つだろうというのがアクアの見立てだった。

楽しいだけではいられない。

 

「それでも……それでも私はなりたいよ」

「そうか。なら、俺も頑張らないとな」

 

ルビーの決意がこもった言葉を耳にしたアクアは自分の道が決まったと言いたげに告げる。

最初ルビーはその言葉の意味がわからず思わず聞き返した。

 

「え?どういうこと?」

「ルビーは少し危なっかしいからな。俺はルビーのマネージャーでも目指してサポートするさ」

「えぇ!勿体ないよ、お兄ちゃん絶対カッコよくなるんだからアイドルとか俳優とかやろうよー。なんなら私と兄妹アイドルユニットとかどう!」

 

アクアはすぐにねーよと返そうとするも一度考える。メリットとデメリットを天秤にかけて真面目に思案した。

ただやはり考えたところで答えは変わらなかった。

 

「ねーよ、アイドルはガラじゃないからなしだ。それに双子アイドルは確かに珍しいかもしれないが、可愛い子を揃えたユニットの方がやっぱウケはいいだろ」

 

アイドルというのは処女性が重要視される。双子の兄とはいえ男がユニット内にいるなんて地雷なんてものじゃないデバフだとアクアは考えている。

自分たちは恋愛したり結婚したりも普通にするのにアイドルにはそれを認めないドルオタとは身勝手なものだとアクア本人もアイが病院に来た時のショックを棚に上げてそう思っていた。

自分たちの母ももしアクアたちの存在がバレたら大爆発じゃ済まないだろう。

 

「ちぇー、お兄ちゃんと双子ユニットアイドルやるってのも面白そうだったのに。ママの子だよ?絶対女装可愛いもん」

「いや俺に女装やらせるつもりだったのかよ」

「あったりまえじゃん!私だってブランディングくらい気にするから!」

 

すっかりいつもの調子に戻ってきたルビー。とはいえその中には幼いながらもあのチケットを持ってきてくれたあの日に完成された愛が渦巻いている。

大好きの方向性がラブの方向なので、そのうち問題が起きるかもしれないが、それは未来の話だ。

ルビーは逆にアクアのことを聞いてみたくなる。

 

「それじゃあさ……お兄ちゃんはなにか夢とかなかったの?さっき私の夢を応援するために頑張るって言ってたけどさ」

「……」

 

アクアも自分の過去を思い出す。

ないわけじゃない。手が届きそうなところまで行って、でも諦めた夢があった。

 

「吾郎だった頃は外科医になりたかったんだ」

「外科医ってあのドラマの!?」

「ドラマとかだと医者といえば外科医が多いな。その外科医で合ってる」

 

小説で憧れたなんていうよくある理由だが、確かに自分の夢だった。

転生して色々なしがらみが消えた今では大きくなってまた勉強をすればなることも可能だろう。

それ自体の憧れは今でもある。ないわけじゃない。

 

「勿論その可能性を完全に捨てているわけじゃない。だけどなんというか。本当に俺が今やりたいことか?と考えると少し引っかかるんだ」

 

自分で第二の人生だなんてさりなにいった通り、アクアとしては一つ自分の中で折り合いがついている。

というより折り合いが彼女、さりなと奇跡の再会ができた時点で吾郎としての人生に区切りがついてしまったような感覚があった。

もっと再会が遅ければ夢は夢のままだったかもしれない。

ルビーが幸せならばそれでいい、そうしたい。アクアにとってルビーが幸せになることこそが一番の夢というのは本心だった。

マネージャーと言ったのもそれが一番支えられるからという手段に過ぎない。

昔は周りの意見に流されていた男が今世で夢見るのは自分の大切な人を支えられる仕事というのは不思議なものだった。

 

「まだ少し考えたいというのが本音だな。燃え尽き症候群じゃないけどそれに近いかもしれない」

 

もうウイニングランをしているような気持ちでアクアはどう生きていけば良いか悩むことになる。

 

「ふーん、まっでも私はおにいちゃんの選択ならなんでも尊重するよ!だって私せんせの全肯定オタクだし!」

「……そうかよ」

「そう!おにいちゃんも言ってたけどまだまだ私たちの人生これからだもん。楽しまなきゃ損だよ」

 

どこか呆れを残しつつもアクアはそんなルビーの言葉に笑みをこぼした。

 

「ああ、ゆっくりやりたいことを探すさ。ルビーも頑張らないとな」

「勿論、今度は……わたしが……」

 

テンションを上げすぎたのか急激に来た眠気に耐えかねて眠るルビーに布団をかけたアクアは先程までより晴れやかな気持ちだった。

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